2014年7月21日月曜日

BASTARD〜タイラー・ザ・クリエイターがウェス・アンダーソンを好きな理由



 ラップ、楽曲制作、ビデオクリップの監督をこなすほか、アパレルブランド「GOLF WANG」のデザインを務めるなどマルチな才能を持つTyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)は、まさしく「クリエイター」の名にふさわしい。最初は変な名前だなと思った(クリエイターのスペルは違うし)。でもシカゴのChance the Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)の登場によって、その名前の意味するところがようやく分かった。

 映像作家タイラー・ザ・クリエイター(映像作品のクレジットはウルフ・ヘイリー名義)は好きな映画監督のひとりに、Wes Anderson(ウェス・アンダーソン)を挙げている。あるインタビューでは「ラップするだけが俺の才能じゃない。何だかラップにはもう飽きた。面白みが感じられない。将来は映画を撮ってみたい。ウェス・アンダーソンやクエンティン・タランティーノと並んで語られたい。他のラッパーたちと一緒くたにされるのは勘弁」と話している。確かに最近のタイラー監督映像作品のいくつかはウェス・アンダーソン作品の特徴である「ポップな色使い」「シンメトリックな画面構成」などが見受けられる。タイラーがドールハウスの人形に扮した『Wolf』(13年)収録の"IFHY"のビデオクリップは、これもまたウェス・アンダーソン作品の特徴である「箱庭的世界観」が顕著だ。"IFHY"のドールハウスは『ライフ・アクアティック』(04年)の潜水艦をはじめとしたウェス作品一連で見られる切断面セットを想起させる。


Tyler, The Creator - "IFHY (Pharrell)"


GolfiliciousBubble Gum Commercial


Aunt Wang Syrup Commercial

 なぜタイラーはウェス・アンダーソン監督作品を好きなのか?
 映画『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)の劇場用パンフレットを読んで、ある見立てを立ててみた。


映画『グランド・ブダペスト・ホテル』予告編

 タイラーとウェス・アンダーソン作品の登場人物たちは「(父)親の不在」という点で共通しているのである。映画監督の青山真治さんは『グランド・ブダペスト・ホテル』の劇場用パンフレットで次のように指摘する。
「主人公の傍には必ずといっていいほど有能な子どもがいるだろう。今回の子ども、見習いロビーボーイのゼロ・ムスタファはたんに子どもというだけでなく「孤児」である。「ダージリン急行」の三兄弟も親に見放された「孤児」だと考えていいし、あるいは「ライフ・アクアティック」のオーウェン・ウィルソンの曖昧な素性やビル・マーレイにタツノオトシゴをプレゼントするウィレム・デフォーの甥も「孤児」的な存在といえる。(中略)しかしなぜ「孤児」がそれほどに活躍するのか。主人公の傷だらけの純情、ときに性的に奔放であっても、ときに激しく暴力的になっても、その動機はつねに自らの傷だらけになった心身に宿る純情であり、規範とすべき親のいない「孤児」たちは、彼らのその純情に憧れと敬意を持って協力を惜しまないからだ」
(FOXサーチライトマガジン vol.03「グランド・ブダペスト・ホテル」劇場用プログラムより)

 孤児が疑似家族を形成する(崩壊した家族が再生する)物語を描き続けてきたウェス・アンダーソン。タイラーも「母さんの穴から俺が生み落とされた日、親父は死んだなどと恨みつらみをぶちまけていたキャリアの初期からこれまで一貫して「父親の不在」を作品のひとつの主題としてきた。そういえばタイラーの1stアルバムのタイトル『Bastard』(09年)は「私生児、庶子」という意味だった。タイラーがウェス・アンダーソンに惹かれるのは、もしかしたら作品に伏流するテーマ「孤児」を、おそらく無意識的に、肌感覚で感じ取ったからかもしれない。

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