2014年12月28日日曜日

TOP 3/2014


TOP 3/2014

#1. SIMI LAB - PAGE2:MIND OVER MATTER

 一段と増した「チーム感」に兎に角やられた。「チームもの」アメコミ作品から名前を拝借した"Avengers"という収録曲一つとっても、彼らがグループであることにこれまで以上に自覚的であることがうかがえる。豪華盤に付属する本作の制作過程を追ったドキュメンタリーDVDでも冒頭部分で”事件”に見舞われ当惑するメンバーたちの姿が映し出されているが、前作『Page1:ANATOMY OF INSANE』(11年)から本作に至るまでの間にSIMI LABはメンバーの脱退(そして加入)を経験している。このこともチームとしての結束力の強化に寄与しているのだろう。そうそう、そのドキュメンタリーDVDの出来もたいへん素晴らしい。枕投げの和気あいあい感たるや! そういった遠征先の宿で見せるコミカルなオフシーンも見所だが、後半のスタジオ作業風景も見応えたっぷりで、普段スタジオのなかで何が行われているのか知らない者としては、"Yawn"のフックを歌うMARIAの節回しについて真剣に議論を交わす一幕が非常に興味深かった。映画『アクト・オブ・キリング』と並ぶ、2014年を代表するドキュメンタリー作品であることは間違いない。またグループの連帯感の高まりは、もちろんリリックの端々にも顕れている。"Kommunicator"でのOMSBのリリックが印象的だ。

実際問題人類みな兄弟は嘘だ
To so hardみた事ない空想だ
有色な人間は黄色や白や黒、
いつだって中傷だ
What's love?うわっ面剥がせば
Blood Apocalypse now
でも小馬鹿にしあう
分かりあうこと放棄しPain分かち合う
全てじゃねえがこんなんばかりだ
でもSIMI LAB、俺の仲間だ
肌は違うけど俺の居場所
MiracleなTeam俺の死に場所
仲間でいてくれてどうもありがとう

仲間との絆について熱く語ることは、ややもすれば内輪ネタに聴こえがちというか、程度によってはときにかっこ悪い印象を与えかねない。でもSIMI LABの場合全くそういった事態に陥っていないどころか、むしろ積極的に彼らの出会いを祝福したくなるのは、各メンバーがSIMI LAB加入以前に経験した差別や迫害、心に抱いていた孤独や疎外感を、前作であったりメンバーそれぞれのソロ作で聴いて知っているから。雑誌『Winkle』のインタビューでMARIAが語る、当時まだひとりで活動していたRIKKIのグループ加入にまつわるエピソードは非常に心温まる。

MARIA:RIKKIを入れようよって思ったときがあって、GRINGO(SIMI LAB主催のパーティ)で自分たちのリハーサル終わったあと、そのときRIKKIはまだひとりでやってたからひとりでリハやってるの観てて。なんであそこでRIKKIひとりなんだろうって気持ちになって、その時点で仲間っぽくない?って。こっちにくるのが普通っていうか。(『Winkle』VOLUME01)

彼らの「チーム感」がもっとも色濃く出た"Circle"は、言うまでもなく「円」と「縁」のダブルミーニングだろう。縁がつないだ点(=シミ)は線になり、更に円となった。SIMI LABは向かうところ敵なしの最強のチームだ。


SIMI LAB - "Avengers"

#2. LOGIC - UNDER PRESSURE

 ”ゲイザースバーグのグッド・キッド”こと、Logic(ロジック)のメジャーデビュー作。と勝手に通称を付けてしまいたくなるぐらいだから、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)との比較を禁じ得ない。非常に”ラフ”(rough過ぎてlaughなんて無理!)な少年期を過ごし、その反動で(?)ポジティヴ思考になったという点ではRIKKIの『BLACKGATE』(14年)とも共振。


Logic - "Under Pressure"

#3. YG - MY KRAZY LIFE

 ギャングスタ未満のヤンキー物語。リークされたケンドリック・ラマーの次作のトラックリストに"Both Sides of Story"というタイトルの曲を見つけ、コンプトンの善良少年と悪童がついに共演か?と心躍らせるも、偽の情報とのことで残念。


YG - "Do It to Ya (feat. TeeFlii)"



2014年12月23日火曜日

ニッキー・ミナージュ「Feeling Myself」〜フェミニズムの行き着く先



 なんじゃこりゃ。Nicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)の3rdアルバム『The Pinkprint』(14年)に収録の"Feeling Myself (feat. Beyoncé)"を聴いて、ぎょっとした。フェミニズムの行き着く先を見た気がする。今年は国連「UNウィメン」親善大使として力強いスピーチを行った女優のエマ・ワトソン、女性の自己実現に王子様の愛は必ずしも必要でないと説いたディズニー映画『アナ雪』、シャネルのショーでモデルたちに女性の地位向上を訴えるプラカードを掲げさせたカール・ラガーフェルドなど、様々な場面においてフェミニズムの機運のより一層の高まりを見た一年だった。それらフェミニズム運動の延長線上に件の曲"Feeling Myself (feat. Beyoncé)"はあると言えよう。Beyoncé(ビヨンセ)はフックで次のように繰り返す「アタシは絶好調(I'm feeling myself)」。ビヨンセとニッキーが好調なのは誰もが認めるところだろう。ヒップホップ/R&B界の二大クイーンによるいわゆる”自画自賛”ソングというわけだ。しかしタイトルにもなっているこの"feel myself"というフレーズには俗語で「自慰をする」の意味があることを考えると……。そう、彼女たちは自慰に耽っているのだ! 一般にセックスというと男本位で行われることの多いイメージがあるが、女だってやりたいときにやるのよ!(しかも男の力を借りることなく)といったところだろうか。だとすればそれは即ち、男根主義的なヒップホップの世界でも、女性ラッパーが独力で男性ラッパーに負けず劣らず渡り合えるのだという宣言に他ならない。つまりは彼女たちのように才気ある独立した女性には、男なんぞ不要であると遠回しに言っているのだ。これがただの洒落やダブル・アンタンドルでないことは、二人の前共演曲"Flawless (Remix)"が女性の応援歌であったことを思い出せば分かる。客演参加しているレーベルメイト二人との”お肉の関係”(ルビ:ペログリ、©田中康夫)を否定するところから歌い始めるという一風変わった趣向の一曲"Only"(アルバム『The Pinkprint』収録)でも「独立した女性(independent bitch)」が奨励されている。これぞフェミニズムの極北か。


Nicki Minaj - "Feeling Myself (feat. Beyoncé)"


Beyoncé - "Flawless (Remix) feat. Nicki Minaj"


Nicki Minaj - "Only (feat. Drake, Lil Wayne & Chris Brown)"



2014年12月14日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター、かく語りき



 Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)が自身のFacebookページに投稿した同年代の若者に向けたメッセージがたいへん素晴らしかったので訳してみました。タイラーたちの音楽が多くの若者たちを勇気付けていることは、Faderの「10 Female Fans On Why They Love Odd Future」を読んでもよく分かる。以下拙訳。

ネガティヴな人はみんな俺から刺激を受けて欲しい。俺は23歳にして偉業を成した。それにまだ手を緩めるつもりもない。怯えたり、悲観的になるのはよせ。そうでなく自分を信じること。馬鹿どもの相手をするのはやめろ。クサなんか吸ってないで、やるべきことをやるんだ。自分たちのために。俺にできるんだからみんなにもできるはず。SNSの星に執着するなんて馬鹿馬鹿しい。自分に限界を設けてどうする。自分のことが嫌いな人、自分に満足できない人もいるんだってな。それってなんて悲しいことだろう。そんな考えは今すぐに捨てろ。とはいえ自分を好きになれない奴も中にはいるだろう。みんなは自己評価が低すぎる。そんなんだからインスタグラムの「いいね」に一喜一憂してしまうんだ。そうでなく自分を好きになること。自分のことを信じれば、自分のアイデアに自信が持てる。そうなればいつかなりたい自分になれるから。自分に自信が持てないというのなら、俺がお前の自信になってやる。この先数年の俺の活躍を俺は確信している。他人の意見なんてこれっぽっちも気にしねえ。だって俺は俺を信じているから。もっとたくさん笑え。付き合うなら一緒にいて心地の良い人、向上心を抱かせてくれるような人にすること。負け犬と戯れるのはやめろ。クサを吸ったり、酒を飲んだり、馬鹿騒ぎするためだけに付き合っているような連中とは、とっとと縁を切れ。時間はあっという間に過ぎていき、気づいた頃には生きたいように生きなかったこと、愛すべき人を愛さなかったこと、掴むべきチャンスを逃したことを墓穴の中で後悔する羽目になるぜ。この世にルールなんてもんはない。ルールなんて糞食らえだ。おのれの翼を見つけろ。俺は見つけて、今まさに飛んでいる最中。そしてこのまま飛躍し続ける。でもまずは自分のことを知ること。10歳の頃から俺は俺という人を理解していた。俺は音楽が好きで色彩に興味があった。流行っているから、友達が聴いているからという基準で音楽を聴き、周りが着ているからという理由で服装を選ぶような、他人の真似ばかりする奴らが多すぎる。フォロワーになるのはやめろ。そういった臆病者のくそフォロワーどもはコメント欄で口を揃えて“言うは易し”、“この偽善者が”、“お前は変わった”だなんだと吐かしてやがる。奴らは怯えている。怯えるのはよせ。何でこんなことを書いているのかは俺にも分からない。今俺はバカンスで湖に来ていて、絵を描いたり、音楽を聴いたりしている(CC The Worldをかれこれ6時間近く聴いてる)。そんで気づいたけどよ、特別に理由もないのにバカンスだなんてクレイジーだろ。ずっとこういうのを夢見てたんだ。どうしたらこんなことが出来るかって、それはもちろん自分を信じ、オカンの敷いたレールには乗らず、俺の無謀とも思える考えに賛同してくれる仲間たちに囲まれ、作品を発表し、それを気に入ったみんなが俺のことを信じてくれたから。だから今ここで俺はこうしてられるんだ。みんなには勝利をつかんで欲しいと声を大にして言いたい。嫌なことがあっても笑顔を絶やさず、いい気分でいて欲しい。俺は幸せだし感謝の気持ちで一杯だからいつも跳び回ってるけど、みんなは怯えているように見える。わからないけど、俺が特別なだけかも。まあ知ったこっちゃねえ。せっかく森にいるんだからこの目でヘラジカを見てみたいなあ。そんで写真を撮るんだ、ハハハハハハ。それから人種差別なんてマジクソくだらねえぜ。あと、今週の土曜日にはGOLFの秋冬新作が発売になるぜ。愛してる。みんなには今からそれぞれの翼を見つけて羽ばたいて欲しい。

via. https://www.facebook.com/TylertheCreatorOfficial/posts/345111099004893



2014年12月13日土曜日

デヴィッド・フィンチャー『ゴーン・ガール』



 デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』(14年)を観た。劇中歌として、Kreayshawn(クレイショーン)の"Left Eye"が使用されているのが面白い。"Left Eye"が使用されている理由はもちろん、この曲がTLCの故Left Eye(レフト・アイ)が浮気相手への仕返しにその男の家を燃やしたという逸話を引用した「復讐ソング」であり、同じように旦那ニック(ベン・アフレック)に浮気され、壮大な復讐劇を演じる失踪中の妻エイミー(ロザムンド・パイク)の心情を代弁しているからだろう。クレイショーンの歌は本作にうってつけなわけだけど、デビューアルバム『Somethin 'Bout Kreay』(12年)が商業的に大コケしてその後とんと名前を聞かなくなったクレイショーンも違う意味で「ゴーン・ガール」なのが何とも皮肉である


Kreayshawn - "Left Eye"


映画『ゴーン・ガール予告編』

2014年12月7日日曜日

ロジック「Metropolis」における、クエンティン・タランティーノをめぐる会話



 Logic(ロジック)は『Under Pressure』(14年)の制作期間中、Quentin Tarantino(クエンティン・タランティーノ)の映画作品を繰り返し観ていたという。スタジオ作業風景を描いたアルバムのアートワークに目を凝らしてみると、ラップトップでは『キル・ビル』が再生されている。収録曲"Metropolis"のアウトロで交わされる女性との会話の中でもロジックはタランティーノの話をしている。「えっ、マジ?『イングロリアス・バスターズ』観たことないの?『ミッション:8ミニッツ』は観た?『ドニー・ダーコ』に出てたあの人のやつだって!」みたいな台詞に親近感を抱く。この他愛もない会話はおそらくタランティーノ作品でお馴染みの「本筋の展開とは関係のない会話シーン」へのオマージュなのだと思う。さらに言うと、ダイナーのシーンから始まるクライムアクション風の"Under Pressure"のミュージックビデオも、タランティーノ・オマージュに違いない。


Logic - "Metropolis"


