2016年12月31日土曜日

ケヴィン・アブストラクト『American Boyfrind: A Suburban Love Story』〜アメリカにはうんざり



「みんなYoung Thug(ヤング・サグ)のことを好きなのに...」とは、実に上手いことを言うなあと感心してしまった。Kevin Abstract(ケヴィン・アブストラクト)にはボーフレンドがいる。でもケヴィンのお母さんは「ゲイ嫌い」。家族に理解者がいないというのは、同性愛への無理解に限らず、つらいことである。そこでケヴィンは心の安らぎをパートナーの方に求めたくなるわけだが、一筋縄にはいかない。ボーイフレンドは「ケヴィンの肌の色を怖がるかも」という理由から両親をケヴィンに会わせようとしない。つらい。二重の意味で社会のマイノリティなのが、とてもつらい。アメリカは生きづらい。ケヴィンはそんな息の詰まる社会を「みじめなアメリカ」と呼ぶ。アメリカの生きづらさを訴えた作品として、グザヴィエ・ドランの監督作『トム・アット・ザ・ファーム』(13年)が思い出される。物語のクライマックス、ゲイであるトムを暴力で抑圧するフランシスのジャケットの背中では、これでもかというぐらいでかでかと星条旗がなびいていた。エンドロールで「アメリカにはほとほとうんざり」と歌うルーファス・ウェインライト(2012年に同姓結婚している)の「Going to a Town」は、トム(もしくはドラン自身)の気持ちを代弁していた。アメリカは生きづらい(註:ドランはカナダのモントリオール出身で、本作の舞台もカナダのケベック)。『トム・アット・ザ・ファーム』のフランシスがマッチョでゲイに不寛容な保守的な古いアメリカ的価値観を象徴しているならば、対して「Miserable America」という曲で引き合いに出されたヤング・サグは、何のてらいもなく平然とドレスを着てしまうぐらいで、ジェンダーフリーで進歩的な新しい価値観を象徴しているといえるだろう。


Kevin Abstract - "Miserable America"


Kevin Abstract - "Empty"


Rufus Wainwright - Going To A Town (Tom A La Ferme - Xavier Dolan)

2016年12月25日日曜日

タイラー・ザ・クリエイターのベスト・ツイート / 2016



 Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)が2016年に投稿したツイートのなかから、選りすぐりの3ツイート。

「そう、人生を謳歌中」ー2016年2月9日

ファンからの「最近タイムラインで見かけないけど、他に何か取り組んでいることがあるの?」という質問に対する返答。

「19歳の俺へ、お前は正しい選択をした。我が道を突き進むことにしたお前を褒めてやるよ、この生意気小僧」ー2016年3月5日

学業を取るか、夢を追いかけるかの選択に悩む19歳当時のタイラー自身のツイートを振り返って。

「自分より優秀なひと、憧れを抱くひとたちの周りに身を置くこと。そうすれば、“より高み”へと向かいたくなるから」(2016年8月29日)

ファンからの「怠惰な自分に打ち勝って、信念を貫き通す秘訣は?」という質問に対する返答。

ソランジュ「Mad」



 Solange(ソランジュ)の「Mad」『Seat At the Table』(16年)所収)はその名の通り「怒り」について歌った曲だ。「Mad」の導入部分を担うインタールードで父マシュー・ノウルズが語っているように、また「Rookie」による『SATT』のレヴューで、作家ジェームズ・ボールドウィンの「この国において、黒人であり、少なからず意識を高く持つということは、すなわち四六時中憤怒させられるということだ」という言葉が引用されているように、ソランジュの「Mad」という曲の背景には人種差別に対する憤りがある。またそうした怒りを「怒れる黒人女性」というステレオタイプで片付けられてしまう事に対しての憤りも感じさせる。穏やかなメロディに乗せて歌われる歌詞は人種差別に直接言及もしなければ、怒気を孕んだ言葉も見当たらない。しかし「Mad」に込められたメッセージは強靭だ。なんでいつも怒っているのか、なんでいつも文句ばかり言っているのか、って? それは腹立たしいことが山ほどあるから(I got a lot to be mad about)。

