2017年10月15日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『Flower Boy』レビューを寄稿しました@FNMNL



 タイラー・ザ・クリエイターの来日公演『Flower Boy』(17年)の国内盤発売にあわせて、FNMNLさんにレビューを寄稿しました

 このブログでタイラーについて思いつくままに文章を書きなぐってきたわけですが、このたび念願叶って原稿仕事をもらえて大感激。大げさだけど、タイラーの「Find Your Wings(翼を見つける)」というメッセージにしたがって、好きなこと(タイラー!)を探究しつづけてきて本当によかった。お声がけくださったFNMNLの和田さん、ありがとうございました!

 レビューではタイラーの気分について考察しています。原稿の執筆にあたって、キッド・カディの『Man On the Moon』(09年)を繰り返し聴いた。レビューにも書いたことだけど、「Pursuit of Happiness」はタイラーのいまの心境をあらわすのにまさにぴったりの曲だと思う。乱暴に要約するなら、『Flower Boy』は意気消沈したタイラーの「幸せを探す旅(ドライブ)」である。本当の幸せはどんな車に乗るかでなく、誰と乗るかということ。

Kid Cudi - "Pursuit of Happiness"

『Man On the Moon』とタイラーの『Bastard』(09年)が同じ年のリリース作品というのも興味深い。『Bastard』は「父の不在」がタイラーに大きな影を落として、あのような作品になっている。一方、カディも「Soundtrack 2 My Life」の曲中で打ち明けているように、お父さんを早くに亡くしたことで精神を病んでしまい、それが作品に影響している(Since my father died, I ain't been right since)。

 その後、キッド・カディは、鬱と自殺衝動をおさえるためのリハビリ治療を受けることに。いま、巷では鬱を歌ったラップソングが流行っているけれど、キッド・カディが「あ〜」とか「う〜」とかうなっている、『Passion, Pain and Demon Slayin'』(16年)収録の「Releaser」という曲には、ほかの曲にはない「本物らしさ」が漂っている。(このアルバムのなかでは、ウィロー・スミスとの「Rose Golden」がお気に入り。今年のキャンプ・フログ・ノーには二人とも出演するので、パフォーマンスに期待!)


 ラナ・デル・レイはデビュー後、あの「ラナ・デル・レイ的イメージ」(退廃的ロマンス、絶望、ドラッグ、死など)が作り物のまがい物であるという批判にさらされた。レビューで引用した「ピッチフォーク」のインタビューでは、そのことについても質問がおよび、彼女は「私はいつだってありのまま。ああいう人たちこそ、何がオーセンティック[本物]かわかってないのよ」と話している。『Lust for Life』(17年)からの先行シングル曲としてリリースされた表題曲のミュージックビデオの舞台が、作り物の極北たるハリウッドなのは、そういった批判へのあてつけか。

Lana Del Rey - "Lust for Life"

『Flower Boy』の国内盤には特典でステッカー(GOLFロゴ、猫、ミツバチの3種)がついてくるので、輸入盤を買った人もストリーミングで聴いたという人も買って損なしですよ!歌詞カードを読んであらためて思ったけど、ダブルミーニングを多様するタイラーはラップが上手い。さらに、いまタワーレコードで買うと特典ネックストラップまでもらえちゃいます。それから、渋谷のタワーレコードではタイラーのサイン会が開催!もちろん僕も行きます!わくわく。どきどき。

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2017年9月16日土曜日

ロイ・エアーズ「Everybody Loves the Sunshine」〜Just Bees and Things and Flowers



 タイラー・ザ・クリエイターのお気に入り曲を集めたSpotifyのプレイリスト『T'S PLAYLIST』を聴いていて、はたと気づいたんだけど、『Flower Boy』(17年)に見られる花、ミツバチのモチーフは、ロイ・エアーズ「Everybody Loves the Sunshine」に影響されているのではないか。「Just bees and things and flowers」。「Rusty」で歌われる「部屋にこもってネットばっかやってないで、外で遊ぼうぜ」という考え方も、ロイ・エアーズのこの曲譲りなのかもしれない。ほかにも『T'S PLAYLIST』を聴いていると、タイラーのあの曲の元ネタではと思わせるような発見があって楽しい(「I Ain't Got Time!」はデスティニーズ・チャイルド、「Mr. Lonely」はメイナード・ファーガソン、など)。タイラーが主催する音楽フェス「Camp Flog Gnaw Carnival」に、今年はロイ・エアーズが出演する。ロサンゼルスの陽の光を浴びながら聴く「Everybody Loves the Sunshine」生演奏が楽しみだ。


Roy Ayers - "Everybody Loves the Sunshine"


Destiny's Child - "Get On the Bus"


Tyler, The Creator - "I Ain't Got Time!"


Maynard Ferguson - "Mister Mellow"


Tyler, The Creator - "Mr. Lonely"

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ロジック来日



 ロジックが来日している『The Incredible True Story』(16年)でクリストファー・ノーラン『インターステラー』(14年)を、そして『Everybody』(17年)ではアンディ・ウィアーの短編小説『The Egg』(09年)をそれぞれ下敷きにしてアルバムを作ったロジック。旅先の美術館で出会った絵画に着想を得て『Everybody』のコンセプトが生まれたように、東京にやってきたロジックの次作『Ultra 85』(TBA)は、『AKIRA』のような日本の作品が題材になったりして(『TITS』のジャケット写真でロジックが着ている赤いジャケットは『AKIRA』が元ネタだ)。次回来日するときは、ライヴ公演をよろしくお願いします。

