2013年12月8日日曜日

TOP 3/2013


TOP 3/2013

#1. TYLER, THE CREATOR - WOLF

 以前にも書いたが、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)のストーリーテリングの才能は、『good kid, m.A.A.d city』('12年)で激賛されたKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)と同等に、いや、それ以上に評価されるべきだと思う。本人の実体験を綴る「リアル」なケンドリックと違い、タイラーの場合はそのストーリーがフィクション(それもちょっと変わりもののお話)なのがいまいち評価につながらない理由か。
 前作『Goblin』('11年)は、頭の中の謎の声に悩まされているというタイラーが、医師ドクター・TCのカウンセリングを受ける、という設定で物語が進行。カウンセリングが行われるもののタイラーの症状は治まらず、ついにはオッド・フューチャーの仲間を皆殺しにしてしまう("Bitch Suck Dick""Window")。だが、しかし終曲"Golden"では、衝撃の事実が明かされる。なんとドクター・TCはじめ、タイラーの作品内に登場するキャラクターたちはみな、実はタイラーのオルター・エゴであったのだ! つまり、すべてはタイラーの脳内一人芝居だったのである。「父親の不在」というと、ロールモデルがいなかったためドラッグ稼業に手を染めてしまった、みたいな話が普通だが、そうはならずに、少しばかり“歪んで”しまったというのがタイラーの面白いところ。
 そんな『Goblin』に引き続き、本作『Wolf』もスキゾ(精神分裂症的)な物語が最高に面白い。更正キャンプに新しくやってきたウルフが、不良のサムの恋人サーレムに手を出してしまった(と言っても、一緒に自転車に乗るだけ)から、さあ大変というのが今回のおおまかなお話。自分を捨てて家を出て行った父親への思いを吐露した公開書簡とでも言うべき6曲目"Answer"、罪悪感を覚えながらもやめられない、ドラッグ・ディーラーの心の葛藤を歌った8曲目"48"、タイラーを神格化する熱狂的ファンを演じた9曲目"Colossus"(「一緒にXBoxやろうぜ、『In Search of...』聴こうぜ、ドーナツ食べようぜ」などなど、自分のファンならこう言うはずという「タイラーあるある」を自分でラップしているのが可笑しい)、サムの心の闇が本人の口から打ち明けられる12曲目"Pigs"インタビューによれば、この曲は「コロンバイン高校事件」の犯人の心理を想像して書いたとのこと)など、どの曲もそれぞれのキャラクターの内面描写が非常に秀逸。それまでは「サムって嫌なやつ」と思って聴いていたのが、"Pigs"を聴いて“事情”を知った途端に一気にサムに感情移入し、彼を応援したくなる(「いけいけ! 殺れ殺れ!」と思わせる)あたり、上手いなと思う。
 "Colossus"でもN.E.R.D.の1stアルバム『In Search of ...』('01年)が言及されているが、タイラーは以前よりPharrell(ファレル)の大ファン、それこそこの曲でタイラーが扮しているような筋金入りのファンであることを公言してきたわけだが、この両者が初共演を果たした記念すべき1曲"IFHY"は、本人ならずともタイラー・ファンとして聴いていて胸に熱いものがこみ上げてくる。やったね、タイラー!
 そして何より『Wolf』はジャケが素晴らしすぎる! ジャケだけで五億点。


Tyler, The Creator - "IFHY"



#2. DRAKE - NOTHING WAS THE SAME

 "Worst Behavior"の「あの頃は相手にすらしてくれなかったけど、どうよ今の俺、スゲーだろ」的な態度に共感してしまうのは、ドレイクの場合、本当にこの人は箸にも棒にもかからない男だったんじゃないかと思えてくるから。ドレイク、昔は絶対イケてなかったと思う


Drake - "Worst Behavior"

#3. KANYE WEST - YEEZUS

 Beastie Boys(ビースティ・ボーイズ)と一緒にパーティする権利を主張して闘った世のおじさんリスナーたち的には、Rick Rubin(リック・ルービン)の起用は嬉しいんだろうけど、平成生まれの僕は別に、って感じでした。願わくばリック・ルービンがてこ入れする前段階のものも聴いてみたい。James Franco(ジェームズ・フランコ)とSeth Rogen(セス・ローゲン)による、"Bound 2"の爆笑パロディ・ビデオという副産物を生んだという意味でも意義深い1枚だ。


Seth Rogen & James Franco - "Bound 3"


  

2013年11月4日月曜日

I Am a God〜カニエが神になった理由



I am a god
So hurry up with my damn massage
In a French-ass restaurant
Hurry up with my damn croissants
俺は神
マッサージを早くしろ
フレンチ・レストランでは
クロワッサンをさっさとよこせ
(Kanye West - "I Am a God")

 変態マスクを被ってたり、ステージ上にイエス・キリストが登場したりなど、目下話題騒然のKanye West(カニエ・ウェスト)の「イーザス・ツアー」。

 カニエのショウでの発言を受けて「カニエって傲慢で不遜な男だと思ってたけど、ちゃんとイイ事も言うのね」「“I Am a God”にはそういう意味があったの!(感心)」みたいな意見をちらっと目にしたけど、ちょっと待った! カニエは断じてそんな品行方正な人間じゃないって。本当にただただ傲慢で不遜なだけの男がカニエ。そしてそこが最高にカッコ良くて、愛おしいのだ。
 米ファッション雑誌「W」のインタビューにてカニエが語った『Yeezus』収録曲"I Am a God"の制作秘話を読んで、その思いは確信へと変わった。

この曲(I Am a God)はひどい“無礼”—ラッパーによるものではなく、有名ファッション・デザイナーによるもの—に触発され作曲されたことが判明した。昨秋、パリ・ファッション・ウィーク開催の数日前、カニエはたいへんに期待の集まるランウェイ・ショウ参加の招待を受けるも、出席するには条件として、他ブランドのランウェイ・ショウには一切参加しないよう同意が求めれたという。「だから翌日、俺はダフト・パンクと一緒にスタジオ入りして、"I Am a God"を書いたってわけ」カニエは言う。「俺がどこに行こうと、それを他人にとやかく言われる筋合いはねえ。俺はNo. 1の人間、現在進行形のロックスターだ。俺はアクセル・ローズやジム・モリソン、ジミ・ヘンドリックスなんかと同じなのさ」そう語るカニエの顔に笑みはなく、声は言葉を重ねるごとに大きくなっていった。(via. W

 他人にあれこれと指図されるのが嫌で、それならばと「神」になったカニエ。
 エゴの塊。これを傲慢と呼ばずして何と呼ぼうか。同インタビュー記事でカニエは「エゴは俺のドラッグだ」とも発言しており、自分でもその自覚はあるみたい。
 古今東西、世界にはさまざまな神が存在するけど、マッサージとクロワッサンを催促する神はイーザスくらいなものだろう。



2013年10月6日日曜日

Pound Cake〜ドレイクの同窓会リベンジ



 ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイク!

