2018年7月1日日曜日

続々・カニエ・ウェスト『Ye』〜シンク・ディファレント



「ニューヨーク・タイムズ」紙のインタヴュー記事「Into the Wild With Kanye West」によれば、カニエ・ウェストは精神衛生上の問題を理由に病院へ緊急搬送された一件以来、日々のできごとやその日に感じたことをメモに書き留めており、『Ye』(18年)ではそのメモをワイオミングに集まったソングライターたちと共有して、リリックを書き上げていったらしい。
 作詞に関わったとして記事のなかで名前が挙がっているのは、サイハイ・ザ・プリンス、コンシークエンス、マリク・ユセフなどグッド・ミュージック周りの面々。そのほかにも「Yikes」のサビを書いたといわれているドレイクをはじめ、本作の作詞には大勢の人物が関わっている(ゴーストライターの起用を疑われて批判にさらされているドレイクが、実は代作している側だったとは、なんたる皮肉だろう)。
 実際のところ、カニエたちがどのような体制で音楽を作っているか詳しくはわからない。インタヴューでは「みんなで膝を突きあわせて考えて、考え直して、書いて、書き直して、また書き直す」と話しているので、もしかしたらブレインストーミングのような形をとっているのかもしれない。ラッパーが自分でリリックを書かないなんて言語道断、けしからん!と怒る向きもあるだろうけど、カニエにそれを言ってもお門違いだ。「I Thought About Killing You」でも宣言しているように、カニエには従来のルールなんて知ったこっちゃないのだから(It's the different type of rules that we obey)。
 仮にアイデアや構想だけ考え、実務は有能なプレイヤーたちに任せてカニエ自身はディレクションに徹しているのだとしたら、完成した作品(製品)をショーアップして披露するという共通点も含めて、アップルの故スティーブ・ジョブズを彷彿させる。
 ジョブズもルールや慣習に縛られることのない人物だった。カニエ同様に型破りなその性格は、伝記『スティーブ・ジョブズ』のなかで詳しく綴られている。なかでも象徴的なのが「現実歪曲フィールド」と呼ばれたジョブズの思考法だ。マッキントッシュの開発チームメンバーだったアンディ・ハーツフェルドは現実歪曲フィールドを「カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でもねじ曲げる熱意が複雑に絡みあったもの」と説明している。要は、あらゆる物事を自分に都合のいいように解釈してしまうということ。伝記を読むと、完璧主義者のジョブズから無理難題を突きつけられ、ときには罵詈雑言もあびせられながら四苦八苦する開発チームの様子が伝わってくる。この本で語られるジョブズの人がらは、一言で表すなら「クレージー」だ。でもその一方で、ジョブズは型破りであったからこそあれだけのイノベーションを起こせたのだということもありありとわかる。
 奇人、変わり者、もしくは凡人にはわからないといった言葉で片付けてしまうのは簡単だけど、ジョブズはまさにそういう人物だった。「クレージーな人たちがいる……」の一文で始まるアップルのキャンペーン広告「Think Different」ではこう謳われる。

「反対する人も、賞賛する人もけなす人もいる。しかし、彼らを無視することは誰にもできない(About the only thing you can’t do is ignore them)。なぜなら彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーだと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから」(ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳『スティーブ・ジョブズ Ⅱ』講談社+α文庫)

「I Thought About Killing You」でカニエも同じようなことを歌っている。「みんなは俺が暴れるのを期待してる。何だかんだ言っても結局はイェを無視できないんだ(All you gotta do is speak on ye)」

『Yeezus』(13年)の発表時にも「ニューヨーク・タイムズ」紙のインタヴューを受けているカニエは次のような言葉を残している。これぞカニエの真骨頂である自意識過剰ともいわれかねない大胆不敵な発言だが、はたして躁鬱やドラッグ依存といった自身の問題と向き合い、「エゴを殺した」いまのカニエも同じように考えているのだろうか。
「カニエ・ウェストという名前は、そのうちスティーブ・ジョブズと同等に語られるようになると思う。(中略)スティーブが亡くなったいま、本当にそう思うんだ。ビギーが亡くなったときにジェイ・Zがジェイ・Zになれたみたいにさ」


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