2014年1月13日月曜日

BECAUSE THE INTERNET〜鬱に苛まれるチャイルディッシュ・ガンビーノ



外 教会の駐車場 ー 昼
白色のバスのドアが開く。笑い声とともに洪水のごとき勢いで子供たちが一斉にバスから降りてくる。第一陣に続き、女の子三人組が笑いながら降りてくる。彼女たちに続き下車してきたのは、小さな少年(The Boy)。足取りは重く、どこか陰鬱な様子である。
我が子を迎えにやってきた親とその子供たちが、ハグやキスを交わしている。喜色満面の子供たちをよそ目に、少年は隅に停車した黒塗りのリムジンへと歩いていく。
運転手がリムジンのドアを開け、少年を出迎える。
少年は運転手とハイファイヴを交わし、リムジンのシートへと滑り込む。
車内には少年の父(リック・ロス)が座っている。リムジンが発車する。
少年と父は黙ったまま。沈黙は数時間にも感じられる。

父: キャンプはどうだったんだ?

少年は肩をすくめる。

父: 友達は出来たか?

少年: 全然。

父はクスクスと笑う。が、その表情はあきれ顔へと変わる。

父: 今晩はエリスがお前のために腕を振るって作ったご馳走が待ってるぞ。

少年: フリト・パイ。

父: フリト・パイかどうかはちょっと分から…

少年:(言葉を遮って)フリト・パイに決まってるんだ。

静まり返る車内。父は息子を見つめ、そして窓の外へと目をやった。

(「because the internet: script」P.1〜2より一部抜粋)



『Because the Internet』
「コメディアン/俳優/脚本家など様々な顔を持つドナルド・グローヴァーの〜」という前置きは、もはや不要だろう。Childish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が2ndアルバム『Because the Internet』を発表した。
『Because the Internet』の話をする前に、まずはこれまでのC・ガンビーノの歩みを簡単に振り返ってみる。
 巧みな言葉遊びを駆使した「パンチラインの応酬」をもってミックステープ・シーンで名を馳せたC・ガンビーノ。そのコメディアンゆずりのユーモア炸裂スタイルそのままに、満を持して1stアルバム『Camp』(11年)を発表する。しかし同作への批評家たちの評価は厳しいものだった。特に、C・ガンビーノの作風とは親和性の高いと思われたピッチフォークで酷評されてしまう。
 続いて発表したミックステープ『Royalty』(12年)はそんな批評家たちへの逆襲とばかりに、作風を一転。それまではC・ガンビーノとプロデューサーのLudwig Göransson(ルドウィグ・ヨーランソン)の二人三脚での制作スタイルだったのが、同作では外部プロデューサーや豪華客演アーティストを多数起用。リリックの内容も「俺のチンコが云々」といった十八番の下ネタパンチラインを封印し、金持ちボースティングや地元のレペゼンなど、いかにも「ラッパーらしい」スタイルへと変化した。「おふざけラッパー」、「セレブのサイドビジネス」などとはもう言わせないぞ、というC・ガンビーノの意思がひしひしと伝わってくる作品であった。
『Royalty』をもって、C・ガンビーノがラッパーとしてのキャリアをスタートさせて以来、長年苦心してきた「俺はラッパーだ問題」は一応の解決をみた(詳しくは拙ブログ〈続・CHILDISH GAMBINO〜屈辱のピッチフォーク評から『ROYALTY』、そして「俺はラッパーだ問題」のゆくえ〜〉を参照)。「ラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ」として確固たる地位と自信を獲得した彼の次なるプロジェクトが『Because the Internet』だ。