 Drake(ドレイク)の3rdアルバム『Nothing Was the Same』がネット上にリークしたと聞き、居ても立っても居られず早速チェックした。一聴した僕の耳に強烈な印象を残したのは、客演でJay Z(ジェイ・Z)が参加した13曲目の「Pound Cake」だ。Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)の言わずも知れた代表曲「C.R.E.A.M.」(94年)からフックをサンプリングしているということもあり、ジェイ・Zのヴァースでは「カネ」という意味のスラング「cake」を用いたワードプレイ(言葉遊び)が炸裂。「ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイ、ケイク!」のフレーズが耳にこびりつく。客演のジェイ・Zに主役のドレイクが喰われているというのが、一聴した率直な感想である(インタビューでドレイクが明かしたところによれば、同曲のジェイ・Zのヴァースは元々は別の作品用に録ったものであったが、それを聴いて気に入ったドレイクが頼み込んで譲ってもらったのだという)。
 しかし、そんな最初に受けた印象に反し、アルバムを何度も繰り返し聴くうちに、同曲におけるドレイクのリリックの「ある一節」が気になってきた。

My classmates, they went on to be chartered accountants
Or work with their parents, but thinking back on how they treated me
My high school reunion might be worth an appearance
Make everybody have to go through security clearance
公認会計士になったり
または家業を継いだクラスメイトたち
思い返せばヒドイ扱いを受けてた俺
同窓会に顔を出すのも悪くないかもな
出席者みんなに安全検査を受けさせる

 フリー・ダウンロード形式のミックステープで名を上げ、それを足がかりにメジャー・レーベルと契約、そしてアルバム・デビューというのが新人ラッパーの成り上がり手段として定着して久しい今日この頃。ドレイクは、この言うなれば「インターネット時代のヒップホップ・ゲーム攻略法」に即して富と名声を手にした先駆け的存在だ。ミックステープ『So Far Gone』(09年)のヒット以降、ラップと歌の二刀流を武器にスター街道を邁進。前作『Take Care』(11年)はグラミー賞の「ベスト・ラップ・アルバム」賞を獲得するなど、今ではシーンの最重要人物のうちの一人となった。
 米経済紙フォーブス発表の2013年度版ヒップホップ長者番付によれば、ドレイクの昨年6月から今年6月までの1年間の収入は1,050万ドルで、第11位にランクイン。「いくら稼いだかなんて忘れちまったぜ」(All Me)、「預金口座明細書を見ては、早期引退が頭によぎる」(The Language)などの「稼ぎまくってるぜ!」自慢の数々もすっかり堂に入っている。
 そんなノリにノってるドレイクだが、過去は惨めなものだったのか。「Pound Cake」でドレイクが企てる「同窓会リベンジ」の一節を聴くと、学生時代のドレイク少年に思いを馳せずに居られない。件のリリックから想像するに、学生時代のドレイクはギーク(Geeks:文化系のオタク*1)だったに違いない!*2


Drake - "Pound Cake (feat. Jay Z)"

 ドレイクの「Pound Cake」をリピートするうちに、僕はこんな妄想をかき立てられた。

 朝登校し、1限の授業の準備へと向かうドレイク。しかし彼のロッカーの前では朝っぱらからカップルがいちゃついていて、荷物を取り出すことができない。「なんでわざわざ俺のロッカーの前で?」毎度のことながら、思わず溜息が漏れる。困り果てていると、我が物顔で廊下をやってきたジョックス(Jocks:体育会系のいじめっ子)の同級生に肩をぶつけられ突き飛ばされる。「どこ見てんだよ、このゲジ眉野郎!」「そのクソだっせーセーターどこに売ってんの? ハハハ」。廊下の床に散らばった教科書やノートを必至に拾い集めるドレイク。それを見てクスクス笑うジョックスやその取り巻きたち。これがドレイク少年の毎朝の光景だ。
 学園生活で唯一心が休まるのは、共通の趣味を持つ友人たちと過ごす昼食の時間だけ。カフェテリアの隅っこのテーブルに集まった彼らは、大好きな音楽の話で盛り上がる。今日の議題は「一番好きなウータン・クランのアルバム」だ。ドレイクは『Wu-Tang Forever』(97年)を挙げる。
 授業の終りを知らせるベルが鳴り響く。一斉に席を立ち教室を後にする生徒たち。ドレイクは友人たちに別れを告げ、ドラマの撮影へ向かうため、迎えの母の車に乗り込む。母が息子にいつものように訊く「オーブリー、今日の学校はどうだった?」。「別に」とドレイク。息子のつれない返しにめげることなく母は話を続ける「ママが買ってあげたその新しいセーター、似合ってるわね」。車内にしばしの沈黙が続く。ドレイクは黙ったままカーオーディオにSade(シャーデー)のCDを入れ、瞼を閉じた。

『Nothing Was the Same』

「Pound Cake」でドレイクは、同窓会に出席し、地元トロントでくすぶるかつてのいじめっ子連中に、世界的スターとなった今の自分の姿を見せつけ、鼻を明かしてやろうと目論む。学生時代はドレイクのことなんて見向きもしなかった女子どもが、同窓会ではキャーキャー言って近寄ってくる。逆に当時はチアリーダーを侍らせ、威張り散らしていたアメフト部の連中だが、今や見る影もない。会場の隅で男同士肩を寄せ合って、会社や上司の愚痴をこぼしあっている。その姿はいつの日かのドレイク少年たちのよう。
 というこれもまた僕の妄想だけど、こんな風に学生時代のドレイクはダサダサなギークだったと仮定して聴く本作『Nothing Was the Same』は格別に痛快だ。「叩き上げでここまで登りつめたぜ」(Started from the Bottom)、「誰にも相手にされなかった、お前ら覚えてるか?」(Worst Behavior)、「ここまで来れたのは全部俺一人のおかげ、助けは一切なし、マジで全部俺の独力」(All Me)などの威勢のいいラインが爽快に響く。ナッシング・ワズ・ザ・セイム(すべてが変わった)。今のドレイクはもうあの頃とは違う。

