2012年11月20日火曜日

Thursday〜木曜日の彼女〜



 フリー・ダウンロードで公開したミックステープ3部作『House of Ballons』『Thursday』『Echoes of Silence』をひとつにまとめ、この度フィジカル・リリースされた、カナダのR&Bシンガー、Abel Tesfye(エイベル・テスファイ)によるソロ・プロジェクト、The Weeknd(ザ・ウィーケンド)の『Trilogy』を聴いて、2枚目の『Thursday』が引っかかった。
 今回『Trilogy』としてフィジカル盤でリリースされるにあたり、3作品それぞれの最後に新曲・未発表曲が追加収録されているが、『Thursday』の新録曲では、ドラッグとセックスに溺れた、どうしようもなく退廃的な愛の物語に、新しいオチ(というより、男としてのけじめ)をつけているように思える。




It seems like pain and regret are your best friends
Cause everything you do leads to them
Baby I could be your best friend
Baby I could fuck you right

Baby you can have it all
Baby you can have it all
Baby you can have the cars
The clothes, the jewels, the sex, the house
Baby you could be a star

Baby all your sins are your best friends
And nothings ever ever your fault
Nothings your fault baby, no
Baby you don't need your best friends
Cause I got everything you want

Baby you can have it all
Baby you can have it all
Baby you can have the cars
The clothes, the dreams, the sex, the house
Baby you could be a star

If, all I could say is if
Promise me, you won't regret me like the tattoos on my skin
Like the wrong path
Promise me that when they all love is you
You'll remember me
When you fuck them you'll see my face
My body is yours
Give them any other day but Thursday
You belong to me
Every Thursday
I wait for you
I'll be beautiful for you
Every Thursday
I exist
Only on Thursday

Not on Monday, Tuesday, Wednesday, Friday, Saturday, Sunday
But on Thursday
Not on Monday, Tuesday, Wednesday, Friday, Saturday, Sunday
But on Thursday

どうやら痛みや後悔が君の親友のようだね
だって君は何をしてもそうなんだから
俺が君の親友になってあげるよベイビー
優しく抱いてあげる

ベイビー君は全てを手に出来る
君は何だって手に出来るんだ
ベイビー君は車、洋服、宝石、肉愛、家を手に出来る
君はスターにだってなれるんだよ

君の罪が君の親友
何も君のせいなんかじゃないよ
何も悪くないんだよ 何も悪くない
君に親友はいらないよベイビー
だって君の欲しいものは全部俺が持ってるからさ

*繰り返し

(もし 「もし」としか私には言えないけど
約束して 体に彫ったタトゥーみたいに後悔させないって
誤った道が好きなの
約束して みんなから愛されるようになっても
わたしのことを思い出してくれるって
あなたが他の子と愛し合うなら 私の顔がよぎるはず
私の体はあなたのものよ
他の曜日はいいけど木曜日だけ あなたは私のものよ
毎週木曜日 あなたを待ってるわ
御粧し(おめかし)してあなたを待ってるわ 毎週木曜日
私が生きるのは 木曜日だけのため)

月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも日曜日でもなく
木曜日
月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも日曜日でもなく
木曜日

 『Thursday』の1曲目"Lonely Star"。エイベルはあるひとりの孤独な女性を言葉巧みに口説き落とし、ある“決め事”をする。その決め事とは、木曜日のみ肉体関係を持つというもの。かくして木曜日が二人のヤリ日になり、この女性はエイベルの“木曜日の彼女”となった。

 続く2曲目"Life of the Party"で、


Welcome to the other side
You're lost
Baby step outside your mind
You've been really good
You've been really good
You've been thinking bout being bad ever since I put you on
She got money for blow
Just look at that nose

Prescription ain't an issue
You can mix it with the uh
And if you wanna do it, baby
I'm right here with you
I'm on cloud 9
Baby you're behind
You can follow me

You can follow me if you want
Go downtown with the drugs in your body
Take that step you're the life of the party
Know that step you're the life of the party

I got 2 little ladies
I got 1 little room
There's a room full of niggas
Baby what you wanna do?
The way you move got me feeling so uhh
I been thinking about it baby
I been thinking about it lately

I'm so far gone and you are too
Show me how you go downtown
With the drugs in your body
Take that step, you're the life of the party
Know that step, you're the life of the party

ようこそこっちの世界へ 君は迷子
心の扉を開いて出ておいでベイビー
君は本当に最高だよ 本当に最高
俺が教えて以来 君は悪い子になろうって考えてたんだよね
彼女はクスリ代を持っている ほら彼女の鼻を見てみてよ

クスリ自体は問題じゃないんだ これを一緒に混ぜると…
もし君もやってみたくなったら 俺はここにいるよ
気分はクラウド9の上 ベイビーまだまだだね
さあ俺について来て

一緒に来たいならついて来て
街へ繰り出そう ドラッグをやって
さあ一歩踏み出して 君はパーティの主役だよ
分かるだろ 君はパーティの主役だよ

小さなレディーを二人と 小さな部屋を用意したよ
野郎たちでごった返した部屋もある
さて何をしようかベイビー?
君の腰つきが俺をこんな気持ちにさせるんだ…
俺がずっと考えてたのはこれだよベイビー
最近ずっと考えてたんだ