Reservoir Dogs Opening Scene Like A Virgin

ロジック『Under Pressure』



 Logic(ロジック)のデビューアルバム『Under Pressure』(14年)が素晴らしい。トラブルだらけの粗悪な生活環境が生んだ善良な若者というと、またしても、というか、どうしたってKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)と比較してしまう(裏を返せば『good kid, m.A.A.d city』(12年)がそれだけエポックメイキングな作品であることの証左でもあるわけだが)。もしくは、SIMI LABのRIKKIを引き合いに出してもよいかもしれない。女兄弟が揚げ物を調理しているすぐ側でクラックの“調理”が行われ、目を移せば別の女兄弟が男に暴行されている。家に帰るとドアに立ち退きを命じるテープが貼られていたことも。母はヤク中、父はどこをほっつき歩いているのやら……といった具合に、ロジックの育った家庭環境はかなり悲惨。ケンドリックの名前を出したくなるのは、ロジックもそうした環境に育ちながらも、周囲に流されることなく品行方正にやっているから。ドラッグの売人だった兄を筆頭に周囲にギャング活動従事者が多くいたにもかかわらず、決してそれらには加わることなく、あくまで傍観者であったというロジックの立ち位置は、ケンドリックと同じだ(Gang Related)。また品行方正なうえロジックは真面目である。"Soul Food"では、女兄弟に暴力をふるう男に復讐心を抱くも「ぶっ殺してやりたい!けど出来ない、それは悪漢のすること、俺は違う」とおのれを律する。なんと真面目なこと!
 このたびDef Jamからめでたくメジャーデビューを果たしたロジック。成功につきものの「友人・知人の増加」はご多分に漏れずロジックも同じようだ。タイトル曲"Under Pressure"のフック部分では、電話でカネの無心をしてくる輩を「お前らにくれてやれるのは電話の発信音だけ!」と一蹴する(ミックステープ『Young Sinatra』シリーズ3作に登場する、ロジックを利用して金儲けをしようと電話で執拗にレコード契約を迫る「Sell Out Records」のマーティ・ランドルフを思い出させる)。この曲ではロジックの父が新しい恋人と遊ぶためのカネ欲しさに電話を掛けてくるが、今言ったようにロジックは電話に出ず、父は留守番メッセージを残している。でもクソ真面目なロジックのことだから、本当はきちんと家族に仕送りしているに違いないのだ。


Logic - "Under Pressure"



2014年11月16日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『Wolf Documentary』



 Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の3rdアルバム『Wolf』(13年)の制作過程を追ったドキュメンタリーDVDを観た。タイラーが蒐集してきたN.E.R.D.関連グッズほかで埋め尽くされた自室を案内する場面は、タイラーの頭のなかを覗いているようでファンにはたまらない。N.E.R.D.のポスターの隣に貼られたEminem(エミネム)のポスターを指さして『Relapse』(09年)が好きだと話すタイラー。あらためて『Relapse』を聴いて気付いたけど、これまでにもタイラーはエミネム好きをことあるごとに公言していたし、タイラー作品に見られるエミネムからの影響を挙げていったらキリがないけど、ドクター・TCという医師とのカウンセリング形式をとって分裂した精神状態を描く手法の直接の影響源は、おそらく『Relapse』なのだろう。


Eminem - "Dr. West (Skit)"


Tyler, The Creator - "Bastard"



2014年11月9日日曜日

Gucci's Presence Is So Pervasive〜グッチ・メインの功績



 ILoveMakonnen(アイラヴマコーネン)が米ヒップホップ専門ラジオ番組「Hot 97」に出演。昨今、より一層の活況を呈すアトランタのヒップホップシーンについて、番組パーソナリティのMiss Info(ミス・インフォ)と話しているのが興味深い。近年のアトランタのヒップホップシーン最大の功労者として、アイラヴマコーネンはGucci Mane(グッチ・メイン)の名前を挙げている。グッチ・メインに関してミス・インフォは「非常に“トラップ”であると同時に、変人キャラとしての一面も併せ持っているのが興味深い」と分析。Young Thug(ヤング・サグ)ほか奇怪なスタイルのラッパーの台頭が著しい昨今だが、彼らがリスナーに受け入れられる土壌を作ったのが他ならぬグッチ・メインであるというアイラヴマコーネンの指摘には、なるほどと膝を打つ。FREE GUCCI!!


Drake's New Artist Makonnen Talks to Miss Info!

2014年11月2日日曜日

ドレイク「How Bout Now」



 Drake(ドレイク)がまた元恋人の話をしている。過去への執着ぶりがすごい。本当に未練がましい野郎だぜ。ドレイクの新曲「How Bout Now」『Nothing Was the Same』(13年)収録の「Worst Behavior」『Take Care』(11年)収録の「Shot for Me」の系譜に連なる、“イケてなかったときの冷遇を俎上に載せて「今の俺どうよ」曲”である。ドレイクが彼女のためにしてあげたらしい行いが具体的に歌われる。ドレイク曰く「他の女の子の携帯番号全部消したのに…」「雪のなか司法試験の会場まで送り届けてあげたのに、きっと君は全然覚えてないんだろうなあ」などあれこれと献身的に尽くしてあげていたそうな。彼女のお父さんにクリスマスプレゼントを買ってあげたのに礼の一言もなかった話や、自作の曲をCDに焼いて彼女に聴かせるも、リュダクリスを聴きたいと言われてしまった話は不憫だけど笑える。ただ、こんなに愛していたのにどうして?と女々しく嘆くだけで終わらないのがこの男の真骨頂。ドレイクはそのあとで必ず「売れた今の俺」の話をして相手を見返してやろうとする。「How Bout Now」のフック部分「あのときは構ってくれなかったけど、今はどういう気分?」もまさにそう。嫌みったらしいけど痛快! ドレイクの数あるこの手の曲のうちの一曲「Worst Behavior」は、第一義に「あの頃は見向きもしてくれなかったよな?」とわめき散らすドレイク自身の悪態(ワースト・ビヘイビア)のことであり、また同時に、将来売れて大物になるに違いない自分のことを正当に評価せず冷たくあしらった(相手にしてくれていれば今頃おこぼれに与れたのに、残念だったな、ざまあみろ!という意味で、それはワースト・ビヘイビア)当時のヘイターに後悔の気持ちを促そうとしているのだと思う。そして、この「後悔させる」というのがドレイクの創作活動におけるひとつの原動力になっているように思う。負け犬の逆転劇がもたらす痛快さがドレイクの音楽にはある。
 こないだドレイクが、Future(フューチャー)の「Hardly」『Monster』(14年)収録)のリリックの一節「Hardly, hardly, hardly forget anything」をツイッターでつぶやいていたのを見て、近々この曲でフリースタイルを発表するのではと期待しているのだけど、ドレイクが忘れられないのってどうせ元恋人のことでしょ。



Jodeci - "My Heart Belongs to You"


Drake - "Worst Behavior"



2014年10月19日日曜日

アイラヴマコーネンとドレイク



 ILoveMakonnen(アイラヴマコーネン)のI Love Makonnen EP(14年)を聴いた。超女々しい! 大ヒット中の"Club Goin Up On a Tuesday"も素晴らしいが、過去の女性関係について歌った楽曲群が聴きどころ。浮気された腹いせに浮気仕返す"Tonight"、運命の相手だと思ったがそうでなかった元恋人たちについて歌った"Meant to Be"("Tonight"に登場する浮気され浮気仕返したブリアナという女性が再び登場)、サラという女性のことが頭から離れず夜も眠れないと嘆く"Sarah"など、どの曲も未練たらたらである。Drake(ドレイク)の熱烈ラヴコールの後、めでたく彼の主宰するレーベル「OVO」と契約したアイラヴマコーネン。アイラヴマコーネンの芋臭いルックスにドレイクがかつての自分を重ね親近感を覚え招き入れたのだと勝手に推測していたのだが、『I Love Makonnen EP』を聴けばドレイク好きする理由も分かる。きっとドレイクはアイラヴマコーネンの女々しさに惹かれたに違いない。なぜならドレイクこそ女々しい男だから。『I Love Makonnen EP』を聴いて連想したのは、ドレイクの2ndアルバム『Take Care』(11年)に収録の、同じく過去の女性関係について歌った"Shot for Me"。この曲はドレイクが元恋人たちに向かって「歩き方、話し方といった今の君の所作諸々はすべて、“この俺”が交際中に身につけさせてやったことだからな!」と別れて尚厚かましく歌う、未練たらたら男のリマインダー・ソングだ。この他にも"Marvin's Room"では酔った勢いで元恋人に電話をかけ、ああどこうだとくだを巻くドレイク。類は友を呼ぶとはよく言うが、ドレイクが自分と同じように恋の傷心をラップとファルセットで朗々と歌い上げるアイラヴマコーネンに惹かれるのは必然なのだ。アイラヴマコーネンがOVO加入後に発表したMike Will Made It(マイク・ウィル・メイド・イット)のプロデュースによる"Wishin You Well"も、タイトルから容易に察しがつくようにもちろん元恋人について歌っている。女々しい!

君が元気でやってることを願ってる
やりたいようにやって
君が元気でやってることを願ってる
毎日のように
君が元気でやってることを願ってる
僕たちは別れてしまったけど
君が元気でやってることを願ってる
だって今でも君を愛しているから



2014年10月8日水曜日

ティナーシェイ「How Many Times」



 Tinashe(ティナーシェイ)の待望のデビューアルバム『Aquarius』(14年)が素晴らしい! 紹介記事や作品のレビューでは必ずと言っていいほどAaliyah(アリーヤ)との類似性について言及されるティナーシェイ。Drake(ドレイク)が"2 On"のリミックス楽曲を発表したり、自分のライヴに呼んだりとティナーシェイに接近しているのも、背中にタトゥーを彫るぐらい大好きな亡きアリーヤの影をティナーシェイのなかに見たからだと思う。しかしティナーシェイ本人はインタビューで影響を受けたアーティストについて訊かれた際、毎回Janet Jackson(ジャネット・ジャクソン)の名前を挙げている※1。ティナーシェイの「ジャネット愛」は『Aquarius』に収録の"How Many Times (feat. Future)"でジャネット・ジャクソンの"Funny How Time Flies"をサンプリングしていることからも確認できよう。この曲はトラックに加え「メイクラヴ」というジャネット・ジャクソンの曲のテーマも参照。「今夜は何回エッチできるかな?」というセクシーなサビには、Future(フューチャー)じゃないけど聴いてるこっちが「ターナッ!ターナッ!」※2してくる!


Janet Jackson - "Funny How Time Flies"

※1 Tinashe Talks '2 On', Janet Jackson Collaboration, Ciara Comparisons & More, Tinashe talks '2 On' and love for Janet Jackson, Tinashe Talks 'Aquarius' Debut and Aaliyah Comparisons
※2「turn up, turn up」。今の若者言葉でいう「アガる」ぐらいの意味。

 

2014年10月1日水曜日

[読み方]Tinashe



 Tinasheの読み方は「Tee-NAH-shay」である。ティニーシャでもティナーシでもなく「ティナーシェイ」だ。ジンバブエ共和国の言語ショナ語で「神はわれらとともに」という意味。


Tinashe - "Bet (feat. Devonté Hynes)"

2014年9月28日日曜日

RIKKI『BLACKGATE』



「みんな俺のこと知ってる?」AVALANCHE 4のステージの上、さあこれからソロ曲を披露せんとするRIKKIがおどけた調子でこう言って観客を湧かせていたのをよく覚えている。そのときはRIKKIのことをあまり知らなかった。もちろん名前や顔、彼がSIMI LABの新メンバーでラップをやっていることなど最低限の情報は知っていた。というより、それ以上のことは知りたくても知りようがなかったように思う。SIMI LABの2ndアルバム『Page2 : Mind Over Matter』(14年)には各メンバーがそれぞれの「出自」について歌った"Roots"という曲があった。しかしメンバーについて知るにはうってつけのこの曲にRIKKIは不参加だ。かといってRIKKIが他の参加曲で自分語りをしているかというとそうでもない。自分語りをする代わりに耳につくのはやたらとポジティヴなメッセージと達観的な視座。「手に取った使命を果たすだけ、行い悪ければ落ちるだけ/人生舐めきった考えはもうやめとけ、伝わらないなら乳母車に乗れ」(Avengers)、「明るい方へ仕向ける気ならば、壊れた物は元に戻るから/一分一秒無駄にするんじゃね、サビた物は時間の経過によって/修正するまで時間掛かるんだぜ、焦るこたね〜ゆっくり歩いて」(Circle)などなど。この人はなんでこんなに前向きなんだろう? RIKKIとはいったい何者なんだろうか? アルバムを繰り返し聴けば聴くほどRIKKIへの興味が強くなっていく。

 このたび発表されたRIKKIのソロアルバム『BLACKGATE』(14年)を聴いた。怖い。SIMI LAB作品で自分語りをしていなかったのは、本作があったからに違いない。アルバム全体を覆うホラー風味はSpaceGhostPurrp(スペース・ゴースト・パープ)のそれを想起させる。全10曲。収録時間44分。なかでも耳を惹くのは何と言っても7曲目の"GangFile"。ヤクザの事務所に出入りしていたこと、殺傷事件に遭ったことなど衝撃の過去の数々が明かされる。さきほどのSIMI LABの"Roots"のRIKKIソロ版とでも言うべき1曲だ。SIMI LABを特集した『ele-king Vol.13』のインタビューで、RIKKIがSIMI LAB加入前に他のグループで活動していたが上手くいかなかったというのを読んで、苦労人なんだなとは思っていたが、苦労の程度は想像している以上だった。
 SIMI LAB作品で見られたRIKKIの建設的な姿勢、達観的な視座は、"GangFile"で語られるような苦難を乗り越えてきたからこその賜物なのだと思う。誰でも彼でもKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)を引き合いに出して比較しようとするのは我ながらどうかと思うけど、RIKKIのポジティヴ思考は、最新曲"i"で自己愛を歌うケンドリックに通じるところがある気がする。死線をかいくぐってきた両者がたどり着いたのは同じ境地だったのだ。


RIKKI - "Mafia Lane"

2014年9月7日日曜日

リル・B “ザ・ベイスト・ゴッド”「プリティ・ボーイ・アンセム」



https://www.youtube.com/watch?v=5y7ZLRvirdU
 いったい何なんだこの曲は? Lil B "The BasedGod"(リル・B “ザ・ベイスト・ゴッド”)はどうやら何者かに拉致監禁され、女との接触を禁ぜられているらしい。女を抱けない生活など到底考えられないリル・Bは、この非常事態がどうか悪い夢であってくれと狼狽する。恐怖に怯えるリル・Bの心境はおどろおどろしいトラックからも伝わってくる。さてどういうことだろうか? 自分が日常的にいかに多くの女を抱いているかということを、このように女を断たれた悲劇性を強調することで逆説的に主張しているようにも思えるのだが果たして。

“何なんだ、俺をどこに連れてくつもりだ?
女はいるんだろうな、頼むから女のいるとこにしてくれよ
女がいないとこなんて話にならないからな、俺はもっと女が欲しいんだ
どうか悪い夢でありますように 女なしなんて耐えられない
お願いだからここから出してくれ 夢なら醒めてくれ
誰か俺を起こしてくれ 最悪だ ビッチはどこ?”