 *1 学園内ヒエラルキーの分類・定義は、長谷川町蔵さん、山崎まどかさんのお二方による『ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて』(国書刊行会、06年)より。

 *2 ちなみに当時の写真を見る限り、学生時代のドレイクは間違いなくギークだ。


2013年9月1日日曜日

First Chain〜連鎖するチェーンの話



 今度はBig Sean(ビッグ・ショーン)がチェーン・ネックレスの話をしている。

 披露したフリースタイルがKanye West(カニエ・ウェスト)の心をつかみ、2007年にカニエ主宰のレーベル「G.O.O.D. Music」に加入したビッグ・ショーン。その後はフリーのミックステープ作品のリリースを中心に精力的に活動。2011年にリリースした待望の1stアルバム『Finally Famous』は、カニエに見初められたラップ界のシンデレラ・ボーイという印象とは裏腹、G.O.O.D.入りしてからアルバム・デビューを果たすまで、実に4年間もの下積み期間を要したビッグ・ショーンの、「Finally(ようやく)」という強い思いがタイトルに表れた作品であった(そもそもは2007年発表のミックステープ『Finally Famous: The Mixtape』に由来するこのアルバムタイトル。想像するに、その時点では、カニエと契約したことだし俺の成功は保証されたも同然だぜ、ぐらいの軽い気持ちで「有名になった」とタイトルに冠したのではないだろうか。ところがどっこい、それからデビューまで4年も掛かろうとは本人も予想外だったに違いない。それだけにアルバム『Finally Famous』の「ファイナリー感」はひとしおだ)。

『Hall of Fame』
そんなビッグ・ショーンがこのたび、2ndアルバム『Hall of Fame』をリリースした。そこに収録の1曲"First Chain"はそのタイトルが表すように「はじめて手にしたチェーン・ネックレス」についての曲だ。ラッパーといえば、ギンギラギン(でも、全然さりげなくない!)のネックレス、と言っても過言でないぐらい、誰も彼もがこぞってチェーン・ネックレスを着用しているが、彼らにとってチェーン・ネックレスというのは単なるいちファッション・アイテムではない。首元で光り輝くあれらチェーン・ネックレスは成功者の証であり、その表明なのである。ということで、ビッグ・ショーンの"First Chain"は彼の成功賛歌となってる。「はじめてチェーンを手にしたときの喜びは童貞を捨てたときのそれに匹敵する」という同曲中のラインは、実際にチェーン・ネックレスを手にしたことのない「非ラッパー」であっても、男性なら、なるほど!と思わず膝を打つであろうパンチラインだ。

And it's a shame, a fuckin' shame
I don't remember my first love or my first time prayin'
But remember my first ass and the first time she came
It almost felt as good as when I got my first chain

マジ残念で仕方ないぜ
初恋や初めてのお祈りを覚えてないなんて
でも初体験のとき、彼女をイカせたことは忘れない
それは、初めてチェーン・ネックレスを手にしたときぐらい最高だった


Big Sean - "First Chain (feat. Nas & Kid Cudi)"

『Born Sinner』
チェーン・ネックレスといえば、ビッグ・ショーンと同じく、2011年のデビュー・アルバム以来の2作目となる『Born Sinner』を今年発表したJ. Cole(J・コール)も、同作において「チェーンの話」をしていたのが思い出される。「チェーンを買う日」と題された『Born Sinner』12曲目の"Chaining Day"である。ただし、ビッグ・ショーンの"First Chain"がチェーン・ネックレスを「手に出来て喜ばしいもの」として肯定的に用いていたのに対し、"Chaining Day"でのチェーン・ネックレスは、J・コールの首に重くのしかかる「罪のメタファー」として用いられている。この曲では、これで最後、これきりで終しまい、と口では言うものの、実際には新しいチェーン・ネックレスを買うことをやめられない、拝金主義と物質主義に毒されたJ・コールの罪意識が告白される。
 この曲ではJ・コールの個人的な物欲の対象として、たまたまチェーン・ネックレスの話をしているが、これを別の何か自分が夢中になっているものに置き換えれば、モノで溢れかえった消費社会の今日においては、多くのリスナーが共感を持って聴くことができ、その意味では極めて普遍的な曲であると言えよう。

Lord
This is the last time
Told my accountant, It's the last time
I swear this is the last time
I know that I said that shit last time
But this the last time
Mama I swear this is the last time
So don't take my chains from me
Cause I chose this slavery
This is the last time
Don't take my chains from me
Cause I love this slavery
I need you to love me, love me, love me...
I said this is my last time
Okay I lied

主よ
もういたしません
これで最後にすると会計士にも約束しました
これで最後だと誓います
前回も同じことを言ったのは分かっています
でも今度こそこれで最後にすると誓います
ママ、もう買わないって誓うよ
だから俺からチェーンを取り上げないで
だって俺は自ら進んで奴隷になったんだ
これで最後にする
お願いだから俺のチェーンを取らないで
奴隷になるのも悪いもんじゃない
こんな俺でも愛しておくれ…
本当にこれで最後にする
なんてね

 おそらく、チェーン=鎖から連想したのであろう、"Chaining Day"でJ・コールは、チェーン(・ネックレス)の虜となった自身を、文字通り手足を鎖に繋がれていた「奴隷」と呼んでいる(ちなみに、ビッグ・ショーンも"First Chain"では「家のなかでも常にチェーンを着けてる俺は奴隷」と、同様に自身を奴隷に喩えてライムしている)。この"Chaining Day"を聴いて、すぐに別のある曲を連想したリスナーも多いのではないだろうか。「奴隷」という語、それと「拝金主義/物質主義へのアンチテーゼ」というテーマ性から思い出されるのはもちろん、カニエ・ウェストが「神になった」衝撃作『Yeezus』に収録の"New Slaves"である。


Kanye West - "New Slaves" (Live on SNL)

