2015年12月6日日曜日

ロジック「City of Stars」



 Logic(ロジック)の「City of Stars」が何処となくなくKanye West(カニエ・ウェスト)の「Say You Will」風に聴こえるのは、「破局」というカニエの曲のテーマを踏襲していることから考えて、おそらく狙ってのことなのだろう(おまけにカニエが「Say You Will」を収録した『808s & Heartbreak』(08年)全編を通して「歌って」いたように、ロジックもこの曲の前半部分ではラップせずに歌っている)。「City of Stars」はロジックの2ndアルバム『The Incredible True Story』(15年)に収録の一曲。Common(コモン)の代表曲のひとつ「I Used to Love H.E.R.」の系譜に連なる「ヒップホップ擬人化曲」である。歌われるのは前述の通り、破局について。コモンは「I Used to Love H.E.R.」で、90年代当時に興隆したギャングスタラップに「浮気した」ヒップホップへ思いの丈を述べていた。ではロジックが大好きなヒップホップに別れを告げる理由とは何なのか。
「City of Stars」の2ndヴァースを聴いてみよう。超ポジティブ思考のロジックがここでは珍しく失望を口にしている。「ファーストアルバムでは人種の話なんてこれっぽっちもしていない/それなのに結論は白と黒のたわ言/どうして好きにやらせてくれないんだ/フロウの巧さの代わりに人種でラップを評価」。犯罪と貧困に彩られた過去の体験について歌ったデビューアルバム『Under Pressure』(14年)は、ロジックの肌色の白さを理由に「ワルを装っている」という誤解を受け、批判された。

 ロジック本人の説明によれば、この曲のコンセプトは「ヒップホップとの別れの歌」だという。続けてロジックは前作『Under Pressure』発表後の心境の変化を次のように記している。「他人の意見をいちいち気にすることもなくなったし、芸術的品位を貶めるような、創作活動への口出しも許せるようになった。”ヒップホップはこうあるべき”という考えにさよならを告げ、ジャンルレスな音楽作りに焦点を当てた」。前作に対する批判を受けて、それならばとロジックの好きなSF映画やアニメ作品に着想を得て作られたのが『The Incredible True Story』である。ストーリー仕立ての本作では、宇宙飛行士のトーマスと操縦助手のカイが、資源が枯渇し居住不可となった地球に代わる第二の母星「パラダイス」を目指して宇宙を旅する過程が描かれる。結論から言うと、最終的に二人は無事パラダイスへ到達して物語は幕を閉じる。しかしこの物語は単なる寓話に過ぎない。ロジックはこの寓話を通して、あるメッセージを伝えようとしている。
 トーマスは「Lucidity」で、かつてミュージシャンになることを夢見ていたこと、また宇宙船での生活(人生)に窮屈さや不自由を感じていることをカイに話す。狭苦しい宇宙船のなかで四六時中生活する身のトーマスたちには「やりたいことをやる」自由がないのだ。そんな二人の会話を経て、アルバムは最後の一曲The Incredible True Storyに突入する。長い宇宙探検の末、ついに惑星「パラダイス」に到達するトーマスとカイ。二人が宇宙船から降り立つと何やら物音が彼らに近づいてくる。グォォォォォ。物音の正体は「Life(人生)」だった。トーマスたちは安住の地にたどり着いたとともに、ようやく真の「人生」を見つけたのだ。任務を終えたトーマスはこのあと、きっと念願の音楽活動を始めるにちがいない。というわけで、本作における惑星「パラダイス」は「自由」を象徴するメタファーになっているように思う。この場合の自由とは「好きなことをする自由」である。「The Incredible True Story」では哲学者アラン・ワッツの言葉が引用されるが、これも「好きなことをすることの尊さ」を説いたものである。

「(学生たちは)画家、詩人、作家になりたいと言います。しかしそうした職業ではお金を稼げないことも同時に理解しています。あなたのやりたいことは何ですか? 本当にやりたいことを見つけたひとに出会ったとき、私はそのひとにお金のことは忘れて、やりたいことをやりなさいと言うようにしています。もしあなたがお金を稼ぐことが一番大事だと考えているなら、この先時間を浪費するだけで、人生を棒に振ることになるでしょう。生活のためにやりたくない事を続けるなんて馬鹿げています。本当に馬鹿げたことです。惨めな人生を長々と生きるよりも、短いながらも好きなことをして一生を終える方がマシです。あなたが好きだと思えることなら、なんでもいいのです。興味の対象は人それぞれです。同じ興味を持ったひとが現れるでしょう。でも好きでもないことに時間を費やして、ましてや子どもたちにも自分と同じ道を辿るよう教え込むなんて本当に馬鹿げています。周りを見渡してみてください。私たちは子どもに自分たちと同じような人生を歩むよう教育しています。子どもに自分と同じ道を歩ませることで、自身の人生の正当化を図って悦に入っているのです。それは吐き気がないのに無理やり吐くようなもので、絶対に上手くはいきません。だから、この質問をよく考えてみることが大事なのです:私は何がしたいのか?」

 批判や他人の意見から解放され、自分の作りたい音楽を自由に作ったロジックの姿は、宇宙船での不自由な暮らしから解放されたトーマスのそれに重なる(作りたい音楽を作ったという点では、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の『Cherry Bomb』(15年)も同じ。「翼を見つけろ」という若者の自己実現を応援するテーマを掲げたタイラーと、「やりたいことをやる」ことの尊さを説くロジックのメッセージは共鳴し合うように思う)。「パラダイス」に到達したのはトーマスだけではない。葛藤を乗り越えた末にロジックが辿り着いた新境地こそが「パラダイス」なのだ。




Logic - "City of Stars"


Logic - "The Incredible True Story"



0 コメント:

コメントを投稿

 

T H A T S * I T C R A Y ! Copyright © 2011 -- Template created by O Pregador -- Powered by Blogger