2013年9月1日日曜日

First Chain〜連鎖するチェーンの話



 今度はBig Sean(ビッグ・ショーン)がチェーン・ネックレスの話をしている。

 披露したフリースタイルがKanye West(カニエ・ウェスト)の心をつかみ、2007年にカニエ主宰のレーベル「G.O.O.D. Music」に加入したビッグ・ショーン。その後はフリーのミックステープ作品のリリースを中心に精力的に活動。2011年にリリースした待望の1stアルバム『Finally Famous』は、カニエに見初められたラップ界のシンデレラ・ボーイという印象とは裏腹、G.O.O.D.入りしてからアルバム・デビューを果たすまで、実に4年間もの下積み期間を要したビッグ・ショーンの、「Finally(ようやく)」という強い思いがタイトルに表れた作品であった(そもそもは2007年発表のミックステープ『Finally Famous: The Mixtape』に由来するこのアルバムタイトル。想像するに、その時点では、カニエと契約したことだし俺の成功は保証されたも同然だぜ、ぐらいの軽い気持ちで「有名になった」とタイトルに冠したのではないだろうか。ところがどっこい、それからデビューまで4年も掛かろうとは本人も予想外だったに違いない。それだけにアルバム『Finally Famous』の「ファイナリー感」はひとしおだ)。

『Hall of Fame』
そんなビッグ・ショーンがこのたび、2ndアルバム『Hall of Fame』をリリースした。そこに収録の1曲"First Chain"はそのタイトルが表すように「はじめて手にしたチェーン・ネックレス」についての曲だ。ラッパーといえば、ギンギラギン(でも、全然さりげなくない!)のネックレス、と言っても過言でないぐらい、誰も彼もがこぞってチェーン・ネックレスを着用しているが、彼らにとってチェーン・ネックレスというのは単なるいちファッション・アイテムではない。首元で光り輝くあれらチェーン・ネックレスは成功者の証であり、その表明なのである。ということで、ビッグ・ショーンの"First Chain"は彼の成功賛歌となってる。「はじめてチェーンを手にしたときの喜びは童貞を捨てたときのそれに匹敵する」という同曲中のラインは、実際にチェーン・ネックレスを手にしたことのない「非ラッパー」であっても、男性なら、なるほど!と思わず膝を打つであろうパンチラインだ。

And it's a shame, a fuckin' shame
I don't remember my first love or my first time prayin'
But remember my first ass and the first time she came
It almost felt as good as when I got my first chain

マジ残念で仕方ないぜ
初恋や初めてのお祈りを覚えてないなんて
でも初体験のとき、彼女をイカせたことは忘れない
それは、初めてチェーン・ネックレスを手にしたときぐらい最高だった


Big Sean - "First Chain (feat. Nas & Kid Cudi)"

『Born Sinner』
チェーン・ネックレスといえば、ビッグ・ショーンと同じく、2011年のデビュー・アルバム以来の2作目となる『Born Sinner』を今年発表したJ. Cole(J・コール)も、同作において「チェーンの話」をしていたのが思い出される。「チェーンを買う日」と題された『Born Sinner』12曲目の"Chaining Day"である。ただし、ビッグ・ショーンの"First Chain"がチェーン・ネックレスを「手に出来て喜ばしいもの」として肯定的に用いていたのに対し、"Chaining Day"でのチェーン・ネックレスは、J・コールの首に重くのしかかる「罪のメタファー」として用いられている。この曲では、これで最後、これきりで終しまい、と口では言うものの、実際には新しいチェーン・ネックレスを買うことをやめられない、拝金主義と物質主義に毒されたJ・コールの罪意識が告白される。
 この曲ではJ・コールの個人的な物欲の対象として、たまたまチェーン・ネックレスの話をしているが、これを別の何か自分が夢中になっているものに置き換えれば、モノで溢れかえった消費社会の今日においては、多くのリスナーが共感を持って聴くことができ、その意味では極めて普遍的な曲であると言えよう。

Lord
This is the last time
Told my accountant, It's the last time
I swear this is the last time
I know that I said that shit last time
But this the last time
Mama I swear this is the last time
So don't take my chains from me
Cause I chose this slavery
This is the last time
Don't take my chains from me
Cause I love this slavery
I need you to love me, love me, love me...
I said this is my last time
Okay I lied