2014年7月27日日曜日

stillichimiya「宇宙旅行」



 stillichimiya『死んだらどうなる』(14年)の7曲目「宇宙旅行」のYoung-Gによる2ndヴァースは一聴、宇宙探索のロマンについて歌っているように思える。でもよく聴くとこのヴァースがセックスのメタファーに満ち満ちていることに気付く。上手い。今作のモチーフ「死」に対する「生」(もしくは性)ということだろうか。

宇宙船のパイロットは「宇宙の森の奥ぽっかりと開いた口」を探索すべく勇気を「奮い立たせてHOLE めざして出発」する。パイロットの操縦する「大きなシャトル」はどんどんと「吸い込まれてく」。「なかに広がる闇は心地よいあったかさ」に包まれており、「パイロットはさらに奥が気になった」。探索を続けていくと「穴の奥の方は少し狭くなって」いて思うように進めない。「進んでは戻され(る)」「進んでは戻され(る)」を反復するシャトル。そうこうしている次の瞬間「真っ暗な闇に真っ白な光が」放たれる。パイロットはその光の中に「無数のもう一人の自分の未来に旅立っていく姿」を見たのだった。

2014年7月21日月曜日

BASTARD〜タイラー・ザ・クリエイターがウェス・アンダーソンを好きな理由



 ラップ、楽曲制作、ビデオクリップの監督をこなすほか、アパレルブランド「GOLF WANG」のデザインを務めるなどマルチな才能を持つTyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)は、まさしく「クリエイター」の名にふさわしい。最初は変な名前だなと思った(クリエイターのスペルは違うし)。でもシカゴのChance the Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)の登場によって、その名前の意味するところがようやく分かった。

 映像作家タイラー・ザ・クリエイター(映像作品のクレジットはウルフ・ヘイリー名義)は好きな映画監督のひとりに、Wes Anderson(ウェス・アンダーソン)を挙げている。あるインタビューでは「ラップするだけが俺の才能じゃない。何だかラップにはもう飽きた。面白みが感じられない。将来は映画を撮ってみたい。ウェス・アンダーソンやクエンティン・タランティーノと並んで語られたい。他のラッパーたちと一緒くたにされるのは勘弁」と話している。確かに最近のタイラー監督映像作品のいくつかはウェス・アンダーソン作品の特徴である「ポップな色使い」「シンメトリックな画面構成」などが見受けられる。タイラーがドールハウスの人形に扮した『Wolf』(13年)収録の"IFHY"のビデオクリップは、これもまたウェス・アンダーソン作品の特徴である「箱庭的世界観」が顕著だ。"IFHY"のドールハウスは『ライフ・アクアティック』(04年)の潜水艦をはじめとしたウェス作品一連で見られる切断面セットを想起させる。


Tyler, The Creator - "IFHY (Pharrell)"


GolfiliciousBubble Gum Commercial


Aunt Wang Syrup Commercial

 なぜタイラーはウェス・アンダーソン監督作品を好きなのか?
 映画『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)の劇場用パンフレットを読んで、ある見立てを立ててみた。


映画『グランド・ブダペスト・ホテル』予告編

 タイラーとウェス・アンダーソン作品の登場人物たちは「(父)親の不在」という点で共通しているのである。映画監督の青山真治さんは『グランド・ブダペスト・ホテル』の劇場用パンフレットで次のように指摘する。
「主人公の傍には必ずといっていいほど有能な子どもがいるだろう。今回の子ども、見習いロビーボーイのゼロ・ムスタファはたんに子どもというだけでなく「孤児」である。「ダージリン急行」の三兄弟も親に見放された「孤児」だと考えていいし、あるいは「ライフ・アクアティック」のオーウェン・ウィルソンの曖昧な素性やビル・マーレイにタツノオトシゴをプレゼントするウィレム・デフォーの甥も「孤児」的な存在といえる。(中略)しかしなぜ「孤児」がそれほどに活躍するのか。主人公の傷だらけの純情、ときに性的に奔放であっても、ときに激しく暴力的になっても、その動機はつねに自らの傷だらけになった心身に宿る純情であり、規範とすべき親のいない「孤児」たちは、彼らのその純情に憧れと敬意を持って協力を惜しまないからだ」
(FOXサーチライトマガジン vol.03「グランド・ブダペスト・ホテル」劇場用プログラムより)

 孤児が疑似家族を形成する(崩壊した家族が再生する)物語を描き続けてきたウェス・アンダーソン。タイラーも「母さんの穴から俺が生み落とされた日、親父は死んだなどと恨みつらみをぶちまけていたキャリアの初期からこれまで一貫して「父親の不在」を作品のひとつの主題としてきた。そういえばタイラーの1stアルバムのタイトル『Bastard』(09年)は「私生児、庶子」という意味だった。タイラーがウェス・アンダーソンに惹かれるのは、もしかしたら作品に伏流するテーマ「孤児」を、おそらく無意識的に、肌感覚で感じ取ったからかもしれない。

2014年7月13日日曜日

キティへのメッセージ



 Kitty(キティ)のタンブラーにファンが投稿したメッセージと、それに対するキティの返答が素晴らしかったので訳してみました。

匿名の投稿:心からありがとうと言わせて。私は13〜17歳の頃(今私は18歳)、ある男から虐待を受けていたの。その男は私にああしろこうしろと命令したわ。好きな洋服は着させてもらえなかった。彼からは思いつく限りのありとあらゆるひどい呼び名で呼ばれたわ。友達を作ることさえ許されなかった。自殺を考えるまでに精神的に沈んだ私は完全に社会から孤立していた。でもそんなとき、あなたの音楽が私に彼のもとを去るパワーをくれたの。あなたは扱いが不当であることを私に気付かせ、自分らしく幸せになりたいと思わせてくれた。おかげで今の私はこれまでにないくらい幸せ。ありがとう。

それは良かったわ。これまでに受け取ったメッセージのなかでも一番嬉しい。スクリーンショットで保存して、音楽を辞めたくなったときに見返させてもらうわね♡こちらこそいつも刺激をくれてありがとう。
(via. kittydothedishes)

2014年5月4日日曜日

SIMI LABワンマンライブ@代官山UNIT



代官山UNITで開催されたSIMI LAB(シミラボ)ワンマンライブを観てきました! 所狭しとステージ上を動き回る6MCによるマイクリレーが圧巻でした。

 開演前のDJプレイではメンバーのDJ ZAIが、Drake(ドレイク)の"Started from the Bottom"をかけていた。この曲はドレイクとその仲間たちの成り上がりを歌った成功賛歌だ。何度も繰り返されるフック部分「俺たちチームはどん底からここまで登りつめたぜ!(ドヤッ)」が爽快な同曲であるが、これがまるで、この日晴れて初ワンマンライブを行うまでに飛躍したシミラボ自身のことを歌っているようで胸が熱くなった。OMSBのソロ作『Mr. "All Bad" Jordan』(12年)に収録の"Hmm..."で歌われるどん底時代(会場は遠いし、不入りの客は盛り下がってるし、ノーギャラ!)を思えば、この日満員となったオーディエンスを前に感極まったOMSBの気持ちがより理解できると思う。


Drake - "Started From The Bottom"

 この日、直接パフォーマンスと関係のない部分でもうひとつ「シミラボ的」だなと思ったことがある。それはゲスト出演した菊地成孔さんの衣装である。
 菊地さんが着ていたのは先日発売となったばかりのユニクロとPharrell(ファレル)のコラボTシャツ。そのコラボTシャツに書かれたメッセージ「THE SAME IS LAME(同じことはつまらない)」が、これまた、多種多様なバックボーンを持つメンバーからなるシミラボ自身のことを象徴しているように感じられたのだ。アンコールで披露された"Uncommon"『Page 1: ANATOMY OF INSANE』(11年)収録)はまさにそういったメッセージが込められた曲だった。普通って何? 常識って何? んなもんガソリンぶっかけ火付けちまえ!


SIMI LAB - "Uncommon"

2014年4月27日日曜日

My Krazy Life〜YGとケンドリック・ラマー



 派手さこそないが、YGの『My Krazy Life』(14年)が素晴らしい。ギャングスタ・ラップの本場、米カリフォルニア州はコンプトン(敵対するストリート・ギャング「クリップス」の頭文字である「C」の使用を避けるYGに倣うところの「ボンプトン」)を舞台にしながらも、空き巣や浮気といった若干スケールの小さい悪事が歌われる本作は「ギャングスタ未満のヤンキー物語」といった風情。

 YGの『My Krazy Life』を繰り返し聴いていると、同じくコンプトンを舞台にしたKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の『good kid, m.A.A.d city』(12年)が頭をよぎってくる。それは単純に舞台が同じコンプトンだからというだけではない。もっと言うなら、ケンドリックが仲間たちと民家に忍び込み盗みを働いたあのとき、YGもケンドリックと一緒にあのバンに乗っていたんじゃないかとまで思えてくるのだ。

『My Krazy Life』の6曲目"Meet the Flockers"は、空き巣を成功させるためのコツをYGが教えてくれるという愉快な1曲だ(例えば「実行前に下調べをすること(中国人は米国の銀行を信用しておらず、現金を多く保管しているのでオススメ!)」など)。
 YGと同じくケンドリックも"The Art of Peer Pressure"で、同調圧力に屈し仲間たちと盗みを働いたときのことを語っていた。"Meet the Flockers"で空き巣のコツをとうとうと語るYGが、実はあの白いトヨタのバンに乗っていて、真面目なケンドリック少年をそそのかしたのではないか? "Me & My Bitch"で歌われるYGが浮気された相手というのは、ケンドリックの惚れたフッドのネズミ女(hood rat:誰とでも寝る女)ことシャーレーンだったりして? そんな「YGとケンドリック・ラマーはフッドの仲間」という仮想のもと聴くのもまた一興なり。


YG - "My Nigga (feat. Jeezy & Rich Homie Quan)"

2014年3月30日日曜日

Brush Me Off〜拒否られるキティ



 とりわけ歌が上手いわけでもなければ、とりわけ可愛いわけでもないKitty(キティ)の魅力のひとつは、「Give Me Scabies」ほかでも歌っていたように、自分を飾り立てないどころか卑下するところだと思う(可愛くないとか言ってごめんなさい。僕はキティのこと好きですよ!)。普通の女の子の正直で赤裸裸な歌詞に親近感を抱くのである。意中の男子に猛アタックをかける「Brush Me Off」の歌詞も、彼女の実体験に基づいて書かれたとのこと


Kitty & Sad Andy - "Blush Me Off"

あなたをお持ち帰りしたいの 無理って言われてもいい
追い払われても構わないわ いつものことだし
あなたをお持ち帰りしたいの 無理って言われてもいい
冷たくされても、拒否られても構わないわ

あなたをお持ち帰りしたいの ここにいるみんなが気づいてる
大声で誘ってるところを聞かれてたし でもあなたはいつも無視
気まずい思いをさせちゃったかしら? 私は飢えてるの
これ以上傷つけられてももう怖くも何ともないわ
分かるでしょ必死なの これは運命 置き去りの私
どんなに頑張っても私なんかじゃ釣り合わない
それでも午前3時にあなたへ電話
3時16分に電話 3時26分に電話 3時39分に電話 3時45分に電話 4時14分に電話
あなたは手を挙げろと煽るくせに私のことはいつも拒否*1

*1:「put your hands up(手を挙げろ)」と「thumb down(親指を下げる=拒否する」を掛けているのだと思う。

2017/8/25 追記:「Brush Me Off」はデビューアルバム『Miami Garden Club』(本日発売!)にも収録。

2014年2月9日日曜日

『ここは退屈迎えに来て』におけるウータン・クランの引用



 以前よりずっと気にはなっていたものの、「ガールズ小説」という宣伝文句が男子の自分には何となく手を伸ばしづらかった山内マリコさんの小説。

 昨年の12月には、その山内マリコさんの新刊『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎)が発表された。これはいい機会だと思いきって読んでみたところ、いままで敬遠していたのがバカらしく思えるくらいとても面白かった! 読後の興奮冷めやらぬうちに続けて『アズミ・ハルコ〜』と同じく、地方都市に暮らす若者の退屈でどん詰まりな日常を描いた前作『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)も読んでみた。

『ここは退屈迎えに来て』の第一部「私たちがすごかった栄光の話」には、田舎から上京して10年間東京で暮らすも、今は地元に戻ってタウン誌のカメラマンをしている須賀という人物が登場する。地元に戻ってもう長いのに、須賀はいまだ東京に未練があるらしく、イオンモールに象徴される地方都市の風景を“ファスト風土”と呼び、忌み嫌っている。
 須賀の運転する車のカーステレオでは、いつもヒップホップがかかっている。といってもそれは新譜ではなく、いわゆるクラシックと呼ばれるような90年代の名盤だ。須賀は90年代、青山のギャラリーで展覧会を開いたり、インディーズでCDを出したりなどして輝いていた。そんな過去の栄光の日々のサウンドトラックとして鳴っていたのが、当時のヒップホップだったのだ。

エンジンをかけるとカーステからは、自動再生されたウータン・クランが流れ出す。須賀さんの心のベストテン永遠の第一位、ウータン・クランの傑作デビューアルバム。(中略)九十年代初頭、そこはニューヨーク市にあるスタッテン島、フェリーでしかマンハッタンに行けない辺境の地。香港製カンフー映画に魅せられた地元の黒人マイノリティー九人組が、自分たちは少林寺(シャオリン・アイランド)でラップの修行をしているのだという無茶な設定のもと、その退屈な地元の町で、次々ライムをひねり出した。(中略)「ウータン・クランはちょっとファンタジーの世界に生きてんだよね。仲間内で今日からここは少林寺なって設定作って、勝手にいい感じの世界に転換して生きてんの。本当の日常はクソなのに、自分たちはその脳内設定で世界を見てるから、どれだけ最悪でも耐えられるっていう
(山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』より)

「ごっこ遊び」で離島の退屈をしのいでいたWu-Tang Clan(ウータン・クラン)。須賀の愛聴盤がウータンの『Enter the Wu-Tang (36 Chambers)』(93年)なのは、そうした彼らの境遇に共感を覚えるからだろう。引用が巧い! ちなみに上記引用箇所はP. 35〜36と、これまた見事!(偶然かな?)