 アフリカ大陸から船で連れてこられ、白人の「所有物」として過酷な労働を強いられていた当時の黒人奴隷。奴隷制度はご存知のようにその後撤廃された。しかしカニエは2013年の今、声高に言う「俺たちは未だに白人にいいように搾取されている、俺たちは新たな奴隷だ!」と。

My momma was raised in the era when
Clean water was only served to the fairer skin
Doing clothes, you would have thought I had help
But they wasn't satisfied unless I picked the cotton myself
You see it's broke nigga racism
That's that "Don't touch anything in the store"
And this rich nigga racism
That's that "Come in, please buy more
What you want, a Bentley? Fur coat? A diamond chain?
All you blacks want all the same things
Used to only be niggas now everybody playing
Spending everything on Alexander Wang
New Slaves

俺のママの育った時代
清潔な水は肌の白い人間だけのもの
服を作るのに誰かの手を借りると思ったろう
やつらは俺が自分で綿花を摘まなきゃ満足しない
これは貧乏黒人への差別
“店内の品には決して触れるな”ってな
これは金持ち黒人への差別
“いらっしゃいませ、もっといかがですか
何をお求めですか、ベントレー? 毛皮のコート? ダイヤのチェーン?”
黒人の欲しいものなんてたかが知れてるってか
ただのニガだったのが今は遊んで
アレキサンダー・ワンに稼ぎをつぎ込んでる
新たな奴隷

『Yeezus』
カニエがここで言うところの"New Slaves"(新たな奴隷)とは、物質主義・消費社会に生きる現代人のことなのだろう。だが、どうだろう。拝金主義礼賛がひとつのメンタリティとなっているヒップホップ・コミュニティにおいて、ラッパーたちは高級ブランドの洋服に身を包み、高級車を乗り回し、それを曲の中で「自慢」する。ビッグ・ショーンも先の"First Chain"で「最初はノトーリアス・BIGのチェーン、次はナズ、それからカニエ」と、ラッパーの「ブリンブリン」な姿に憧れていた素人時代の自分を回想しているが、ミュージック・ビデオ等で目にする、カッコ良くキメた彼らの姿は、見る者の購買意欲を相当に駆り立てているように思う。なかでも、これまでルイ・ヴィトンなどの有名ブランドと数々のコラボレーション・アイテムを発表してきたほか、自身のクロージング・ブランドまで立ち上げたカニエはその最たる例である。「新たな奴隷」となった現代人を批判したいのか何なのか、カニエの真意は図りかねるが「お前が言うな!」とツッコミを入れたリスナーは少なくないはず。

 「チェーンの話」の連鎖は続く。
 カニエとJay Z(ジェイ・Z)の「玉座コンビ」による2011年の大ヒット曲"Niggas In Paris"の作曲者として一躍有名になったプロデューサー/ラッパーのHit-Boy(ヒット・ボーイ)。そのヒット・ボーイがカニエの"New Slaves"のリミックスを公開した。


Hit-Boy - "New Chains (James Sommersett)"

 "New Chains"と題されたこの曲、まず「チェーンの話」うんぬんの前に、カニエの原曲にある1節、

Doing clothes, you would have thought I had help
(服を作るのに誰かの手を借りると思ったろう)

をうまいこと自分流にアレンジして転用した次のライン、

Writing raps, you would have thought I had help
(ラップを書くのに誰かの手を借りると思ったろう)

が耳を惹く。音楽畑出身にしてファッション界へと進んだカニエに、プロデューサー稼業からラッパー稼業へと同様に活躍の場を広げた自分を重ね、ヘイターを一蹴している。
 新しいチェーンを買う、という"New Chains"の大枠のテーマは、先のJ・コールの"Chaining Day"と変わらない。ただしこの2曲が大きく違うのは、"New Chains"にはJ・コールが"Chaining Day"で歌っていたような、チェーン・ネックレスを買うことに対する罪意識、後ろめたさが一切ないということ。代わりに歌われるのは、スターの仲間入りを果たし、チェーン・ネックレスも楽々買えるようになったヒット・ボーイの豪奢なライフスタイルである。「新しいチェーン」という曲名からして、そもそもカニエとJ・コールの楽曲の合わせ技みたいなものだが、「奴隷呼ばわり上等!チェーン・ネックレス最高!」と歌うヒット・ボーイの"New Chains"は、“チェーン”だけに、新たな奴隷についての曲"New Slaves"と、チェーンを買う曲"Chaining Day"を、内容的に“繋ぐ”ような1曲となっている。

Now Jesus had skin to bronze
So I pay my tithe that was owed
And used the rest of my green
To turn my Jesus into gold
I turn my Jesus into gold, I turn my Jesus into gold
So either way we're still slavin'
Just hanging from a different rope

このジーザス・ピースはブロンズ製
税金を払って残ったカネは全部
純金のジーザス・ピースを買うのに費やした
俺のジーザス・ピースは純金製、純金製のジーザス・ピース
どっちみち俺たちはいまだに奴隷
違うのは首に掛かったチェーンだけ

『Jesus Piece』
これら一連の「チェーンの話」の最新曲として、ビッグ・ショーンの『Hall of Fame』収録曲"First Chain"がある。それでは、ビッグ・ショーンの"First Chain"は、J・コールやカニエに感化されたものなのだろうか。否、ビッグ・ショーンは"Chaining Day"や"New Slaves"が公開されるよりもずっと前の2012年、XXL誌のインタビューにて、当時制作中であった『Hall of Fame』に収録予定の"Jesus Piece"なる曲について話していた。そこでは、"Jesus Piece"ではナズを客演で迎えること、はじめて手にしたジーザス・ピースについて、またジーザス・ピースを着用したラッパーへの憧れについて歌っていることなどが明かされた。ビッグ・ショーンのこれらの発言から察するに、この"Jesus Piece"という曲が"First Chain"の原型となっているのは間違いないだろう。ではなぜ楽曲タイトルが変更されたのか。それは同時期にGame(ゲーム)が発表したアルバムが、その名もズバリな『Jesus Piece』だったからではないだろうか(アルバムのタイトルは、フック部分で申し訳程度にカニエがその声を聴かせる表題曲"Jesus Piece"が先にあって、それをそのまま採用したという。ゲーム曰く、録りためていた収録候補曲を一旦すべてボツにして一から作り直したという『Jesus Piece』だが、"Jesus Piece"だけはキープしたというのだから、カニエが本作における大きな影響源となっているのは間違いない)。

