2018年1月21日日曜日

ジョーイ・バッドアス『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』来日公演予習



 ジョーイ・バッドアスの来日公演に備えて『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』(17年)を聴いて予習中。このアルバムは聴くたびに涙ぐんでしまうくらいなので、生演奏を聴いたりしたらたぶん感極まって鼻垂らして泣いてしまうと思う。初めて聴いたときはジョーイの成長ぶりに心底驚かされた。例えるなら、正月に親戚の集まる場で数年ぶりに会った男の子が知らぬ間に身長もぐんと伸び、声変わりもしていて、すっかり少年から青年へと成長を遂げていたといった感じ。何といってもリリックの成熟度がそれまでと格段に違う。BLM〜トランプ政権下のアメリカ(AMERIKKKA)について歌った政治性の高いリリックが目立つけど、決して背伸びせず、ジョーイのようなマイノリティのふざけんなよという憤りと、勘弁してくれという疲弊感が卑近な言葉で語られる。“生きづらさ”がヒリヒリ痛いほど伝わってくる。本当は一語一句全リリックを頭に叩き込んでライブに臨みたいところだけど、そういうわけにもいかないので備忘録も兼ねてシンガロングしたいラインをいくつか挙げてみた。訳語は拙訳なり。

GOOD MORNING AMERIKKKA
Now, what's freedom to you?
Let’s talk about it, take a minute, think it through

ねえ、自由って何だろう?
話し合おう、じっくり考えてみよう

FOR MY PEOPLE
Look up in the sky, it’s a bird, it’s a plane
No, it's the young black god livin’ out his dreams

あれはなんだ、鳥だ、飛行機だ
いや、夢を実現する俺たちのヒーローだ

Music is a form of expression
I'ma use mine just to teach you a lesson
Rule one: this microphone's a weapon

音楽は表現のための手段
俺は音楽を使って教えを広める
ルールその1:マイクは武器

TEMPTATION
Complainin' all day, but in the same condition
If you wanna make change, it's gon' take commitment

文句垂れてるくせして、現状にかまけてる
コミットしなければ何も変わらない

LAND OF THE FREE
Entire song.

特に、
We can't change the world unless we change ourselves
Die from the sicknesses if we don't seek the health
All eyes be my witness when I speak what's felt
Full house on my hands, the cards I was dealt
Three K's, two A's in AmeriKKKa
I'm just a black spade spawn out the nebula
And everything I do is and say today is worthwhile
Will for sure inspire action in your first child, yeah

世界を変えたいなら、まずは自分が変わらなきゃ
放っておいたらこの国の病に殺される
俺が何を感じたか語るとき、みんなが証人となる
手札はフルハウス
Kが3つとAが2つのアメリカ
俺は星雲から生まれた黒のスペード
今日俺のすること言うことはすべて価値のあるもの
そして次世代のアクションを引き起こす

DEVASTATED
Yeah yeah, yeah yeah
Yeah yeah, skrrt skrrt

スカー、スカー

ROCKABYE BABY
And if you got the guts, scream, "Fuck Donald Trump"

度胸があるなら叫べ、ファック、ドナルド・トランプ

SUPER PREDATOR
Here's for the Presidents, the Congressmen, the Senators
Who got us all slavin' while they reapin' all the benefits
Got the world thinkin' that it's true 'bout what they said of us
AmeriKKKa's worst nightmare, the super predator

大統領や議員のお偉さん方に告ぐ
あいつらは俺たちを奴隷にしてカネを独り占め
俺たちを悪者扱いして世界に喧伝してる
最悪の悪夢、強欲な略奪者、それがアメリカ(AMERIKKKA)

BABYLON
I'm running away
I just can't cope with the pain
You just won't understand
Running away (away from here)

苦しめられるのはもうたくさん
俺は逃げる

LEGENDARY
This is legendary
Always been my mission, never secondary

レジェンダリ〜(語尾を上げて)
セカンダリ〜(語尾を上げて)

Swear all of it was written for me (yep, yep)
By a higher conscious spiritually (up, up)

ヤップ、ヤップ(合いの手で)
アップ、アップ(合いの手で)

AMERIKKKAN IDOL
Entire song.

特に、
I'm out for dead presidents to represent me
Dead fuckin' presidents to represent me
I'm out for dead presidents to represent me
Because I've never known a live one that represent me

稼いだカネ(死んだ大統領)が俺の代弁者
生きた大統領はどいつも俺を代弁してくれないから


Joey Bada$$ - "LAND OF THE FREE"


Joey Bada$$ - "TEMPTATION"

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2018年1月13日土曜日

カリ・ウチース「After the Storm」〜アフター・フラワー・ボーイ



 タイラー・ザ・クリエイター作品のミューズ、カリ・ウチースが新曲「After the Storm」で再びタイラーと共演。ずばり言ってこの曲、『Flower Boy』(17年)の後日譚だと断言してしまいたいような1曲である。『Flower Boy』ではすっかり意気消沈していたタイラーだけど、この曲のヴァースを聴くかぎり、どうやらうつ抜けしたように見受けられる(“これまでになく調子がいいぜ”)。抑うつ状態から復調したタイラーの心象模様は、この曲のテーマである嵐から好天へという空模様の移り変わりと重なる。カリの歌うサビ「いつの日か愛は見つかる/嵐の去ったあとには花が咲くから」は、無人の助手席を見て孤独に暮れていたタイラーへのエールのように聞こえるし、なにより「花が咲く(when the flowers bloom)」というフレーズが『Flower Boy』への目配せだ。*1
 “ミスター・ロンリー”を卒業できてよかったねと思ったのもつかの間、タイラーがインスタグラムに泣き顔の写真を投稿していた「くそ、グラミー賞授賞式に一緒に行ってくれるひとがいない」。タイラーはまだ嵐の渦中にいる。