2014年1月26日日曜日

『中身化する社会』とカニエ・ウェスト『Yeezus』



『中身化する社会』(星海社新書)を読んで、あらためてKanye West(カニエ・ウェスト)が“時代を読む能力”に長けていることに気付かされた。
 本書では「ソーシャルメディアの爆発的な普及に伴って急激に進む「個人と集団の可視化」と、それが引き起こす事象」のことを「中身化」と定義。様々な事例を挙げて、外身よりも中身に価値を置く時代の到来を考察している。

 特に第1章で述べられる「ファッションの中身化」が興味深かった。本書によると、昨今人々の「ラグジュアリー離れ」が進んでいるという。ラグジュアリーからコンフォート(快適)へと、人々の嗜好が変わってきているというのだ。
 なにか知りたいことがあれば、まずは「ググる」。検索するという行為が常習化した現代では、人々が外見の見栄を張ることをやめた、またはその必要がなくなった。そのわけを本書ではこのように説明する。

 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのラリー・ペイジ、アップルの故スティーヴ・ジョブズなど、時代を代表するIT企業のトップは、公の場でもかなりカジュアルな装いで知られる。
 情報の覇者は巨万の富を得ても着飾らない。ならば、彼らの信奉者も同じ価値観を共有して当然だ。なぜ着飾らないのか? それは、いまや人々の人格はネットの世界で好むと好まざるとにかかわらずある程度判断されるからだ。(中略)そういう社会において、もはや外見の第一印象はそれほど重要ではない。なぜならすでにネットの検索結果が、その人の第一印象を与えているのだから。
 僕らは会う前に相手のかなりの情報を得て、印象を持ってしまう。
 その人の言動、興味のあるもの、活動、職歴、評判、交友関係というものは、ネットの海にある程度、露呈している。
(菅付雅信『中身化する社会』より)


 本書ではこのあと「価格.com」や「食べログ」などを例に挙げ、会う前、買う前に相手のことを知っている現代では、ファッションも含め消費全般において、見た目の第一印象が重要でなくなってきていると説明する。
 さらにこう続ける。

「モードは言語活動である」とは、フランスの記号論の第一人者、ロラン・バルトの有名な言葉だ。
 かつてファッションは、とても効果的でスピーディーな「言語」だった。

 プラダのデザイナー、ミウチャ・プラダもこう語っている。
「あなたが何を着ているかが、あなた自身の世界へのプレゼンテーション。特に今日は、人々のコンタクトがすごく速くなっている。ファッションはインスタントな言語です」
(2007年1月18日 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事より)
 また、フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールは、かつてこう表現していた。
「消費はコミュニケーションと交換のシステムとして、絶えず発せられ、受け取られ、再生される記号のコードとして、つまり言語活動として定義される」
(ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』今村仁司・塚原史訳 紀伊国屋書店 1979年)
 まさしくファッションの消費こそ、もっとも可視化しやすいコミュニケーションの方法であり、自分の記号化でもあったのだ。
 しかし、ファッション以上に速い言語を、すでに人々が持ち始めているとしたら、どうだろう? いまやソーシャル・メディアでの情報発信の方が、ファッション以上に速い言語となっている。
(菅付雅信『中身化する社会』より)


 これまではファッション(着飾ること)がその人の人となりを瞬時に伝達するコミュニケーション・ツールとして機能していた。しかし今ではソーシャル・メディアがその役割を担うようになったというわけだ。
 この話を聞いて僕は、カニエ・ウェストの次の発言を思い出した。

(『Yeezus』は)直感的で民族的。あらゆる要素を削ぎ落とすよう試みている。それは服やファッションにも通じることなんだ。俺の今の恰好を見ても分かるように、かなりシンプルだろ。
(2013年6月11日 ニューヨーク・タイムズ紙の記事より)


 このあとカニエは、インタビュアーの「以前に比べて、着替えの時間は短くなった?」との質問に対し「もちろんさ!」と答えている。確かにここ数年のカニエの装いを見ていて思うのは、ドレスダウンしているということ。柄物でなく無地の服を着ている姿を最近はよく目にするようになった。

 カニエが「削ぎ落とすよう試みた」と語っているように、ミニマルな作風の『Yeezus』(13年)。本作で起用したプロデューサーのRick Rubin(リック・ルービン)のことをカニエは「ミニマリズムの師」と仰ぐ。
 加えて『Yeezus』がミニマルなのは、その音だけではない。透明のプラケースにラベルも何も貼られていないディスクを入れただけという本作のパッケージングは、究極のミニマル・デザインと言えよう。Jay Z(ジェイ・Z)とのコラボ作『Watch the Throne』(11年)の、あのラグジュアリー感溢れる金ピカジャケット(アートワークを手掛けたのはフランスの高級ブランド、ジバンシィのデザイナーであるリカルド・ティッシ)と同一人物の作品とは思えないほど趣が異なる。

『Yeezus』
これまでは『Yeezus』に対して、色々とアヴァンギャルドすぎて理解が及ばないという印象を抱いていたけれど、『中身化する社会』を読んで合点がいった。カニエは本書で述べられている、昨今の中身化する社会の空気感(外身から中身へ)を読み取り、それを作品に落とし込んだのではないか、と。
『Yeezus』の先行シングル曲"New Slaves"は、消費社会を批判したリリックが注目された。頭のてっぺんからつま先まで全身ブランド服で固めた、まさに消費社会の権化のようなカニエが急に何を言い出したのかと、発表当時は呆気にとられた。が、それも本書で指摘される人々の価値観・消費傾向の変化を反映したものだと思えば納得がいく。

 本書には、海外ではそういった人々の「価値観の変化」全般を扱う「ライフスタイル・マガジン」と呼ばれるジャンルの雑誌がいま、続々登場しているとある。

 ニューヨークで創刊されたばかりの、アメリカのクラフトマンシップある生活を提案する『ATLAS QUARTERLY』、アメリカ西海岸の女性ふたりのブログから発展した、日常を新たな視点で楽しむことを提案する『3191 Quartely』、スペインを拠点に世界中のクリエイティヴィティ溢れるライフスタイルを伝える『apartamento』、食を軸としたカナダのライフスタイル誌『ACQTASTE』、など、新しく創造的で、しかも消費主義的でない生き方を提案する雑誌が、つぎつぎと生まれている。
 日本では、『クウネル』『エココロ』『天然生活』『自遊人』、そして『スペクテイター』といった雑誌も、その範疇に入るだろう。
(菅付雅信『中身化する社会』より)


 それにしても、やっぱりラッパーにはいつまでも“ブリンブリン”でいてもらいたいものだ。

2014年1月13日月曜日

BECAUSE THE INTERNET〜鬱に苛まれるチャイルディッシュ・ガンビーノ



外 教会の駐車場 ー 昼
白色のバスのドアが開く。笑い声とともに洪水のごとき勢いで子供たちが一斉にバスから降りてくる。第一陣に続き、女の子三人組が笑いながら降りてくる。彼女たちに続き下車してきたのは、小さな少年(The Boy)。足取りは重く、どこか陰鬱な様子である。
我が子を迎えにやってきた親とその子供たちが、ハグやキスを交わしている。喜色満面の子供たちをよそ目に、少年は隅に停車した黒塗りのリムジンへと歩いていく。
運転手がリムジンのドアを開け、少年を出迎える。
少年は運転手とハイファイヴを交わし、リムジンのシートへと滑り込む。
車内には少年の父(リック・ロス)が座っている。リムジンが発車する。
少年と父は黙ったまま。沈黙は数時間にも感じられる。

父: キャンプはどうだったんだ?

少年は肩をすくめる。

父: 友達は出来たか?

少年: 全然。

父はクスクスと笑う。が、その表情はあきれ顔へと変わる。

父: 今晩はエリスがお前のために腕を振るって作ったご馳走が待ってるぞ。

少年: フリト・パイ。

父: フリト・パイかどうかはちょっと分から…

少年:(言葉を遮って)フリト・パイに決まってるんだ。

静まり返る車内。父は息子を見つめ、そして窓の外へと目をやった。

(「because the internet: script」P.1〜2より一部抜粋)



『Because the Internet』
「コメディアン/俳優/脚本家など様々な顔を持つドナルド・グローヴァーの〜」という前置きは、もはや不要だろう。Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が2ndアルバム『Because the Internet』を発表した。
『Because the Internet』の話をする前に、まずはこれまでのC・ガンビーノの歩みを簡単に振り返ってみる。
 巧みな言葉遊びを駆使した「パンチラインの応酬」をもってミックステープ・シーンで名を馳せたC・ガンビーノ。そのコメディアンゆずりのユーモア炸裂スタイルそのままに、満を持して1stアルバム『Camp』(11年)を発表する。しかし同作への批評家たちの評価は厳しいものだった。特に、C・ガンビーノの作風とは親和性の高いと思われたピッチフォークで酷評されてしまう。
 続いて発表したミックステープ『Royalty』(12年)はそんな批評家たちへの逆襲とばかりに、作風を一転。それまではC・ガンビーノとプロデューサーのLudwig Göransson(ルドウィグ・ヨーランソン)の二人三脚での制作スタイルだったのが、同作では外部プロデューサーや豪華客演アーティストを多数起用。リリックの内容も「俺のチンコが云々」といった十八番の下ネタパンチラインを封印し、金持ちボースティングや地元のレペゼンなど、いかにも「ラッパーらしい」スタイルへと変化した。「おふざけラッパー」、「セレブのサイドビジネス」などとはもう言わせないぞ、というC・ガンビーノの意思がひしひしと伝わってくる作品であった。
『Royalty』をもって、C・ガンビーノがラッパーとしてのキャリアをスタートさせて以来、長年苦心してきた「俺はラッパーだ問題」は一応の解決をみた(詳しくは拙ブログ〈続・CHILDISH GAMBINO〜屈辱のピッチフォーク評から『ROYALTY』、そして「俺はラッパーだ問題」のゆくえ〜〉を参照)。「ラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ」として確固たる地位と自信を獲得した彼の次なるプロジェクトが『Because the Internet』だ。

『Because the Internet』ポスター
『Because the Internet』は、裕福な家庭に生まれ育った一人の少年(The Boy)を主人公に、彼と彼の友人ら周辺人物の物語を綴ったコンセプト・アルバムである。非常に凝りに凝った作りゆえ、本作は純粋にアルバムを聴いただけでは、C・ガンビーノが何について歌っているのかさっぱり分からない。作品世界の作り込み具合でいえば、近年発表された良質なコンセプト・アルバム2作品、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の『good kid, m.A.A.d city』(12年)、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の『Wolf』(13年)にも負けず劣らずの出来である。そのためインターネット上では、作品世界を理解する手助けとなる、全73頁にも及ぶ「脚本」が公開されている(http://becausetheinter.net/)。執筆者はもちろんC・ガンビーノ。脚本というぐらいだから当たり前なのだが、本作でC・ガンビーノがマイクを通して語るストーリーは、この脚本に基づいており、連動している。
 インターネット公開という公開形式が持つ利点を活かし、この脚本には『Because the Inernet』収録全曲が、物語の進行状況と連動したタイミングでそれぞれ1曲ずつ埋め込まれており、脚本を読みながら楽曲を聴くことが推奨されている。また楽曲に加え、時間にして数十秒足らずの動画も脚本には埋め込まれている。この埋め込み動画で主人公の少年を演じているのがC・ガンビーノであることから考えるに、この物語における「少年」という人物はC・ガンビーノ本人、もしくはC・ガンビーノのオルターエゴなど、彼と何らかの関係があると思われる(「少年」と呼ぶような年齢でない(28歳)にも関わらず、最後まで呼称が「The Boy」であるのは、C・ガンビーノのMCネームにある“CHILDISH”に由来しているのかもしれない)。
 この脚本の最後まで目を通せば分かるように、アルバムそれ自体よりも脚本の方が圧倒的な情報量を持っている。そのことを考えると、C・ガンビーノはアルバムを物語の劇伴、サウンドトラックぐらいにしか考えていないのではないか(あくまで物語が主で、アルバムはそれに付随するおまけなのではないか)との思いが頭をもたげる。
 2013年夏に公開されたショート・ムービー「Clapping for the Wrong Reasons」は、『Because the Internet』の前日譚だと思われる。


Clapping for the Wrong Reasons [director's cut]


Chapter I ("I. Crawl"〜"II. Worldstar")

