2018年6月3日日曜日

カニエ・ウェスト『Ye』



 カニエ・ウェストは『Ye』(18年)でようやく“カニエ”と折り合いをつけることができたのではないだろうか。
「近ごろのカニエって不機嫌だし、いつも無礼でイヤな感じ」。「I Love Kanye」という曲でカニエが自嘲まじりに歌う、世間の考える“カニエ”の人物像だ。カニエはそんな“カニエ”が大好きだと豪語する。だが果たしてそれは本心だっただろうか。最後のライン「きみたち(ヘイター)を愛してる……カニエが“カニエ”を愛してるみたいにね」は、自意識の異常なまでの肥大化という問題の本質を皮肉ではぐらかし、開き直って見せているだけのようにも聞こえる。カニエは本当に“カニエ”が好きなのだろうか。
 一方、躁鬱をかかえていることを認め、それを障害ではなくスーパーパワーと呼ぶ『Ye』収録の「Yikes」はどうか。心の病やドラッグ依存など自身の問題と正面から向き合い、障害をバネにして前進しようという前向きな姿勢がこの曲からはうかがい知れる。
 今回カニエが自分と向き合ったことは、アルバムのタイトルにも表れている気がする。これまでは「イーザス神」や「使徒パウロ」など仰々しい名前を冠していたのが、本作は己が名前のイェである。
 カニエ本人は一曲目「I Though About Killing You」「自己愛の欠如といった類のよくある話」ではないと否定しているけど、『Ye』は膨れ上がる自意識と折り合いをつけたカニエが、真の自己愛を見いだした作品だと思う。
 こうした『Ye』のモードには、ポジティブなメッセージを通して自己受容の尊さを伝えるリル・Bやロジックたちの存在が少なからず影響していそうだ。「we got love」をあいことばに愛を提唱する様子は、リル・Bの“BASED”な一連の言動、あるいはロジックの掲げるモットー「peace love and positivity」に通じるところがある。また躁鬱と向き合うカニエの姿は、不安神経症に襲われた体験を「Anziety」という曲で打ち明けていたロジックの姿に重なる。
「I Though About Killing You」でカニエが殺そうとしているのは、不機嫌で無礼な“カニエ”自身なのかもしれない。でも殺しはしないだろう。カニエは“カニエ”とうまく付き合っていく。「躁鬱はきついけど、すばらしい(I hate being bi-polar, its awesome)」のだから。かつてカニエが「Stronger」で歌っていた一節が思い出される「俺を殺さないものは、俺をさらに強くする」。カニエはスーパーヒーローだ。うひぇえええええーーーーー!





<Related Articles>





0 コメント:

コメントを投稿

 

T H A T S * I T C R A Y ! Copyright © 2011 -- Template created by O Pregador -- Powered by Blogger