超ハイになってる 同じように君もハイ
俺をダウンタウンにイカせておくれ
ドラッグをやって
さあ一歩踏み出して 君はパーティの主役だよ
分かるだろ パーティの主役は君だよ

 エイベルは彼女に“楽しみ方”を手ほどきしてやる。
 しかし、

I love her, today
Cause it's wednesday, I won't be late
I don't need to know if you're feeling when I'm free

Not on monday, tuesday, wednesday, friday, saturday
Sunday but on thursday thursday
Not on monday, tuesday, wednesday, friday, saturday
Sunday but on thursday, make sure you are thirsty
Ohhhh on thursday, baby get ready ohhh on thursday
Woaahoooh hold it ohh on thursday, just wait on thursday,
Baby only thursday

Girl I try, girl I try
I've been here for too long
Baby don't cry
I heard you are calling again
But it's not thursday, baby why you calling?

Not on monday, tuesday, wednesday, friday, saturday
Sunday but on thursday thursday
Not on monday, tuesday, wednesday, friday, saturday
Sunday but on thursday, make sure you are thirsty
Ohhhh on thursday, baby get ready ohhh on thursday
Woaahoooh hold it ohh on thursday, just wait on thursday,
Baby only thursday

今日は彼女を愛してる
水曜日だから遅れない
なあ 教えてくれよ 俺が暇な時君がどうなのか

月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも
日曜日でもなくて木曜日 木曜日だからね
月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも
日曜日でもなくて木曜日 木曜日は喉を渇かしといてね
ベイビー木曜日の準備をしといてね
待ち焦がれた木曜日 木曜日だけ

俺は努力はしたさ
ここに長くいすぎた
ベイビー泣かないで また君が電話してくるのが聞こえるけど
でも木曜日じゃないのに 何で電話してくるんだい?

月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも
日曜日でもなくて木曜日 木曜日だからね
月曜日でも火曜日でも水曜日でも金曜日でも土曜日でも
日曜日でもなくて木曜日 木曜日は喉を渇かしといてね
ベイビー木曜日の準備をしといてね
待ち焦がれた木曜日 木曜日だけ

 3曲目"Thursday"まで差し掛かるころには、エイベルとの関係にすっかり病み付きになっていた木曜日の彼女。彼女はもう木曜日だけでは満足できない。



Why you rushing me baby?
It's only us, alone
I don't want to die tonight baby
So lemme sip this slow
I'll give you what you called for
Just let me get in my zone
I'll be making love to her through you
So let me keep my eyes closed

And I won't see a damn thing
I can't feel a damn thing
But I'mma touch you right
I won't see a damn thing
I can't feel a damn thing
But I'mma touch you right

I'mma touch you right (let me sip this slow)
I'mma touch you right (let me get inside my zone)
I'mma touch you right (just let me)

なんでそんなに急かすんだいベイビー?
俺と君の二人きりじゃないか
俺は今夜死ぬつもりはないからねベイビー
だからゆっくり飲ませて
君の欲しいものをあげるよ 俺のゾーンに集中させて
俺は君を通して彼女とメイクラヴをするんだ
だから目を閉じさせて

何も見えない 何も感じない
それでもオレは上手に触れるよ
何ひとつ見えない 何ひとつ感じない
それでもオレは上手に触れるよ

上手に触れるよ(ゆっくり飲ませて)
上手に触れるよ(俺のゾーンに入れさせて)
上手に触れるよ(俺に)

先の"Thursday"で、約束破りの電話に困惑するあの感じからは、木曜日の彼女のハマりっぷりに対し、エイベルの方は当初の約束通り、この彼女とはあくまで木曜日限定の関係なのだと、割り切った感情のもと付き合っているように見受けられるのだが、4曲目"The Zone"では、"I'll be making love to her through you"と、何やら意味深な表現が見られる。
 実はエイベルにも気があって、ことの最中にエイベルが目を閉じて思い浮かべる女性、その人が木曜日の彼女なのか、あるいは逆に、木曜日の彼女を媒介にして、他の女性と擬似的に愛し合っているのか。"The Zone"のミュージック・ヴィデオに登場する女性は、ミックステープのアートワークで水曜日と金曜日に挟まれ笑みを浮かべる女性とは、別人物のように見えるのだが。
 またミュージック・ヴィデオの風船だらけの部屋からは、どうしたってザ・ウィーケンドのファースト・ミックステープ『House of Balloons』を連想してしまうわけで、ということは、この"The Zone"に出てくる女性は、同ミックステープのタイトル曲"House of Balloons"で、エイベルに半監禁状態にされていたあの女性なのでは、などと勘ぐってしまう。

 で、そんな意味深な発言も飛び出す"The Zone"に続くのが、歌いだしで「分かってくれるといいんだけど、これは俺にとっては何でも無いんだ」と、彼女を突き放す"The Birds (Part 1)"だ。


So don’t you fall in love
Don’t make me make you fall in love
Don’t make me make you fall in love with a nigga like me
Nobody needs to fall in love
I swear I’m just a bird
Girl, I’m just another bird
Don’t make me make you fall in love with a nigga like me
Like Me

恋に落ちないで
君が恋に落ちるよう俺に仕向けさせないでくれ
君が俺みたいな男に恋するよう俺に仕向けさせないでくれ
誰も恋に落ちる必要はないんだよ
俺は鳥
ガール俺は渡り鳥なんだ
君が俺みたいな男に恋するよう俺に仕向けさせないでくれ
俺みたいな男に

