2015年11月8日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター『GOLF BOOK』〜エミネム『The Marshall Mathers LP』



 タイラー・ザ・クリエイターが『GOLF BOOK』に書いた「お気に入りアルバムについてのエッセイ」のうち、ファレルの『In My Mind』(06年)に次いで文章量が多い、すなわち熱量の高い作品が、エミネムの『The Marshall Mathers LP』(00年)である(ちなみに、タイラーの生涯ベストアルバムであるN.E.R.D.の『In Search Of...』(03年)については、「生涯一のお気に入りアルバム。この作品から俺がどれだけ感銘を受けたかは、とても言葉では説明できない。11歳のときに買ったこのアルバムは、俺にとって神のように永遠の存在としてありつづけていく」と簡潔ながらも、最大級の敬意をもって思いを書き綴っている)。
 この文章を読んで、エミネムに影響されたタイラーが『Bastard』(09年)のような作品を作ったのは、当然の帰結だとあらためて実感した。タイラーとエミネムにはぜひとも、お互いのオルターエゴ名義でコラボ曲ないし、コラボアルバムを制作してもらいたいなあ。「スリム・シェイディ&ウルフ」または「スリム・シェイディ&ドクターTC」といったユニット名で、超残忍かつ暴力的な内容の作品がいい。もし僕がタイラーに会って話す機会があれば、「あなたがエミネムから受けたのと同じように、僕もあなたの作品から大きな感銘を受けた」と伝えたい。以下は拙訳なり。

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EMINEM, "THE MARSHALL MATHERS LP"
 エミネムが俺たち若者を惹きつける理由については、テーベの説明がわかりやすい:「彼はアニメのキャラクターみたい」。愛聴盤だったら『The Marshall Mathers LP』になるけど、1曲を選ぶとしたらまちがいなく『The Chronic 2001』の収録曲になるだろう(いまの俺のお気に入りは「Light Speed」だけど)。あれは俺がまだ小学3年生のときのこと。午後3時をまわった下校時間。俺は教室をあとにして、母ちゃんとのいつもの待ち合わせ場所へと歩いていった。車のドアを開け、助手席に座るところまではいつもとなにも変わらなかった。ところが足元に小さな袋があるのに気がついた。その形状には見覚えがあった。そう、俺の大好物の形をしたそれは、CDのプラケースだった。袋から取り出してみると、うおおおおおお、エミネムの新作アルバムだったんだ! 嬉しさのあまりいまにも泣きだしそうになりながら、俺は母ちゃんにディスクをカーオーディオに入れるよう頼んだ。CDが再生されるやいなや、母ちゃんの頭はイカれちまった。というのは冗談だけど、でもこのときがすべてを変えた瞬間だったのはまちがいない。俺はその後の人生で成し遂げたいことを悟ったんだ。「Kill You」から「I'm Back」までのあいだ、俺は放心状態に陥っちまった。それまでの人生で、こんなにイカした音楽を聴いたことがなかった(とはいえ、たったの9年間という短い人生だけど)、でも16曲目にさしかかると、わずか9才の頭脳ではもう処理しきれなくなった。俺は同年代のほかのやつらではとうてい考えつかないようなことも知っている賢い子どもだったけど、「Kim」だけはそれまで経験したことのない、まったくもってネクストレベルのものだったんだ。あんな内容の代物は聴いたことがなかった。おっぱいを見たこともあったし、女子に指を突っ込んだこともあったし、万引きもやったし、銃を見たこともあったけれど、9才の俺にとってこの曲は別次元に感じられた。巧みなストーリーテリング、詳細な描写、罵り言葉、安っぽいギターの音色、すべてが美しかった。俺の友だちが持っていたのは、「Kim」を「Kids」という曲に差し替えた修正版のCDだったことを考えると、母ちゃんは判断を誤ったということになるのかもしれない(「Kids」も悪くはないが、「Kim」と比べるとだいぶ劣る)。「The Way I Am」はいまの方が理解が深まっているし、共感をもって聴くことができる。ふりかえってみると、「Who Knew」がいちばんの重要曲かもしれない。いや、前言撤回になるけど、やっぱりアルバムのどの曲も重要だ。「Remember Me」のスティッキー・フィンガーズはマーシャルに肉薄しているし、「Amityville」のビザールもやばい。「Drug Ballad」もやばい。「Stan」はどうかって? なんてこった! ラップがうまいというのはこういうことを言うんだ。細部まで緻密な描写が秀逸すぎる。ただ残念なことに、彼は服装がいまいちクールじゃないんだ。


Eminem - "Kim"


Eminem - "The Way I Am"


Eminem - "Stan (feat. Dido)"

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