 こうして「チェーンの話」は連鎖していく……。"First Chain"のような真面目な曲もいいが、個人的には、同じく『Hall of Fame』に収録の熟女ソング、"Milf"(ビッグ・ショーンとは"A$$ (Remix)"以来の共演となるNicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)が、ビッグ・ショーン(の“ビッグ”な肉棒)狂いの淫乱熟女を熱演!)のような「おちゃらけた曲」の方がビッグ・ショーンは生き生きしていて好きなんだけどなあ。


 


2013年6月30日日曜日

Born Sinner〜J・コールの罪



 J. Cole(J・コール)のセカンド・アルバム『Born Sinner』に収録の1曲、"Let Nas Down"。「生まれついての罪人」と題されたアルバム全篇を貫く“罪”というテーマは、「Nas(ナズ)を失望させてしまった」と悲嘆するこの曲に分かりやすいように思う。それでは、J・コールの何がナズを失望させたというのだろうか? J・コールの罪とはいったい何なのか?

 2011年、J・コールはデビュー・アルバム『Cole World - The Sideline Story』を発表。憧れの存在、ナズと肩を並べるとまでは言わずも、同じ土俵で勝負できるまでに大成した。しかしそのデビュー・アルバム『Cole World』は、シングル・ヒットに恵まれず、幾度もの発売延期を重ねた末にようやくリリースされたものだった。アルバムのリリースになかなか漕ぎ着けることが出来ず頭を抱えるJ・コール。そんな状況の中、彼が起死回生の1曲として発表したのが、Kanye West(カニエ・ウェスト)の"The New Work Out Plan"を大胆にサンプリングした"Work Out"であった。


J. Cole - "Work Out"

実際、キャッチーなメロディが奏功し、"Work Out"はセールスの面ではダブル・プラチナムを獲得するなど、大きなヒットを記録した。が、ラジオでかかることを目的に制作された、J・コールらしからぬ、“売れ線”な同曲は好事家、それもあろうことかJ・コールがアイドルとして崇めるナズを失望させてしまうのだった……。

I used to print out Nas raps and tape 'em up on my wall
My niggas thought they was words, but it was pictures I saw
And since I wanted to draw, I used to read 'em in awe
Then he dropped Stillmatic, rocked the cleanest velour
Fast forward, who thought that I would meet him on tour?
I'm earnin' stripes now nigga, got Adidas galore
Backstage I shook his hand, let him know that he's the man
When he said he was a fan, it was too hard to understand
No time to soak up the moment though, cause I was in a jam
Hov askin' where's the record that the radio could play
And I was strikin' out for months, 9th inning feeling fear
Jeter under pressure, made the biggest hit of my career
But at first, that wasn't clear, niggas had no idea
Dion called me when it dropped, sounded sad but sincere
Told me Nas heard your single and he hate that shit
Said you the one, yo why you make that shit?
I can't believe I let Nas down
Damn, my heart sunk to my stomach, I can't believe I let Nas down

あの頃はよくナズのリリックを印刷して壁に貼っていた
ダチにとってはただの言葉だった、でも俺には景色が見えた
俺も同じ景色を描きたくて、畏まって読んでいた
早送り、ツアーで彼に会えるなんて夢にも思わなかった
どんどん増やしてくストライプ、アディダスもたくさん持ってるぜ
ステージ裏でナズと握手、俺は彼のファンだと伝えた
するとナズも俺の曲のファンだと言う、信じられないぜ
でも余韻に浸ってる暇はない、だって俺は大忙し
ジェイ・Zがやってきてラジオでかかる曲はまだかと訊いてくる
でも俺はここ数ヶ月三振続き、追いつめられた9回
まるでプレッシャー下のジーター、ようやく放ったキャリア史上最大のヒット
でもまさかこんなことになるなんて思いもしなかった
ノー・I.D.から電話、何やら悲しげだが正直に話してくれた
ナズが俺のシングルを気に入っていないと言う
お前のこと買っていたのに何であんな曲を作ったんだ?とも
マジかよ、ナズを失望させちまった
クソッ、俺はかなり落ち込んだ、信じられないぜ、ナズを失望させちまった

 J・コールの言う“罪”とは、少なくともこの曲を聴く限りでは、成功を手にするため商業路線に走ってしまったこととなろう。"Let Nas Down"ではその“罪”がJ・コールの口より告白される。

『Born Sinner』

 "Let Nas Down"以外でも、例えば、アルバム1曲目の"Villuminati"(世間でその存在がまことしやかに囁かれる秘密結社イルミナティ(Illuminati)と、"villain"(悪党)を掛けている?)では、富や名声と引き換えに(アーティストとしての)魂を悪魔に売り渡したことを悔やんでいる様子がうかがえる。アルバムのジャケットに描かれた角の生えた人間は、おそらく悪魔(もしくは悪魔に取り憑かれたJ・コール本人)を表現しているのであろう。成り上がり、拝金主義を信条としながらも、だからといって"Work Out"のようなセルアウト行為は許されないという、ヒップホップにおけるある種の二律背反に苦悩するJ・コールの心の葛藤が描かれる。
 
 そんな落ち込むJ・コールを見るに忍びなく思ったのか、というより、出るべくして出たと言うべきか、J・コール"Let Nas Down"にナズがアンサーを返した!



The first album freedoms and them fourth album pressures
A big difference between 'em but I get why you said it
Radio records are needed, I just wanted it to bring the warning
Global warming to that cole world you was breathing
That's some advice I never got

ファースト・アルバムは自由にやれる、でも4枚目となるとプレッシャーがかかる
まったくの別物、でもお前がそう言うのも分かる
ラジオ用の曲も必要、俺はただ警告したかっただけ
コール(ド)・ワールドで地球温暖化が進んでるって
俺もアドヴァイスが欲しかった

 ナズ曰く、「俺は怒ってないよ/お前は俺の誇り/お前に失望なんてしてないぜ」とのこと。よかったね、J・コール! 自らの体験を踏まえ語られるナズからの助言と賛辞。変な気苦労かけてゴメンな、というナズからの謝罪のようにも聴こえる。しかし、J・コールに謝るべきは他にいるのではないか?