チャンカワイ
「惚れてまうやろ」
あまり深く考えずに聴けば、この曲はエイベルが、約束を守らず深入りする木曜日の彼女に対し、二人の関係に愛を見出すのはよそうと忠告しているように聴こえる。もちろん、そうなのだろうが、わざわざ「君が俺みたいな男に恋するよう俺に仕向けさせないでくれ」だなんて回りくどい言い方をしている、言い換えるなら、「惚れないで」ではなく、あえて「惚れさせないで」と能動的なニュアンスを漂わせているのは、本気になって肉体関係以上のものを求めてきた彼女同様に、エイベルの方も「まずい、このままじゃ俺も好きになっちゃう…」と感じ始めているからではないだろうか。「惚れてまうやろ」ならぬ「惚れさせてまうやろ」である。仮に恋仲になったとしても、エイベルは所詮“渡り鳥”ゆえ、自分の元を去られて傷つくのは彼女。だからエイベルは拒絶する。



Whoa, with a nigga like me...

She said please, mercy me, mercy me
Let me fall outta love, before you fuck her, before you fuck her
She begged me, she gave me all her pills
Now my back hurts, she lost control

Now she begging, she on the floor, she on the floor
Baby got her pleading, she on the floor, she on the floor
She said, it won't be long before she falls out of love
Won't be long before she falls out of love

[Bridge]

Just a bird, tried to kiss you
But you never let me miss you
But you never let me miss you
I thought I told you
I'm not him, I'm not him
What you did, nobody forced your hand
And don't you fall for a nigga like me, I begged, I begged

俺みたいな男に…

彼女が言った お願い どうかお願いよ
私から終わりにさせて あの娘の元へ行く前に あの娘とヤル前に
せがんでくる彼女 持ってるピルも全部よこしてきた
腰が痛む 彼女は自分を見失っちまってる

嘆願する彼女 床に這いつくばりながら
袖にすがる彼女 床に這いつくばりながら
彼女が言った もうすぐに愛想を尽かすから
もうすぐに愛想を尽くすから

[Bridge]

俺は鳥 君にキスしようとした
でも君はお別れさせてくれない
君はさよならさせてくれない
言っておいたと思うんだけどな 俺はそんな男じゃないって
君のしたことは 誰も強制したことじゃないよ
俺みたいな男に恋しないでって お願いしたよね

 "The Bird (Part 1)"で袖にされた彼女は、続く"Part 2"でエイベルに泣いてすがるのだった(イントロでは文字通り泣いている!)。彼女はエイベルに懇願する、「浮気性のあんたなんか、こっちから願い下げよ! でも、もうすぐに愛想を尽かすから、だから、だからお願い……もう少しだけ一緒にいさせて」。

 この後の2曲"Gone""Rolling Stone"は、どちらもそのタイトルから察しがつくように、ひたすらドラッグとセックスに耽る曲。
 そして、ハイになりすぎて、ついには天まで飛んでいってしまったのか、「天国を手にした」「俺は神」と歌ってのける終曲"Heaven or Las Vegas"で『Thursday』は幕を閉じる。

と、ここまでがミックステープ版『Thursday』の話。冒頭で触れたように、このたび3枚組でフィジカル・リリースされた『Trilogy』では、"Heaven or Las Vegas"の後に、新録曲"Valerie"が続き、この物語にオチをつけているように思える。


There comes a time in a man's life
He must take responsibility
For the choices he has made
There are certain things that he must do
Things that he must say

Like I Love you
And I need you
I only want you
And nobody's going to know if it's true

I never thought I'd feel this kind of hesitation (tonight)
My hand on another girl
I wish I didn't have to lie
I wish I could let you know

Cause I love you
And I need you
I only want you
And nobody's going to know if it's true

Valerie
I know you can see through me
Valerie
You just choose to never know
Valerie
Why pretend to trust in me?
(I don't know why you try to trust in me baby, but I think I might know )
Valerie
You'd rather this than be alone

Cause I love you
And I need you
I only want you
And nobody's going to know if its true

And I love you
And I need you
I only want you
And nobody gonna know

男の人生にはその時がやってくる
責任をとらなくてはならない
自分がしてきた選択に対して
やらなくてはならないことがいくつかあるんだ
言わなきゃならないことがあるんだ

君を愛してる 君が必要だ 君だけを愛してる とかね
でも それが真実かは誰にも分からない

こんな風にためらいを覚えるなんて思いもしなかったよ(今夜)
また別の娘に手を出してる
嘘なんか付きたくないよ
君に知ってもらいたい

だって 君を愛してる 君が必要だ 君だけを愛してる
でも それが真実かは誰にも分からない

ヴァレリー 分かってるよ 君が俺の嘘を見抜いてるって
ヴァレリー 知らないでいることを選んだんだね
ヴァレリー 何で俺を信じてるふりなんかするんだい?
分かんないよ 何で俺を信じようとするんだいベイビー? でも分かるかも
ヴァレリー 孤独でいるよりはこっちの方がましだからね