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2017年9月10日日曜日

アジズ・アンサリのインタビュー@「GQ Style」〜find some time to do something



 アジズ・アンサリのインタビュー@「GQ Style」のつづき。インターネット断ちして、本を読んでいるという話がとても興味深い。ツイッター、インスタグラム、メールなど、インターネット関連のアプリをすべて消したアジズ曰く、ネット中毒の現代人は、コンテンツの中身に関係なく、とにかく何か新しいものを見るためにネットに接続しているという。僕もiPhoneは便利な反面、時間泥棒にもなる恐ろしい道具だと思っていたので、アジズの考えには頷ける。とはいえ、さすがにネット断ちは真似できないけれど、iPhoneとの接触機会を減らすべく、LINEはやらないと決めている。ただ、初対面の人と連絡先を交換する段になったとき、LINEをやっていないと伝えるとすごい驚かれる。SNS中毒といえば、様々な文脈の「みんな」について歌ったロジックの『Everybody』(17年)のなかで、一番心に刺さった「みんな」が「Killing Spree」の「みんなケータイ画面のなかに人生を見出している」という歌詞。ネット依存に警鐘を鳴らすのはロジックだけでない。飛躍した解釈かもしれないけど、タイラー・ザ・クリエイターが「Boredom」のサビで繰り返し強調するメッセージ「find some time to do something」は、前作『Cherry Bomb』(15年)のテーマ「find your wing」の言い換えであるように思う。SNSに没頭したり、他人を妬んで噂話をしたりして無為に時間を過ごすのでなく、好きなことを見つけて有意義に生きろ、というのが、タイラーが『Cherry Bomb』で言わんとしていたことではないだろうか*1『君にともだちはいらない』などの著作で知られる瀧本哲史さんもこう言っている。「やりたいことが見つからない人もいる。やりたいことがあってもすでに道が閉ざされている人もいる。道があっても、向いていない人や専念できない人もいる。そうした中、やりたいことが見つかって、道があり、邁進する条件も揃っていて、あとは自分の努力だけなら、Just do itでしょ」


Tyler, The Creator - "Boredom"


Logic - "Killing Spree (feat. Ansel Elgort)"

*1:「Rusty」でも同じようなことを言っている「俺の世代の奴らはみんな揃いも揃ってレザーを着込んで、MDMAでトんでいる/天気が良いのに外で遊ばず、部屋にこもってタンブラー」

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2017年9月4日月曜日

MASTER OF NONE〜アジズ・アンサリとタイラー・ザ・クリエイター



 ドラマシリーズ『Master of None』(15年〜)が批評的に大成功をおさめたアジズ・アンサリが「GQ Style」誌のインタビューで、仕事は順風満帆だけど、私生活では孤独だし、うまくいってるけど、山のあとには谷がやってくるもの、というようなことを悲しげに語っているのを読んで、タイラー・ザ・クリエイターのことが頭に浮かんだ。『Flower Boy』(17年)におけるタイラーも、順調なキャリアに反して、虚無や孤独の悲しみについて歌っている。「November」という曲では、「クランシー(註:クリスチャン・クランシー。タイラーのマネージャー)に裏切られたらどうしよう/会計士が脱税して、懐を潤してたらどうしよう/俺の音楽ってやっぱり変わってるのかな/すべてを失って、ボロアパート暮らしに逆戻りになったらどうしよう」と没落することへの不安を吐露している。音楽、映像、ファッション、テレビ番組制作、フェス運営など、何でもできちゃう多才ぶりを発揮するものの、私生活では独りで寂しいタイラーこそ、まさに「マスター・オブ・ナン(器用貧乏)」なのであった。


Tyler, The Creator - "November"

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2017年8月27日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター「Ziploc」



 タイラー・ザ・クリエイターの新曲「Ziploc」は、やはり孤独な心境について歌われた『Flower Boy』(17年)直系の一曲。「朝起きて独りぼっちなら、カネなんて紙切れ同然」、「誰も待っていない家に帰っても仕方ない」。孤独で息苦しいタイラーは、密閉されたジップロックのなかでもがいている。


Tyler, The Creator - "Ziploc"

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2017年8月20日日曜日

欅坂46「エキセントリック」とSIMI LAB「Uncommon」



 もしも、いま自分が『glee/グリー』を製作中のライアン・マーフィーの立場だったら、欅坂46の「エキセントリック」とSIMI LABの「Uncommon」をマッシュアップする。


欅坂46 - "エキセントリック"


SIMI LAB - "Uncommon"

タイラー・ザ・クリエイターの2017年お気に入り映画



 タイラー・ザ・クリエイターは、ウルフ・ヘイリー名義でミュージックビデオを撮る映像作家の顔を持ち合わせているだけあって、大の映画好きでもある。どれだけ好きかというと、作中に架空の映画館「ムーン・シアター」が登場する4thアルバム『Cherry Bomb』(15年)のリリースツアーでは、訪れた先々で映画館を借りて、タイラーのお気に入り作品を上映する「出張ムーン・シアター」が行われたほどだ。そのタイラーがツイッターで今年公開された映画の中からお気に入り作品を発表した(その後当該ツイートは削除)*1。『20センチュリー・ウーマン』*2は、「アートかぶれの軟弱野郎(art fag)」と揶揄されてしまう主人公に、似たような文化系少年だったタイラー自身を重ねて観たんじゃないかな(母子家庭育ちのスケボー少年という境遇もタイラーと同じだ)。




フリー・ファイヤー(原題:Free Fire)
監督:ベン・ウィートリー
脚本:ベン・ウィートリー、エイミー・ジャンプ
出演:ブリー・ラーソン、キリアン・マーフィー、アーミー・ハマー、サム・ライリー、シャールト・コプリー


グッド・タイム(原題:Good Time)
監督:ジョシュ&ベニー・サフディ
脚本:ロナルド・ブロンスタイン、ジョシュ・サフディ
出演:ロバート・パティンソン、ジェニファー・ジェイソン・リー、バーカッド・アブディ、ベニー・サフディ


