2015年3月20日金曜日

モルテン・ティルドゥム『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』



 イギリスの天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)の伝記映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14年)でもSIMI LAB「Uncommon」やきゃりーぱみゅぱみゅ「もんだいガール」と同じく「普通じゃないことの肯定」が描かれていて胸が熱くなった。

"Normal? The world is an infinitely better place precisely because you weren't"
(あなたみたいに普通じゃない人がいるからこそ、世界はこんなにも素敵なのよ)


SIMI LAB - "Uncommon"


きゃりーぱみゅぱみゅ - "もんだいガール"



2015年3月14日土曜日

ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』のアルバム写真



 Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の3rdアルバム『To Pimp a Butterfly』(15年)のアートワークが公開された。上半身裸の男たち(ストリート・ギャングか?)が札束を手にホワイトハウス(!)の前で記念撮影をしている。彼らの足元には倒れた裁判官の姿が見える。この写真は何を意味しているのか。ホワイトハウスといえば、ケンドリックの同胞、Ab-Soul(アブ・ソウル)のリリックが思い出される。

"If we could link up every gang, and niggas is willing to share the pain, we'd put the White House lights out today"
(俺たちギャングが結束すれば、そして痛みを分かつ覚悟があるならば、今すぐにでもホワイトハウスを倒すことだってできる)

自己愛について歌った(時を同じくして、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)も同様に自分に自信を持つことの重要性を説いていたのが興味深い)アルバムからの先行シングル「i」アートワークでも、敵対するストリート・ギャング、ブラッズとクリップスが並んでハートのハンドサインを作っていた。果たしてこれらの意味するところとは?


Ab-Soul - "Terrorist Threats (feat. Danny Brown & Jhene Aiko)"


Kendrick Lamar - "i"

きゃりーぱみゅぱみゅ「もんだいガール」と『キューティ・ブロンド』



 きゃりーぱみゅぱみゅ「もんだいガール」が素晴らしい! 普段は人混みが嫌で通行するのを避けがちな渋谷センター街だけど、最近は「もんだいガール」がよく流れているので、この曲を聴きたいがために積極的に通るようにしているぐらい好き。「変わりものであることの気骨」をテーマにした歌詞がグサリと心に刺さる。集団社会の同調圧力と闘うこの曲のきゃりーは、これまでのファンシーでメルヘンチックなイメージからは想像がつかないほど勇ましくかっこいい。サビでは「普通になんてなれないでしょ」と歌われるけど、普通や常識(と世間で言われるもの)に対して中指を突き立てる態度は、SIMI LABの「Uncommon」にも通じる(普通って何?常識って何?んなもんガソリンぶっかけ火付けちまえ!)。またこの曲はミュージックビデオも素晴らしい。ビデオのなかで見られるきゃりーのピンクのファッションは、映画『キューティ・ブロンド』(01年)へのオマージュだ。この『キューティ・ブロンド』オマージュが楽曲のテーマに合致していてとても上手い。『キューティ・ブロンド』の舞台はハーバードのロースクール。優等生タイプの学生が集まるロースクールでそのド派手な見た目と振る舞いゆえ浮きまくるエル(リース・ウィザースプーン)が一人前の弁護士になることを目指して奮闘する姿が描かれる。そんなエルの置かれた境遇は、強烈な個性がときに好奇の眼差しの対象となるきゃりーも同様であろうことは想像に難くない。孤立するも周囲に同調するのではなく、友愛会「デルタ・ヌウ」仕込みの西海岸ギャル・スタイルを最後まで貫き通すエルの姿勢(変わりものであることの気骨)は、まさしく「もんだいガール」のきゃりーの姿と重なるものである。『ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて』(国書刊行会)でも『キューティ・ブロンド』はこう評されている「この映画の良いところは、従来の女性映画だったらリースが東海岸のロースクールの価値観に染まってサクセスするっていう筋書きになるところが、彼女自身は最後まで変わらないってこと。むしろギャルの知恵を新しい知性としてプレゼンして終わる。『キューティ・ブロンド』はアカデミックな知性にストリート・ワイズが打ち勝つ物語なのね」。