主よ
もういたしません
これで最後にすると会計士にも約束しました
これで最後だと誓います
前回も同じことを言ったのは分かっています
でも今度こそこれで最後にすると誓います
ママ、もう買わないって誓うよ
だから俺からチェーンを取り上げないで
だって俺は自ら進んで奴隷になったんだ
これで最後にする
お願いだから俺のチェーンを取らないで
奴隷になるのも悪いもんじゃない
こんな俺でも愛しておくれ…
本当にこれで最後にする
なんてね

 おそらく、チェーン=鎖から連想したのであろう、"Chaining Day"でJ・コールは、チェーン(・ネックレス)の虜となった自身を、文字通り手足を鎖に繋がれていた「奴隷」と呼んでいる(ちなみに、ビッグ・ショーンも"First Chain"では「家のなかでも常にチェーンを着けてる俺は奴隷」と、同様に自身を奴隷に喩えてライムしている)。この"Chaining Day"を聴いて、すぐに別のある曲を連想したリスナーも多いのではないだろうか。「奴隷」という語、それと「拝金主義/物質主義へのアンチテーゼ」というテーマ性から思い出されるのはもちろん、カニエ・ウェストが「神になった」衝撃作『Yeezus』に収録の"New Slaves"である。


Kanye West - "New Slaves" (Live on SNL)

 アフリカ大陸から船で連れてこられ、白人の「所有物」として過酷な労働を強いられていた当時の黒人奴隷。奴隷制度はご存知のようにその後撤廃された。しかしカニエは2013年の今、声高に言う「俺たちは未だに白人にいいように搾取されている、俺たちは新たな奴隷だ!」と。

My momma was raised in the era when
Clean water was only served to the fairer skin
Doing clothes, you would have thought I had help
But they wasn't satisfied unless I picked the cotton myself
You see it's broke nigga racism
That's that "Don't touch anything in the store"
And this rich nigga racism
That's that "Come in, please buy more
What you want, a Bentley? Fur coat? A diamond chain?
All you blacks want all the same things
Used to only be niggas now everybody playing
Spending everything on Alexander Wang
New Slaves

俺のママの育った時代
清潔な水は肌の白い人間だけのもの
服を作るのに誰かの手を借りると思ったろう
やつらは俺が自分で綿花を摘まなきゃ満足しない
これは貧乏黒人への差別
“店内の品には決して触れるな”ってな
これは金持ち黒人への差別
“いらっしゃいませ、もっといかがですか
何をお求めですか、ベントレー? 毛皮のコート? ダイヤのチェーン?”
黒人の欲しいものなんてたかが知れてるってか
ただのニガだったのが今は遊んで
アレキサンダー・ワンに稼ぎをつぎ込んでる
新たな奴隷

『Yeezus』
カニエがここで言うところの"New Slaves"(新たな奴隷)とは、物質主義・消費社会に生きる現代人のことなのだろう。だが、どうだろう。拝金主義礼賛がひとつのメンタリティとなっているヒップホップ・コミュニティにおいて、ラッパーたちは高級ブランドの洋服に身を包み、高級車を乗り回し、それを曲の中で「自慢」する。ビッグ・ショーンも先の"First Chain"で「最初はノトーリアス・BIGのチェーン、次はナズ、それからカニエ」と、ラッパーの「ブリンブリン」な姿に憧れていた素人時代の自分を回想しているが、ミュージック・ビデオ等で目にする、カッコ良くキメた彼らの姿は、見る者の購買意欲を相当に駆り立てているように思う。なかでも、これまでルイ・ヴィトンなどの有名ブランドと数々のコラボレーション・アイテムを発表してきたほか、自身のクロージング・ブランドまで立ち上げたカニエはその最たる例である。「新たな奴隷」となった現代人を批判したいのか何なのか、カニエの真意は図りかねるが「お前が言うな!」とツッコミを入れたリスナーは少なくないはず。

 「チェーンの話」の連鎖は続く。
 カニエとJay Z(ジェイ・Z)の「玉座コンビ」による2011年の大ヒット曲"Niggas In Paris"の作曲者として一躍有名になったプロデューサー/ラッパーのHit-Boy(ヒット・ボーイ)。そのヒット・ボーイがカニエの"New Slaves"のリミックスを公開した。