I kept on sayin'
Where's the hits? You ain't got none
You know Jay would never put your album out without none

俺は自分に問い続けた
ヒット曲はどこだ? 俺には1曲もない、と
ジェイはヒット・シングルがなければアルバムを出さない
(J. Cole "Let Nas Down")

 "Let Nas Down"を聴けば分かるように、ヒット曲はまだか〜?とJ・コールをせっつき、コマーシャル路線というダークサイドに陥らせるまでに追いつめたのは、彼の所属するレーベル、Roc Nationのボスのジェイ・Zである。おまけにジェイ・Zは『Born Sinner』発売の2日前に、本来なら後輩のアルバム・リリースのお膳立てをしてもいいところを、自身の4年ぶりの新作『Magna Carta Holy Grail』のリリースを突如アナウンスし、音楽メディアの話題をかっさらう“俺俺ぶり”を発揮。『Born Sinner』のテーマは“罪”ということだったが、真に罪深いのはこの男では? ジェイ・Zこそリミックスを作ってJ・コールに詫びるべき!


2013年4月21日日曜日

GOLF



サムがお前のことを捜してるぜ
サムが誰を捜してるって?
お前だよ!
はっ? 何でだよ?
サムがお前とセイレムが一緒にいるとこを見たんだとよ、お前をぶっ殺すって言ってるぞ
殺す? 殺すって何だよ? まあ落ち着けって、サムが俺を殺したがってるってどういうこと?
知るかよ、とにかくあいつはお前を殺すつもりだぞ
("Parking Lot"より)

 Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の昨年リリースのメジャー・デビュー・アルバム『good kid, m.A.A.d city』は、“凶悪都市”:カリフォルニア州はコンプトンに育つも、ストリートの誘惑、仲間からの同調圧力("The Art of Peer Pressure")に負けることなく、“善良青年”として精悍に育ったケンドリックの、その卓越したストーリー・テリングの才が絶賛されたわけだが、ケンドリックと同じく米西海岸の新星、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の3rdアルバム『Wolf』も、ストーリー・テリングの巧みさという意味では『good kid〜』同等に、いや、それ以上に賞賛されるべきだと思う(『good kid〜』の卓越したストーリー・テリング性を語る際、「まるで映画のよう」という形容表現がたびたび見られたように思うが、それはブックレット(というより、"ORIGINAL SCREENPLAY"との表記に従って、「脚本」と呼ぶほうが正解なのか?)の表紙に"A FILM BY WOLF HALEY"とある『Wolf』にこそふさわしいかもしれない)。 


Tyler, The Creator - "IFHY (feat. Pharrell)"

"I fucking hate you, but I love you"
(お前なんか大っ嫌い、でも愛してる)

Tyler, The Creator - "IFHY (feat. Pharrell)"

 タイラーの過去作『Bastard』『Goblin』で、リスナーにはすでにお馴染みのセラピスト、ドクター・TC。彼の紹介によって「キャンプ・フロッグ・ノー」にて出会ったウルフとサムだったが、自分が留守の間にガールフレンドのセイレム("Bimmer"のミュージック・ヴィデオに登場)をウルフに奪われたサムの愛憎("IFHY")は、最終的にウルフへの殺意へと発展するのだった……というまたまたスキゾなプロットが面白い本作『Wolf』。"Parking Lot"のアウトロで予告されるサムの殺意は、続く"Rusty"で爆発し、前作『Goblin』収録の"Window"と併せてついに"KILL THEM ALL"(キル・ゼム・オール)達成!

それにしても、CBSのトーク番組「Late Show With David Letterman」出演時の、おろしたての白Tシャツ(+手書きの"GOLF"の文字)をハイウエストでパンツにインした、あのダサダサな恰好には思わず笑ってしまった。同番組にて披露された"Rusty"には、

These fucking rappers got stylists cause they can't think for themselves
See, they don't have an identity, so they needed some help
スタイリストをつけてる他のラッパーたちは自分で衣装を考えられない
あいつらには個性ってものがない、だから助けが必要

なんてラインがあるけど、あの恰好で言うと説得力ありすぎ!




2013年3月10日日曜日

5AM In Toronto〜トロントは朝の5時



 「お前、子役やってただろ」なんて批判もちらほら聞こえてきそうだが、「叩き上げで俺たちここまで登りつめたぜ」(Started from the bottom, now we're here)、と自身とクルーの成り上がりを高らかに謳う、先月発表の"Started from the Bottom"でも、「偽の友なんていらない」(fuck a fake friend)と繰り返しライムしていたけど、この男、最近、友人関係にトラブルでもあったのだろうか……(噂ではレーベル契約の話がこじれた末、盟友The Weeknd(ザ・ウィークエンド)と喧嘩別れしたのだとか)。


Drake - "Started from the Bottom"

 Drake(ドレイク)が新曲"5AM In Toronto"を発表した。この曲のドレイク、スワッグ(もう死語?)がハンパない!
 ヒップホップでよくある、思わず「それ嘘だろ!」とツッコミを入れたくなる、見栄はりまくりで、ときに滑稽なボースト・ソングも、ファンタジーとして、またギャグとして面白い(当人たちはいたって真剣なのかもしれないが)。が、ドレイクのような真の成功者(今回の"5AM In the Toronto"でも「経済紙フォーブスの長者番付リストに載った」とライムしている)の語る、事実に裏打ちされたボースティングは、それが事実であるだけに、やはり言葉の重みが違い、聴いていて最高にエキサイティングだ。


Drake - "5AM In Toronto"

 新曲"5AM In Toronto"は次の一節より始まる。

"You underestimated greatly/Most number ones ever, how long did it really take me"
(お前は過小評価してる/ナンバー1ソング最多獲得、ここまで来るのも楽じゃかったぜ)

Drake - "5AM In Toronto"

 ドレイクは、フィーチャリングで参加した昨年8月発表の2 Chainz(2チェインズ)による"No Lie"が、米ビルボードR&B/ヒップホップチャートで1位を獲得したことで、それまでのジェイ・Zの記録を抜き、歴代最多R&B/ヒップホップチャート1位獲得アーティストとなった(via. Billboard)。


2 Chainz - "No Lie (feat. Drake)"

 これ以降の大胆不敵なリリックの数々が荒唐無稽でない、説得力足るものに感じられるのは、この最初のビルボードチャートの一節が、それらの論拠として機能しているからのように思う。