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室内 邸宅 ー 昼
少年が暮らすのは巨大なプールと裏庭付きの邸宅。螺旋階段が階上のマスター・ベッドルームへと繋がっている。これらすべてを見渡すことのできる玄関フロアには、大きな仏像が鎮座している。この場所がとても清潔で手入れが行き届いているのは、世話係を雇うなどしているから。

室内 少年の部屋 ー 昼
少年は部屋に入ると、背負っていたバックパックとジャケットを戸口に脱ぎ捨てる。続いて少年は履いていた靴を脱ぎ捨てる。蹴り飛ばした靴は宙を舞い、壁に当たると床に積み上がった靴の山に落ちる。少年は何年もの間、こうして靴を蹴り飛ばしている。少年は同じ靴を二度と履くことがない。

少年はメールのチェックを終えたあと、HOTNEWHIPHOP.COMを訪れる。リッチ・ホーミー・クアンの新曲が公開されている。同曲は「超ホット」と紹介されている。少年はコメント欄に目を移す。
コメント欄の先頭には「このニガ、フューチャーの劣化版じゃね![泣き顔の絵文字]」とある。
少年はしばらく見つめたあと「黙れ、ニガー」とコメントを投稿する。
少年はタルトを食べながら反応を待つ。
ページを更新すると、さっそく「黙れ」発言に対しコメントが投稿されている。「てめえ、面と向かって言ってみやがれ、このカマ野郎」、「マジワロタ、アホ白人はクレイジーだぜ」。

少年はほくそ笑む。

15年後

*******[ここで"I. Crawl"を再生]*******

室内 少年の部屋 ー 早朝

部屋は散らかり放題。そこら中が物で溢れかえっている。積み上がったゴミの山々からは、部屋の主がその時間の多くをパソコンに向かって過ごしていることが見て取れる。

(「because the internet: script」P.2〜6より一部抜粋)

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「サマーキャンプから帰ってくる」という冒頭部分からも明らかなように、この物語は前作『Camp』の続きという設定である。『Camp』最終曲"That Power"のアウトロの出だしはこうだ、「キャンプからの帰りのバスでのこと/僕は13歳、君も同い年だった/出発前はまだ見ぬ男友達と駆け回って過ごす一夏を思い描いていた/でも出会ったのは一人の女の子だった/君のことだ(Childish Gambino - "That Power"より)」。帰りのバスの中で思いを寄せる彼女に告白する少年だったが、あえなく撃沈。そのことで別の女子からからかわれてしまう。『Because the Internet』脚本冒頭で、バスから降りて来た女の子が笑っていたのはそのため。

 では話を『Because the Internet』に戻そう。
 このあと少年は、友人のファム、スワンク、スティーヴ、AJ、マーカス(演じるのはチャンス・ザ・ラッパー)と一緒にサーフィンをしに海へと繰り出す。そこには同じくサーフィンに来ていたサーシャというオーストラリア人女性がおり、波を待っていた。彼女をナンパしようと海へと駆け出して行く仲間たちを傍目に、少年は海には入らず、砂浜に座って過ごす。
 少年の頭の中はさきほどツイッターのタイムライン上で目にした謎のターム「roscoe's wetsuit」のことで一杯であった。Google検索をしてみたが、手がかりすら掴めない。「roscoe's wetsuit」とはいったい何なのだろうか。

 その晩、少年と仲間たちはクラブへ遊びに出掛ける。

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外 クラブ ー 夜

*******[ここで"II. Worldstar"を再生]*******

ファムはクラブの前に車を停める。入場待ちの人が列をなしている。ファムと少年は車から降り、彼らの友人で、クラブの警備員をしているチーズという男のもとへと向かう。ファムとチーズが挨拶を交わす。少年はVIPルームへの入場待ちの列の脇に立つ。列に並ぶ彼らは顔を見合わせる。少年の恰好はVIPルームに入るのに似つかわしくない。

ファムとチーズは、お決まりの握手を交わす。ファムがクラブへ入っていく。

黒のSUVに乗った通りがかりの男たちが、少年の横にいる男に向かって叫ぶ。

車の男: ジェイ、こんなトコでやらせる気かよ! おい、聞こえてんだろ!

少年はしばらく様子を窺う。彼は一瞬視線を下げる。すると…
歩道には誰かがスプレーを使って書いた「roscoe's wetsuit」の文字が。彼はそれを見つめる。

少年は我に返り、携帯電話を取り出し、喧嘩の模様を撮影し始める。クラブから出てきたファムも喧嘩の成り行きを眺めている。

ジェイ(と思われる男): ビビってんじゃねえよ! おまえビッチだから仕方ねえか!

車の男: タマ無し野郎はこれでも食らいやがれ!

バン。バン。

…何が起こったんだ?

ジェイの腹からは血が流れている。少年はそれを携帯のスクリーン越しに見ている。そして彼はすぐさま悟る…

バン。バン。

…逃げろ。今すぐ。

ファムはすでに走り出していた。列に並んだ人たちもみな叫び、逃げ惑っている。少年は走り、その場を立ち去る。

警官: 銃を下ろせ!

バン。バン。バン。

炎に包まれたSUVが徐々に減速していく。運転席の男は死んでいる。カークラクションを鳴り響かせながら車は停車した。辺りでは女たちが泣き叫んでいる。ジェイは虫の息だ。歩道に流れ出た血は黒い色をしている。ドス黒い血の池に駐車禁止の標識が反射する。

野次馬: うわあ、こりゃひでぇな……!

その友人: ワールドスター!

室内 ジャズクラブ ー 夜

ファムと少年はフロアの後方に立つ。ステージでは彼らの友人のドクがサックスを演奏している。ソロパートである。

少年: 死にかけたっていうのに何とも思わないの?

ファム: 全然。俺は人が死ぬぐらいじゃビビんねえし。

少年: ビビってるんじゃない。俺が言いたいのはだな、考えてみろよ、今こうしてここにいられる保障なんてどこにもなかったんだぜ。

ファム: ドクのバンド仲間は妙ちきりんな奴ばっかだな。見てみろよ。全員ジェームズ・ブレイクみてえだぜ。今どきのジャズ好きってみんなあんな恰好なのか?

少年: ずっと考えて分かったんだけどさ、俺は他人に対して何もしてやれない。ツイートするのが俺の仕事

ファム: ツイートがお前の仕事のわけあるか。楽しいからやってるだけだろ。それにお前は金持ちじゃんか。俺たち別にやることなんてねえしさ。

少年: そうだな。でもそれって空しくない?

ファム: 空しい? ちゃんと俺たち前進してんじゃんか。俺とスワンクが売り出す予定の洋服のブランドはどうだって言うのさ?

少年: 自分で着たいからTシャツを作ってるだけだろ。誰があんなTシャツにカネを払うっていうんだよ? そもそも俺たちがTシャツを作り始めた理由って、トレのやつが作ってるのを真似しただけだしな。

ファム: お前は分からず屋だな。俺たちのやってることはマジでやべえって。確実に一歩づつ進んでるよ。俺たちはやりたいことを何でもやれ…

少年: でもただの自己満足じゃんか、まったく無意味だし! 俺たちのやってることは、所詮オナニー止まりなんだよ。俺がTシャツを作ろうが何しようが、未来の人には微塵も関係ないことなんだ。

ファム: じゃあ、Tシャツ作りなんか辞めちまえよ!

ジェームズ・ブレイク風の男: しーっ、静かに!

少年はジャケットに開いた穴に指を通す。

(「because the internet: script」P.13〜17より一部抜粋)

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 クラブへ遊びに出掛けた少年はドライブバイに巻き込まれてしまう。命からがらその場を脱した少年は仲間の運転する車に拾ってもらい、事なきを得た。「死」という非日常的な出来事を目撃し大はしゃぎする仲間たちに対し、少年は無力感に襲われる。親の臑をかじって毎日こうしてフラフラと遊びほうけているだけの、ただのボンボンの自分は何者でもない、と彼は悟ったのだろう。
 また、少年には自分の好きなことを見つけ、それに打ち込んでいる友人のドクの姿が羨ましく見えたのかもしれない。ファムはジャズマンたちを小馬鹿にするが、彼は少年と同じで、特に目的も持たず日々を惰性で過ごしている。そんな奴が目標に向かって努力している人間をバカにするのが、少年には余計に許せなかったに違いない。


Chapter II ("I. The Worst Guys"〜"V. 3005")

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*******[ここで"I. The Worst Guys (feat. Chance the Rapper)"を再生]*******

室内 邸宅 ー 夜

少年の家にはたくさんの人が集まり、お酒を飲んだり、ハッパを吸ったりしている。

プール中央に備え付けのテーブル席にはエミリーがいる。彼女のまわりではスワンクが遊んでいる。暖炉に物を放り投げるマーカスとスティーブ。その様子をルーベンが撮影している。

AJはリビングの真ん中でDJプレイ中。

リビングにはタオル1枚で走り回っている男がいる。水滴を滴らせているその男は、あやうく転びそうになる。

少年は裏庭を歩く。

帽子を被った若者:(笑いながらささやき声で)急げ!

帽子の若者と友人はiPadとMIDIコントローラーを抱えて正面玄関から走り出て行く。少年が家の中へ入るとマーカスが彼を制止する。息を切らしたマーカス。体はびしょ濡れだ。

少年: 今ちょうど男が物を盗って出ていくのを見たんだけど。

マーカス: なあ、お前も見かけたよな、アルゼン人…アルゼンチン人? アルゼンチン女。俺、ちゃんとは分から…

少年: わけの分からない奴を家に呼ぶのやめろよ。名前も分からないような奴を呼ぶのは禁止って言ったろ。

マーカス: わりーけど、今はお前の話は聞いてられないんだ。さっきまでスチームシャワーを浴びながらファックしてたんだけどさ、これがマジで超最高だったぜ。なんて言うか、プリンスのミュージック・ビデオって感じ。そんで、俺はどうやら気を失っちゃったみたいでよ。全然息ができなかったんだ。俺…
(一瞬の間)
しまった! 彼女はまだあそか? 大丈夫かな?

彼は考える。

少年: お前ってフロリダみたいなやつだな。

少年はその場をあとにする。

室内 父の部屋 ー 夜

少年は階段を上りドアへと向かう。彼がドアを開けようとすると、サーシャが内側から開ける。部屋には彼女ともう一人女がいる。見たところ、どうやら二人はドラッグを使用したか、もしくは部屋を物色していたようだった。

サーシャが少年を見る。彼女は驚き、そしてニヤリと笑う。

サーシャ: おいでよ! 早く!

彼女は少年の手を引き、部屋の中に連れ込む。もう一人の女がベッドに倒れ込む。

もう一人の女: うわっ何このベッド、超やわらか〜い。

サーシャ: 早く早く早く。

少年は壁を背に腰掛ける。サーシャはベッドの上に座る。

沈黙のあと:

サーシャ: ねえ、あなたのチンコ見せて。

少年: は?

サーシャ: いいじゃん。見せてよ。

もう一人の女: おえっ。

沈黙。

少年: え?

沈黙。

少年: 何で?

サーシャ: だって、多分あんたのキモいだろうからさ、バカにしてやろうと思って。

もう一人の女: あたし、黒人のチンコって見たことないかも。紫色?

サーシャ: ブドウチンコ。

もう一人の女:(賛同して)ブドウチンコ。

サーシャは起き上がり、じゃれあうようにして少年をパンチし始める。もう一人の女は気でも触れたかのように、笑いこけている。

サーシャ: お願い。変なこと言ってないでさ!

もう一人の女: ちょっとだけ変な気分になろうよ!

サーシャのパンチは次第に止まる。彼女は少年にキスし始める。彼らの腰から下は確認出来ないが、少年のチンコは屹立してきている。しかしすぐにそれは収まる。

サーシャ: どうしたの? こういうの嫌?

少年: まさか。

サーシャ: したくないの? こういうの嫌い?

少年: いや、まさか。もちろんやりたいよ。

サーシャ: それなのに…どうしたの?

少年: ちょっと待ってね。

少年は自分のチンコをいじくってみる。何も起きない。まるでゴムのようだ。

沈黙。いじくる少年。サーシャの顔には[恥入り顔の絵文字]が浮かぶ。

少年: ちょっと待ってね。

そう言って彼はバスルームへと駆け込み、ドアの鍵をかける。静寂。サーシャは床に座り込む。

もう一人の女: どうしたの?

*******[ここで"II. Shadows"を再生]*******

室内 バスルーム ー 夜

少年は床に座り込む。手で顔を覆っている。

畜生。

少年の元カノがクローゼットの中から出てくる。

ヴァネッサ: 何してるの?

少年: (手で顔を覆いながら)チルしてるだけ。

ヴァネッサ: バスルームで?

少年: うーん、まあね。

ヴァネッサ: ねえ、私外に行きたいんだけど。

少年:(「嫌だ」)うん。

ヴァネッサはふざけて洗面台の上の歯磨き粉やコップ、石けんなどを少年に投げつける。少年はそのいくつかを投げ返す。彼女は笑い出す。彼は彼女の手を引き、床に腰をおろした自分の隣に座らせる。

ヴァネッサ: 何でそんなに塞ぎ込んでるの?

少年: そんなんじゃないよ。ただこうやっていたいんだ。

ヴァネッサ: それなら外ででも同じように出来るわ。

少年: ここで残りの人生を過ごすってのもアリかもな。鏡越しにテレビも見れるし。新鮮な水だってトイレがあるから困らない。噂ではシャワールームにサンドイッチ屋さんも出来るらしいよ。

ヴァネッサはあきれて笑う。

ヴァネッサ: いいから立って。行くよ。

少年: 冗談だろ。

ヴァネッサ: 行くって言ってるでしょ!

