2015年5月31日日曜日

タイラー・ザ・クリエイター「Radicals」



 タイラー・ザ・クリエイターといえば、これまでの三作品では複数のペルソナを使い分けて独自のファンタジー世界を構築してきた。デビュー作『Bastard』(09年)と続く『Goblin』(11年)では、医師のドクターTCとのカウンセリングという形式をとって、頭のなかに悪魔が巣食うタイラーの心理療法が行われた。「父親の不在」が原因で屈折した精神のぐちゃぐちゃ具合がスリリングでゾクゾクさせられる。
『Wolf』(13年)では、主人公のウルフがサマーキャンプ「Camp Flog Gnaw」に送り込まれるところから物語がはじまる。そこで出会った不良少年サムと少女とのあいだの三角関係のもつれを主軸にした、青春群像劇が展開された。
 ところが『Cherry Bomb』(15年)では語りのスタイルを一転、ファンタジーを描くのをやめて、現実世界の今のタイラーが語り手になっている。語りのスタイルの変化に関してタイラーはこのように発言している。「残念かもしれないけど、今の俺の人生について曲を書いた。落ち込んでるわけじゃないから悲しい歌は一切ないぜ。みんなも笑顔を忘れずに」。

 タイラーの言葉通り『Cherry Bomb』には悲しい歌が一切ない。それどころか、むしろポジティヴすぎるぐらいだ。なにしろこのアルバムでタイラーが掲げたテーマは「FIND YOUR WINGS(翼を見つけること)」である。心境の変化に驚かされるが、過去作を聴き返してみると、実は以前からポジティヴな面もあったことがわかる。

『Goblin』に収録の「Radicals」をあらためて聴いてみよう。「Radicals」はそのタイトルからも想像がつくように“過激な”ことを歌っている。サビで繰り返される「殺せ!燃やせ!学校はクソ!」がリスナーを煽動する。そう聞くと、一見ポジティヴとは無縁に思われるかもしれない。でも後半部分で『Cherry Bomb』のテーマとも共通するポジティヴなメッセージが歌われる。

馬鹿騒ぎや犯罪をしろと言ってるんじゃない
俺が言いたいのはやりたいことをやれってこと
信じるもののために立ち上がり、やりたいことは誰にも邪魔させるな
俺はユニコーン、異論のあるやつは許さねえ
ウルフ・ギャング

お前らの流儀、役職なんてクソ食らえ
お前らの宗教、意向も関係ねえ
俺たちはお前のものじゃない、好きにやらせてくれ
自分らしくやっていく、教えてくれよ
自由にやらせてくれ

 カリフォルニア州議会は同地出身のケンドリック・ラマーに、これまでの功績を讃えて「世代のアイコン・アワード」を贈った。教育機関への多額の寄付も表彰理由のようだが、音楽を通して同世代の若者に与えたポジティヴな影響が評価されたのだろう。でも音楽で若者を鼓舞したという意味では、同じカリフォルニア州はロサンゼルス出身のタイラーもケンドリックに負けていない。
(これは極端な例だけど、)タイラーの熱烈なファンが、いかにタイラーと彼の作品に救われたかをまくしたてる『Wolf』収録の「Colossus」あたりを聴けば、そのことが存分にわかると思う。四文字言葉ばかりで口の利き方は少々乱暴かもしれないけど、言ってることは素晴らしいんだから、タイラーも表彰されて然るべき!

タイラー、あんたはいじめられっ子だった俺のヒーロー
「Radicals」の最後の部分に感激したんだ
以前はいちいち気にしてた、チンコから出血するぐらい
いまはこれ以上ないぐらい幸せ
俺とあんたの人生はそっくり、親父がいないんだ
おふくろはコンドームをつけ忘れてやっちまったのさ
物の見方がちょっと変わってたおかげで
学校ではみんなから問題児扱いされた
でもあんたの言葉を聞いて、知るかって言い返せるようになったんだ


Tyler, The Creator - "Colossus"


Tyler, The Creator - "Radicals"



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