The part I love most is they need me more than they hate me
So they never take shots, I got everybody on safety
I could load every gun with bullets that fire backwards

面白いのはヤツらは俺を嫌っていても俺が必要だってこと
だから誰も引き金を引きはしない、俺の前ではどいつも安全装置をオン
俺に向けられた弾は後ろへ飛んでいく

 どんなにドレイクを忌み嫌っていようとも、彼はヒット曲連発の売れっ子アーティスト。ヘイターたちも背に腹はかえられず、なくなく自分をゲストに呼ばざるをえない、とドレイク。リスナーの耳を惹くには俺の助けが必要だろ?と言っているのだ。
 そんな“ドレイクさまさま”なわけなので、自分に歯向かおうなんて愚か者はいないよな、とも。仮にドレイクに口撃しようとも、「弾は後ろへ飛んでいく」とライムしているように、言い負かされて(後ろに飛んだ銃弾を被弾して)自滅するだけだと、現行シーンにおける自分の圧倒的な優位性を説いている。

"Give these niggas the look, the verse, and even the hook/That's why every song sound like Drake featuring Drake"
(ビデオに出演、ヴァースに加えてフックも提供/どの曲も“俺 feat. 俺”って感じ)

Drake - "5AM In Toronto"

 ラップと歌、両刀使いの芸達者ドレイク。客演ヴァースに加えフックまでドレイクが担当する彼の参加楽曲はどれも、"ドレイク feat. ドレイク"状態に!


Lil Wayne - "Love Me (feat. Drake & Future)"

 “スワッグむんむん”なこの"5AM ~"を聴いた僕は、「やっぱりドレイクはヤバい!!」と大興奮したのだが、事実、皆が皆同じように熱狂しているというわけでないようだ。なかには、白人女子ラッパー、Kitty(キティ)のように、複雑な心境でこの曲を聴く者もいる(cf. "R.R.E.A.M."ってナニ)。
 マイクを握りステージに立つ傍ら、ヒップホップ・ライターとしても活躍するキティが、noiseyに寄せた「"5AM ~"を聴いた感想」が面白い! キティはそこで、"5AM ~"にも分かりやすい、ヒップホップのコンペティション(競争)体質をあまりよく思っていないと語る。

 「私、思うんだけどさ、ドレイクはパーティでザ・ウィークエンドに出くわしたら気まずくないかな? お互いのことをこうやって詩に書いたラッパー通しが、イベントでばったり顔を合わせたら気まずいわよね?(略)でも、やっぱりドレイクを見てると悲しくなるわ、私たちみんな仲良くやっていけないかしら? もしあなたがこんな風に朝っぱらからカッカしてるのなら、私と一緒にヨガ教室に行って、それからハーブティーでも飲みながら話し合いましょ。相談に乗るわ」。

 ごもっともな意見。確かに朝5時からこのテンションのドレイクって。

2013年2月17日日曜日

"R.R.E.A.M."ってナニ?



 ベッドの上でゴロゴロしてくつろぐ姿を収めた、ゆるーいミュージックビデオ"Okay Cupid"のヒットにより、一躍その名が知れ渡った白人女子ラッパー、Kitty Pryde(キティ・プライド)改め、Kitty(キティ)。彼女の最新ミックステープ『D.A.I.S.Y. Rage』収録曲"R.R.E.A.M."って一体ナニ?


Kitty - "R.R.E.A.M."

 これを‘オマージュ’と呼ぶのは少々大げさかと思うが、ニューヨークはスタッテン・アイランド出身の伝説的ヒップホップ・グループ、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)による1993年発表のクラシック、"C.R.E.A.M."をもじったものであるのは間違いなさそうだ。ご存知の通り、ウータン・クランの"C.R.E.A.M."は、"Cash Rules Everything Around Me"(カネがすべてを支配する)の頭字語。この曲以降、ラップソングにおいては、'cream'(クリーム)が「お金(money)」を意味するスラングとして定着、今日に至るまで広く用いられているわけだが、それでは、キティの件の曲"R.R.E.A.M."の意味するものはいったい何なのだろうか?


Wu-Tang Clan - "C.R.E.A.M."

 "R.R.E.A.M."でキティは次のように歌っている、

"Rash rules everything around me/Getting drowsy, bena benadryl yall"
(発疹がすべてを支配する/眠くなってきたわ、ベナ、ベナドリル)

Kitty - "R.R.E.A.M."

どうやらウータン・クランの"C.R.E.A.M."のC: Cash(キャッシュ、現ナマ)を、R: Rash(ラッシュ、発疹)に替えたものらしい……って、それ一体どういうこと? 発疹が支配? うーむ、何だか聴いてるこっちまでむず痒くなってくるような……。
 ちなみに、上記引用箇所後半部に出てくる「ベナドリル」というのは、アレルギー症状やかゆみ症状を緩和する、米国で市販されている薬のこと。副作用として眠気を誘発するらしく、睡眠導入剤としても服用されるのだとか。

C.R.E.A.M.
可愛い顔して発疹についての曲だなんて、何とも悪趣味なライムをするキティ。ただ振り返れば、彼女は以前にも似たような、これまた“気色の悪い”楽曲を発表している。

 それはキティの2012年リリースの前作『Haha, I'm Sorry』の収録曲にして、先日開催の第55回グラミー賞で年間最優秀楽曲部門にもノミネートされた、カナダ人シンガーソングライター、Carly Rae Jepsen(カーリー・レイ・ジェプセン)によるスマッシュヒット曲"Call Me Maybe"をモロ使いした、"Give Me Scabies"だ。タイトルにある、聞き慣れない単語'scabies'は、「疥癬(かいせん)」というダニの寄生による皮膚感染症のこと(cf. Wikipedia)。つまり、"Give Me Scabies"とは「私に疥癬うつして」ということ!