『Because the Internet』ポスター
『Because the Internet』は、裕福な家庭に生まれ育った一人の少年(The Boy)を主人公に、彼と彼の友人ら周辺人物の物語を綴ったコンセプト・アルバムである。非常に凝りに凝った作りゆえ、本作は純粋にアルバムを聴いただけでは、C・ガンビーノが何について歌っているのかさっぱり分からない。作品世界の作り込み具合でいえば、近年発表された良質なコンセプト・アルバム2作品、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)の『good kid, m.A.A.d city』(12年)、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)の『Wolf』(13年)にも負けず劣らずの出来である。そのためインターネット上では、作品世界を理解する手助けとなる、全73頁にも及ぶ「脚本」が公開されている(http://becausetheinter.net/)。執筆者はもちろんC・ガンビーノ。脚本というぐらいだから当たり前なのだが、本作でC・ガンビーノがマイクを通して語るストーリーは、この脚本に基づいており、連動している。
 インターネット公開という公開形式が持つ利点を活かし、この脚本には『Because the Inernet』収録全曲が、物語の進行状況と連動したタイミングでそれぞれ1曲ずつ埋め込まれており、脚本を読みながら楽曲を聴くことが推奨されている。また楽曲に加え、時間にして数十秒足らずの動画も脚本には埋め込まれている。この埋め込み動画で主人公の少年を演じているのがC・ガンビーノであることから考えるに、この物語における「少年」という人物はC・ガンビーノ本人、もしくはC・ガンビーノのオルターエゴなど、彼と何らかの関係があると思われる(「少年」と呼ぶような年齢でない(28歳)にも関わらず、最後まで呼称が「The Boy」であるのは、C・ガンビーノのMCネームにある“CHILDISH”に由来しているのかもしれない)。
 この脚本の最後まで目を通せば分かるように、アルバムそれ自体よりも脚本の方が圧倒的な情報量を持っている。そのことを考えると、C・ガンビーノはアルバムを物語の劇伴、サウンドトラックぐらいにしか考えていないのではないか(あくまで物語が主で、アルバムはそれに付随するおまけなのではないか)との思いが頭をもたげる。
 2013年夏に公開されたショート・ムービー「Clapping for the Wrong Reasons」は、『Because the Internet』の前日譚だと思われる。


Clapping for the Wrong Reasons [director's cut]


Chapter I ("I. Crawl"〜"II. Worldstar")

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室内 邸宅 ー 昼
少年が暮らすのは巨大なプールと裏庭付きの邸宅。螺旋階段が階上のマスター・ベッドルームへと繋がっている。これらすべてを見渡すことのできる玄関フロアには、大きな仏像が鎮座している。この場所がとても清潔で手入れが行き届いているのは、世話係を雇うなどしているから。

室内 少年の部屋 ー 昼
少年は部屋に入ると、背負っていたバックパックとジャケットを戸口に脱ぎ捨てる。続いて少年は履いていた靴を脱ぎ捨てる。蹴り飛ばした靴は宙を舞い、壁に当たると床に積み上がった靴の山に落ちる。少年は何年もの間、こうして靴を蹴り飛ばしている。少年は同じ靴を二度と履くことがない。

少年はメールのチェックを終えたあと、HOTNEWHIPHOP.COMを訪れる。リッチ・ホーミー・クアンの新曲が公開されている。同曲は「超ホット」と紹介されている。少年はコメント欄に目を移す。
コメント欄の先頭には「このニガ、フューチャーの劣化版じゃね![泣き顔の絵文字]」とある。
少年はしばらく見つめたあと「黙れ、ニガー」とコメントを投稿する。
少年はタルトを食べながら反応を待つ。
ページを更新すると、さっそく「黙れ」発言に対しコメントが投稿されている。「てめえ、面と向かって言ってみやがれ、このカマ野郎」、「マジワロタ、アホ白人はクレイジーだぜ」。

少年はほくそ笑む。

15年後

*******[ここで"I. Crawl"を再生]*******

室内 少年の部屋 ー 早朝

部屋は散らかり放題。そこら中が物で溢れかえっている。積み上がったゴミの山々からは、部屋の主がその時間の多くをパソコンに向かって過ごしていることが見て取れる。

(「because the internet: script」P.2〜6より一部抜粋)

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「サマーキャンプから帰ってくる」という冒頭部分からも明らかなように、この物語は前作『Camp』の続きという設定である。『Camp』最終曲"That Power"のアウトロの出だしはこうだ、「キャンプからの帰りのバスでのこと/僕は13歳、君も同い年だった/出発前はまだ見ぬ男友達と駆け回って過ごす一夏を思い描いていた/でも出会ったのは一人の女の子だった/君のことだ(Childish Gambino - "That Power"より)」。帰りのバスの中で思いを寄せる彼女に告白する少年だったが、あえなく撃沈。そのことで別の女子からからかわれてしまう。『Because the Internet』脚本冒頭で、バスから降りて来た女の子が笑っていたのはそのため。