 僕がこれから書くことは、ソランジュのメッセージを矮小化しているかもしれない。僕の怒りなんて、ソランジュのそれに比べたら取るに足らないことかもしれない。それでも書かせてもらう。腹立たしいことがうんとたくさんあるのだ。
「Mad」には、テレビ番組のインタビューで「ブラック・ライヴズ・マターなんて知ったこっちゃない」と発言して物議をかましたLil Wayne(リル・ウェイン)が客演参加している。そんなウェインが人種差別に対して怒っているわけもなく、「Mad」では彼が所属するキャッシュ・マネー・レコードのカネの未払いに対して不平を言っている。怒る理由はひとそれぞれだ。

 朝の混雑した電車、駅構内には腹立たしいことが山ほどある。階段やエスカレーター前では利用客が滞留して渋滞が起きる。人混みに揉まれて窮屈な思いをするのは嫌だけど、それ自体は仕方がないので怒りはしない。腹立たしいのは、そういった状況で人を押しのけて無理矢理前進しようとする人たちだ。急ぐのは勝手だが、肩をぶつけて割って入ったり、後ろから背中をぐりぐり押したり、他人に迷惑をかけるような行為は断じて許されるべきではない。そんなに急ぐなら、もっと時間に余裕を持って行動するべきだと思う。前夜五分早く布団に入って、朝五分早く起きて、五分早く家を出て、一本早い電車に乗ればいい。慌てて駅を駆け回る人たちの姿は、ラット・レースのネズミそのものである。僕はそんな風に朝から慌ただしくしたくないので「余裕」を大事にするよういつも心がけている。死にもの狂いで座席に着こうと整列乗車を乱す輩も腹立たしい。何が何でも座りたいというのであれば、列の先頭に立てるよう時間に余裕を持って行動するか、次の電車を待てばいい。対価を払わず利益だけ享受しようなんて、虫のいい話だ。
 余裕のなさが人を堕す。逆に、時間的な余裕は心の余裕につながる。心に余裕がないから、他人を突き飛ばすことに無頓着になれるのだ。心の余裕はさらに寛容につながる。後ろから無理矢理割り込まれたり、横入りされたときは、嫌だなあと思いつつ、黙って前を譲っている。ファック・ユーと罵りたい気持ちを飲み込んで、心の中でアフター・ユー(お先にどうぞ)とつぶやくのだ。マタニティマークならぬ、アフターユーマークを鞄に取り付けたら、割り込みのための体当たりをやめてくれるだろうか。
 混み合う駅構内で歩きスマホをしている人も腹立たしい。歩きスマホの弊害は歩みが遅くなる点だ。前述の慌てるべからずという発言と矛盾するように聞こえるかもしれないけど、混雑した駅をスマホをいじりながらのろのろ歩かれると、後ろに並ぶ人の迷惑だし、それが原因でさらなる混雑が発生する。人の流れに淀みをもたらしている。どうしても歩きスマホをしたい場合は、いつもより早足になるよう意識して歩けばいいと思っている。スマホに注意がいって減速した分を早足歩きが相殺することで、のろのろ歩きが解消されるはず。
 降車客が降り終わる前に電車に乗り込もうとする人、大股開きで座席に座る人(我が物顔で大股開いて座るのは大抵の場合、男性である。お前のいちもつは股を閉じて座れないほど立派なのかよ。股間目掛けてグーパンチを食らわせてやりたい)、混雑した車両内を無理矢理縦断(車両間移動)する人(降車駅出口の最寄りのドアで降りたい気持ちは理解できるが、それなら最初からそのドアから乗ってください)、建築家の安藤忠雄(2013年に行われた渋谷駅の改装工事によって、東横線ユーザーの利便性がいちじるしく損なわれた)にも腹が立つ。腹立たしいことが山ほどある。

 腹立たしい気持ちになったときは、ソランジュの「Mad」を聴く。曲中ソランジュが出会う少女の問いを自分にも投げかけてみる「なんでそんなに怒ってるの?」。「Mad」は怒りを歌った曲であるはずなのに、聴くと怒りが静まる不思議な魅力を持った一曲だ。





2016年12月11日日曜日

やさしいラップ / 2016


 2016年の「やさしいラップ」3選。ここに挙げた3曲それぞれが歌を捧げる対象(キャリアウーマン、失業者、子育てに忙殺される母親)のどれにも僕は当てはまらないけど、彼らのやさしい言葉に励まされ、この1年間たくさんの元気をもらった。