20センチュリー・ウーマン(原題:20th Century Women)
監督:マイク・ミルズ
脚本:マイク・ミルズ
出演:アネット・ベニング、グレタ・ガーウィグ、エル・ファニング、ルーカス・ジェイド・ルマン、ビリー・クラダップ


A Cure for Wellness
監督:ゴア・ヴァービンスキー
脚本:ジャスティン・ヘイス
出演:デイン・デハーン、ジェイソン・アイザックス、ミア・ゴース

*1:四作品中、三作品がA24の作品だが、ステマに非ず
*2:劇中、ドロシーがバーのジュークボックスでかける曲が良かったので曲名を知りたいのだけど、サントラには未収録だし、どこにも情報がない。

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2017年8月13日日曜日

カリ・ウチース「Call Me」〜タイラー・ザ・クリエイターのミューズ



『Cherry Bomb』(15年)で起用されてからというもの、カリ・ウチースはタイラー・ザ・クリエイター作品には欠かせないミューズ的存在となっている。カリが参加した「PERFECT」は、惹かれ合いながらも年齢差が恋の障害になっている男女のカップルという設定だった。そして『Flower Boy』(17年)のカリ参加曲「See You Again」もまた、決して結ばれることのない悲しい恋の歌だ。平井堅よろしく、瞳を閉じたときにだけ会える、夢の中の理想の人物を想い歌うタイラーの相手役をカリが務めている。『Flower Boy』の最後、タイラーは留守番電話に向かって愛の告白をするものの、結局その想いは相手に届かず終わるわけだけど、カリがソロ曲「Call Me」(プロデュースはタイラー)で、「孤独なときは、私に電話して」などと歌うのを聴くと、これだけ相性が良いのだから、タイラーはカリに電話して付き合っちゃえばいいのにと、余計なお節介を焼きたくなる。(「PERFECT」のミュージックビデオで、途中スプリット画面の一方がズームアウトして、タイラーの隣に中性的な顔立ちの少年[もう一人のゲストであるオースティン・ファインスタイン]が現れるのは、いま考えれば、そういう意味の演出だったのか、と読めなくもない)

Kali Uchis - "Call Me"


Tyler, The Creator - "PERFECT (feat. Kali Uchis & Austin Feinstein)"

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タイラー・ザ・クリエイター『Flower Boy』とアンドレ3000『The Love Below』



第三の重要人物
 Spotifyに「T'S PLAYLIST」という、タイラー・ザ・クリエイターのお気に入り楽曲をまとめたプレイリストがある。400曲、30時間超えにもなるこの長大なプレイリストを一見しても分かるように、タイラーは大の音楽マニアとして知られる。4thアルバム『Cherry Bomb』(15年)は、それらお気に入り作品から抽出した音楽的エッセンスをふんだんに注ぎ込んだ作品であった。たとえば、アルバムのオープニング曲「DEATHCAMP」では、タイラーがオールタイムベストに挙げるN.E.R.D.の『In Search Of...』(03年)で聴けるギターサウンドを大胆に模倣している。「DEATHCAMP」に限らず、『Cherry Bomb』の多くの収録曲で、そうした模倣(あるいは広義のサンプリング)が試みられている。お気に入り作品の意匠を旺盛に取り込み、「自分の好きな音色を奏でる」という表現手法は、タイラーがこの作品で伝える「翼を見つけて、好きなことをやる」というメッセージの体現でもある。

N.E.R.D. - "Lapdance"

 ことあるごとにタイラーはファレル・ウィリアムスのファンであることを公言してきた。実際にタイラーの作る音楽は、シンセサイザーの使い方など、ザ・ネプチューンズからの影響を色濃く感じさせる。
 またもう一人、エミネムもタイラーにとっては重要な存在である。暴力的なオルターエゴを心の内に飼っているというタイラーの初期作品の設定は、エミネムと彼のオルターエゴ、スリム・シェイディをお手本にしている。3rdアルバム『Wolf』(13年)の制作過程を追ったドキュメンタリーフィルムを見ると、タイラーの部屋に『Relapse』(09年)のポスターが貼られているのが確認できる。心を病んだタイラーを診療する精神科医ドクター・TCという作中のキャラクターは、この『Relapse』に収録された、マーシャル・マザーズ(エミネム)と医師の会話を収めたスキット曲から着想を得たのだろうし、タイラーが狂信的なファンに付きまとわれる「Colossus」*1は、エミネムに憧れるやばいファンの男の狂気を描いた「Stan」の変奏曲と言えるだろう。タイラーの初期三部作『Bastard』(09年)、『Goblin』(11年)、『Wolf』の異常な世界観は、エミネムの存在なしには生まれなかったと言っても過言ではない。

Eminem - "Dr. West (Skit)"


Tyler, The Creator - "Colossus"

 そのほかにもスティーヴィー・ワンダーなど、タイラーが影響を受けたミュージシャンは数多い。しかし、そのなかでもファレルとエミネムからは直接的に大きな影響を受けているのは間違いない。

 ここでさらにもう一人、タイラーに大きな影響を与えた第三の重要人物として、アウトキャストのアンドレ3000の名前を挙げたい。ファレルやエミネムに比べると、タイラーがアンドレに言及する機会は少ない。それでも、アウトキャストのお気に入りアルバムに『The Love Below』(03年)を挙げている。同作は、アウトキャストのメンバー、ビッグ・ボーイとアンドレのそれぞれのソロ作をまとめた二枚組アルバムのうちの一枚。先に結論から言ってしまうと、タイラーの5thアルバム『Flower Boy』(17年)は、この『The Love Below』を下敷きにしているのではと考えている。そのように考える理由として、これより以下はタイラーとアンドレの作品における共通点を見ていく。確たる根拠とまでは言えないが、そうかもしれないと思えるぐらいには説得力のある考察になっていると思う。前述の「Colossus」という曲に登場するような、タイラーの狂信的なファンによる深読みだと思って読んでもらいたい。

