2018年1月3日水曜日

デンゼル・カリー「ULT」



 デンゼル・カリーが提唱するモットー“ULT”(読み:ゆーえるてぃー)とは「ultimate」の略語であり、「ultimately liberating together(究極の解放)」「utilizing limitless talent(無限大の能力の発揮)」を意味する造語である。
 そんな“ULT”という精神的な旗じるしのもと作られたのが『Imperial』(16年)だ。
 ダダダダダダダダダ……と一定のリズムで抑揚なく紡がれるデンゼルのフロウは、自動機関銃の掃射を思わせる。キャンプ・フログ・ノーの会場でライヴを観たときは、あの“掃射フロウ”から単なる比喩以上の“被弾感”を強く受けた。デンゼルのフロウに射抜かれた観客は二重の意味で躍らされる。ひとつはダンスミュージックを楽しむ主体的な踊り。そしてもうひとつが、止まない言葉の弾丸の雨にさらされて、倒れることすら許されず、その場でただ宙を舞うしかない死の舞踏である。

『Imperial』制作のいきさつには、2年間交際したガールフレンドとの破局によるうつ体験があるという。デンゼルが“ULT”に解放の意味を持たせたのは、落ち込んだ気分からおのれを解き放つためなのだろうか。それに、デンゼルが経験した“別れ”はガールフレンド以外にもうひとりいる。
「Gook」のフックでデンゼルはこのように歌っている「俺はパープ(ル)には手を出さない、ヤムズが死んだ原因だから」。ヤムズことエイサップ・ヤムズは、パープ(ル)やリーンなどと呼ばれる、咳止めシロップとジュースを混ぜて作られるドラッグの過剰摂取で亡くなった。ただし、この曲でデンゼルは反ドラッグ宣言をしたいわけではない。「パープ」がここで真に意味するのは、デンゼルがかつて在籍していたマイアミのラップ・コレクティヴ、レイダー・クランのリーダー、スペースゴーストパープのことである。レイダー・クランはメンバーの脱退をきっかけに空中分解し、パープと仲間たちは反目し合う間柄となった。
「ULT」という曲でも「Gook」と同じく、スペースゴーストパープとの決別が示唆される。「あのとき憧れたあの人が、いまは俺に引退を迫ってくる」と歌われる“あの人”とはもちろんパープのこと。これにつづくフックのライン「幽霊になって線を断つ」は、泥沼の抗争劇をくり広げたパープとの関係を断つのだという宣言にほかならない("When I'm ghost, I'mma cut the line")。

「Noisey」のインタヴューでパープとの関係を訊かれたデンゼルの言葉には、かつてディスの応酬のなかで見せた怒りや憎しみなど微塵もなく、パープの才能と彼がいまのラップシーンにもたらした功績を心から讃えている(要約すると「パープにはメトロ・ブーミンやカニエに匹敵する才能がある。でも躁うつ持ちでぶち壊してしまう。だからといって彼を責めることはできない」)。
「ULT」は上述のように、デンゼルが幽霊になるという一風変わった歌詞の歌である。なぜ幽霊なのか。もしかしたら、デンゼルが断ち切ろうとしているのはパープとの関係だけでなく、ささいなことで傷ついたり、腹を立てたりしていた、まだ未熟だった昔の彼自身の肉体とのつながりでもあるのかもしれない。過去の自分との決別・超克こそが究極の解放であり、無限大の能力の発揮、すなわち“ULT”なのだ。


Denzel Curry - "ULT"


Denzel Curry - "Gook"



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