タイラーのことを狂人と呼んでいる箇所「(前略)臨床治療を受けているであろう狂人になっている。タイラー・ザ・クリエイターのリリックはたぶんリアルだと思うんだけど、『オレの精神科の先生はこう言うんだけど』というのがすごく出てくる」(上掲書)も、タイラー批判によくある誤解である。タイラーの歌詞に精神科医の話が出てくるのは間違いないが、あくまでそれは物語上の設定である。『Bastard』(09年)と『Goblin』(11年)は、タイラーが精神科医ドクターTCのセラピーを受けるという設定で話が展開される。『Goblin』の終曲「Golden」のラストには、タイラーを悩ます頭のなかの声の主であるエース・ザ・クリエイター、ウルフ・ヘイリー、トロン・キャットはおろか、タイラーが今まさに面と向かって対話をしているはずのドクターTCすらも、現実には存在しない想像上の存在であるというオチが用意されている。したがって、リリックの内容をもってタイラーのことを精神を病んだ病院通いの狂人扱いするのは誤りだ。
「タイラー・ザ・クリエイターに感動的なところはないから(笑)」(上掲書227頁)というのも聞き捨てならない。『Bastard』と『Goblin』で散々と口汚く罵っていた、自分を置いて家を出た父親に対して、それでもやはり捨てきれない思いを電話口に吐露した一曲「Answer」におけるエモーションのほとばしりは、涙なしにはとても聴くことができない。タイラーに関して誤解を抱いている諸氏には、タイラーが自分に向けられた批判の数々に反論する「Rusty」を聴いて、理解を深めてもらいたい。
Tyler, The Creator - "Rusty (feat. Domo Genesis & Earl Sweatshirt)"
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