Let's go to the movies
 タイラーの前作『Cherry Bomb』の中盤には、ガールフレンドを助手席に乗せ、「ムーン・シアター」という映画館に三本立ての特集上映を観に行くという展開がある(「2SEATER」)。この筋書きが「Prototype」という曲で女性を映画に誘うアンドレの歌詞の一節を想起させるのだが、タイラーがこの曲から着想を得て、『Cherry Bomb』のストーリー展開に発展させたと考えるのは、さすがにこじつけだろうか。また、アンドレ扮する異星人と地球人が出会って恋に落ちる「Prototype」のミュージックビデオと、同じく男女の運命的な出会いを歌った「FUCKING YOUNG」のミュージックビデオのルック(画)が、どことなく似た雰囲気を持っているような気がするのだが(草花など)、これも穿った見方だろうか。


Outkast - "Prototype"


Tyler, The Creator - "FUCKING YOUNG"

半獣
 ミュージックビデオにおけるビジュアル面の類似点といえば、オッド・フューチャーのコンピレーションアルバム『The OF Tape, Vol.2』(12年)に収録された「Rella」のビデオには、半獣のタイラーが登場する。それまでタイラーは、自分のことをユニコーンであるとたびたび公言していたが、この姿かたちは喩えるなら、ユニコーンというよりはケンタウロスと言えるだろう。そして、この半獣のタイラーもまた、『The Love Below』のCDブックレットに掲載されたケンタウロス姿のアンドレを思い起こさせる。「Rella」は半獣の容姿だけでなく、あのストレートパーマの髪型も、「Hey Ya!」のアンドレを真似したのではないだろうか。


Hodgy, Domo Genesis And Tyler, The Creator - "Rella"

満たされない心
『Flower Boy』はタイラーの抱える「孤独」が前景化した作品であると書いた。それでは『The Love Below』はどうか。タイトルに並ぶ「Love」の文字を見るに、孤独とは無縁なのではないかとの声が聞こえてきそうだ。なるほど、たしかに『The Love Below』でアンドレは複数の女性との関係を歌っている。しかしそれは裏を返せば、このように言い換えることができよう。つまり、アンドレが複数の女性と関係を持つのは、一人の女性との関係が長続きしないからだ。さすがは「プレイヤー/遊び人」、その名に恥じぬ女たらしぶりである。
 胸騒ぎの腰つき*2に駆られるセクシーな女性と一夜限りのロマンスを積み重ねるうちに(「Spread」「Where Are My Panties」)、交際に発展する女性との運命的な出会いも果たすのだが(「Prototype」)、アンドレはあくまで気楽な付き合いを望んでおり、その先に待つ結婚となると荷が重い。「お義父さんに会うなんて勘弁してくれ、君にはキャデラックの助手席に座ってもらえれば満足さ/お義母さんに会うのもまっぴらごめんだね、ただ君をイカせたいんだ」と真剣な交際を拒むのであった(「Hey Ya!」)。
 クールな男たるもの、女に逆上せるなんてご法度だ。そんなプレイヤーの哲学に忠実なアンドレは、こうして出会いと別れを繰り返す。派手な女性関係の反面、一人の女性と真摯に向き合えない彼の姿は、孤独な存在に映る。イントロに続く実質的な一曲目である「Love Hater」では、「誰しも愛するひとが必要、手遅れになる前に(独りで孤独に老いさらばえたくないよな)」と、孤独への不安が歌われる。『The Love Below』は、そんな孤独なプレイヤーの愛の探求譚だ。しかし、ベッドを共にする相手は見つけられても、アルバムの締めくくりの言葉が示すように、結局アンドレは愛を見つけることができない("LOVE, not found")。

Outkast - "Hey Ya!"

『Flower Boy』も、アンドレのように、孤独を抱えたタイラーが愛を探す物語である。同作でタイラーは、マテリアリズム/物質主義のもたらす虚無や孤独を、車と運転のメタファーによって表現している(高級車を買い揃えたところで、助手席に誰も座るひとがいないのでは虚しいだけだよ!)。タイラーの隣の無人の助手席は、孤独な彼の心の空洞である。

 毎晩、美女を取っ替え引っ替え抱いても、または車庫に高級車をずらり並べても、二人の心は決して満たされない。

 また、『Flower Boy』に見られる新しい試みとして、タイラーのアルバム作品では初となるインスト曲「Enjoy Right Now, Today」が最後に収録されている*3。この楽曲構成は、アルバムの終盤に同じくインスト曲「My Favorite Things」を配置した『The Love Below』に倣ったものか。
 それぞれのインスト曲の直前に置かれた楽曲を比べてみると興味深い。タイラーの場合は、思いびとへの気持ちを留守番電話に託すも届かなかった後、一方のアンドレは、かつての恋人から届いた手紙を読み上げた後にインスト曲が続く流れになっている。それぞれ場面は違えど、どちらの作品においても、言葉にならないほろ苦い感情が、言葉に依らないインスト曲ならではの余情をもって表現されているように思う。


