2015年6月27日土曜日

タイラー・ザ・クリエイターを入国させるな



 もうなんなのこれ。腹立たしい。オーストラリアの活動家団体が、同地でのライブ公演を控えるタイラー・ザ・クリエイターの入国を阻止しようと移民相にビザ剥奪を求める嘆願書を提出した。タイラーの「女性差別的」な歌詞を問題視しての抗議活動らしいけど、タイラーが「亡骸になったお前を森に引きずっていって犯してやる(「She」より)」とか凶悪なことを言ってたのは昔の話だから。若者の自己実現を応援する『Cherry Bomb』(15年)を聴いてもらいたい。それにしても、こういう良識派ぶった連中からは「レイプなんてとんでもない!」と批難される一方、古参のファンからは「ポジティブになってつまらない!」とそれとは真逆の要求をされるタイラーは大変だなあ(似たような事例として「Rusty」でも、甘美でメロディアスな曲のファンと暴力的な曲のファンとの板挟みについてラップしていたのを思い出した。「"Analog"のファンはレイプに飽き飽き、"Tron Cat"のファンは湖(レイク)にうんざり」)。嘆願書では「今日のオーストラリアでは週に2人の女性が近しいパートナーによって命を奪われています。ヴィクトリア警察ではDV被害者からの通報を10分毎に受けています。このような社会的背景を踏まえるなら、タイラーの歌詞は女性への暴力を助長する危険性を孕んでいると言えるでしょう」とかつらつら書いてるけど、それ本質的にはタイラーと無関係でしょ。犯罪の要因を聴いている音楽とかその人の属性にばかり求める風潮は、そろそろどうにかならないものだろうか。


Tyler, The Creator - "She (feat. Frank Ocean)" 



『Cherry Bomb』批判にタイラー・ザ・クリエイターが反論



 昔の鬱屈したタイラー・ザ・クリエイターが好きだったと語る元ファンの少年が、タイラーをオワコン判定したところ、タイラー本人がそれに反論した。その元ファンの主張を要約すると以下の通り。『Cherry Bomb』(15年)のタイラーは高級車やジュエリーを見せびらかす自惚れに成り下がってしまった。女子とのトラブルに悩む、鬱々としていた頃のタイラーには共感できたが、いまはもうできない。

 ファンの心情にしてみれば、これまでのタイラーは父親がいない、学校になじめない、女子にモテない、そんな“ないない尽くし”の冴えない日常を送る「俺たち」の代弁者だったのに、少し有名になって小銭を稼いだからって、急に「翼を見つけろ」だなんて説教垂れやがって、といったところだろう。キャリアの初期から追いかけている熱心なファンであればあるほど、『Cherry Bomb』で「サッド」から「ハッピー」になったタイラーに当惑してしまうのは、女子をプロムに誘うも断られ、腹いせに凶行におよぶ「Sarah」など初期の暗い楽曲郡を思い返せば当然のこと。『Cherry Bomb』に収録の「2 SEATER」でタイラーは、ガールフレンドを愛車のBMWの助手席に乗せて疾走する。裏切られた気持ちになるのも、わからないでもない。でもタイラーも反論に書いているように、アーティストは成長し、変化していくもの。同じことをいつまでもつづけるわけにはいかない。タイラーがすばらしいのは、そうしたファン心理をきちんと理解したうえで発言しているところだ(「好きなアーティストの特定の時期に固執してしまうのはわかる、俺もやってしまうから」)。それに、タイラーが「翼を見つけて」ほしいと語りかけている相手というのは、そういったポジティヴなメッセージに反感を覚えてファンを辞めたという今回の少年のような人物なのではないだろうか。ネットばっかやって、だらだらと現状への不満や文句を垂れているのではなく、目標をもって行動を起こせという、タイラーが「FIND YOUR WINGS」の三語に込めたメッセージが、元ファンの少年に伝わらなかったのが残念でならない。



 

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