Kali Uchis - "After the Storm (feat. Bootsy Collins & Tyler, The Creator)"

明けない夜はない
楽して得られるものはない
つらいときもある
でもつづけた者だけが勝者になれる
だから諦めないで

*1:ブーツィー・コリンズのヴァースで聴ける「look both ways before you cross my mind」もタイラーとカリの共演曲「See You Again」の一節への目配せか。

SEE YOU AGAIN (RANDOM ACOUSTIC VERSION)

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2018年1月6日土曜日

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』〜苦しめられるのはもうたくさん



 コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』読了。
 舞台は19世紀アメリカ。ジョージアのプランテーションに住む奴隷少女コーラが主人公。コーラは同じく奴隷の青年シーザーに逃亡を持ちかけられる。かくして自由州である北部を目指し逃亡を試みるふたりであったが、彼らの背後には奴隷狩り人の魔の手が迫りくる……。

『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督によってテレビドラマ化が決まっているそうだけど、劇中歌にはジョーイ・バッドアスの『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』(17年)の収録楽曲がこのうえなくぴったりはまると思う。とくに「BABYLON」は白人が支配する世界からの逃亡というテーマが小説の描くランドスケープにどんぴしゃの歌。「苦しめられるのはもうたくさん、俺は逃げる」

I'm running away
I just can't cope with the pain
You just won't understand
Running away (away from here)


Joey Bada$$ - "BABYLON"



2018年1月3日水曜日

デンゼル・カリー「U Season」



「Uの到来まもなく」。デンゼル・カリーが昨年から予告している謎の「U Season」。これはどうやらデンゼルと仲間たちによる一連の新作リリースを示唆しているらしい。新たに投稿された写真によれば、第一四半期にはデンゼルの新作『Taboo』を含む全5作品が予定されている模様。さらに『Taboo』に加えて、サイボーグを主人公にした『Black Metal Terrorist』なるコミックを制作中だという。続報を待とう。


Denzel Curry On His Upcoming Album 'Taboo', Punk Music & Politics

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デンゼル・カリー「ULT」



 デンゼル・カリーが提唱するモットー“ULT”(読み:ゆーえるてぃー)とは「ultimate」の略語であり、「ultimately liberating together(究極の解放)」「utilizing limitless talent(無限大の能力の発揮)」の意である
 そうした精神的な旗じるしのもと作られたのが『Imperial』(16年)だ。
 ダダダダダダダダダ……と一定のリズムで抑揚なく紡がれるデンゼルのフロウは、自動機関銃の掃射を思わせる。キャンプ・フログ・ノーの会場でライヴを体験した実感として、デンゼルのあの“銃掃射フロウ”(と勝手に命名)からは単なる比喩以上の“被弾感”を強く受けた。デンゼルのフロウに射抜かれた観客は二重の意味で躍らされる。ひとつはダンスミュージックを楽しむ踊り。もうひとつは、止まない弾丸の雨にさらされて、倒れることを許されず、その場でただ宙を舞うしかない死の舞踏。
『Imperial』制作のいきさつには2年間交際したガールフレンドとの破局によるうつ体験があるという(この男も失恋の後遺症でうつ!)。デンゼルが“ULT”に解放の意味を持たせたのは、落ち込んだ気分からおのれを解き放つためなのだろう。
 デンゼルの気分を落ち込ませる“別れ”はもうひとつある。
「Gook」のフックでデンゼルはこう歌う「俺はパープ(ル)とはかかわらない、ヤムズが死んだ原因だから」。ヤムズことエイサップ・ヤムズは、パープ(ル)やリーンと呼ばれる咳止めシロップとジュースを混ぜて作られるドラッグの過剰摂取で亡くなった。ここでデンゼルは反ドラッグ宣言をしたいわけではない。「パープ」が真に意味するのは、デンゼルがかつて在籍していたマイアミのラップ・コレクティヴ、レイダー・クランのリーダー、スペースゴーストパープのことである。レイダー・クランはメンバーの脱退をきっかけに空中分解、パープと仲間たちは反目し合う間柄となった。
「ULT」という曲でも「Gook」と同じく、スペースゴーストパープとの決別が示唆される。「あのとき憧れたあの人が今は俺に引退を勧告する」と歌われるあの人とはもちろんパープのこと。これにつづくフックのライン「幽霊になって線を断つ」は、泥沼の抗争劇をくり広げたパープとの関係を断つんだという宣言にほかならない("When I'm ghost, I'mma cut the line")。

 インタヴューでパープとの関係を訊かれたデンゼルの言葉に、かつてディスの応酬のなかで見せた怒りや憎しみは微塵もなく、パープの才能と彼が今のラップシーンにもたらした功績を素直に讃えている(要約すると“パープにはメトロ・ブーミンやカニエにも匹敵する才能がある。でも躁うつ持ちでぶち壊してしまう。だからといって彼を責めることはできない”)。
「ULT」は上述のように、デンゼルが幽霊になるという一風変わった歌詞の歌である。なぜ幽霊なのか。もしかしたら、デンゼルが断ち切ろうとしているのはパープとの関係だけでなく、ささいなことで傷ついたり、憤怒していた未熟な昔の彼自身の肉体とのつながりでもあるのかもしれない。過去の自分との決別・超克こそが究極の解放であり、無限大の能力の発揮、すなわち“ULT”なのだ。


Denzel Curry - "ULT"


Denzel Curry - "Gook"



 

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