『Flower Boy』の制作過程において、タイラーがどこまで『The Love Below』を意識したかはわからない。もしかしたら、二作品は全く関係ないかもしれない。しかし、真偽のほどはともかく、『Flower Boy』と『The Love Below』、そしてタイラーとアンドレの間には共通点を見出だすことができる。逆に二人が異なる点を挙げるとすれば、それは人気者か否か(モテ、否モテ)ということになるだろうか。タイラーとアンドレのどちらが人気者であるかは、言うまでもないだろう。ただし、タイラーは人気者でなく陰気者だったからこそ、内向き思考の産物たる『Bastard』や『Goblin』のような怪作が生まれたのだともいえる。それに、タイラーもまったくモテないわけではない。「FUCKING YOUNG」では、年下の女性から熱烈な愛を向けられる。だが、タイラーは彼女が「若すぎる」という理由で、その愛をはねつける。もしも、アンドレがタイラーの立場だったら、いくら年が離れていようがお構いなしに彼女の愛に飛びつくであろうことは、アリーヤの有名曲を引いて、年齢なんて関係ないとばかりに年上女性に耽溺する「Pink & Blue」を聴くまでもなく、容易に察しがつくだろう。

*1:タイラーは「Stan」との関連を否定している
*2:I don't want to move too fast, but can't resist your sexy ass
*3:『Goblin』のボーナスディスクには、「Untitled 63」というジャズのインスト曲が収録されている。


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2017年8月1日火曜日

コモン『Finding Forever』発売10周年



 10年前の昨日(7月31日)はコモンの『Finding Forever』(07年)が発売された日。この作品は、タイラー・ザ・クリエイターにとっての『In Search Of...』と同じぐらい、僕にとって大事な一枚。イントロの美メロで引き込まれて、続く「Start the Show」の重低音に心を鷲掴みされた高3の夏。あの日以来、すっかりヒップホップの虜となり、今日に至る。

Common -"The People"



2017年7月30日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『Flower Boy』〜フラワー・ボーイは依然ローン・ウルフなり



 あのタイラー・ザ・クリエイターが真っ当に病んでいる。“真っ当に”病んでいる、とは奇妙に聞こえるかもしれないが如何に。裏を返せば、これまでのタイラーは“異常に”病んでいたと言えるだろう。
 タイラーの過去作は、彼の頭の中に巣食う複数のオルターエゴが入り乱れる、病んだ(という設定の)作品だった。処女作『Bastard』(09年)とメジャーデビュー作『Goblin』(11年)では、頭の中の囁き声に悩まされるタイラーが、精神科医ドクター・TCのカウンセリングを受けるという設定で物語が展開された。囁き声の正体は、ウルフ・ヘイリー、トロン・キャット、エース・ザ・クリエイターといったタイラーのオルターエゴたち。M・ナイト・シャマラン監督作『スプリット』(17年)の如く、タイラーと別人格たちのスリリングなせめぎ合いが繰り広げられた。そうした多重人格的なストーリーテリングの手法は、続く『Wolf』(13年)にも引き継がれる。『Wolf』の舞台は、キャンプ・フログ・ノーと呼ばれる寄宿学校。ウルフ(タイラー)は前二作品で見られた奇行が原因で、この寄宿学校に送られたのだった。物語は、いじめ被害の末に銃乱射事件を引き起こした乱暴者のサム、サムの恋人セイラム、そしてウルフの恋の三角関係を描く。ところが、5thアルバム『Flower Boy』(17年)に至ってタイラーはこう言っている「存在しないひとについて曲を書くのは、いんちきだ」。

『Flower Boy』でも、タイラーは病んでいる。しかし症状が『Bastard』や『Goblin』のときとは異なる。その症状は、アルバムの一曲目「Foreword」から早くも顕著だ。この曲の歌い出しは、タイラーの趣味であるドライブについて歌われるのだが、前作『Cherry Bomb』(15年)に収録された「2SEATER」での快走ぶりとは打って変わって、楽しげな様子は微塵もない。溺死や衝突事故に思いを巡らし、漠然と不安に駆られる、鬱病的な様子がうかがい知れる。こうしたタイラーの沈鬱な気分は「911/Mr. Lonely」で最底辺へと落ち込む。車を何台所有したところで、助手席に座ってくれる人のいない“ミスター・ロンリー”こと、タイラーは孤独に陥っている。傍目には、いつも大勢の仲間に囲まれ、ワイワイ、ガヤガヤと楽しく過ごしていそうに見えるタイラーだが、それは見せかけで、心のうちは死ぬほど孤独だという("the loudest in the room is prolly the loneliest one in the room")。かつての分裂症的な、異常な病み方こそ見られないが、いまのタイラーは孤独という病に罹っているように見受けられる。


Tyler, The Creator - "911/Mr. Lonely"

 ただし、初期作品を振り返れば、タイラーが孤独に苛むのは、今に始まった事ではない。

 タイラーが分裂症的な表現手法を用いたのには、父の不在という生い立ちがトラウマとなって大きな影を落としている。『Bastard』の主題が父の不在であることは、そのタイトル「私生児」からも一目瞭然だ。『Bastard』作中では、タイラーを捨てた父のことを口汚く罵る、恨みつらみの言葉が随所で吐き出されるが、それはそんな父を憎んでいる一方で、思慕する気持ちの裏返しともとれる。そのことは、後年タイラーが発表する、父の愛情を渇望する赤裸々な気持ちを綴った「Answer」を聴けばわかる通り。タイラーは父の声を聞きたくて呼出音を鳴らし続けるが、応答はない。
 電話という舞台装置、そして届かぬ一方通行の想いというモチーフは『Flower Boy』でも反復される。「November」と続く「Glitter」の二曲では、恋心を歌詞にしたためて、留守番電話に吹き込み告白をするも、電波環境が悪く、その想いはやはり相手に届かない。
 再び過去作に目を向けてみれば、プロムの誘いを断られた逆恨みから、拉致、監禁という凶行におよぶ「Sarah」、デートに誘い出して死姦を夢想する「She」といった曲も、猟奇性ばかりが注目されがちであるが、それら奇行の根底にも、常に片想い*1がある。

Tyler, The Creator - "She"