だって 君を愛してる 君が必要だ 君だけを愛してる
でも それが真実かは誰にも分からない

君を愛してる 君が必要だ 君だけを愛してる
でも 誰にも分からない

 とうとう自分の素直な(?)気持ちを曝け出したエイベル(ただし、"And nobody's going to know it's true"と、若干煮え切らない態度をとっているのが気になるが)。ザ・ウィーケンドと聞いて多くの人が思い浮かべるであろう、ドラッギーで背徳愛が渦巻く彼の歌詞世界を考えると、「愛している」と歌うこの曲はかなり特異なものに感じられる。
 そして曲タイトルの"Valerie"は女性名である。確証はないが、多分このヴァレリーこそが『Thursday』のヒロインである、木曜日の彼女の正体なのだろう。だとすれば、エイベルは最後にヴァレリーの愛を受け入れ、『Thursday』は一応、めでたしめでたしのハッピーエンドで完結したということになるかと思う。

 こうして、ザ・ウィーケンドのトリロジーは、これまでは散々女性を弄んでいたエイベルが、今度は逆に弄ばれる側となる、グルーピー・ソングの"D.D."より始まる最終章『Echoes of Silence』へと続いていく…。あれ、ちょっと待って、ヴァレリーは?(『Echoes of Silence』2曲目"Montreal"では、早くもフラれたようなことを示唆してるけど、これって相手はヴァレリー?)




2012年7月16日月曜日

続・CHILDISH GAMBINO~屈辱のピッチフォーク評から『ROYALTY』、そして「俺はラッパーだ問題」のゆくえ~



・1.6

 アメリカ合衆国独立記念日の7月4日、Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が、デビュー・アルバム『Camp』(11年)以来の新作となるミックステープ『Royalty』をリリースした。

"More swag, pull back on punchlines"
(スワッグは増大、パンチラインは控えめ)
Childish Gambino - "We Ain't Them"

『ROYALTY』
それにしても、今年4月のショウで新曲"We Ain't Them"が初披露されたのを聴いたときは、驚きと一物の不安を覚えた。なにせ、時に思わず吹き出してしまう、あの尋常離れしたユーモアの炸裂したパンチラインこそがガンビーノの持ち味にして、彼をここまでのスターダムにのし上げた最大の要因なのだから。恐らくこのことに言及するのはガンビーノ本人は嫌がるだろうが、あのユーモラスかつテクニカルなパンチラインの数々は、「コメディアン畑出身」という彼の特異な出自ゆえの産物だ。そんなパンチラインという、いわば“武器”を置いて闘うというのだから、一体どうしたものだろうかと思ったのである。

 そうした多少の不安も抱きつつ、いざ『Royalty』を聴いてみたわけだが、今にしてみればそれも取り越し苦労だったように思える。これまでと比べれば確かに手数は減ったかもしれない。しかし、こちらをニヤリとさせてくれる、あの強烈な一発は今回も健在だ。件の問題発言を含む「We Ain't Them」でもそれは楽しめる。

Childish Gambino - "We Ain't Them"

アッシャー・ロスのアルバム
『Asleep In the Bread Aisle』
"I'm not Asher Roth, I don't sleep on my bread"
(俺はアッシャー・ロスじゃないから、パンの上では寝ない)
Childish Gambino - "We Ain't Them"

「bread」は「カネ」を意味する常套スラング。アルバム・デビューを遂げ、一定の成功を収めたからといって、現状にかまけることなく前進し続ける、とガンビーノは宣言。

 イントロを除いた実質上の1曲目に配されたこの「We Ain't Them」を聴いて思うのは、この曲には決意表明的な意味合いがあるのではないか、ということ。伸びやかにシンセが鳴り響くトラックからは、夜明けの陽光のさす清々しい朝のような、何か新しいことの始まりを予感させられる。それはラッパーとしてのキャリアにおいて、次なる段階に進もうとするガンビーノ自身の心情を表現しているかのようだ。

 昨年、前作『Camp』でデビューし、数々の大型音楽フェス出演を果たすなど、俳優/コメディアンのドナルド・グローヴァーではなく、ラッパーのチャイルディッシュ・ガンビーノとして着実に支持を獲得してきたものの、同作は音楽メディア「ピッチフォーク」でボロカスに評されてしまった。ピッチフォークは特にインディ・ロック、インディ・ミュージックに特化したメディアなだけあって、ミックステープ時代からインディ・ロック系のミュージシャンの楽曲を拝借してラップしてきた、そして『Camp』でも引き続きそのサウンド・プロダクションを踏襲したガンビーノにとって、同サイトでの酷評にはキツいものがあっただろうと推測できる。

"Fuck boys chase hype track chicks/And niggas stop texting after 1.6"
(ハイプを追っかけてる奴ら/1.6点が出てから騒がなくなった奴らなんてクソくらえ)
Childish Gambino - "We Ain't Them"

 このことがスタイルの変更を考えさせる直接的な要因となり、先の「パンチライン控える発言」に至ったかどうかは分からないが、本作『Royalty』を制作するにあたって、今後の方向性を改めて考えさせるキッカケにはなったかもしれない。