 カーリー・レイ・ジェプセンの"Call Me Maybe"は「会っていきなりでこんなのおかしいかもしれないけど、これ私の番号だから、電話くれるよね」と、一目惚れした彼に積極的にアプローチをかける、胸キュン女子のラヴソング。


Carly Rae Jepsen - "Call Me Maybe"

 キティの"Give Me Scabies"は、その"Call Me Maybe"から歌詞を引用しているということで、「一目惚れ・思慕」という楽曲のテーマも踏襲、同様に意中の彼への恋心がライムされる。しかし、恋のときめきにルンルン、キラキラしているカーリー・レイ・ジェプセンに比べ、キティの方はというと、

I'd say, "Call me maybe," but you'll probably call me never
I wait forever and ever and ever, whatever

私が「電話くれるよね」って言ったところで、あなたはきっと電話してくれない
それでもずっと、ずっと、ずーっと待ってるからね

と歌うなど、どこか後ろ向きな印象を受ける。このほかにも同曲中のキティは「私はそんなにイケてる女じゃないけど、フルタイムで働いてるの」と、経済・生活面での安定をアピールすることで、ルックス面でのディスアドヴァンテージをカバーし、何とかその意中の彼を自分に振り向かせようとしている。“イケてる女”を豪語してナンボのフィメールMCとしてあろうことか、自身の容姿を卑下するなんて、やはり何だか自信なさげ。

 "Give Me Scabies"というと、一見トンデもない曲タイトルに思えるが、思うにこれは、リリック中で散見されるそうした彼女の自信のなさや、自信がないゆえの切実さを反映して題されたものなのだろう(もちろんユーモアも多分に込められているのだろうけど)。こんな私でも彼とお近づきになれるというのなら、たとえ病気をうつされようが何されようが構わない!疥癬うつして! そんな彼女の自信がないながらもしたたかな恋心が、この曲には込められているように思える。

 ということは、今回キティが"R.R.E.A.M."という“痒い”曲を発表したのは、"Give Me Scabies"での念願叶って、疥癬をうつしてもらうことが出来た(思いが通じて恋仲になった)ということか? ちなみに実生活でのキティは現在、ニューヨーク在住のトラックメイカー/プロデューサー、Hot Sugar(ホット・シュガー)と交際している

 

2013年1月5日土曜日

On the Edge



 新進フィメールMC、Azealia Banks(アジーリア・バンクス)とAngel Haze(エンジェル・ヘイズ)の間でビーフ(ラッパーどおしの中傷合戦)が勃発!

 これまでにもKreayshawn(ケレイショーン)やIggy Azalea(イギー・アザリア)といったライバル女性MCたちから、彼女の地元ニューヨークはハーレムの先輩MCであるディップセットのJim Jones(ジム・ジョーンズ)、果てにはファッション・ブランド、ドルチェ&ガッバーナまで、数多くの相手に喧嘩をふっかけてきた好戦的なアジーリアだが、性懲りも無く、今回またしてもTwitterで意味深な発言をしたのだった。

 アジーリアのこの「生まれも育ちもNYじゃないくせに、ニューヨーカーぶるな」との発言に、デトロイト出身で現在ニューヨークを拠点に活動するエンジェル・ヘイズ(ディスコグラフィーに、"I run New York"と謳う"New York"あり)が「あたしのことじゃね?」と反応したのがビーフのきっかけ。

Angel Haze - "New York"

 Twitter上で名指しの舌戦をネチネチと繰り広げた末、エンジェルはアジーリアへのディス曲"On the Edge"を録って出しで発表!


 2ndヴァースの出だしには、"Bitch I'm from 313"とあるが、'313'と言う数字はエンジェルの出身地デトロイトの市外局番であり、これはニューヨークの市外局番をタイトルにしたアジーリアのヒット曲"212"に掛けている。

Azealia Banks - "212"

 続くインタールードが面白くて、

Or like when you were texting me about Kreayshawn, remember
"Let's steal her fans, we're not really friends with this bitch"

ここでは、以前アジーリアがメールで「クレイショーンのファンを奪っちゃおうよ、あのビッチとは友達じゃないの」と、エンジェルに「ファン奪取計画」をけしかけていたことが暴露される。友達面しときながら、実は裏ではクレイショーンのことを嫌っていた?アジーリアの意地悪な性格が露呈することに。

 3rdヴァース、

"You was in my text, looking for some pity, bitch/"I'm at the bar alone on some Sex and the City shit/My boyfriend left me, my heart finna' break""
(同情してほしくてメールしてきたよね/“セックス・アンド・ザ・シティみたいに独りで飲んでるの/ボーイフレンドに捨てられちゃったの、もう心が張り裂けそう”って)
Angel Haze - "On the Edge"

 "On the Edge"のジャケット上に描かれた会話は、リリックにもある、ボーイフレンドにフラれバーで独り寂しく飲むアジーリアが、同情を求め、その当時はまだ友人であったエンジェルに送った実際のメールの文面なのだろう。

 エンジェルは、アジーリアの恥ずかしいプライヴェート話を暴露して、彼女を辱めにあわせたつもりだろうだけど、失恋して傷心の自分をニューヨークが舞台の米ドラマ、SATCに喩えるアジーリアのこのエピソードからは、今回のビーフのきっかけとなった“ニューヨーカー”気質みたいなものを感じないだろうか。そして何より、誰彼なしに噛み付く“口汚いじゃじゃ馬キャラ”のアジーリアにも、こんな可愛らしい一面があるのかと萌える♡

 アジーリアは新曲"No Problems"でエンジェルにすぐさま反撃。

 それを受けエンジェルは、さらに"Shut the Fuck Up"を発表し応酬(音質が悪いのは、エンジェル曰く「アンタごときじゃ、アタシにスタジオでマスタリング作業させるに値しない」からとのこと)。


 "Shut the Fuck Up"では、Twitter上でのビーフが絶えないアジーリアを皮肉って、次のようにライム、

"How much twitter beef does it take to wanna make you get/Into the studio and come up with a different flow?/Stop tryna recreate 212 cause its the only hot shit you know"
(どんだけTwitterでビーフをすればアンタは新しいフロウを思いつくわけ?/他にネタがないからって、もう"212"の焼き直しはよしな)
Angel Haze - "Shut the Fuck Up"

 失恋話に付き合って、その痛みを分かち合っていたらしい仲だったのに、"Shut the Fuck Up"のラストでは「普段は自殺反対派だけど、アンタじゃ私には勝てない、自分で決めな、やるかやられるか、この雑魚」と、アジーリアに自死を迫るエンジェル(ジャケットに描かれているのは、首つり自殺をはかろうとする人の姿!)。女の友情って……。

 

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