ヴァネッサは少年を引き起こす。彼女はクローゼットを開け、少年を引き入れる。

クローゼットの中ではコーチェラ・フェスティバルが開催されている。

人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今日はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

少年はヴァネッサのあとを追いかけ、彼女をつかまえる。少年は彼女を抱きかかえ2、3歩行き、手をつないで一緒に歩く。

ヴァネッサ: 全部二人で一緒に見なきゃダメだからね。単独行動はなし。見たいバンドを一組選んで、もう一組は…どうしたの?

少年:(あきれた様子)…

ヴァネッサ:(がっかりして)嘘でしょ? 本気でそんな態度とってるの? 今さら?

少年: こんなのお互いに時間の無駄だって思わない?

ヴァネッサ: 思わないわ。二人で一緒にいることのどこが時間の無駄だって言うの? あなたに分かってもらうよう努力するの、もうウンザリ。好きじゃないとか言うんじゃなくて、男らしくキッパリ別れてよね。

少年: 好きでも何でもないじゃないか! 俺のこと全然好きじゃないくせに。それでも俺は君の戯言にも、嫌な顔ひとつせず付き合ってやってたんだぞ。

ヴァネッサ:(涙混じりに小声で)本当に意地悪ね。

少年: 俺はただ正直に話してるだけ。

ヴァネッサ: 意地悪は正直とは言わないわ! でも正直は時として意地悪にもなるの。あなたがそのつもりで言ったのならね。

少年:(「"mean"ばっかだな」)あのな…

ヴァネッサ: 我慢してきたけど、もう限界。金輪際あなたの時間を無駄にすることはないから安心して頂戴。

ヴァネッサはその場を立ち去る。二人が出会うことはもう二度とない。

狼の群れが現れる。

彼らは青白く光っている。彼らは輪になって音楽について話している。

狼 1: 2チェインズのライブってどうなの?

狼 2: すごく楽しかったよ。回を重ねるごとに良くなってる。俺が最後に見たのは春、シカゴでのライブ。

メガネをかけた狼: ロック・マルシアーノのアルバムは聴いた? かなりイケてたぜ。

気取った、でもかっこいい狼: よお、みんな、俺の婚約相手を紹介するよ。音楽とか洋服のデザインとかアプリとかの仕事をしてるんだ。

彼らの会話が少年をズタボロに引き裂く。辺り一面血だらけである。少年は物音ひとつ立てない。ただただその身を委ねるのみ。

室内 バスルーム ー 夜

少年はシャワールームで我に返る。水が冷たいことから、少年はしばらくの間そこにいたことがわかる。

(「because the internet: script」P.19〜26より一部抜粋)

**************

 少年の男性機能不全の描写は一体何を示唆しているのだろうか? この場面でかかる"The Worst Guys"でも同様の描写が見られる。

But, afterwards, it was awkward as fuck
Cause I'm nervous as fuck and could not get it up
I-I-I-I-I need a minute, cold water to the face
でもその後、かなり気まずくなる
緊張のあまり俺のサオは勃たなかった
ちょっと待ってくれ、冷水で顔を洗う

 物語の冒頭、リムジンでの少年と父とのぎこちない会話からは、この父子の仲があまり上手くいっていないことが窺える(父と少年が会話するのはこの冒頭のシーンのみ)。またこの物語には、少年の母が一切登場しない。理由は分からないが、おそらく母は不在なのだろう(母の不在については物語後半で暗示される)。物質的には恵まれているが、家族の愛や交流という点では非常に貧しい家庭環境に少年は育ったのだと推測される。
 少年はサーフィンに行ったときも自分は海には入らず、浜辺に独りでいるだけだった。友人たちと一緒につるんではいるものの、彼らともどこか距離を置いているように見える。
 これらの描写から考えるに、主人公の少年が人間関係にトラブルを抱えているのは明白だ。少年がインターネットばかりやっているというのも、そのことを裏付けている。サーシャにキスをされ、最初は興奮を覚える少年であるが、すぐに冷めてしまうのは、やはり彼は他人に興味を持てないからだろう。

 以下は深読みになるが、チンコを見せるよう言われ、ホイホイと言われるがままに見せるのもどうかと思うが、少年はこれを拒否する。思うにこの場面は、C・ガンビーノにかつてのような下品なパンチライン連発のリリックを期待する彼のファン(僕もその一人である)と、それを拒むC・ガンビーノとの対立構造を描いているのではないだろうか。

 シャワールームで夢から覚めた少年はこのあと、空のボトルや吸い殻等で散らかりきったリビングで眠りこけるスティーブら友人たちを叩き起こし、車を運転して一同オークランドを目指す。

**************

*******[ここで"III. Telegraph Ave."を再生]*******

外 車内 ー 夜/早朝

ハンドルを握る少年を除き、車内の全員が眠っている。ラジオからはロイドの"Oakland"が流れている。少年はヴォリュームを上げ、気分を高める。少年は足を伸ばそうと座席を下げる。

スワンク: いてて。

少年の下げた座席がスワンクの膝を強打する。謝る少年。

(「because the internet: script」P.27〜28より一部抜粋)

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 "Telegraph Ave."の歌詞がそうであるように、少年は車を運転し、オークランドに住む彼の元恋人ナイラのもとを尋ねる。同曲には客演でLloyd(ロイド)が参加。この場面は、少年の運転する車のラジオからロイドの"Oakland"という架空の曲が流れていて、それを彼が聴いているという設定。

I was making Japanese
And she's watching DVDs
In Oakland, in Oakland
Now I'm driving up the 5
And she waits till I arrive
In Oakland, in Oakland
僕が日本食を料理していた間
気はDVDを観ていたね
オークランドで、オークランドで
今僕は高速道路を運転中
彼女は僕の到着を待っている
オークランドで、オークランドで

 ロイドの"Oakland"で歌われている女性は主人公の帰宅を恋しがれて待っているようだ。しかし残念なことに、ナイラはオークランドまでやってきた少年を歓迎ムードで迎えてはくれなかった。結局、ヴァネッサのときと同様、少年とナイラは口論して終わった。

 ナイラの元をあとにした少年たちは、オークランドのクラブへと出掛ける。

**************

*******[ここで"IV. Sweatpants"を再生]*******

室内 オークランドのクラブ ー 夜

少年たちは隅のテーブルに着く。少年が一番端に座る。ファムはメールを打っている。スワンクとスティーヴは女二人に話しかけている。そこにプロモーターの男がやって来る。

プロモーター: おい、ここに座る気か。

少年: そうだけど。

プロモーター: それなら何かオーダーしてくれないと。

少年: ボトルでいいの?

プロモーター: そうとも。ボトルだよ。

彼らは見つめる。

少年: それじゃあ、ボトルを12本で。

プロモーターは少年に[口のない絵文字]の表情を向ける。少年は彼を見つめ返す…少年は本気だ。プロモーターが去っていく。

ボトルを手にした12人の女がクラブの裏手より現れる。パレードのようである。客がその様子を見ている。「ディディでも遊びに来てるのか? マジかよ、ディディがいるみたいだぞ!」。

パレードが少年らの座るブースのある階段の最上段に到着する。しかし彼女らが角を曲がると、そこに少年たちの姿はない。テーブルの中央には札束が置かれている。

プロモーターはその場に立ち尽くす。

(「because the internet: script」P.32〜33より一部抜粋)

**************

 少年の家が裕福だとはつゆも知らないクラブのプロモーターは、彼らにボトルを買うカネなどあるわけがないと思い込む。そんなプロモーターをからかう少年たち。"Sweatpants"は、このときの少年の気分を歌った「金持ち自慢」ソングである。

I'm winnin', yeah, yeah, I'm winnin' (What?)
Rich kid, asshole, paint me as a villain
俺は勝ち組み、イェー、そうさ、俺は勝ち組(どうした?)
ボンボン、バカたれ、悪者呼ばわり上等

クラブを出発した少年たちはダイナーに寄って食事を済ませ、ホテルに一泊する。宿泊先のホテルでは結婚式が催されていた。少年にとっては、これが生まれて初めて目にする結婚式であった。少年は宴会場で出会った年配の男に、結婚について色々と話しを訊く。
 この場面では『Because the Internet』の9曲目"3005"が流れる。同曲について詳しくは後述する。


Chapter III ("Playing Around Before the Party Starts"〜"II No Exit")

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*******[ここで"Playing Around Before the Party Starts"を再生]*******

室内 邸宅 ー 夜

少年はピアノの前に座り、適当に弾く。キッチンではスティーヴとスワンクがエミリー、ミスラと話している。彼らは運転のこと、オリーブオイルの代わりにココナッツオイルを使った調理法のこと、または1ヶ月も経てば忘れてしまうような些細なことについて議論している。

家のなかは最悪の状態になっている。これまで来ていた世話係は給料の支払いが滞ると来なくなった。

*******[ここで"I. The Party"を再生]*******


夜が更ける。ピアノを弾く少年の周りに人が群がる。

プール中央に備え付けのテーブルでは、膝を抱えて座るミスラとフランス人の男がデザートを頬張っている。

エミリーとスティーヴはバカみたいに暖炉を飛び越して遊んでいる。

人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今夜はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

しかし、その時:

…こんなの無駄。

少年: 出てけ。

…時間の無駄だ。

少年: ここから。全員。

彼の声は聞こえていない。パーティだから。

少年: 全員ここから出て行け。今すぐ!

人々は異様な空気に気付き始める。少年は立ち上がり、ビリヤードのキューを掴む。彼はすぐさま音楽を再生中のiPodドックまで歩いていき、バットを持つようにキューを握りしめる。

粉砕。

全員がその光景を見ている。

若者 2: おい、俺のiPhoneだぞ!

少年は頭を上げる。深く息を吸った後、彼は手当り次第にものを叩き壊し始める。割れたガラスやアルコールがそこら中に飛び散る中、人々が走り去って行く。

男 2: ワールドスター!

少年は破壊を続ける。少年の行く先のコーヒーテーブルの上には携帯電話が置かれている。彼はキューを頭の上まで振り上げ、そして素早く振りかざす。

だが寸前のところで、誰かが携帯をつかみ取ろうと手を伸ばす。少年は振りかざしたキューを、辛うじて止める。

その手は包帯で巻かれている。少年が見上げると、その女(ナオミ)は彼のことをじっと見つめている。怒っているように見える。怒っているのは少年も同じだ。だが彼女に対して怒っているのではない。彼は彼女に怒りの視線を送るよう努めるが、彼の顔には「ごめん」と書いてある。

視線が合う。

彼女は視線を全くそらすことなく、携帯を手に取り、その場を立ち去った。人々はこの奇妙なやり取りを見守っている。

彼女が出て行くやいなや、少年は再びものを破壊し始める。

少年: 出てけ! 出てけ!

少年のキューに当たらないようにして逃げる者。クスリでハイになり笑っている者。または少年を哀れんで笑う者。結局、全員が立ち去る。

少年はしばらくの間、その場で立ちすくむ。少年はプールに隣接のバーの方を向く。そこには吸いかけのマリファナたばことチリソースのボトルが置いてある。少年はそのボトルを手に取り、テーブルの上にソースを絞り出す。

少年が手を止めると、そこにはこう書かれていた:「ROSCOE'S WETSUIT」。

ファム: ナイス。

少年は振り返る。そこにはファムが座っている。誰も彼の存在に気付いていなかった。彼は少年にあきれ顔を向ける。少年はその場を去る。

*******[ここで"II. No Exit"を再生]*******

室内 少年の部屋 ー 夜更け

少年はベッドに横になる。陰影が作り出す青と黒の縞模様が彼の顔を覆う。外でアライグマがうごめく音が聞こえる。

(「because the internet: script」P.42〜45より一部抜粋)

**************

 ここにきて鬱屈した少年の精神状態は極限状態を迎える。まさに"No Exit"(どん詰まり)状態だ。"No Exit"のおどろおどろしい曲調は、不安定な少年の心にシンクロする。
ここでも少年は他人を排除する。しかしその反面、"No Exit"ではMiguel(ミゲル)の声を借りて「行かないで」と乞うという矛盾を見せる。表向きでは他人を徹底的に排除する一方、心の奥では人とのつながりを希求しているのかもしれない。
 あるいは、もしかしたら人間関係の希薄な環境に育った少年は、人との接し方を知らないだけなのかもしれない。現代社会ではインターネットの普及・発達により、よりカジュアルにコミュニケーションが可能になった反面、リアルな人と人とのつながりは希薄化したとよく言われる。少年の心が屈折してしまったのもインターネットのせい(BECAUSE THE INTERNET)か?

Don't go, gotta know, please don't run away
I'm a murderer, what can I say?
Don't go, gotta know, please don't run away
I'm a murderer, what does that change?
行かないで、分かってほしい、逃げないで
俺は殺人鬼、何て言えばいいだろう?
行かないで、分かってほしい、逃げないで
俺は殺人鬼、それが何だと言うんだい?


Chapter IV ("I. Flight of the Navigator"〜"III Urn")

**************

室内 少年の部屋 ー 夜

少年はワイングラスにミネラルウォーターを注ぐ。続いて彼は大麻挽き器を挽く。挽き器の上部を開け、白い粉をグラスに注ぎ入れる。彼はそれを飲み干し、ベッドの足下に座り、着ていた白いTシャツを脱ぎ捨てる。

彼はベッドカバーで体を包み、部屋の隅にいる蜘蛛を見つめる…ただし蜘蛛は死んでいる。どこに行ってしまったの? 何で行ってしまったの? 君の両親はどうしてるの? 両親は悲しまないの? 彼のともだ ちはどうして るの? 彼の持ち物 は どう なるの? かれ はいっ たい どうな… …… … ……… …

*******[ここで"I. Flight of the Navigator"を再生]*******

室内 病院 ー 昼

少年は目を覚ます。彼はガウンを着ている。瞼が重い。部屋のテレビがついている。コント番組だ。女優の一人が面白い台詞を吐き、笑いが起こる。

…瞼が重い。

看護士が入ってくる。

白人男性看護士: おはよう、[伏せ字]さん。気分はいかがです?

