2015年11月3日火曜日

タイラー・ザ・クリエイター『GOLF BOOK』〜ファレル「You Can Do It Too」



 Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)率いる「OFWGKTA(Odd Future Wolf Gang Kill Them All:オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール)」は元々、雑誌を作ることを目的として結成された集団であったわけで、この『GOLF BOOK』の完成をもってタイラーはまたひとつ大きな目標を達成したことになる。おめでとう、タイラー!『GOLF BOOK』はタイラーが今年ローンチさせたサブスクリプション型サービス「GOLF MEDIA」の初回申込者に限定配布された雑誌である。簡単にその内容を紹介すると、最新アルバム『Cherry Bomb』(15年)の歌詞・クレジットにはじまり、タイラーのお気に入りアルバムについて書かれたエッセイ、タイラーの大好きな映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07年)の脚本を手がけた俳優セス・ローゲンへのインタビューなどのテキストのほか、タイラーが監督したミュージックビデオの絵コンテや、アパレルブランド「GOLF WANG」の2015年春夏シーズンのコレクション写真、アイデア・スケッチの数々など、ヴィジュアルコンテンツも満載。とにかくタイラーの「好き」がぎゅぎゅっと詰まった1冊になっている。誌面の途中にはタイラーのお気に入りアルバムの広告(正確には広告を模したページ)が載っているんだけど、Kanye West(カニエ・ウェスト)の『Late Registration』(05年)や、Leon Ware(リオン・ウェア)の『Musical Massage』(76年)が、さもリリースされたばかりの作品であるかのように「好評発売中!お求めはお近くのレコードショップで」みたいな宣伝文句を伴ってデカデカと載っているのを見たときは、タイラーの対象への愛の深さに感服しつつも、思わず笑ってしまった。そんな内容盛りだくさんの『GOLF BOOK』だが、一番の読みどころは何と言ってもタイラーがお気に入りアルバムについて熱い思いを綴ったエッセイだ。このエッセイには『Cherry Bomb』でタイラーが見せた「変化」を読み解くうえで重要なヒントが隠されているように思う。以下はタイラーの敬愛してやまないPharrell(ファレル)のソロデビュー作『In My Mind』(06年)について書かれたエッセイの拙訳である。「FIND YOUR WINGS」という自己啓発的なメッセージを掲げ、若者の自己実現を応援する『Cherry Bomb』は、ファレルが「俺に出来たんだから、君にも出来る/恐れずに空に目を向けてみて」とリスナーを勇気づける「You Can Do It Too」に影響を受けているに違いない!

PHARRELL WILLIAMS, "IN MY MIND":
2006年は俺にとって特別な年だ。お気に入りアーティストが作り上げた最高傑作に俺は熱中していた。いったいどこから話を始めればいいだろう。というのも、服の着こなし方、ものの考え方、そして一番重要な点である音楽の作り方は、すべてこのアルバムから学んだんだ。それじゃ、まずは服の話から始めるとしよう。色使いや全面プリント、それからジュエリーはとても派手だったけど、彼のスタイルはほかの誰にも真似できないものだった。高級車を乗りまわし、ジュエリーやゴヤールのトランクで着飾ったこの男は、ロックやジャズに造詣が深く、仲間はスケーターで、取り巻きの女はみな10点満点だった。クールなものがすべて凝縮されていたんだ。「Mr. Me Too」のミュージックビデオを見たときのことはよく覚えてる。あの犬柄のプリントに完全に心を奪われてしまった(あれは今でも最高のビデオだ)。さて音楽についてはというと...アルバムのどの曲もそれぞれに魅力がある。「Can I Have It Like That」は、ジャズ制作キットとアップライト・ベースで出来た曲。それ以上でも、それ以下でもない、とても90年代的で、ファレルがチェーン・ネックレスとか、自家用飛行機とかなんとかについて自慢しているだけ、というのが、この曲に対する大方の意見だろう。俺はどう思ったかって? 俺はこう思ったんだ「そうか、分不相応なブラックでも、こんなにクールなものを手にすることが出来るのか」ってね。彼は典型的なラッパーのように振る舞わなくても、ジュエリーや大勢の女性やフェラーリを「俺たち」が手にできるようにしたんだ(それから彼はビデオに「チーム・アイスクリーム」というスケートチームを出演させている ーーVol.1を未見だとしたら見てもらいたい)。「That Girl」ほどすばらしい曲を俺は作れない。あのストリングス、TR-808、声ネタ、旋律、そしてチャーリー・ウィルソンの使い方が完璧。「I Really Like You, Girl」(まるで80年代映画のよう!)は、ファレルがR&Bから受けた影響が色濃く出ている:プリンス風のドラム、スティーヴィー・ワンダー「Music of My Mind」のコード進行、ジャスティン・ティンバーレイクのリズム。この曲もお気に入りの一曲だ。(「Raspy Shit」は史上最低の曲。この曲が好きなやつなんてクソ食らえだ)アルバムを聴いたその日から「You Can Do It Too」という曲が耳から離れなかった。学校の先生であれ、母ちゃんの話であれ、なんであれ、この曲以上に俺を行動するよう奮い立たせたものはない。俺はまさに、彼がこの曲で歌っているような少年だったーー当時から今にいたるまで、ずっとそう思ってる。ジャズのライブラリー・ミュージック風のサウンドは心を落ち着かせ、楽曲に集中させてくれる。ジェイミー・カラムの弾くブリッジはこれ以上ないほど完璧。彼のチェーンを見るたび、俺はオタクっぽく興奮してしまうのだけど、強く望めば俺にも手に入れられるという意味で、彼はいつも「それは君のものさ」と言ってくれるんだ。この言葉を常に意識することで、望んだものは何だって手にできると信じることができる。「CC The World」という曲が重要なのは、そういうわけ。初めてのペンダントーー猫の顔の形で、イエローダイヤモンド、レッドルビー、ブラックダイヤモンド、そして目の部分はブルーサファイアで出来ているーーを手にしたとき、最初にメールで報告した相手はPだった(皮肉なことに、まさにその瞬間、ペンダントを手がけた宝石職人が彼と一緒にいたんだ)。彼は「やばい」って表情の顔写真つきで返事をくれた。俺は認めてもらったんだ。いまどきのレコード会社はどうかしていて、作品の成功やその影響力をアルバムの売上だけで判断する。だから当時、レコード会社はPの作品を失敗作と考えた。彼が歌のなかで語りかけている相手というのは、ショッピングモールに出かけて、ラジオでトップ10ソングを聴くような連中ではないってことを分かっていなかったんだ。彼の作品はそういうのとはまったく別次元のものであって、俺みたいな人間を本当の自分にしてくれる。つまり俺が言いたいのは、Pがいなければ、俺みたいなやつの居場所も、いま君が読んでいるこの記事も存在しないってこと。だから要するに:ありがとう、ファレル・ウィリアムス。(オーケー、ベタ褒めするのはこの辺でよしておこう)


Clipse - "Mr. Me Too (feat. Pharrell Williams)"


Pharrell - "You Can Do It Too"


Pharrell Williams - "CC The World (feat. Cara Delevingne)"



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