「We Ain't Them」のジャケット
また『Royalty』のリリースに先駆けて、この曲がガンビーノのオフィシャルサイトで公開されたとき、ジャケットに描かれていたのは、Drake(ドレイク)のセカンド・アルバム『Take Care』(11年)のジャケットを見つめる青年の姿という、一風変わったものだった。
 ドレイクといえばガンビーノと同じく俳優(子役)上がりのラッパーとしても知られているが、先のボロカスに叩かれたピッチフォークのアルバム・レビューでは、デビュー作に続き、次作『Take Care』でも大きな成功を収めたそのドレイクが引き合いに出され、ガンビーノが批判されていた。
 そこでこの曲のタイトルをもう一度思い出してもらいたい。「We Ain't Them」(俺たちは奴らとは違う)である。あの意味深なジャケットには、そういった批評に対するガンビーノからの回答、もしくは反撃といったメッセージが込められているような気がする。
 そう考えると、この曲に続く、ガンビーノの率いるクルー「Royalty」のメンバーにして、彼の実弟でもあるSteve G. Lover(スティーヴ・G・ラヴァー)を客演に招いた「One Up」のフック部分

"You ain't liking what we doing? Shut up!/We got extra life, nigga one up"
(俺たちのことが気にくわないって? そんじゃ黙ってろ!/俺たちにはもう1機ある、1UPをゲットしたのさ)
Childish Gambino - "One Up (feat. Steve G. Lover)"


'Extra Life'の例
に対してある推測が湧き立つ。前半部分は批評家やヘイターに向けたものだろう。注目すべきは後半部分。ここでは、テレビゲームのアイテムをネタにして「ライフ(機)が増えた」と言っている。この「ライフの数」で思い出されるのが、これまたドレイクである。
 ドレイクは自身の多くの楽曲中で、YOLO (=You Only Live Once「人生は一度きり」の頭字語)をモットーとして連呼している。過去には、その「YOLO」をタイトルに冠したRick Ross(リック・ロス)とのジョイント・ミックステープの構想もあったほどだ。


"You only live once: that's the motto nigga, YOLO"
(人生は一度きり:それが俺らのモットー、YOLO)
Drake - "The Motto (feat. Lil Wayne)"

Drake - "The Motto (feat. Lil Wayne & Tyga)"

 先のドレイクが描かれたジャケットのこともあっただけに、ここでガンビーノが言う「1UPしてライフが増えた」というラインからも、やはりドレイクを連想してしまう。深読みするなら、「俺は“人生は一度きり”だと言うドレイクと違って、もう1機ある(つまり、We ain't them:アイツはアイツ、俺は俺)」というメッセージを、遠回しに繰り返しているということになりそうだ。

 2011年発表のフリーEP『EP』の1曲目のヴァース頭では、

"Hard for a Pichfork, soft for a Roc-a-Fella"
(ピッチフォークにはハードすぎ、でもロッカフェラにはソフトすぎ)
Childish Gambino - "Be Alone"

なんて冗談混じりに、他業界からの転向組である自分のラッパーとしての立ち位置の奇特さを語っていたガンビーノ。「本流のヒップホップには及ばないけど、ピッチフォークではイケるっしょ」と思っていたわけだか、そのピッチフォークで超低評価された(加えてその屈辱のピッチフォーク評では、『Camp』はその己の立ち位置の奇特さの表現にガンビーノが失敗している、と評されている)ことを考えると、本人にとって「1.6」という数字は、我々リスナーが考える以上に堪えるものだったのかもしれない。

・これでもか!(ドヤ顔)

ルートヴィヒ・ヨーランソン
そんな心機一転、スワッグ増量なガンビーノによる今回のミックステープ『Royalty』を一聴してまず感じるのは、サウンド・プロダクション面での大きな変化である。これまでは先ほども言ったように、インディ・ロック路線のサウンドの上でラップするというのが彼のスタイルかつ真骨頂であり、また他のアクトにはみられない良い意味での「ゲテモノ感」を演出していて面白かった(同時にそれが音楽業は本気じゃない、“お遊び”だと野次られる理由のひとつにもなっていた)。しかし、本作では現行シーンのトレンドを意識したかのような、より「ヒップホップ寄り」な音作りが目立つ。
 プロダクション・クレジットを見ても音の変化は明らかだ。これまでの作品では、ガンビーノが俳優として出演している米コメディ・ドラマ『Community』の音楽担当であるLudwig Göransson(ルートヴィヒ・ヨーランソン)をメイン・プロデューサーに起用し、全曲を彼とガンビーノの二人で共同プロデュースしてきたところを、本作では、それら自作自演曲に加え、数名の外部プロデューサーを起用している(ドレイクのブレイクの決定打となった「Best I Ever Had」を彼に献上し、その後もNoah "40" Shebib(ノア “40” シェビブ)と並んでドレイクの右腕(“40”が右腕なら彼は左腕か)として腕を振るうカナダのプロデューサー、Boi-1da(ボーイ・ワンダー)製作のトラックを、この『Royalty』で2曲も採用しているのは、またしても意識してのことなのか何なのか分からないが、「ドレイクつながり」という観点から見て興味深い)。興味深いといえば、全18曲中、8曲をガンビーノが単独でセルフ・プロデュースしているというのも面白い点だ。こうしたサウンド面での変化からも、ルートヴィヒの音に善くも悪くも特徴づけられた既存のイメージからの脱却を図ろうとする、彼の意思が伝わってくる。

