2013年10月6日日曜日

Pound Cake〜ドレイクの同窓会リベンジ



 ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイク!

 Drake(ドレイク)の3rdアルバム『Nothing Was the Same』がネット上にリークしたと聞き、居ても立っても居られず早速チェックした。一聴した僕の耳に強烈な印象を残したのは、客演でJay Z(ジェイ・Z)が参加した13曲目の「Pound Cake」だ。Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)の言わずも知れた代表曲「C.R.E.A.M.」(94年)からフックをサンプリングしているということもあり、ジェイ・Zのヴァースでは「カネ」という意味のスラング「cake」を用いたワードプレイ(言葉遊び)が炸裂。「ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイク!」のフレーズが耳にこびりつく。客演のジェイ・Zに主役のドレイクが喰われているというのが、一聴した率直な感想である(インタビューでドレイクが明かしたところによれば、同曲のジェイ・Zのヴァースは元々は別の作品用に録ったものであったが、それを聴いて気に入ったドレイクが頼み込んで譲ってもらったのだという)。
 しかし、そんな最初に受けた印象に反し、アルバムを何度も繰り返し聴くうちに、同曲におけるドレイクのリリックの「ある一節」が気になってきた。

My classmates, they went on to be chartered accountants
Or work with their parents, but thinking back on how they treated me
My high school reunion might be worth an appearance
Make everybody have to go through security clearance
公認会計士になったり
または家業を継いだクラスメイトたち
思い返せばヒドイ扱いを受けてた俺
同窓会に顔を出すのも悪くないかもな
出席者みんなに安全検査を受けさせる

 フリー・ダウンロード形式のミックステープで名を上げ、それを足がかりにメジャー・レーベルと契約、そしてアルバム・デビューというのが新人ラッパーの成り上がり手段として定着して久しい今日この頃。ドレイクは、この言うなれば「インターネット時代のヒップホップ・ゲーム攻略法」に即して富と名声を手にした先駆け的存在だ。ミックステープ『So Far Gone』(09年)のヒット以降、ラップと歌の二刀流を武器にスター街道を邁進。前作『Take Care』(11年)はグラミー賞の「ベスト・ラップ・アルバム」賞を獲得するなど、今ではシーンの最重要人物のうちの一人となった。
 米経済紙フォーブス発表の2013年度版ヒップホップ長者番付によれば、ドレイクの昨年6月から今年6月までの1年間の収入は1,050万ドルで、第11位にランクイン。「いくら稼いだかなんて忘れちまったぜ」(All Me)、「預金口座明細書を見ては、早期引退が頭によぎる」(The Language)などの「稼ぎまくってるぜ!」自慢の数々もすっかり堂に入っている。
 そんなノリにノってるドレイクだが、過去は惨めなものだったのか。「Pound Cake」でドレイクが企てる「同窓会リベンジ」の一節を聴くと、学生時代のドレイク少年に思いを馳せずに居られない。件のリリックから想像するに、学生時代のドレイクはギーク(Geeks:文化系のオタク*1)だったに違いない!*2


Drake - "Pound Cake (feat. Jay Z)"

 ドレイクの「Pound Cake」をリピートするうちに、僕はこんな妄想をかき立てられた。

 朝登校し、1限の授業の準備へと向かうドレイク。しかし彼のロッカーの前では朝っぱらからカップルがいちゃついていて、荷物を取り出すことができない。「なんでわざわざ俺のロッカーの前で?」毎度のことながら、思わず溜息が漏れる。困り果てていると、我が物顔で廊下をやってきたジョックス(Jocks:体育会系のいじめっ子)の同級生に肩をぶつけられ突き飛ばされる。「どこ見てんだよ、このゲジ眉野郎!」「そのクソだっせーセーターどこに売ってんの? ハハハ」。廊下の床に散らばった教科書やノートを必至に拾い集めるドレイク。それを見てクスクス笑うジョックスやその取り巻きたち。これがドレイク少年の毎朝の光景だ。
 学園生活で唯一心が休まるのは、共通の趣味を持つ友人たちと過ごす昼食の時間だけ。カフェテリアの隅っこのテーブルに集まった彼らは、大好きな音楽の話で盛り上がる。今日の議題は「一番好きなウータン・クランのアルバム」だ。ドレイクは『Wu-Tang Forever』(97年)を挙げる。
 授業の終りを知らせるベルが鳴り響く。一斉に席を立ち教室を後にする生徒たち。ドレイクは友人たちに別れを告げ、ドラマの撮影へ向かうため、迎えの母の車に乗り込む。母が息子にいつものように訊く「オーブリー、今日の学校はどうだった?」。「別に」とドレイク。息子のつれない返しにめげることなく母は話を続ける「ママが買ってあげたその新しいセーター、似合ってるわね」。車内にしばしの沈黙が続く。ドレイクは黙ったままカーオーディオにSade(シャーデー)のCDを入れ、瞼を閉じた。

『Nothing Was the Same』

「Pound Cake」でドレイクは、同窓会に出席し、地元トロントでくすぶるかつてのいじめっ子連中に、世界的スターとなった今の自分の姿を見せつけ、鼻を明かしてやろうと目論む。学生時代はドレイクのことなんて見向きもしなかった女子どもが、同窓会ではキャーキャー言って近寄ってくる。逆に当時はチアリーダーを侍らせ、威張り散らしていたアメフト部の連中だが、今や見る影もない。会場の隅で男同士肩を寄せ合って、会社や上司の愚痴をこぼしあっている。その姿はいつの日かのドレイク少年たちのよう。
 というこれもまた僕の妄想だけど、こんな風に学生時代のドレイクはダサダサなギークだったと仮定して聴く本作『Nothing Was the Same』は格別に痛快だ。「叩き上げでここまで登りつめたぜ」(Started from the Bottom)、「誰にも相手にされなかった、お前ら覚えてるか?」(Worst Behavior)、「ここまで来れたのは全部俺一人のおかげ、助けは一切なし、マジで全部俺の独力」(All Me)などの威勢のいいラインが爽快に響く。ナッシング・ワズ・ザ・セイム(すべてが変わった)。今のドレイクはもうあの頃とは違う。

 *1 学園内ヒエラルキーの分類・定義は、長谷川町蔵さん、山崎まどかさんのお二方による『ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて』(国書刊行会、06年)より。

 *2 ちなみに当時の写真を見る限り、学生時代のドレイクは間違いなくギークだ。


 

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