2013年6月30日日曜日

Born Sinner〜J・コールの罪



 J. Cole(J・コール)のセカンド・アルバム『Born Sinner』に収録の1曲、"Let Nas Down"。「生まれついての罪人」と題されたアルバム全篇を貫く“罪”というテーマは、「Nas(ナズ)を失望させてしまった」と悲嘆するこの曲に分かりやすいように思う。それでは、J・コールの何がナズを失望させたというのだろうか? J・コールの罪とはいったい何なのか?

 2011年、J・コールはデビュー・アルバム『Cole World - The Sideline Story』を発表。憧れの存在、ナズと肩を並べるとまでは言わずも、同じ土俵で勝負できるまでに大成した。しかしそのデビュー・アルバム『Cole World』は、シングル・ヒットに恵まれず、幾度もの発売延期を重ねた末にようやくリリースされたものだった。アルバムのリリースになかなか漕ぎ着けることが出来ず頭を抱えるJ・コール。そんな状況の中、彼が起死回生の1曲として発表したのが、Kanye West(カニエ・ウェスト)の"The New Work Out Plan"を大胆にサンプリングした"Work Out"であった。


J. Cole - "Work Out"

実際、キャッチーなメロディが奏功し、"Work Out"はセールスの面ではダブル・プラチナムを獲得するなど、大きなヒットを記録した。が、ラジオでかかることを目的に制作された、J・コールらしからぬ、“売れ線”な同曲は好事家、それもあろうことかJ・コールがアイドルとして崇めるナズを失望させてしまうのだった……。

I used to print out Nas raps and tape 'em up on my wall
My niggas thought they was words, but it was pictures I saw
And since I wanted to draw, I used to read 'em in awe
Then he dropped Stillmatic, rocked the cleanest velour
Fast forward, who thought that I would meet him on tour?
I'm earnin' stripes now nigga, got Adidas galore
Backstage I shook his hand, let him know that he's the man
When he said he was a fan, it was too hard to understand
No time to soak up the moment though, cause I was in a jam
Hov askin' where's the record that the radio could play
And I was strikin' out for months, 9th inning feeling fear
Jeter under pressure, made the biggest hit of my career
But at first, that wasn't clear, niggas had no idea
Dion called me when it dropped, sounded sad but sincere
Told me Nas heard your single and he hate that shit
Said you the one, yo why you make that shit?
I can't believe I let Nas down
Damn, my heart sunk to my stomach, I can't believe I let Nas down

あの頃はよくナズのリリックを印刷して壁に貼っていた
ダチにとってはただの言葉だった、でも俺には景色が見えた
俺も同じ景色を描きたくて、畏まって読んでいた
早送り、ツアーで彼に会えるなんて夢にも思わなかった
どんどん増やしてくストライプ、アディダスもたくさん持ってるぜ
ステージ裏でナズと握手、俺は彼のファンだと伝えた
するとナズも俺の曲のファンだと言う、信じられないぜ
でも余韻に浸ってる暇はない、だって俺は大忙し
ジェイ・Zがやってきてラジオでかかる曲はまだかと訊いてくる
でも俺はここ数ヶ月三振続き、追いつめられた9回
まるでプレッシャー下のジーター、ようやく放ったキャリア史上最大のヒット
でもまさかこんなことになるなんて思いもしなかった
ノー・I.D.から電話、何やら悲しげだが正直に話してくれた
ナズが俺のシングルを気に入っていないと言う
お前のこと買っていたのに何であんな曲を作ったんだ?とも
マジかよ、ナズを失望させちまった
クソッ、俺はかなり落ち込んだ、信じられないぜ、ナズを失望させちまった

 J・コールの言う“罪”とは、少なくともこの曲を聴く限りでは、成功を手にするため商業路線に走ってしまったこととなろう。"Let Nas Down"ではその“罪”がJ・コールの口より告白される。

『Born Sinner』

 "Let Nas Down"以外でも、例えば、アルバム1曲目の"Villuminati"(世間でその存在がまことしやかに囁かれる秘密結社イルミナティ(Illuminati)と、"villain"(悪党)を掛けている?)では、富や名声と引き換えに(アーティストとしての)魂を悪魔に売り渡したことを悔やんでいる様子がうかがえる。アルバムのジャケットに描かれた角の生えた人間は、おそらく悪魔(もしくは悪魔に取り憑かれたJ・コール本人)を表現しているのであろう。成り上がり、拝金主義を信条としながらも、だからといって"Work Out"のようなセルアウト行為は許されないという、ヒップホップにおけるある種の二律背反に苦悩するJ・コールの心の葛藤が描かれる。
 
 そんな落ち込むJ・コールを見るに忍びなく思ったのか、というより、出るべくして出たと言うべきか、J・コール"Let Nas Down"にナズがアンサーを返した!



The first album freedoms and them fourth album pressures
A big difference between 'em but I get why you said it
Radio records are needed, I just wanted it to bring the warning
Global warming to that cole world you was breathing
That's some advice I never got

ファースト・アルバムは自由にやれる、でも4枚目となるとプレッシャーがかかる
まったくの別物、でもお前がそう言うのも分かる
ラジオ用の曲も必要、俺はただ警告したかっただけ
コール(ド)・ワールドで地球温暖化が進んでるって
俺もアドヴァイスが欲しかった

 ナズ曰く、「俺は怒ってないよ/お前は俺の誇り/お前に失望なんてしてないぜ」とのこと。よかったね、J・コール! 自らの体験を踏まえ語られるナズからの助言と賛辞。変な気苦労かけてゴメンな、というナズからの謝罪のようにも聴こえる。しかし、J・コールに謝るべきは他にいるのではないか?

I kept on sayin'
Where's the hits? You ain't got none
You know Jay would never put your album out without none

俺は自分に問い続けた
ヒット曲はどこだ? 俺には1曲もない、と
ジェイはヒット・シングルがなければアルバムを出さない
(J. Cole "Let Nas Down")

 "Let Nas Down"を聴けば分かるように、ヒット曲はまだか〜?とJ・コールをせっつき、コマーシャル路線というダークサイドに陥らせるまでに追いつめたのは、彼の所属するレーベル、Roc Nationのボスのジェイ・Zである。おまけにジェイ・Zは『Born Sinner』発売の2日前に、本来なら後輩のアルバム・リリースのお膳立てをしてもいいところを、自身の4年ぶりの新作『Magna Carta Holy Grail』のリリースを突如アナウンスし、音楽メディアの話題をかっさらう“俺俺ぶり”を発揮。『Born Sinner』のテーマは“罪”ということだったが、真に罪深いのはこの男では? ジェイ・Zこそリミックスを作ってJ・コールに詫びるべき!


 

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