 そして本作において、従来との変化を何よりも感じるのが多彩なゲスト陣だ。それも相当豪華な面々が名前を連ねている(最後の18曲目「Real Estate」では、ガンビーノに米ドラマ『30 Rock』の脚本家の仕事の話をもちかけた女優/脚本家のTina Fey(ティナ・フェイ)がマイクを握っている)。
 ここでガンビーノ作品においての客演事情を簡単に整理しておくと、近作は長らく客演なしであった。今回のようにゲスト・ラッパーを招いたのは、ガンビーノがニューヨーク大学在学時に結成したコント集団「Derrick Comedy」に所属のコメディアン/作家/ラッパー/etc...のDC Piersonを、2010年リリースのミックステープ『I Am Just A Rapper 2』に呼んで以来、実に4作品ぶりのことである。
17曲目「Make It Go Right」
客演のキロ・キーシュ
それが『Royalty』では、Schoolboy Q(スクールボーイ・Q)や、Kilo Kish(キロ・キーシュ)ら旬の若手から、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)、Bun B(バン・B)といったベテラン勢まで幅広いメンツが大集結している。(feat. 〜)や、[Prod. By 〜]といった表記がずらっと並ぶトラックリストを見ただけでも、これまでには無かった“それらしさ”を確認できよう。


RZA
ところで、チャイルディッシュ・ガンビーノというMCネームが、「Wu-Tang Name Generator」という、自分の名前を入力すると「ウータン・クラン風」の名前を自動生成してくれるオンライン上のサービスから付けられたというのは有名な話(この逸話も、彼のラッパー業がセレブのサイド・ビジネスだと軽視されてきた理由のひとつだろう)。そんなウータン・クランとも縁のある(とは言い過ぎか)ガンビーノの作品に今回、本家ウータン・クランの総帥RZAとゴーストフェイス・キラーが参加しているのは特筆すべきことかと思う。
 ミックステープのリリース前には「ウータンのメンバーからのヴァース待ち」なんてツイートもあり、まさかとは思ったが、蓋を開けてみれば、前言通りメンバーから二名が参加していたのだった。適当にとって付けたようなふざけた名前でシーンに登場し、やれジョークだ何だと批判を受けてきたガンビーノだが、その名前の由来ともいえるウータン・クランのメンバーと共演出来たことは、同じウータンの一員として認められたとまでは言わないものの、彼がれっきとしたラッパーであるということの、正式なお墨付きに値するように思える。

ゴーストフェイス・キラー
 8曲目「American Royalty」と9曲目「It May Be Glamour Life」にそれぞれ客演参加しているRZAとゴーストフェイス・キラー。その存在を強調するかのような、2曲続けての起用が、仮に意図したものだと考えてみると(というより、自分にはそうとしか思えないのだが)、そこにはガンビーノの「これでもか!」と言わんばかりの強い思いが込められているように思えてくる。「ウータン・クランも認める俺だけど、まだ“おふざけラッパー”だなんて言えるのか?」とヘイターたちに啖呵を切るガンビーノのドヤ顔が頭に浮かぶ。

・「俺はラッパーだ問題」のゆくえ

"People tell me I should spit under Donald Glover/But I try to keep my real name undercover/Cause if you hear my name, then you think it's joke"
(みんなはドナルド・グローヴァーの名前でラップしたらって言う/でも本名は伏せる/だってもし俺の名前を聞いたら、全部ジョークだって思うだろ)
Childish Gambino - "The Last"『Culdesac』(10年)より)


ミックステープ『I Am Just a Rapper』
2もアリ)
そう、ガンビーノはミックステープ時代から、自身に貼られた「おふざけラッパー」という不名誉なレッテルをどうにか剥がそうと苦心し続けてきた(それも、ミックステープのタイトルを『I AM JUST A RAPPER』とするだけでなく、ご丁寧にも曲中のそこかしこで「I do not talk, I am just a rapper」と執拗に繰り返すぐらいだから、相当な念の押しようだ)。 そう言われてしまうのには、これまでに挙げたサウンド面の特徴だったり、名前の由来だったりといくつかの理由があるわけだが、一番はやはりあの人並み外れたユーモアのセンスと、それを育んだコメディアン上がりという彼の特殊な出自のためだろう。
 とにかくライムの内容が異質すぎる。性的メタファーを多用した彼のパンチラインは、時に巧いと言うよりは変態的と呼んだほうがいいぐらいである。保守的なヒップホップ・ファンには、Tシャツ&超短パンという出で立ちも含めて、とてもじゃないが受け入れられない存在であろう。ラッパーとしてのこれまでのキャリアを、言うなればこの「半お笑いスタイル」でやってきた、またそれを「ジョークじゃないって、マジでやってるから」と言うこと自体を、ある意味ラップの題材、ネタとして積極的に利用してきた感さえあるガンビーノ。そのお笑い譲りのパンチラインのつるべ打ちを武器に、ミックステープ市場でリスナーを獲得し、昨年ついにアルバム・デビューにまでこぎ着けたとはいえ、例のピッチフォークでの酷評もあったし、さすがに本人もこのまま同じスタイルで続けても、ヒップホップ・コミュニティから真のリスペクトを勝ち得るのは難しいと考えるに至ったに違いない。冒頭で触れた「パンチライン控える発言」に顕著な「変化」が本作『Royalty』から感じられる。