Drake - "Faithful (feat. Pimp C & dvsn)"

Working, working, working, working, ain't ya?
You don't have no time to lay up
You just trying to be somebody
'Fore you say you need somebody
Get all your affairs in order
I won't have affairs, I'm yours, girl
Faithful, faithful, faithful, faithful

今日も仕事、明日も仕事、毎日働きづめで
休む暇もないんだろ?
お前は一人前になろうと一生懸命
誰かと付き合うこともせず
きちんと仕事をこなしているんだろ
俺は浮気なんてしないよ、ガール、俺はお前のもの
裏切ったりしないから信頼して



Lil Yachty - "Life Goes On (feat. Cook Laflare)"

Life goes on
Well, fuck these bitches, count your money cause you work for it
Life goes on
Backstabbin' niggas, cut 'em off, you'll be fine cause
Life goes on
I know you just lost your job, but stay up cause
Life goes on

人生は続くよ
女とファックして、カネ勘定、汗水垂らすのはこれのため
人生は続くよ
陰口叩くやつは相手にしない、きっとうまくいく、だって
人生は続くから
お前は仕事を失くしたんだろ、でも上を向いて、だって
人生は続くから



Chance The Rapper - "Smoke Break (feat. Future)"

We just been smoking a bowl
We don't got no time to roll
I'm always out on the road
She don't got time for a whole
Little bit of time that we have

ボール皿でハッパを一服
巻いてる時間がないから
俺はいつも外で仕事
彼女は一日中慌ただしくて
二人の時間はこれっぽっちもなし

Let me crack your back
Let me rub you all over
Take it down, ooh
Let me make this blunt
Make you dinner or somethin'
You deserve, you deserve
We deserve, we deserve
We deserve, a smoke break
We deserve, we deserve
We deserve, a smoke break

腰を揉んで
マッサージしてあげるよ
ゆっくりしろよ
ハッパを巻いて
夕食を用意するからさ
お前にはそれがふさわしい
俺たちには一服必要
俺たちには一服必要





2016年12月10日土曜日

TOP 3/2016


TOP3/2016

MUSIC
#1. A$AP MOB - COZY TAPES VOL.1

#2. SOLANGE - A SEAT AT THE TABLE

#3. LIL YACHTY - LIL BOAT

2016年のマイベストはエイサップ・モブのグループアルバム。Camp Flog Gnawで見た『Cozy Tapes』メドレーが、ただただ問答無用にひらすらカッコ良くて打ちのめされた。カニエ・ウェスト『The Life of Pablo』と宇多田ヒカル『Fantôme』は、アルバム一枚を通して統一感に欠ける点が今っぽくなくて惜しい(ストリーミング時代に「アルバム」を作る意義)。トータルプロデュースという意味において、ソランジュ『A Seat at the Table』は完璧。リル・ヨッティには誹謗中傷に負けず頑張ってほしい(何故みんな嫌うの?)。

BOOK
#1. スティーブン・ウィット - 誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち

#2. 山内マリコ - あのこは貴族

#3. FRANK OCEAN - BOYS DON'T CRY

MOVIE
#1. JOHN CARNEY - SING STREET

#2. JOHN CROWLEY - BROOKLYN

#3. MATT DUFFER, ROSS DUFFER - STRANGER THINGS

#4. BYRON HOWARD, RICH MOORE - ZOOTOPIA

#5. OWEN HARRIS - SAN JUNIPERO (BLACK MIRROR S03E04)

OKAIMONO
#1. MR.GENTLEMAN QUILTED MIX PULLOVER SWEAT PARKA RED

#2. GOLF x VANS

#3. CASIO A164WA-1

山内マリコ著『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて』を読んで購入。『ドープ!』の90年代ヒップホップおたくの主人公マルコムと、『シング・ストリート』のマネージャー兼カメラマンことダーレンも着用していた。

発掘良品
JUSTIN TIMBERLAKE - JUSTIFIED (2002)

PREFAB SPROUT - STEVE MCQUEEN (1985)

ウォルター・アイザックソン - スティーブ・ジョブズ(2011)

パトリシア・ハイスミス - 孤独の街角(1986)

 開高健 - 風に訊け(1984)




 
 

 

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