 このように、タイラーはこれまでずっと一貫して、片想いや孤独について歌ってきた。それら一方通行の想いについて歌った多くの楽曲とは対照的に、互いに惹かれあい、両思いの恋人になれるにも関わらず、年の差を理由に、わざわざ彼女の求愛を拒絶する「FUCKING YOUNG」という曲まであるぐらいで、タイラーの抱える孤独はどうしようもなく深い。まさしく別人格のその名が示す通り、一匹狼(ローン・ウルフ)というわけである。
「存在しないひとについて曲を書くのは、いんちき」と虚構を否定するようなことを言いながら、「Who Dat Boy」のミュージックビデオでは、“95年のレオナルド・ディカプリオ”と呼ばれる、おそらく空想上の美青年が、タイラーの運転する車の助手席に座っている。このディカプリオ似の青年は、孤独に苛むタイラーが作り出した欲望の具現なのかもしれない。

Tyler, The Creator - "Who Dat Boy"

*1:「Foreword」に客演参加している英シンガーソングライターのレックス・オレンジ・カウンティは、自作で「片想い」について、自虐的に(「僕のことを嫌いでも気にしないよ/もし僕が君の立場なら、僕もきっと僕なんか好きにならないからさ」)歌っており、『Flower Boy』のオープニング曲を担う人物としてはうってつけである。

Rex Orange County - "Untitled"

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2017年7月23日日曜日

"GANGSTER DOODLES" ART EXHIBITION@BOOKMARC



 原宿のBOOKMARCで開催されている、ギャングスター・ドゥードゥルズ(GANGSTER DOODLES)の個展がたいへん素晴らしかった! 付箋の「ポストイット」に描かれたギャングスター・ドゥードゥルズのイラストは、どれも愛嬌たっぷり。クリーム色の正方形のキャンパス上で躍動する、タイラー・ザ・クリエイター、チャイルディッシュ・ガンビーノなど大好きなポップカルチャーのアイコンたちに心踊りまくり。無数のポストイットが壁いっぱいに貼られた会場の風景も壮観。作品の中には、ドレイクが卓球ラケットを振る「Hotline Bling」のミームや、写真家テリー・リチャードソンが撮ったアール・スウェットシャツなど、通好みするユニークなイラストも数多く、ニヤリとさせられる。このたび出版された作品集『GANGSTER DOODLES BOOK』とオリジナル・トートバッグを購入した。在廊中のギャングスター・ドゥードゥルズさんにサインまでもらえて大満足。サインをもらうとき、名前を入れてあげるから教えてと差し出されたメモ用紙は、やはりポストイットなのでした。


ロジック『Everybody』ツアーの前座がジョーイ・バッドアス




 2017年のベストパンチライン曲候補のひとつが、ジョーイ・バッドアスの「Amerikkkan Idol」。生まれた国や育った環境は違えど、気持ちはわかる。「カネがすべて。死んだ大統領がすべて。だって生きた大統領は何も代弁してくれないから(大意)」。

 トランプ大統領については、『ALL AMERIKKKAN BADA$$』(17年)の作中で、「根性のあるやつは叫べ、“ファック、ドナルド・トランプ”」と勇ましく声を荒げていたりするけど、不満をぶちまけるだけじゃないところに、いたく感心。ロジックの『Everybody』ツアーで前座を務めるのがジョーイというのは、とても筋の通った人選である。ジョーイの「Temptaion」という曲でサンプリングされている黒人少女のスピーチは、ロジックのアルバムで使われていてもおかしくない。「世界を変えるには、まずは自分が変わらなきゃ」とは、「Land of the Free」におけるジョーイの言葉だが、ロジックが『Everybody』で伝えようとしたアティチュードと共鳴するものがそこにはある。



Joey Bada$$ - "Amerikkkan Idol"

2017年7月17日月曜日

Funk Wav Bounces〜w*** a** verses



 ラップが主役の作品ではないけれど、客演ラッパーがことごとく死んだように面白くないのは、制作する上で意図的なディレクションがあったからなのだろう。「皆さま、本作におかれましては、いつものハードなラップはどうかご遠慮ください。私ごときが皆さまに対して注文を付けるなんて、おこがましいにも程があるのは重々承知しておりますが、本作では、南国のリゾートをイメージしたような作品を目指しておりまして、例えば、DJキャレドさんの作品に参加された方々があちらで録音されたような、好戦的な歌詞や過度な財産の自慢、性的な隠喩などは、なんと申し上げましょうか、少し方向性が違うと申しますか。ご存知ないかもしれませんが、小生、以前はEDMという音楽をやっておりまして、手前味噌で恐縮ですが、そこそこ人気のあるDJでございます。そのときに一財産築いておりますから、と申しましても、もちろん皆さまと比べれば足元にも及びませんけど(苦笑)、ギャラの方は、それはもうたんまりとお支払いさせていただく所存ですので、どうか今回はあまり力まずにお願い申し上げます」。本作の客演陣のラップを聴いていると、昼の情報番組に出ているときのお笑い芸人を観ているような気分になる。もしくは、気が抜けたコーラを飲んでいる時の気分。大衆向けに取り繕われた、腑抜けた感じ。タイトルの「Wav」は、wack ass versesの略なのかと考えたくなる。彼らの中で唯一、リル・ヨッティだけがいつもの調子のように聴こえるのが、皮肉にも本作のラップの質を物語っているように思う。ただし、あろうことか、"LIT"でないトラヴィス・スコットという、たいへん貴重な録音が聴けるので、カルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』はおすすめです(STRAIGHT UP!)。