 パンチライン、それも特にガンビーノの十八番である下ネタ系パンチラインが影を潜めた一方、よく耳にするようになった印象を受けるのが、「Unnecessary」や「Real Estate」に顕著な「カネ稼いでるぜ」ライン、それと故郷ジョージア州やその州都アトランタを謳うラインである。次のラインは、そんなカネ稼いでるぜアピールもしつつ、パンチラインとしても面白い秀逸な一節。

"My bank account look like when little kids break shit/Ooooooh"
(俺の預金口座はまるで子どもがモノを壊したときみたい/ウーッ)
Childish Gambino - "Arrangement (feat. Gonage)"


'Ooooooh' ≒ $1,000,000

 考えてみれば、カネと地元のレペゼンだなんて、いかにもラッパーらしい。やはりスタイルをメインストリームのラップに寄せようとしているのだろうか。これまでは何もかもが異質すぎて思いもしなかったが、米南部のジョージア州育ちということもあり、今回のミックステープは、彼のアーティスト性の根っこにあるサウス気質みたいなものも感じさせる(同郷アトランタのラッパー、Alley Boy(アリー・ボーイ)を客演に迎えた、ガンビーノのセルフ・プロデュースによる「Real Estate」はダーティ・サウス調の曲)。 パンチラインの減少に関して、個人的には彼の代表曲である「Freaks and Geeks」や「Bonfire」のような、曲のどこを切り取っても美味しいパンチラインが味わえる、パンチラインの金太郎飴的楽曲が聴けなくなってしまったのは、少し寂しい気もするが。

Childish Gambino - "Freaks andGeeks"

Childish Gambino - "Bonfire"

 さて、それではガンビーノは本作で、長きに渡り抱えてきた「俺はラッパーだ問題」にケリをつけることができたのだろうか……なんて言ってみたものの、ここまで来ればもうお分かりかと思う。インディ・ロック調のオケで、チンコと女のことを、それこそスタンダップ・コメディアンのように、面白おかしくラップしていた、かつての文化系で非モテのナード・ラッパーは今、最高峰プロデューサーが制作した旬のヒップホップ・トラックに豪華ゲストを招いて、他のラッパーがするみたく「カネ稼いでるぜ」とラップしている。米コメディ番組SNLで活躍するお笑いトリオ、Lonely Island(ロンリー・アイランド)のように、あくまでも亜流で終わる気などガンビーノにはさらさらなさそうだ。
 また、ひたすら面白いことを思いつくままに吐き出してるだけで、中身がないと言ってしまっても問題なかったであろう、これまでのガンビーノのリリックを思い返すなら、Nipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)をフィーチャーした『Royalty』4曲目「Black Faces」で、テーマを設けて、しかも'CHILDISH'のくせに、大人なテーマに挑戦している(この曲では人種問題)ことが実に意義深く思えるし、一連の変化という点においても示唆的である。

"Magazines got black faces when somebody dies"
(黒人が雑誌の表紙を飾るのは亡くなった時だけ)
Childish Gambino - "Black Faces (feat. Nipsey Hussle)"


『Royalty』で聴けるガンビーノのラップにはもう、これまでの自称“Mr. Talk About His Dick”(ミスター・チンコ)の影はない。これで「ラッパー」の前についていた不名誉な修飾語が取れ、胸を張って「俺はラッパーだ」と名乗ることが出来よう。あ、でも、このミックステープを聴けば、もう誰もガンビーノのラップにかける真剣味を疑いやしないんだから、以前のように「I am just a rapper」なんてわざわざ言う必要もないか。



2012年5月2日水曜日

I Don't Like〜洗練されたバカ



"BANG, BANG"

 "BANG, BANG"「バン、バン(というか、“バイン、バイン”)」が頭から離れない。
DJ Kenn
Chief Keef(チーフ・キーフ)が呪文のように繰り返すあのアドリブだ。チーフ・キーフはイリノイ州シカゴ在住、現在若干16歳のティーンラッパー。昨年10月にミックステープ『Bang』を、そして今年3月に『Back from the Dead』をリリース(前者は、右も左も分からないシカゴの路上を歩いていたところをチーフ・キーフの叔父に拾ってもらったという日本人プロデューサー、DJ Kennが大半の曲を製作)。どの曲を聴いても、耳に残るのは彼の口から言い放たれる"BANG, BANG"という銃声音。いうなら、この“バイン、バイン”の響きとノリだけで強引に作品を聴かせる、といっても過言ではないぐらい印象的で中毒性のあるフレーズ。だが彼の銃が火を吹くのはなにも楽曲内に限った話ではないようだ。

 昨年12月、チーフ・キーフは武器の不当使用で逮捕され、自宅監禁を強いられるハメに(ミックステープ『Back from the Dead』というタイトルは、このときの警察とのいざこざで、チーフが死んだとの噂が流れたことに由来)。しかしこの一件が彼の名を世に知らしめる起爆剤となる。
 チーフ・キーフの出所後、その知らせに歓喜する少年の様子を収めたビデオがポータル動画サイト「WORLD STAR HIP HOP」にて公開されたのを機に、「チーフ・キーフって誰?」と、当時シカゴの限られた地域以外では無名であった彼に一気に注目が集まり始めた。見知らぬラッパーをめぐりネット上で巻き起こるバズを受け、シカゴのヒップホップ・シーンを紹介するブログ「Fake Shore Drive」がミックステープと共にチーフ・キーフを取り上げたことで、そのバズはさらに拡大。瞬く間に彼の名前はシカゴのストリートを飛び出し、広く世に知れ渡ることに。その人気の高まりは今日、キャッシュマネーのボス、Birdman(バードマン)が彼との契約を希望するまでに至っている。