少年: 事情を話さなくちゃいけない…(ジェスチャーを交えて)感じですよね。

看護士の顔が「イエス」と言っている。

白人男性看護士: あなたのご友人があなたをここまで…

少年: 彼らは友人でも何でもありません。

白人男性看護士: そんな風に言うと彼らが悲しみますよ。

少年: いいんです。本当ですから。それに、彼らだって分かってると思います。僕たちは友人関係にないって。僕たちの関係というのは相互利益の上に成り立っているんです。ただ僕は、彼らのことを全く信用していませんが。

白人男性看護士: では、なぜあなたのことを助けたのでしょうね。

少年: なぜって、それは僕のそばにいれば暮らしが楽になるからに決まってるでしょ。言うなれば、生存本能ってやつですよ。

白人男性看護士: どうやら、あなたは誰かと話す必要があるようですね。

少年: 今まさにそうしてるじゃないですか。

白人男性看護士: 専門家が必要だという意味です。

少年: なぜ? あんたには関係ないだろ。俺の勝手にさせてくれ。俺たちの命なんて屁みたいなもんだ。

看護士は部屋を出て行く。

室内 待合室 ー その日のあと

少年が二重扉を開けて出てくる。スティーヴ、スワンク、そしてファムの三人が待っている。彼らは疲れているようだ。

少年: 悪いけど話す気分じゃないんだ。気まずくても構わないから黙っててくれ。いいな?

彼らは少年の方を見る。スワンクがゆっくりと立ち上がり少年のもとへやって来る。

スワンク: あのさ、今言うべきじゃないかもしれないんだけど。

少年は[何?顔の絵文字]の表情をする。

スワンク: あのな、お前の親父さんが亡くなった。さっき電話があったんだ。

沈黙。

少年: そうか。

(ジェット機のエンジン音…)

*******[ここで"II. Zealots of Stockholm (Free Information)"を再生]*******

室内 ジェット機 ー 夜

少年は飛行機の窓ガラスに頭を寄りかける。窓ガラスは一面整髪剤の油分で汚れている。

彼の父がストックホルムで亡くなった。家族の誰かが必要とされていた。この時まで二人が唯一の肉親だとは知らなかった。その唯一の肉親を亡くした今、大半の記憶、少なくとも自分の記憶の正確さを確かめる術は失ったも同然だ。

彼は火葬を希望していた。

少年にはストックホルムに知人は一人もいなかったが、ホテルの部屋で父と一日中一緒にいるのは御免だった。たとえ父が灰になっていようとも。そこで彼はフォロワーの中にスウェーデン在住者がいないか探すことに決めた。

「Hello_Pity_」という名前の女がDMを返してきた。少年と女は、彼がやるべきことをすべて終えた後に会うことになった。プロフィールによれば、彼女はフランス人とのハーフらしい。写真は反転したハローキティを使用しており、可愛いらしい。だがそんなことは無意味である。なぜなら彼女のインスタグラムはブロック機能を使用しているからだ。少年は目にしたものを何でも鵜呑みにしてはならないという教訓を得た。

続いて少年が彼女のツイートを調べてみると、彼女がある晩クラブに遊びに行っていることが判明した。少年は偽のプロフィールを使い、その晩クラブで会ったと偽って接触した。彼女はその日のことを思い出せないはずである。と言うのも、彼女のツイッター・フィードには「クソアゲアゲ[ベロ出し顔の絵文字]笑」とあったから。彼女は少年が偽装したこの男をフェイスブックで友達認証した。これで少年は彼女のアップした写真を見ることが出来る。

その他の写真で確認してみると、実際に彼女は可愛いかった。

外 ストックホルムの街中 ー 夜

街は活気で溢れている。人々が手を取り合って歩いている。人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今夜はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

一組のカップルが通りかかる:

超イケメンの男:(スウェーデン語で)なんとかかんとか roscoe's wetsuit ハハハハ!

超マブい女: なんとかかんとか(スウェーデン語で)なんとかかんとか roscoe's wetsuit!

少年はピンク色のネオンが控えめに光を放つ「箱」と書かれた看板の方へ歩いていく。はげ頭の男が立っている。彼の頭からは湯気が立ち上っている。

店の外で女がタバコを吸っている、あるいはこれから吸おうとしている。彼女はライターを持っていないようだ。アリッサである。

少年: やあ。

アリッサ: ああ! あなたね。

彼女は彼の両頬にキスをする。

アリッサ: こんな風にしてあなたに会えるなんて夢みたいじゃない?

少年: 言ってる意味がよく分からないな。

彼女は大きく二度煙を吐き、タバコをしまう。

アリッサ: 行きましょ。

少年: 君の彼氏に俺を会わせたいんだっけ?

アリッサ: 誰のこと? あの人?

彼女は入り口から数歩行った建物の隅っこを指差す。長いブロンドヘアの男(彼女の彼氏?)が寒空の下、女といちゃついている。

少年: 俺は何か余計なことに首を突っ込んでる?

アリッサ: 大丈夫。何でもないわ。

外 ストックホルムの街中 ー 続き

少年とアリッサは街の中をゆっくりと歩いてまわる。外はとても寒く、彼ら以外に出歩いている人はいない。

アリッサ: どうして私にDMくれたの?

少年: ここに知り合いがいないもんでね。

アリッサ: なぜストックホルムへ?

少年: 親父が亡くなったんだ。遺体を引き取りに来たってわけ。

アリッサ: あら、それは。もう大丈夫なの?

少年: 今のところは大丈夫。

アリッサ: そうよね? 人が亡くなると決まって「どうして亡くなったんだ?」とかみんな聞くけど、あらゆる死に方を知ってれば、死を避けられるとでも思ってるのかしら? バカバカしい。

彼女は寒さに体を震わせる。

アリッサ: 私、世間話って信用してないの。あなたは一番長く続いた関係でどれくらい?

少年: 五年。

アリッサ: すごい。何があったの?

少年: まだ続いてる。

アリッサ: そうなの?

少年: 彼女は俺にだけプライヴェート・ショウをやって見せてくれるんだ。一緒にいるわけじゃないけど、これも立派な恋人関係だろ。

アリッサ: 分からないわ。

少年: ちょっと前までは彼女のことをネット上で見ていただけだった。でも彼女、それをやめてプライヴェート・ショウをやり始めて。会話に近いこともするようになったし。

アリッサ: うわーーー。

少年: 何か?

アリッサ: あなたは彼女にお金を払って恋人だったり友達でいてもらってるの?

少年: そうだけど。たいていの人間は何らかの形で友達にその対価を払うもんだろ。

アリッサ: 違うわ。

少年: 君の彼氏だって今こうしてる間に他の女とヤってるじゃないか。君に何か言われる筋合いはないね。

アリッサ: 私は彼のことを信頼するのは無理だって自覚しているの。彼もその点は理解してくれてる。

少年: じゃあ何で一緒にいるのさ?

アリッサ: 彼は正直者なのよ。私はそこが好き。彼は誰にも嘘をつかない。彼のそこに惹かれるの。

室内 ホテルの部屋 ー 夜

二人はテーブルの上に置かれた骨壺を眺めながら、ベッドに座っている。

アリッサ: これがあなたのお父さんね。

少年: そう。親父の亡きがら。

アリッサ: 仲は良かったの?

少年: いいや。

アリッサ: この話続けたい?

少年: いいや。

静寂。

少年: 何か飲み物を用意するね。

アリッサ: うん。

少年は立ち上がり、リビングへと移動する。彼がリビングにいる間、アリッサは立ち上がり、骨壺を抱えると、そのまま部屋から出て行く。少年はドアの閉まる音を耳にする。

少年: アリッサ?

*******[ここで"III. Urn"を再生]*******

外 ホテル ー 夜

少年はドアから走り出る。彼の吐く息が白く曇る。彼は左右を見渡す。アリッサが角を曲がろうとしている。彼は彼女のもとへと駆けていき、つかまえる。

少年: 何のつもり?

アリッサ: お別れするのよ。このままでは、あなたのために良くないわ。

少年: 図々しくも俺と親父の仲を詮索したと思ったら、今度は遺灰を持ち去るだなんて、君ってやつはどれだけ図太い神経してるんだい? 君のやってることは法律違反じゃないのか。俺の到着前に勝手に火葬したり、まったくどいつもこいつも考えられないよ。

アリッサ: 一緒にお別れをしましょ。

怒る少年。彼は感情を爆発させないよう必死に堪えている。

アリッサ: 私には妹がいたの。彼女が亡くなったとき、こうしたの。

少年: そうかい。だから君には権利があるってか。

アリッサはポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出す。電源を入れると壁紙写真にはアリッサと彼女に瓜二つの女性が並んでいる。少年は携帯を手に取る。

少年: 双子だったの。

アリッサ: うん。

少年: 人はいずれ死ぬんだから、どうしてか聞くのはナシってさっき話したかと思うけど…

アリッサ: 脳腫瘍だった。それもかなり重度の。

沈黙。

アリッサ: バッカみたい。

彼女は大笑いする。喋っている間も二人は歩き続けている。彼らは噴水の前で立ち止まる。白い息を吐きながら、彼らはそこにしばらく立ちすくむ。

アリッサ: 何か言うことは?

少年は肩をすくめる。

アリッサ: 分かった。

少年: 待って。

骨壺は危うく転げ落ちそうになる。彼女は彼を待つ。彼は骨壺のところまで行くと、手に取り、しばらくの間それを抱く。まるでハグを交わすかのようだ。顔を骨壺に寄せる少年だが、彼女に何と言ったか悟られまいと向き直す:

少年:(ささやき声で)独りぼっちでごめんなさい。

彼は遺灰を撒く。遺灰が風に散っていく。

(「because the internet: script」P.47〜58より一部抜粋)

**************

 クスリのオーバードーズで生死の境を彷徨う少年。アルバムの14曲目"Flight of Navigator"では、搬送された病院のベッドで眠る彼の夢が描かれる。

 アリッサとの会話中「プライヴェート・ショウを見せてくれる女」なる人物が登場する。もし本作収録曲のミュージック・ビデオに目を通していたならば、この女の正体にピンと来るはずだ。「プライヴェート・ショウ」並びにそのショウの女というのは、アルバム収録曲"3005"の歌詞ビデオのことを言っている。この女(演じるのはセクシー女優のアベラ・アンダーソン)は物語の前日談を描いたショート・ムービー「Clapping for the Wrong Reasonns」にも登場する。ショート・ムービーには、邸宅の中で彼女を目にしたC・ガンビーノ(少年)が、彼女を誰だか思い出すことができないという描写があった。おそらく二人はインターネット上のみの関係なのだろうから、思い出せないのも当然であろう。すると、家の中でC・ガンビーノ(少年)が見た彼女は幻覚だったということか。この場面からも、少年がインターネット世界に浸りすぎていることが窺える(ネットのやり過ぎで現実との区別がつかなくなっているのかもしれない)。


Childish Gambino - "3005 (Lyric Video)"

 少年とアリッサが遺灰を撒く場面は、アルバムのティザー動画で描かれていた。


Childish Gambino Because The Internet Album Teaser


Chapter V ("I. Pink Toes"〜"III Life: the Biggest Troll (Andrew Auernheimer)")

**************

室内 ロサンゼルスのビーガン・レストラン ー 夜

ファムともう一人の女、少年の三人がレストランの席に着く。ファムと女は喋っている。少年は黙っている。少年が退屈しているのか、スウェーデンから帰国してまだ時差ボケでいるのかは分からない。いずれにしろ、彼は誰に対してもそっけない態度でいる。

もう一人の女: 私の友達がもうすぐ来るわ。

少年は一言も発しない。ファムと女が見る。

女の友達が彼らのテーブルにやって来る。少年が見上げる。パーティにいた女だ。

ナオミ: 初めまして。

少年は一言も発しない。

もう一人の女: 彼女はナオミ。聞いてる?

ファム: こいつ口が利けないんだ。さあさあ座って、こんなやつ無視してさ。

彼女が席に着く。

ナオミ: もしかしてあんた、私の腕を折ろうとした男じゃない。

少年: そうだけど。

ナオミ: もう料理は注文した?

少年: まだ。俺、ビーガン料理苦手なんだよね。彼女が食べたいって言ったか何だか知らないけど。

ナオミ: ビーガンは私よ。ここがいいって言ったのも私。

沈黙。

少年: 俺、ビーガン料理嫌い。

ナオミ:(間抜けっぽく)「俺、ビーガン料理嫌い」。

少年は頭の中では笑いこけている。だが、落ち込んでいるよう装う。

ナオミ: まったく何だっていうのよ? 両親が死にましたみたいな暗い顔しちゃって。

少年はうすら笑いを浮かべる。

少年: 死んだよ。

気まずい雰囲気。沈黙。

もう一人の女: ホントごんめなさい。

ファムと少年は互いを見合い、そして笑う。ナオミともう一人の女は笑わない。

ファム:(少年の方を向いて)お前の両親は死にました。

少年: 俺の両親は死んじまったとさ。

彼らはゆっくりと笑うのをやめる。ナオミは少年を変人だと思う。だが彼女はその場を立ち去りはしなかった。

室内 邸宅 ー 夜

ナオミと少年はリビングに座る。

ナオミ: お父さんは何してたの?