2017年7月16日日曜日

ロジック『On Air with Ryan Seacrest』に出演




 ロジックの『Everybody』(17年)について書いたとき、チャイルディッシュ・ガンビーノの境遇との類似点について指摘したのだけど、ラジオ番組『On Air with Ryan Seacrest』でロジックが話したところによれば、作品への不当な評価に思い悩んでいたときに、ガンビーノから助言をもらったという。「最高のラッパーを目指しているのか、それとも最高のエンタテイナーを目指しているのか、どっちなんだ?」というガンビーノの言葉によって、ロジックはそれまで悩んでいた心を解き放つことができたらしい。ガンビーノがそのような助言を授けたのは、言わずもがな、彼にもロジックと同じく、ラップ論壇に辛酸を嘗めさせられた悔しい経験があるから。我が意を得たり。「Black SpiderMan」のガンビーノ参加版リミックスにも期待。


Logic on Becoming Happy, Advice From Childish Gambino + More w/ Ryan Seacrest



『テロリストの息子』とコカイン中毒の息子ロジック



 ロジックの楽観主義には心底感服してしまう。『Tavis Smiley』というトーク番組に出演したときも、どうしてそんなに楽観主義でいられるのかという点について質問が及んでいるけど、ロジックの作品を聞いて、彼の生い立ちを知れば知るほど、そう尋ねたくなるのは当然である。コカイン中毒の父をはじめ、曲中で語られるロジックの生い立ちは、想像を絶する悲惨なものだ。ロジックの父は彼が生まれたとき、すでに蒸発。母は父と同様、薬物中毒でアルコール依存症。ドラッグの売買に手を染める兄によって、家の中には薬物や銃が持ち込まれる。犯罪の温床となった家では暴力が横行し、性的暴行を受ける姉や母の血によって床は汚れている。そうした劣悪な家庭環境に加えて、バイレイシャル(混血)であるロジックの生まれ持った白い肌が、彼をさらに苦しめる。兄弟姉妹は肌の色が異なる彼を養子扱いし、母は息子をNワードで呼ぶというひどい有り様。一方、学校では同級生からクラッカー(貧乏白人)と呼ばれてからかわれる。気持ちは黒人のつもりでも、見た目は白く、白と黒どちらのコミュニティにも属せないロジック。彼の引き裂かれた自我は想像を巡らすだけでも辛い。これでは世を恨んで、犯罪の道に引きずり込まれても何ら不思議でない。それでもロジックは力強く唱える、「平和、愛、楽観主義」と。

 どうしたらそんなに楽観主義でいられるのだろうか。そう考えていたときに、ふと思い出して本棚から手に取ったのが『テロリストの息子』という本である。

 物騒なタイトルは、著者のザック・エブラヒムとその父エル・サイード・ノサイルのことを指している。ザックが七歳の時、父ノサイルはユダヤ防衛同盟の創設者を銃撃して殺害した。さらに、服役中に世界貿易センタービルの爆破を仲間とともに計画し、終身刑プラス十五年の有罪判決が下されている。本書は、テロリストの父によって翻弄される家族の苦難の歩みを、息子ザックが回想形式で綴ったノンフィクション作品。父による銃撃事件後、ユダヤ教団体から殺害の脅迫を受けるようになったザックたち家族は、逃げるように引越しを繰り返す。しかし、どこに居を移しても、テロリストの家族というレッテルがつきまとい、学校でのいじめや道端でのいやがらせなどの迫害に逢う。世界貿易センタービル爆破事件後は、離婚を決め、名前も変え、ようやくテロリストの父の呪縛から解放されるのだが、母の出会った再婚相手がとんでもないDV男で、家族は再び暴力に怯える日々を過ごす。

 ところで、本書の英語原題には『The Terrorist's Son: A Story of Choice』という副題が付けられている。この副題が意味するのは、怒りや憎しみのなかに育ちながらも、それら負の感情を断ち切り、今は平和や非暴力を広める活動を行っている、ザックのとった「選択」のことである。

 本書を読み終えた後、冒頭に引用されたマハトマ・ガンディーの言葉「人間は思考の産物にすぎない。思考がその人をつくる」がずしりと胸に響く。ガンディーのこの言葉は、ザックの生き方を言い当てているのはもちろんのこと、彼だけでなく、不幸にも彼とは反対に憎しみを選択をした、父ノサイルについても当てはまるように思う。思考が人に与える影響は、良い影響だけとは限らない(ノサイルはもともと家族思いの良き父であった。しかし、信仰するイスラムの布教活動の一環で家に泊めた女性訪問客のひとりが、賠償金目的のためにノサイルからのレイプ被害をでっちあげる。嫌疑は晴らされたものの、この一件は彼の心に深い傷を負わせた。立て続けに彼の身に起きた仕事場での事故という不幸も重なり、すっかり疲弊し精神を病んだノサイルは、次第にイスラム原理主義の思想に傾倒していき、やがて凶行に及ぶことになる)。
 ザックがそうしたように、負の連鎖を断つという選択をしたのは、十七歳のときに地獄のような家庭環境から抜け出して、音楽を通じて「平和、愛、楽観主義」を伝えるロジックもまた同じである。人間は思考の産物にすぎず、思考がその人をつくるのだということを、ロジックの生き様からも、まざまざと思い知らされる。


Logic Talks Everybody, Anziety, Marriage, Education + More with Tavis Smiley


テロリストの息子に生まれてーー平和への道を選んだ軌跡


Logic - "Take It Back"

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2017年7月9日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『Scum Fuck Flower Boy』のアートワーク



 タイラー・ザ・クリエイターの5thアルバム『Scum Fuck Flower Boy』(17年)のアートワークが公開された。最高。デザインを手がけたエリック・ホワイトへのインタビューでは言及されていないけど、タイラーのツイッター、フェイスブックページのヘッダーに使われている、写真家ロバート・モーゼズ・ジョイスの作品を参照していると思われる。

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21サヴェージ「Bank Account」〜その男、凶暴につき