Chief Keef - "Bang"

「オレ嫌い」

 先に述べたバードマンをはじめ、"Bang"のリミックスを発表したLil B(リル・B)や、インタビューでチーフ・キーフの名前を挙げたDanny Brown(ダニー・ブラウン)など、業界内でチーフ・キーフに関心を示す者は少なくない。そんなチーフ・キーフに魅せられた者の一人が"I Don't Like"のリミックスを発表した、同じくシカゴ出身のKanye West(カニエ・ウェスト)である。
 カニエの新曲"Theraful"(のちに"Way Too Cold"にタイトル変更)でマイクを握るDJ Pharrisの話によれば、なんでも"I Don't Like"はカニエにとって、あの"Niggas In Paris"に次ぐ2番目のお気に入り曲なのだという。この話からはカニエの相当な入れ込みようが窺えるが、いくらなんでも2番目とはにわかには信じがたい。しかし、カニエの性格と"I don't like"「オレはキライ」という楽曲のテーマを考えれば、納得がいくような気もする。


Chief Keef - "I Don't Like (feat. Lil Reese)"

"A snitch nigga, that's that shit I don't like"
(告げ口するやつ、オレ嫌い)

"A popped bitch, that's that shit I don't like"
(ブスな女、オレ嫌い)

"Fake Trues, that's that shit I don't like"
(バッタもんのトゥルー(レリジョンのジーンズ)、オレ嫌い)

 チーフ・キーフの"I Don't Like"は、いわば彼の「嫌いな物リスト」。このように「これ嫌い」「あれ嫌い」と言いたい放題に自分の好き嫌いをぶちまける様子は、あの年齢で銃を握る反面、いかにも16歳のティーン・ラッパーといった感じである。
"Imma let you finish!"
そこで思い出してほしいのが、カニエのこれまでの言動と失態の数々だ。2005年にハリケーン・カトリーナがアメリカを襲った際の「ブッシュ大統領は黒人のことは何も考えていない」発言、2006年のMTV Europe Music Awardsで、自身の"Touch the Sky"が賞を逃した際の受賞者スピーチの妨害、そしてまだ記憶に新しい2009年のMTV Video Music Awardsにおける、受賞スピーチの妨害(俗にいう“テイラー・スウィフト事件”)など、カニエは自分の意に反すること、嫌いなものに対しては(チーフ・キーフと違い、もういい大人だというのに)場所や分別をわきまえることなく、素直に「嫌だ、キライ」と言ってしまう子供じみた性格の持ち主である。ちなみに"Mercy"では、

"Don't do no press but I get the most press, kid"
(ベンチプレスはしないけど、プレス(報道陣)はたくさん呼んでしまう俺)

Kanye West - "Mercy"

と、毎度お騒がせな自らのことを自嘲気味に歌っている。そんな自称"Sophisticated ignorance"*「洗練されたバカ」のカニエだけに、ひたすら「~が嫌い、~が嫌い」と歌うチーフ・キーフの"I Don't Like"に惹かれ、「俺も嫌いって言いたい!」と思うのは自然な成り行きのような気もする。

*(註) "Otis"より

 そして、いざカニエによる"I Don't Like"のリミックスを聴いてみたところ、ここでこれまで書いてきたことも、あながちただの邪推ではなかったように思う。

"The media crucify me like they did Christ/They want to find me not breathin' like they did Mike"
(マスコミ連中はイエスをはりつけたみたく俺を苦しめやがる/あいつらはマイクにしたように俺を殺したいんだ)

Kanye West - "I Don't Like (Remix)"

 カニエの"I DON'T LIKE"「嫌いなもの」はマスコミ。過去にマスコミから受けてきたバッシングを未だに根に持っているようである。ここでは、マスコミの過剰な報道が、薬や麻酔等の使用につながり、それが結果として彼を死に至らしめたという意味で、間接的にだがマスコミに殺されたとも言えるマイケル・ジャクソンと、同じように事あるごとにマスコミに叩かれてきたカニエ自身を重ね、「やつらは俺も殺そうとしてる」とマスコミを揶揄(と同時に、常にマスコミが目を離さなかったマイケル・ジャクソンのスター性と自分のそれとをも重ねている?)。
 やはりカニエは「王座」からライバルたちを見下ろす一方で、見上げたその視線の先にチラつく、亡き「キング・オブ・ポップ」の影を追っているのかもしれない。ただ、人生の絶望から大傑作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(10年)を生んだように、こうやってバッシングをクリエイティヴィティの糧とし、ラップで思いの丈を述べ、憂さ晴らしをしている分には、アーティストとして今後その高みに達しようとも、マイケル・ジャクソンのような悲劇を辿ることはないだろうと思う。


References:
http://gawker.com/5892589/hip+hops-next-big-thing-is-on-house-arrest-at-his-grandmas-meet-chief-keef
http://somanyshrimp.com/2012/03/22/bang-the-launch-of-a-16-year-old-chicago-rapper/
 

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