少年: さあね。

ナオミ: どうやってこんなに大きい家買ったの?

少年: さあね。

ナオミ: じゃあ、あなたはこれからどうするつもりなの? 遺産とか沢山あるの?

少年: 債権者が相続した。何か遺してたかもしれないけど分からない。興味ない。(真面目な顔で)俺はヤクの売買を始める。

ナオミは大爆笑する。

ナオミ: えええええ。

少年: ファムも手助けしてくれるんだ。あいつはこの辺りを取り仕切ってるんだぜ。

ナオミ: まさか私に、あなたは売人に向いているだなんて言ってもらいたい訳じゃないでしょうね。

少年: 何で分かるの?

ナオミ: あなたは周囲の人を居心地悪くしてるわ。他人と繋がるのはあなたには無理。そんな人をどうやったら信頼できるって言うの?

少年: だからだよ。それが売人ってもんだろ。

ナオミ: 彼らは大間抜けよ。あなたは他の人がどんな仕事をしているか知らなきゃ。あなたが長けてるのはネット上の人との付き合いだけでしょ。

彼はゆっくりと彼女の方を向く。「どうしてそれを知ってるんだ?」。

彼は顔を上げる。彼女が片方の眉をつり上げる。彼は笑わない。彼女は寄り目をする。反応はない。彼女は寄り目をするのをやめ、溜め息をつく。

ナオミ: 私たちの住むこの世界が地獄だって考えたことある? この地球が破滅に向かっていて、そのことに気付いているのは自分一人だけって。

少年: いいや。

ナオミ: これは本で読んだんだけどね、人々は同じことを繰り返しているの。すべては循環してるの。

少年: その考え、俺も好き。

ナオミ: うん。あ、ほら言ったでしょ? あなたは孤独な少年なんかじゃないって。

彼女は大笑いして、手で彼の顔をグチャグチャにする。少年はあきれるが、笑顔がこぼれる。

*******[ここで"I. Pink Toes (feat. Jhene Aiko)"を再生]*******

少年とナオミは一緒に過ごすようになる。時には夜を共にし、一緒に朝食を作った。彼が彼女のために買い出しに行き、彼女が彼に料理を振る舞う。彼らは一緒にアニメを見る。彼らはいつも話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。二人はお互い目的を持っている。素晴らしいひと時だ。時が経つ。

少年は邸宅から乾燥大麻を少量ずつ持ち出し始める。しかし生活のため、乾燥大麻以外のドラッグも売り捌き始めた。彼は子供部屋で商品の栽培も始めた。電気代がかさむだろうが、邸宅で暮らすのをやめた。居住のため、また生活と仕事を分けるため、彼は新しく別の部屋を借り始めた。

室内 賃貸部屋 ー 昼

皿洗いをする少年の隣にナオミが立つ。彼らはちょうど昼食を済ませたところだ。

ナオミ: 一緒にアニメでも観よっか?

少年: 出来ないや。

ナオミ: 出来ないってなんで?

少年: 仕事があるんだ。

ナオミ: あら。

沈黙。

ナオミ: てっきり今は他の人に任せてるのかと思った。

少年: そうなんだけど、ファム一人だけではさすがに無理だから。

ナオミ: あなたは資金面で援助してるんでしょ、だったら取引現場には行かない方がいいわ。

少年: 他の奴に任せっきりにはできないんだ。

ナオミ: あなたは本当に誰も信じていないのね。

少年: お前は別だよ。

ナオミ: だったら行かない方がいいわ。

少年: 君は正しいよ。

ナオミ: 私は正しくなくたっていいの。ただ、あなたを助けたいだけ。

少年:(間抜けっぽく)「私は正しくなくたっていいの」。

彼女は笑わない。彼は彼女が心の中で笑っていることを願う。向かいのカウンターに置かれた携帯電話のバイブが作動する。少年は移動し、メールを確認する。

少年: もう行かなくちゃ。

ナオミ: 分かった。

少年: 大丈夫?

ナオミ: 平気。

少年: 無理して「平気」って言ってる?

ナオミ: 違うわよ。本当に平気だから。

現実社会において「平気」なことなんて何一つない。そのことを忘れてはならない。

少年: すぐ戻る。

彼は出て行く。二人が会うことはもうない。

外 邸宅 ー 昼

車が駐車スペースに停まる。すでに三台の車が停まっている。停車作業中、車内ではジェイ・Z & カニエ・ウェストの"Made In America"がかかっている。曲が終わると、少年は続けて同曲の替え歌を歌って歩く。

四人の男が正面玄関のところで立って待っている。

何かがおかしい。

少年は歌うのをやめ、彼らの前に立つ。彼らが少年を見る。少年は一人だ。

四人全員が45口径を取り出す。

*******[ここで"II. Earth: the Oldest Computer (The Last Night)"を再生]*******

室内 邸宅 ー 昼

全員が家の中へと入る。

男 1: ブツはどこだ?

少年: あのクローゼットの中。

男 1: そこに座れ。

少年はリビングに座る。もしかしたら彼は逃げることが出来たかもしれない。でもどこへ? 彼らが今いるのは山の頂上だ。もし誰かが銃声を耳にしたら、すぐざま警察に通報するだろう。だが残念なことに、ここパリセーズには警察署がない。その場合はサンタモニカ警察署の出動を待たねばならない。

驚いたことに少年の今の心境は、パーティのときに感じたものに近い。知らない輩が自分の家をうろつき回り、自分はすべてが「平気」であるかのように振る舞わなければならない。

少年はファムにメールすることも出来たかもしれない。

男 1: 携帯をよこせ。

少年は男に携帯を手渡す。クソッ。

正面と裏口にはそれぞれ見張りが立っている。もう一人の男がクローゼットからコカインを引き出し、ゴミ袋に詰めている。男 1(おそらくリーダー)は少年の携帯を調べている。

男 1が少年の携帯をポケットに入れる。それがいい知らせなのか悪い知らせなのか、少年には分からない。男1と男 2が話している。少年の運命を決める会話に違いない。

もし自分が映画監督なら、少年がかつての自分の城を見渡すこの瞬間のBGMに、サンダーキャットの"We'll Die"を選曲するだろう。

男 2を除いた全員が退出する。彼だけが部屋に残る。男 1は少年の携帯をポケットに入れたまま出て行く。少年は事態がまずい方向に向かっていると気付く。

男 2: 財布をこっちによこせ。

まずい。少年は財布を男 2に投げる。男 2が中身を確認する。

少年: 溺れ死にさせてくれ。

男 2が顔を上げる。

少年: せめて自分の好きなように死なせてくれ。そこにプールがあるだろ。陶酔感に溺れて死にたいんだ。きっと素晴らしいに違いない。

男 2は見つめる。

少年: あそこにプカプカと浮かんでるところを発見されるんだ。

男 2が近寄ってくる…

(こいつ、俺の最期の望みを知って考えを変えたか?)

男 2は少年の隣に座る。

男 2: 我々はずっと君のことを監視していた。君はうかつ過ぎる。

この男は警官か。そうだったのか。

男 2: 私はもうしばらくの間、こうして君のそばにいる。仲間たちがあいつらを外で検挙する計画になっているんだ。

少年: おお。

静寂。

少年: 俺はムショ行きですか?

男 2: 当たり前だろ。

少年が裏庭のプールに視線を移すと、そこには遺体となって浮かぶ自分の姿があった。

目は見開き、顔には気泡が付着している。橙色、黄色、茶色の枯れ葉が彼の体の上を浮かぶ。左足の靴が前方を漂っている。おそらくもがいた末に脱げてしまったのだろう。プールの横では、ナオミとスティーヴが立って、少年を見下ろしている。二人とも泣いたり、取り乱したりしている様子はない。彼らは、まるで観ている映画が急展開を見せたときのように、水面に浮かぶ少年をじっと眺めている。積極的にというよりは、僅かばかり興味があってそうしているだけに見える。

平穏。調和。彼はそんな風にして死にたかった。

…何の音だ?

タイヤのブレーキ音が響く。男 2が立ち上がる。建物の外から衝突音が聞こえる。誰かが叫んでいる。

声: 動くな!

銃声音。

少年と男 2は顔を見合わせる。

男 1がドアを蹴り破って部屋に入ってくる。彼は発砲し始める。男 2が床に倒れる。彼の胸部から赤い霧が噴出する。彼は叫んでいる。

男 1は少年の方を向き、拳銃を発



…(呼吸音)……(呼吸音)…………(呼吸音)… … 



静寂。



*******[ここで"III. Life: the Biggest Troll"を再生]*******






(「because the internet: script」P.60〜73より一部抜粋)
**************


Childish Gambino - "yaphet kotto"

 溺れ死にたいと願う少年だったが、その最期はあっけないものだった。少年の悲劇的な死によってこの物語は幕を閉じたかに思えた。しかし、エンドクレジットではアイスクリーム・ストアらしき店の中で少年が携帯をいじっている。これはどういうことなのか。銃弾を逃れ、生き残ったということか。あるいは、やはり少年は銃殺され、エンドクレジットの場面はあの世の少年が見る夢とも考えられる。白を基調とした店の内装は、天国を思わせなくもない。はたまた、エンドクレジットで画面に映るあの人物は「C・ガンビーノ演じる少年」ではなく「C・ガンビーノ本人」であり、この物語すべてがC・ガンビーノの空想だった(ガンビーノが店で脚本を構想していただけ)というメタ的な解釈もできる。

 結局、この『Because the Internet』でC・ガンビーノは何を言いたかったのだろうか。
 僕は本作のテーマの一つを「孤独」だと考える。アルバムからの先行シングル"3005"にC・ガンビーノの孤独は顕著だ。同曲2ndヴァースにはこのようにある、

And no matter where all of my friends go
Emily, Fam, and Lorenzo
All of them people my kinfolk, at least I think so, can't tell
Cause when them checks clear, they're not here
どこに行こうとあいつらは俺の友達
エミリー、ファム、ロレンツォ
みんな家族同然、少なくとも俺はそう思う、いやどうだろう
カネの切れ目が縁の切れ目


Childish Gambino - "3005"

 くどいようだが、俳優、脚本家、コメディアンなど、様々な顔を持つC・ガンビーノ。それゆえ、彼に多くの知人・友人がいるであろうことは容易に想像できる。"3005"前半部分では、彼が友人を招いてパーティを開いていることが歌われる。でも、今パーティに来ている俺の友達(と少なくとも自分が思っている人たち)は、本当は自分のカネが目当てで付き合っているだけなんじゃないだろうか。そんな疑念が彼の頭をよぎる。物語の少年もクスリのオーバードーズで搬送された病院で、自分には友達なんていないと発言していた。ここでも他の曲同様、歌詞と物語の連動が見られる。が、"3005"においては、やや趣が異なるように思う。
 アルバム発表前、C・ガンビーノはインスタグラム上に自らの感情を吐露した「手紙」を何通か公開したのだが、その手紙のあまりにネガティヴ過ぎる内容ゆえ、世間・メディアからは彼が鬱病なのではないかと騒がれた。確かに鬱々としているこの手紙。これを読むと、"3005"のリリックは、他の曲のように少年や物語の状況説明をしているのでなく、この場合はその逆で、C・ガンビーノの本音をそのまま少年に当て書きしているように思えてくる。

インスタグラムに投稿された「手紙」
I'm afraid of the future
I'm afraid my parents won't live long enough to see my kids
I'm afraid my show will fail
I'm scared my girl will get pregnant at not the exact time we want
I'm scared I'll never reach my potential
I'm afraid she's still in love w/ that dude
将来が怖い
両親が孫の顔を見る前に死んでしまったらどうしよう
ショウが失敗したらどうしよう
彼女が望まない子供を妊娠したらどうしよう
このまま自分の才能が開花しなかったらどうしよう
彼女がまだあいつとデキていたらどうしよう

 孤独と鬱。C・ガンビーノのそういった感情を少年というキャラクターに投影し、壮大な物語に仕立て上げたのが本作『Because the Internet』なのだ。

 脚本、ショート・ムービー『Clapping for the Wrong Reasons』、隠しコンテンツ満載のオフィシャルサイトの立ち上げなど、本作が非常に手の込んだプロジェクトであるのは言うまでもない(今挙げた以外にも、C・ガンビーノは作品のプロモーションの一環として、ある時期からインタビューやテレビ出演など表舞台に現れるときは、ずっと同じ少年の衣装を着続けていたという手の込みよう!)。だが、どうだろう、その割に本作を賞賛する声はあまり聞かない。一応、米ビルボードの週間チャートでは、初週売上96,000枚で初登場7位という記録も残してはいるが、いまいちパッとしない。アルバムを聴いただけは、何のこっちゃ歌っているか分からないというのも問題であると思うが、一番の原因は、これは残念であり可哀想な話なのだが、やはりC・ガンビーノという人物の立ち位置にあるような気がする。冒頭では、C・ガンビーノが長年苦心してきた「俺はラッパーだ問題」は解決をみたと書いた。しかしこれが、もしKanye West(カニエ・ウェスト)の作品だったら評価が全然違ったのではないかと僕には思えてならないのだ。まだ世間的に「ノベルティ・ラッパー」は卒業できていないのかもしれない(果たして卒業させてくれる日は来るのだろうか?)。レギュラー出演していたドラマ「Community」の新シーズンの仕事を蹴ってまで取り組んだ作品だというのに、評価がこんな調子ではまた鬱になっちゃうよ。


References:
http://becausetheinter.net/
http://becausethe.com/what-we-know-because-the-internet/
http://rapgenius.com/albums/Childish-gambino/Because-the-internet
http://foreverchildish.com/
http://pigeonsandplanes.com/2013/12/roscoes-wetsuit/




 

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