2018年6月10日日曜日

カニエ・ウェスト「All Mine」



 カニエ・ウェスト『Ye』(18年)のお気に入りパンチラインは「All Mine」の「きみのおっぱいのいいところは、一度にふたつのことをこなせてると思えるところ」。忙しい現代人に求められる仕事スキルをユーモラスに歌っている。キムの立派なお胸は片方だけでも、文字通り“手に余りそう”だなとか思ったり。カニエはそれを“ふたつ”同時に相手にできるらしい。これを、くだらない!馬鹿馬鹿しい!と一蹴するのはそのひとの勝手だけど、何を言おうがそれはカニエの自由だ。「これは言っちゃダメ、それもダメって言われるけど/俺は感じたままに声を大にする」のがカニエである。I feel kinda freeeeeeee!



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2018年6月3日日曜日

カニエ・ウェスト『Ye』



 カニエ・ウェストは『Ye』(18年)でようやく“カニエ”と折り合いをつけることができたのではないだろうか。
「近ごろのカニエって不機嫌だし、いつも無礼でイヤな感じ」。「I Love Kanye」という曲でカニエが自嘲まじりに歌う、世間の考える“カニエ”の人物像だ。カニエはそんな“カニエ”が大好きだと豪語する。だが果たしてそれは本心だっただろうか。最後のライン「きみたち(ヘイター)を愛してる……カニエが“カニエ”を愛してるみたいにね」は、自意識の異常なまでの肥大化という問題の本質を皮肉ではぐらかし、開き直って見せているだけのようにも聞こえる。カニエは本当に“カニエ”が好きなのだろうか。
 一方、躁鬱をかかえていることを認め、それを障害ではなくスーパーパワーと呼ぶ『Ye』収録の「Yikes」はどうか。心の病やドラッグ依存など自身の問題と正面から向き合い、障害をバネにして前進しようという前向きな姿勢がこの曲からはうかがい知れる。
 今回カニエが自分と向き合ったことは、アルバムのタイトルにも表れている気がする。これまでは「イーザス神」や「使徒パウロ」など仰々しい名前を冠していたのが、本作は己が名前のイェである。
 カニエ本人は一曲目「I Though About Killing You」「自己愛の欠如といった類のよくある話」ではないと否定しているけど、『Ye』は膨れ上がる自意識と折り合いをつけたカニエが、真の自己愛を見いだした作品だと思う。
 こうした『Ye』のモードには、ポジティブなメッセージを通して自己受容の尊さを伝えるリル・Bやロジックたちの存在が少なからず影響していそうだ。「we got love」をあいことばに愛を提唱する様子は、リル・Bの“BASED”な一連の言動、あるいはロジックの「peace love and positivity」に通じるところがある。また躁鬱と向き合うカニエの姿は、不安神経症に襲われた体験を「Anziety」という曲で打ち明けていたロジックの姿に重なる。
「I Though About Killing You」でカニエが殺そうとしているのは、不機嫌で無礼な“カニエ”自身なのかもしれない。でも殺しはしないだろう。カニエは“カニエ”とうまく付き合っていく。「躁鬱はきついけど、すばらしい(I hate being bi-polar, its awesome)」のだから。かつてカニエが「Stronger」で歌っていた一節が思い出される「俺を殺さないものは、俺をさらに強くする」。カニエはスーパーヒーローだ。うひぇえええええーーーーー!





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2018年5月19日土曜日

続・ルカ・グァダニーノ『君の名前で僕を呼んで』



 タイラー・ザ・クリエイターがイタリア旅行に行ったのは、もちろん『君の名前で僕を呼んで』に影響されてのこと。ソランジュも同伴して満喫した模様。劇中のティモシー・シャラメよろしく、タイラーもイタリアの石畳の上で大好きなサイクリングをしたに違いない。


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2018年4月30日月曜日

ルカ・グァダニーノ『君の名前で僕を呼んで』



『君の名前で僕を呼んで』(17年)すごいよかった。ピアノ、自転車、美形少年、コンバース、花柄シャツって、タイラー・ザ・クリエイターが好きにならないわけがない。そりゃティモシー・シャラメに惚れるわけだわ
http://hooolden-caulfieeeld.tumblr.com/post/173413288935/drugballad-tyler-the-creator-okra-2018