 ここからは深読みかもしれないが「もんだいガール」における『キューティ・ブロンド』の引用が優れていると思う理由は他にもある。「もんだいガール」は坂本裕二脚本のドラマ『問題のあるレストラン』の主題歌だ。男尊女卑社会における理不尽と闘う女性たちを描く『問題のあるレストラン』にはセクハラ男やパワハラ男がうじゃうじゃと登場する(というか、男性キャラのほぼ全員がろくでなしである)。一方『キューティ・ブロンド』にも教授で弁護士のキャラハンという悪役が出てくる。キャラハンは立場を利用してエルにパワハラをしたり、女子生徒にばかりお茶汲みをさせるなど、女性の活躍を邪魔する男根主義的な人物として描かれる。また、ファッション・ビジネス専攻だったエルが猛勉強してロースクールに入学しようと思ったそもそもの目的は、てっきりプロポースしてくれるものだと思っていた彼氏に「ブロンドすぎる(頭が悪い)」という理由で振られてしまったため、その彼の進学先である難関校に自分も合格してみせることで見返して、寄りを戻すことであった。しかし法律を学び、実際に困っている人々を助けていくうちに、一人前の弁護士になってバリバリ活躍することが彼女の目的になっていく。このように『キューティ・ブロンド』は女性の社会進出(とそれを阻害する男性)というフェミニズム的なテーマを扱っている点が『問題のあるレストラン』と似ている。

「もんだいガール」は曲中繰り返される「ただ恋をしているだけなの」というフレーズの「恋」の部分を「仕事」に置き換えてみることで『キューティ・ブロンド』や『問題のあるレストラン』にも共通するメッセージがより鮮明になるように思う。それは『問題のあるレストラン』の田中たま子(真木よう子)のセリフ「いい仕事がしたい。ただいい仕事がしたいんです」にもつながってくる。「もんだいガール」の作詞・作曲は中田ヤスタカ。中田ヤスタカおそるべし!


きゃりーぱみゅぱみゅ - "もんだいガール"


SIMI LAB - "Uncommon"

2015年3月1日日曜日

ドレイク『If You're Reading This It's Too Late』



 これまでもさんざっぱら書いてきたように「未練がましさ」に定評のある Drake(ドレイク)だが、驚くべきことに『If You're Reading This It's Too Late』(15年)では、いつものように後ろ髪をひかれる側ではなく、なんと、後ろ髪をひく側にいる。「Star67」でドレイクはこう歌う「グラビア美女からメッセージを受信、でも返事はしない」。まさかの既読スルー! いつからそんな身分になったのだろうか。そこには元恋人相手にうだうだとクダを巻く、あのいつもの女々しいドレイクの姿はない。今回の『If You're Reading This It's Too Late』には前出の"Star67"のほかにも、後ろ髪をひく側の視点から歌われた「Now & Forever」という曲があり、これがアルバムタイトル然り、非常に意味深なのだ。一見(聴)すると、ドレイクが恋人関係を断ち切ろうとしているように聴こえる。

もう終わりだ、そろそろ行くよ、それじゃあな
間違いだった、長く留まりすぎたんだ

後ろ髪をひかれる側でなく、ひく側(この曲の内容に即して言い換えるなら、去られる側でなく、去る側)のドレイクはキャラになくちょっぴりイケメンの風格が漂う(イケメンを気取っているだけかも?)。でもどうやらこの曲は、男女の別れの話をしているようでそれだけではないようなのだ。ドレイクのメンター(師)であるLil Wayne(リル・ウェイン)がデビュー以来所属しているキャッシュ・マネー・レコードからの離脱をほのめかし、そのキャッシュ・マネーのボス、Birdman(バードマン)を相手に訴訟を起こしたことが話題になっているこのタイミングで「去る」ことをテーマにした楽曲を発表するということは、レーベルメイトのNicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)とともにその去就が注目されるドレイクの意思表明と受けとるべきであろう。つまりこの曲はドレイクからバードマンへの別れの手紙というわけだ。本作はもともとフリーダウンロード形式のミックステープとして発表するつもりだったらしいが、その意図を、リル・ウェインもレーベルのカネの支払いが不十分だと訴えているが(また、Pusha T(プッシャー・T)も「Exodus 23:1」(12年)で「搾取されてんじゃん、ざまあ(大意)」とディスっていたが)、キャッシュ・マネーの所属アーティストへのギャラ支払いに関して一部で悪い噂が囁かれるバードマンを儲けさせないための反逆行為と考えるのは勘ぐりすぎだろうか。仮にもしドレイクがバードマンに何の報告もなしに本作をフリーダウンロード形式のミックステープとして公開していたら、そのときバードマンはドレイクの反逆行為を知り、そして作品タイトルを見て愕然としたことだろう。「これを読んでる時点でお前はもう手遅れ」
 そういうわけで、ドレイクはリル・ウェインについて行く道を選んだようだ。『If You're Reading This It's Too Late』の最後の曲「6PM In New York」ではこう言っている「リル・ウェインの後継者として俺以上にふさわしい奴はいない」。確かにそうかもしれない。しかしリル・ウェインとバードマンが仲違いするなどと誰が予想できただろうか。数年後にはリル・ウェインも、Young Thug(ヤング・サグ)のようなフレッシュな若者にご執心かもしれない……。ドレイクがリル・ウェインにフラれた未練を歌う日がやって来ないことを願うばかりである


Rich Gang - "Flava"



 

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