2018年7月22日日曜日

デンゼル・カリー「Live at WOO HAH! 2018」〜エックスを殺したのは誰だ



 オランダのヒルヴァーレンベークにて開催された音楽フェス「WOO HAH!」にデンゼル・カリーが出演し、同郷南フロリダ出身の故XXXテンタシオンに黙祷がささげられた。デンゼルが呼びかけると、観客たちが両腕を交差させて作る「X」で会場一体はうめ尽くされた。
 デンゼルとエックスはお里が同じであるだけでなく、同じ屋根の下に暮らしていたこともあるくらい近しい間柄にあった。問題を山ほどかかえたエックスをそれ以上のトラブルから遠ざけるために、デンゼルはロニー・Jらフロリダの仲間とともに住んでいた家に彼を招き入れたという。
 エックスの死後、デンゼルは追悼文や哀悼ソングといった形では弔意を述べていないが、代わりにエックスが生前彫っていたのと同じタトゥー「Wing Ridden Angel」を腕に刻んでいる。エックスの持ち歌には、そのタトゥーと同名の曲があった。そこで歌われるのは、彼のほかの多くの曲と同様に自死である。

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 エックスへの弔(とむら)いパフォーマンスにつづけて披露されたのが「Clout Cobain」だ。この曲について、「ミュージックビデオではそこまで描かれないが、聴衆のなかには悲劇の現場をスマホで録画し、SNSに投稿する者がいてもおかしくない。なんたって『いいね』を稼いで、オンライン上の『影響力(ルビ:クラウト)』を高める千載一遇の機会だから」と半ば当てずっぽうで書いたのだけど、その読みは決して間違っていなかった。というのも、「WOO HAH!」のステージで「Clout Cobain」が披露された際、デンゼルと相棒のDJが前口上としてこんなやりとりをしている。

「クレイジーな話があるんだが聞いてくれないか」「どんな話?」「エックスが死んだときだけどさ」「ああ」「連中は911番に連絡もせず、黙ってカメラで撮影してたんだ。どうかしてるぜ。みんなもそう思うだろ」(観客の歓声)「あいつらはクラウト欲しさにやってるんだ」「クラウトなんて糞食らえだぜ」「なにがクラウトだ、くだらねえ!」「ファック、クラウト!」「ファック、クラウト!」「ファック、クラウト!」……「それじゃ『Clout Cobain』いってみよう」

 エックスは凶弾に倒れた。でも彼の音楽を知る者なら誰でも、彼がいつ自殺してもおかしくないような、あやうい存在であったことを知っている。仮に幸いにもこのような悲劇をまぬがれたとしても、早晩彼の身になにかが起きたかもしれないと思ってしまうのは、僕だけではないはず。ほんとうにそんなことになれば、デンゼルが「Clout Cobain」のビデオでサーカスの観客に象徴させて描いた、“アーティストを道化にして弄ぶファンやメディア”がその責任の一端を担っているのは言うまでもない。「Clout Cobain」は音楽業界の風潮へのアンチテーゼであり、デンゼルが亡き友エックスにささげる鎮魂歌でもあるのかもしれない。


Denzel Curry - Live at WOO HAH! 2018


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