2018年2月18日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『FLOWER BOY: a conversation』



 タイラー・ザ・クリエイターが『Flower Boy』(17年)の制作秘話を明かすインタビュー『FLOWER BOY: a conversation』が公開された。タイラーの対談相手は俳優のジェロッド・カーマイケル。真剣なまなざしでメロディやコードについて熱く語るタイラーの音楽博識ぶりを窺うことができる。タイラー作品を熟知したカーマイケルの質問も冴え渡っている。白眉は「Who Dat Boy」のあのおどろおどろしい音の秘密。ある一枚の写真が着想元になっているという話には、感心のあまり唸ってしまった。タイラーがただのラッパーではなく、クリエイターたるゆえんの一端をまたしても垣間見た気がする。以下は全長68分あるインタビューからの抄訳・意訳なり。


FLOWER BOY: a conversation


JERROD CARMICHAEL:アルバムを聴いて、まず尋ねたいのだけど、大丈夫? 何かあったの?
TYLER:『Cherry Bomb』では意図的に個人的な話を一切しなかった。純粋に音楽を聴かせたかったんだ。対して『Flower Boy』ではいま感じていることをすべて書き出してみた。

J:制作中に聴いていた音楽は?
T:マックス・マーティンやファレル、ジャスティン・ティンバーレイクを聴いていた。クラブは嫌いだけど、遊びに来ているひとたちの反応を観察するために行っていた。昨晩出かけたハウスパーティで「See You Again」がかかって合唱が起きたときは嬉しかったな。みんなクラブに行くような人たちで黒人だった。

J:「Mr. Lonely」について聞かせてください。
T:最高に悲しい歌を書いて、踊らせたかった。「911」と「Mr. Lonely」はもともと別の曲だったんだ。「911」は制作過程で計25ヴァージョン作った。最初はトニー・トニー・トニーのインタールードをサンプル、ループした曲で歌ったものだった。

J:“I can't even lie I've been lonely as fuck”のパートは悲しくもあり、愉快です。
T:白タンクトップ[ワイフビーター]を着たフッドの男のバレンタインデーを想像して書いた笑。みんなで歌ったら面白いだろうと思ったし、そのあとの展開を暗示する役割もあるんだ。

J:「Foreword」のテンポは独特だと思います。
T:カンというバンドの曲をサンプリングして作った。クラウトロックにずっとはまっているんだ。シルバー・アップルズとか、プログレッシブ・ジャズのソフト・マシーンとか、ヨーロッパっぽい、東欧風なサウンド。ポーティスヘッドにも影響を受けている。


Can - "Spoon (Sonic Youth Remix)"

J:実存主義的というか、自暴自棄にも聞こえます。
T:まずこの曲で俺がいま何を考えているのかを伝えたかった。暗い曲調なのはたしかだけど、決してうつではないからね! うつと自己認識[self awareness]を混同するひとが多いんだ。孤独だけど、これまで生きてきて一番楽しく過ごしているよ。

J:「Where This Flower Blooms」ではうぬぼれについて歌っています。
T:自分ひとりの手柄だとは言わないけど、ミュージックビデオを撮ったり、ポップアップショップを開いたり、当時まだ誰もやっていなかったことを先駆けてやっていたのに、誰からも功績を認められていないんだ。「T[Tyler]のことは黙殺、ただの俺のエゴかもしれないけど」という歌詞はそのことについて歌ってる。

J:“黒人の少年たちに伝えるんだ、自分らしくあれと”はお気に入りのラインです。
T:俺みたいなやつには誰もそんな風に声をかけてくれなかった。12歳のとき、スノーボードをしに行ったら、それは白人のすることで黒人のすることじゃないって言われたんだ。自分がやらないからって水を差すようなことを言ったり、肌の色で十把一絡げにして、あれこれ指図するのはやめてほしい。

J:「Boredom」について聞かせてください。
T:この曲を書いたのは土曜日の午後5時ごろだった。何もすることがなく、誰からの返信もなくてすごく退屈だった。ジャスパーが近くの部屋にいたけど、一日中顔を見ていなかった。食べ物もドライシリアル以外なにもなくて、じっと座ってるしかなかった。高額納税者だからやりたいことがあれば何だってできるし、車も持っていてどこへでも行けるのに、肝心の行くあてがないことに当惑してしまった。どうしてこんなに退屈なんだろうって。そんな気持ちについて書いた。

この曲はスティーヴィー・ワンダーの「God Bless the Child」のコードで書いた。コードを研究して、部屋で何時間も聴きながらヴァースを書いた。当初は30〜40小節あったけど、フックを繰り返したかったから半分にしたんだ。低い声で長々とラップされるのを聴くよりも、俺は黙って、フックを聴かせた方がいいに決まってる。コーチェラで白人の女の子が歌えるようにね。マジな話、フェスに出るようになってわかったけど、白人はシンガロングするのが大好きなんだ。



J:「I Ain’t Got Time!」について聞かせてください。
T:元々はカニエのスタジオで『The Life of Pablo』セッション中に録った曲。別々に作ったふたつのビートを組み合わせてる。フックと1stヴァースを書き上げてみたものの、カニエは気に入らないだろうなと思ってた。ニッキー・ミナージュの声がはまると確信してたからビートを送ったんだけど、彼女は、ごめんなさい、何も思いつかないって言うんだ。うそだろ、これを聴いて何とも思わないってありえなくね? まあ俺に才能がないのかもしれないけど。だから2ndヴァースも自分で書いたんだ。