Hit-Boy - "New Chains (James Sommersett)"

 "New Chains"と題されたこの曲、まず「チェーンの話」うんぬんの前に、カニエの原曲にある1節、

Doing clothes, you would have thought I had help
(服を作るのに誰かの手を借りると思ったろう)

をうまいこと自分流にアレンジして転用した次のライン、

Writing raps, you would have thought I had help
(ラップを書くのに誰かの手を借りると思ったろう)

が耳を惹く。音楽畑出身にしてファッション界へと進んだカニエに、プロデューサー稼業からラッパー稼業へと同様に活躍の場を広げた自分を重ね、ヘイターを一蹴している。
 新しいチェーンを買う、という"New Chains"の大枠のテーマは、先のJ・コールの"Chaining Day"と変わらない。ただしこの2曲が大きく違うのは、"New Chains"にはJ・コールが"Chaining Day"で歌っていたような、チェーン・ネックレスを買うことに対する罪意識、後ろめたさが一切ないということ。代わりに歌われるのは、スターの仲間入りを果たし、チェーン・ネックレスも楽々買えるようになったヒット・ボーイの豪奢なライフスタイルである。「新しいチェーン」という曲名からして、そもそもカニエとJ・コールの楽曲の合わせ技みたいなものだが、「奴隷呼ばわり上等!チェーン・ネックレス最高!」と歌うヒット・ボーイの"New Chains"は、“チェーン”だけに、新たな奴隷についての曲"New Slaves"と、チェーンを買う曲"Chaining Day"を、内容的に“繋ぐ”ような1曲となっている。

Now Jesus had skin to bronze
So I pay my tithe that was owed
And used the rest of my green
To turn my Jesus into gold
I turn my Jesus into gold, I turn my Jesus into gold
So either way we're still slavin'
Just hanging from a different rope

このジーザス・ピースはブロンズ製
税金を払って残ったカネは全部
純金のジーザス・ピースを買うのに費やした
俺のジーザス・ピースは純金製、純金製のジーザス・ピース
どっちみち俺たちはいまだに奴隷
違うのは首に掛かったチェーンだけ

『Jesus Piece』
これら一連の「チェーンの話」の最新曲として、ビッグ・ショーンの『Hall of Fame』収録曲"First Chain"がある。それでは、ビッグ・ショーンの"First Chain"は、J・コールやカニエに感化されたものなのだろうか。否、ビッグ・ショーンは"Chaining Day"や"New Slaves"が公開されるよりもずっと前の2012年、XXL誌のインタビューにて、当時制作中であった『Hall of Fame』に収録予定の"Jesus Piece"なる曲について話していた。そこでは、"Jesus Piece"ではナズを客演で迎えること、はじめて手にしたジーザス・ピースについて、またジーザス・ピースを着用したラッパーへの憧れについて歌っていることなどが明かされた。ビッグ・ショーンのこれらの発言から察するに、この"Jesus Piece"という曲が"First Chain"の原型となっているのは間違いないだろう。ではなぜ楽曲タイトルが変更されたのか。それは同時期にGame(ゲーム)が発表したアルバムが、その名もズバリな『Jesus Piece』だったからではないだろうか(アルバムのタイトルは、フック部分で申し訳程度にカニエがその声を聴かせる表題曲"Jesus Piece"が先にあって、それをそのまま採用したという。ゲーム曰く、録りためていた収録候補曲を一旦すべてボツにして一から作り直したという『Jesus Piece』だが、"Jesus Piece"だけはキープしたというのだから、カニエが本作における大きな影響源となっているのは間違いない)。

 こうして「チェーンの話」は連鎖していく……。"First Chain"のような真面目な曲もいいが、個人的には、同じく『Hall of Fame』に収録の熟女ソング、"Milf"(ビッグ・ショーンとは"A$$ (Remix)"以来の共演となるNicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)が、ビッグ・ショーン(の“ビッグ”な肉棒)狂いの淫乱熟女を熱演!)のような「おちゃらけた曲」の方がビッグ・ショーンは生き生きしていて好きなんだけどなあ。


 


 

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