「みんなYoung Thug(ヤング・サグ)のことを好きだっていうのに……」とは、実に上手いことを言うなあと感心してしまった。Kevin Abstract(ケヴィン・アブストラクト)にはボーイフレンドがいる。でもケヴィンのお母さんは「ゲイ嫌い」。家族に理解者がいないというのは、同性愛への無理解に限らずつらいことである。そこでケヴィンは、心の安らぎをパートナーの方に求めたくなるわけだが一筋縄にはいかない。ボーイフレンドは「ケヴィンの肌の色を怖がるかも」という理由から両親をケヴィンに会わせようとしない。つらい。二重の意味で社会のマイノリティなのが、とてもつらい。アメリカは生きづらい。ケヴィンはそんな息の詰まる社会を「みじめなアメリカ」と呼ぶ。
アメリカの生きづらさを訴えた作品として、グザヴィエ・ドランの監督作『トム・アット・ザ・ファーム』(13年)が思い出される。物語のクライマックス、ゲイであるトムを暴力で抑圧するフランシスのジャケットの背中では、これでもかというぐらいでかでかと星条旗がなびいていた。エンドロールで「アメリカにはほとほとうんざり」と歌われるルーファス・ウェインライト(2012年に同姓結婚している)の「Going to a Town」は、トム(もしくはドラン自身)の気持ちを代弁していた。アメリカは生きづらい*1。『トム・アット・ザ・ファーム』のフランシスがマッチョでゲイに不寛容な保守的な古いアメリカ的価値観を象徴しているならば、対して「Miserable America」という曲で引き合いに出されたヤング・サグは、何のてらいもなく平然と女性用ドレスを着てしまうぐらいで、ジェンダーフリーで進歩的な新しい価値観を象徴しているといえるだろう。
Kevin Abstract - "Miserable America"
Kevin Abstract - "Empty"
Rufus Wainwright - Going To A Town (Tom A La Ferme - Xavier Dolan)
*1:ドランはカナダのモントリオール出身で、本作の舞台もカナダのケベック。
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