(転調してからは)リル・ウェインが06-07年のミックステープでやっていたように、とにかくラップしてラップしまくった。せめて1曲ぐらいはこれぐらいラップしなきゃいけないと思ってた。だってどの曲もすごくパーソナルで、“あたし恋してるの、でも悲しいわ、どうしたらいいのかしら”って感じだからね。

J:「Who Dat Boy」について聞かせてください。
T:もともとはスクールボーイQのために作った曲。ビートやフロウをボイスメールに吹き込んで送ったんだけど、あいつは興味を示さなかった。エイサップ・ロッキーのヴァースを加えたものも送ったけど興味なし。それでもこの曲を聴いた連中の反応がものすごくよかったから、自分で使うことにしたんだ。


この曲はジョナス・ベンディクセンという写真家の撮った、腕組みした女性が背後の気配を窺うようにうしろを振り返っている写真に触発されて作った。この写真のフレーム外にあるその気配みたいなものを音にしたかった。

J:「Sometimes」について聞かせてください。
T:白昼夢を見るみたいに、四六時中、俺の頭の中で鳴っている音楽。

J:「See You Again」は何について歌っているのですか。
T:夢の中でだけ会える人物についての歌。「戦争に行く」というのは「眠りから目覚める」という意味。夢から覚めて現実の世界と向き合わなきゃいけないだ。

J:「Glitter」はどの曲よりもポップス寄りで、歌っていますね。
T:これはジャスティン・ビーバーのために書いた曲。ラップパートはクエイヴォに歌ってほしかった。「mirror mirror on the wall〜」の部分はクエイヴォにインスパイアされて書いた。

J:「Enjoy Right Now, Today」について聞かせてください。孤独やパラノイアを経て、この曲では楽しそう、大丈夫そうだなと感じます。
T:写真いいですかって俺のところにやってくる連中は、断るとさっさとどっかに行っちゃうけど、俺は会話を楽しみたいんだ。携帯を置いてじっくり話がしたい。(携帯を頭上に掲げる動きをしながら)ショウでもみんなこんな感じだし。俺が5フィート前にいるにもかかわらず、今その瞬間よりも2週間後に画面のなかで楽しむほうがいいみたい。

J:「Enjoy Right Now, Today」のラストはスティーヴィーっぽいです。
T:スティーヴィーは俺の実存にかかわるゴッドファーザーみたいな存在。(スティーヴィーの歌でお気に入りのコードは)「Too High」「Looking for Another Pure Love」「Golden Lady」、ホセ・フェリシアーノの「Golden Lady」カバー



ミュージック・ソウルチャイルドの「143」は生涯トップ3に入る大のお気に入り曲。



「Señorita」のブリッジを聴くと死にたくなる。



「Settle for My Love」のブリッジもクレイジー。

リオン・ウェア「French Waltz」、マーヴィン・ゲイ「Since I Had You」のブリッジも完璧。コーテックス「L‘enfant Samba」のブリッジも耳にするたびに死にたくなる。ループさせて10分に伸ばしたヴァージョンも作ったぐらい。





ファレルの「Smile」という日本盤ボーナストラックも曲自体はひどい出来なんだけど、ブリッジはすばらしい。



J:「November」はもっとも重いテーマの曲です。
T:アルバムの中で最後に録ったのがこの曲。クランシーが裏切ったらどうしよう、「Who Dat Boy」がまったくうけなかったらどうしよう、会計士が着服していたらどしようって、そのときはあらゆることが最悪の結末になるんじゃないかと心配していた。

2016年の11月が人生最高の時期だった。家を新しく借りたり、コンバースとの仕事が始まったり、ジャスパーとプレステやニンテンドースイッチのマリオで遊んだり、公園に自転車に乗りに行ったりして遊んでた。「November」というのは、ひとでもいいし、曲でもいいし、時期でもいいけど、とにかく自分をとてもハッピーにしてくれるものなんだ。

J:どうして「花」なのでしょうか?
T:さあね、きれいだからかな。天然のアイキャンディだし、クールだと思ったんだ。アルバムのカバーはゴールデンアワー[日没後の薄明りの時間帯]を描いているんだけど、最近はゴールデンアワーになると、エヴリシング・バット・ザ・ガールの「Night and Day」をいつも聴いている。「November」の最初のパートはバンドのシンガー、トレイシー・ソーンに歌ってほしくて書いた。でも依頼はしなかった。すでにこの曲ではリック・ロスからも断られていたから。紆余曲折あってそのままにしてたけど、アルバムを完成させたかったから自分で歌うことにした。それからプレイボーイ・カーティにも参加してほしかった。「take me back, take me back〜」と歌うところ。リック・ロス、プレイボーイ・カーティ、それにトレイシー・ソーン、もし実現していたら、すごい曲になったと思う。



このアルバムでは、参加を希望したけど叶わなかったひとたちがたくさんいる。それでも結果的にうまいこと仕上がったと思ってる。ポップスのミュージシャンたちをプロデュースしてみたいな。俺はクールなメロディが書けるからね。まだ誰からもお呼びがかからないけど。スコアも手がけたい。ラップだけが能じゃないんだ。服やら何やらをクリエイトしていきたい。ラップなんてもう飽き飽き、なんてね。楽しいから好きだけど。

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