http://hooolden-caulfieeeld.tumblr.com/post/143317496381

J・コール「1985 (Intro to "The Fall Off")」〜ジャーメインの大予言



 レコード会社およびジェイ・Zにヒットを出すようせがまれて作った曲が、あろうことか憧れのナズを失望させてしまったと知り反省する「Let Nas Down」や、敬愛するカニエ・ウェストの奇行に苦言を呈す「False Prophets」のときも思ったことだけど、J・コールは本当に真面目よのう。
「Everybody Dies」という曲で揶揄したのをきっかけに、J・コールとマンブルラップと呼ばれるような若手ラッパーたちとのあいだには敵対関係がつづいている。
『KOD』(18年)の最終曲「1985 (Intro to "The Fall Off")」も、J・コールが言うところの「意味のないことをぶつぶつ言ってる」「リルなんちゃら(lil whatever)」たちへのディス曲だ。ただしディスと言ってもこの曲は一味違う。相手の意見を全否定するのでなく、うんうん、君たちの気持ちはわかるよ、わかるんだけどでもね……と相手に寄り添い、諭しながらディスしているのだ。

「俺だって若いときはカネだ、女だ、パーティだ何だと浮ついてたから気持ちはわかるよ。成功できてよかったね。黒人が繁盛しているのは喜ばしいことさ。でも君たちの曲には感心しないなあ。このままいつまでもカネが入ってくると思うでしょ。ところがどっこい違うんだな。よく考えてみて。キッズたちはいずれ大人になる。そしていつしか君らの曲を聴かなくなる。そうなれば当然君たちのショウはガラガラになっちゃう。そんで金回りも悪くなる。再起を図ろうったって、そうは問屋が卸さないよ。だって君たちは流行りに乗っていただけだからね。堅実に家を買わずに、車やら宝石やら靴やらに散財したことを後悔するはめになるのさ。非難するつもりはないよ。ただ今みたいなラップをつづけていたら、いずれこうなるって話。君たちが見た目ほどまぬけではないことを願うよ」

 こんな風に理路整然と言われてしまっては、仮に「見た目ほどまぬけではない」としても反論するのは難しい。「ジジイ、余計なお世話だ」と感情的に返すようでは、見た目通りのまぬけだと思われてもしかたあるまい。J・コール強し!
『KOD』のコンセプトが発表されたとき、どうしていまさらドラッグをテーマにするのだろうと思った。でも「KOD=キッズ・オン・ドラッグ」が指しているのは、ドラッグ文化に浸かった若年層リスナーのことだけではないと解釈すると納得がいく。この場合の「キッズ」は、クサやダブルカップを片手に快楽目的でのドラッグ使用についてラップする、若年層ラッパーのことでもあるのではないだろうか。
 J・コールはこの作品でとにかく「1985」がやりたかったのだと思う。それ以外の曲は「1985」への長い前振りである。J・コールがドラッグなど社会の諸悪について一通りラップした締めくくりにマンブルラップの担い手を非難するとき、表向きは若手の将来を案じるていで彼らを皮肉るディスであっても、その言葉の裏には「若い子は良くも悪くも、お前ら“リルなんちゃら”に憧れてる。ヒップホップっていうのは、子どもたちに大きな影響力を持っている。だから振る舞いには気をつけろよ」という説教めいたメッセージが隠れている気がする。世間で言われる拝金主義ドラッグ依存セックス中毒も、その原因の一端になっているのはラップで称揚してるお前らだぞ、言葉には責任を持てよ、と。J・コールがわざわざ青二才のキッズに意見するのは「ヒップホップはかくあるべき」という彼なりの信条があってのことだろう。「Let Nas Down」で罪を告白していたように、売れることを目的に心にもない言葉を連ねて後悔した経験のある彼だからこそ、言葉の重みについては人一倍わかっているだろうし、その発言には説得力があるように思う。J・コールは真面目な男である。

 J・コールの「1985」はディスというより、キッズたちへの助言だ。いや、これは助言であり予言ともいえよう。かつて「False Prohets」で偽予言者を糾弾したコールはこの曲で、真の予言者になってみたわけだ。アルバムはコールの予言で締めくくられる「五年も経てば君たちは『Love & Hip Hop』[落ちぶれたミュージシャンが出演するリアリティ番組]の出演者になっちゃうよ」。



J. Cole - "ATM"


J. Cole - "Kevin's Heart"

 制作中だという次作『The Fall Off(没落)』では、“賢い選択”(choose wisely)ができなかったキッズたちの成れの果ての姿が描かれるのだろうか。J・コールの暗黒面人格として生み出されたオルターエゴ、キル・エドワードのアルバムは、そんな堕ちたキッズ側の視点から物語が語られるのだろう。

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