 メトロ・ブーミンの裁定*1を待たずしても、21サヴェージは撃つ。撃って、撃って、撃ちまくる。言うまでもなく、それ故に彼は“サヴェージ”なのだ。物騒な話ばかりの21サヴェージの歌のなかで、わけてもゾワっとしたのは「お前、本当に人殺したことあんの? 始末した野郎のオカン泣かせたことあんの?」という一節。シンプルな言葉ながらも、息子の命を奪われた母が悲嘆に暮れる光景は、「撃つ、殺す」などの直接的な表現以上に残酷だし、また、命を奪われた側だけでなく、奪う側にも痛みが伴うのだ(泣く母の姿は殺った方としても見るに忍びない。お前には覚悟があるのか。そうでないなら軽々しく殺すなんて口にするな)という、殺人という重大行為の業についても考えさせられる秀逸なリリックだと思う。この男、かように凶暴につき、「Bank Account」という曲の「俺は全身グッチ、お前ごときにはラコステがお似合い」というリリックからは、ワニをライフルで蜂の巣にして八つ裂きにする、そんな本来含意されている以上に(異常に)凶暴な姿を想起させられる。


*1:If Young Metro don't trust you, I'm gon' shoot you

2017年7月4日火曜日

続・1995年のレオナルド・ディカプリオ



 タイラー・ザ・クリエイターの「Who Dat Boy」が発表されてからというもの、来たる5thアルバム(『T5』『Scum Fuck Flower Boy』?)への期待が募るばかり。一刻も早くアルバムの全容が知りたくて、じっとしていることができず、情報収集のためにラップファンのコミュニティサイト「KanyeToThe」のタイラー掲示板をこまめに訪問している。この場所で飛び交う話題のなかには、憶測の域を出ない信憑性の低い書き込みも少なくないのだけど、彼らのサーチ力と想像力の逞しさには圧倒される。「Who Dat Boy」のミュージックビデオに登場する「95年のレオナルド・ディカプリオ」に瓜二つの謎の美青年の正体も特定されていた。
 彼の名前はタッカー・トリップ。彼のホームページを見る限り、写真や映像作品を撮って活動している人物のようだ。これまでに、トラヴィス・スコットのビデオブログ「LA FLAME」、「i-D」によるタイラーとマイキー・アルフレッドの対談フィルムの製作を手がけている。また、やはりルックスが良いからか、「Who Dat Boy」のほかにも、ブラッド・オレンジの「Best to You」のミュージックビデオにも出演している。


Tyler, The Creator - "Who Dat Boy"


LA FLAME


i-D Meets: Tyler, The Creator and Mikey Alfred (Illegal Civilization)

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2017年7月2日日曜日

T5 / Scum Fuck Flower Boy



 巷の噂によれば、タイラー・ザ・クリエイターの5thアルバムは『T5』、もしくは『Scum Fuck Flower Boy』になるらしいですよ。本当なんすかね。

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1995年のレオナルド・ディカプリオ〜タイラー・ザ・クリエイター「Who Dat Boy」



 タイラー・ザ・クリエイターの新曲「Who Dat Boy」のミュージックビデオを靄(もや)のように覆う、不穏で怪しげな雰囲気は、紛れもなく『Bastard』(09年)、『Goblin』(11年)など初期作品群のそれである。前作『Cherry Bomb』(15年)は、それまでの三作品で展開された、タイラーとオルターエゴたちの物語から一転、「自己実現」を作品の主題に掲げ、若者を鼓舞する陽性の作品だった。ところが「Who Dat Boy」においては、またしても不気味なシンセが鳴り響く、陰気な作風に立ち返っているように見える。

 ミュージックビデオは、タイラーが愛車のマクラーレンを爆走させ、警察車両の追跡から逃げるところで終わる(暗転してもうひとつの曲「911」のパートに切り替わる)。皮膚の移植手術を施され、まるでお面を貼り付けたかのような不気味な顔をしたタイラーが運転する車の助手席には、謎の美青年が座っている。カメラがこの美青年の爽やかな笑顔を捉えたところで、タイラーはこう歌っている「95年のレオを探してる」。ここでいう95年のレオとは、レオナルド・ディカプリオのことである。というのも、ミュージックビデオの冒頭、暗がりの部屋で作業を行うタイラーの頭上には、ディカプリオ主演の映画『ロミオ+ジュリエット』(96年)のポスターが飾られているのが確認できる。また、この美青年の着る青い柄シャツは、明らかに『ロミオ+ジュリエット』でディカプリオが着用していた衣装を模したものである。でも、どうしてディカプリオなのだろうか。彼は本物のディカプリオなのだろうか。本物だとすれば、若き日のディカプリオがどうして存在しているのだろうか。クローン技術による複製か、はたまたタイムマシーンで過去に遡り、連れて来たのだろうか(冒頭でタイラーは火花を散らしながら何かを作っているように見受けられるのだが、ディカプリオの存在と関係があるのだろうか。爆発の閃光で一瞬映る手元には時計が見えるのだけど、あれはタイムマシーンだったりして。タイラーは過去に「95年のレオと結婚したい。タイムマシーンが欲しい」との発言もしている)。そういえば『ロミオ+ジュリエット』では、(&の部分を+で表したタイトル表記然り)十字架が印象的に使われているけど、十字架といえば、オッド・フューチャーもたびたび使用してきたモチーフであり、やはりあの頃の暗い陰気な作風に回帰しようとしているのだろうか。ミュージックビデオに制服警官が登場することから、「She」との関連性を疑う声も聞かれる。「911」パートでタイラーが四人映っているのも、オルターエゴの存在を想起させるようで気がかりだ。考えれば考えるほどに、謎は深まるばかり。あの美青年は何者なのだろうか...(who dat boy)。


Tyler, The Creator - "Who Dat Boy"








 

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