2016年12月25日日曜日

ソランジュ「Mad」



 Solange(ソランジュ)の「Mad」『Seat At the Table』(16年)所収)はその名の通り「怒り」について歌った曲だ。「Mad」の導入部分を担うインタールードで父マシュー・ノウルズが語っているように、また「Rookie」による『SATT』のレヴューで、作家ジェームズ・ボールドウィンの「この国において、黒人であり、少なからず意識を高く持つということは、すなわち四六時中憤怒させられるということだ」という言葉が引用されているように、ソランジュの「Mad」という曲の背景には人種差別に対する憤りがある。またそうした怒りを「怒れる黒人女性」というステレオタイプで片付けられてしまう事に対しての憤りも感じさせる。穏やかなメロディに乗せて歌われる歌詞は人種差別に直接言及もしなければ、怒気を孕んだ言葉も見当たらない。しかし「Mad」に込められたメッセージは強靭だ。なんでいつも怒っているのか、なんでいつも文句ばかり言っているのか、って? それは腹立たしいことが山ほどあるから(I got a lot to be mad about)。

 僕がこれから書くことは、ソランジュのメッセージを矮小化しているかもしれない。僕の怒りなんて、ソランジュのそれに比べたら取るに足らないことかもしれない。それでも書かせてもらう。腹立たしいことがうんとたくさんあるのだ。
「Mad」には、テレビ番組のインタビューで「ブラック・ライヴズ・マターなんて知ったこっちゃない」と発言して物議をかましたLil Wayne(リル・ウェイン)が客演参加している。そんなウェインが人種差別に対して怒っているわけもなく、「Mad」では彼が所属するキャッシュ・マネー・レコードのカネの未払いに対して不平を言っている。怒る理由はひとそれぞれだ。

 朝の混雑した電車、駅構内には腹立たしいことが山ほどある。階段やエスカレーター前では利用客が滞留して渋滞が起きる。人混みに揉まれて窮屈な思いをするのは嫌だけど、それ自体は仕方がないので怒りはしない。腹立たしいのは、そういった状況で人を押しのけて無理矢理前進しようとする人たちだ。急ぐのは勝手だが、肩をぶつけて割って入ったり、後ろから背中をぐりぐり押したり、他人に迷惑をかけるような行為は断じて許されるべきではない。そんなに急ぐなら、もっと時間に余裕を持って行動するべきだと思う。前夜五分早く布団に入って、朝五分早く起きて、五分早く家を出て、一本早い電車に乗ればいい。慌てて駅を駆け回る人たちの姿は、ラット・レースのネズミそのものである。僕はそんな風に朝から慌ただしくしたくないので「余裕」を大事にするよういつも心がけている。死にもの狂いで座席に着こうと整列乗車を乱す輩も腹立たしい。何が何でも座りたいというのであれば、列の先頭に立てるよう時間に余裕を持って行動するか、次の電車を待てばいい。対価を払わず利益だけ享受しようなんて、虫のいい話だ。
 余裕のなさが人を堕す。逆に、時間的な余裕は心の余裕につながる。心に余裕がないから、他人を突き飛ばすことに無頓着になれるのだ。心の余裕はさらに寛容につながる。後ろから無理矢理割り込まれたり、横入りされたときは、嫌だなあと思いつつ、黙って前を譲っている。ファック・ユーと罵りたい気持ちを飲み込んで、心の中でアフター・ユー(お先にどうぞ)とつぶやくのだ。マタニティマークならぬ、アフターユーマークを鞄に取り付けたら、割り込みのための体当たりをやめてくれるだろうか。
 混み合う駅構内で歩きスマホをしている人も腹立たしい。歩きスマホの弊害は歩みが遅くなる点だ。前述の慌てるべからずという発言と矛盾するように聞こえるかもしれないけど、混雑した駅をスマホをいじりながらのろのろ歩かれると、後ろに並ぶ人の迷惑だし、それが原因でさらなる混雑が発生する。人の流れに淀みをもたらしている。どうしても歩きスマホをしたい場合は、いつもより早足になるよう意識して歩けばいいと思っている。スマホに注意がいって減速した分を早足歩きが相殺することで、のろのろ歩きが解消されるはず。
 降車客が降り終わる前に電車に乗り込もうとする人、大股開きで座席に座る人(我が物顔で大股開いて座るのは大抵の場合、男性である。お前のいちもつは股を閉じて座れないほど立派なのかよ。股間目掛けてグーパンチを食らわせてやりたい)、混雑した車両内を無理矢理縦断(車両間移動)する人(降車駅出口の最寄りのドアで降りたい気持ちは理解できるが、それなら最初からそのドアから乗ってください)、建築家の安藤忠雄(2013年に行われた渋谷駅の改装工事によって、東横線ユーザーの利便性がいちじるしく損なわれた)にも腹が立つ。腹立たしいことが山ほどある。

 腹立たしい気持ちになったときは、ソランジュの「Mad」を聴く。曲中ソランジュが出会う少女の問いを自分にも投げかけてみる「なんでそんなに怒ってるの?」。「Mad」は怒りを歌った曲であるはずなのに、聴くと怒りが静まる不思議な魅力を持った一曲だ。





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