 では話を『Because the Internet』に戻そう。
 このあと少年は、友人のファム、スワンク、スティーヴ、AJ、マーカス(演じるのはチャンス・ザ・ラッパー)と一緒にサーフィンをしに海へと繰り出す。そこには同じくサーフィンに来ていたサーシャというオーストラリア人女性がおり、波を待っていた。彼女をナンパしようと海へと駆け出して行く仲間たちを傍目に、少年は海には入らず、砂浜に座って過ごす。
 少年の頭の中はさきほどツイッターのタイムライン上で目にした謎のターム「roscoe's wetsuit」のことで一杯であった。Google検索をしてみたが、手がかりすら掴めない。「roscoe's wetsuit」とはいったい何なのだろうか。

 その晩、少年と仲間たちはクラブへ遊びに出掛ける。

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外 クラブ ー 夜

*******[ここで"II. Worldstar"を再生]*******

ファムはクラブの前に車を停める。入場待ちの人が列をなしている。ファムと少年は車から降り、彼らの友人で、クラブの警備員をしているチーズという男のもとへと向かう。ファムとチーズが挨拶を交わす。少年はVIPルームへの入場待ちの列の脇に立つ。列に並ぶ彼らは顔を見合わせる。少年の恰好はVIPルームに入るのに似つかわしくない。

ファムとチーズは、お決まりの握手を交わす。ファムがクラブへ入っていく。

黒のSUVに乗った通りがかりの男たちが、少年の横にいる男に向かって叫ぶ。

車の男: ジェイ、こんなトコでやらせる気かよ! おい、聞こえてんだろ!

少年はしばらく様子を窺う。彼は一瞬視線を下げる。すると…
歩道には誰かがスプレーを使って書いた「roscoe's wetsuit」の文字が。彼はそれを見つめる。

少年は我に返り、携帯電話を取り出し、喧嘩の模様を撮影し始める。クラブから出てきたファムも喧嘩の成り行きを眺めている。

ジェイ(と思われる男): ビビってんじゃねえよ! おまえビッチだから仕方ねえか!

車の男: タマ無し野郎はこれでも食らいやがれ!

バン。バン。

…何が起こったんだ?

ジェイの腹からは血が流れている。少年はそれを携帯のスクリーン越しに見ている。そして彼はすぐさま悟る…

バン。バン。

…逃げろ。今すぐ。

ファムはすでに走り出していた。列に並んだ人たちもみな叫び、逃げ惑っている。少年は走り、その場を立ち去る。

警官: 銃を下ろせ!

バン。バン。バン。

炎に包まれたSUVが徐々に減速していく。運転席の男は死んでいる。カークラクションを鳴り響かせながら車は停車した。辺りでは女たちが泣き叫んでいる。ジェイは虫の息だ。歩道に流れ出た血は黒い色をしている。ドス黒い血の池に駐車禁止の標識が反射する。

野次馬: うわあ、こりゃひでぇな……!

その友人: ワールドスター!

室内 ジャズクラブ ー 夜

ファムと少年はフロアの後方に立つ。ステージでは彼らの友人のドクがサックスを演奏している。ソロパートである。

少年: 死にかけたっていうのに何とも思わないの?

ファム: 全然。俺は人が死ぬぐらいじゃビビんねえし。

少年: ビビってるんじゃない。俺が言いたいのはだな、考えてみろよ、今こうしてここにいられる保障なんてどこにもなかったんだぜ。

ファム: ドクのバンド仲間は妙ちきりんな奴ばっかだな。見てみろよ。全員ジェームズ・ブレイクみてえだぜ。今どきのジャズ好きってみんなあんな恰好なのか?

少年: ずっと考えて分かったんだけどさ、俺は他人に対して何もしてやれない。ツイートするのが俺の仕事

ファム: ツイートがお前の仕事のわけあるか。楽しいからやってるだけだろ。それにお前は金持ちじゃんか。俺たち別にやることなんてねえしさ。

少年: そうだな。でもそれって空しくない?

ファム: 空しい? ちゃんと俺たち前進してんじゃんか。俺とスワンクが売り出す予定の洋服のブランドはどうだって言うのさ?

少年: 自分で着たいからTシャツを作ってるだけだろ。誰があんなTシャツにカネを払うっていうんだよ? そもそも俺たちがTシャツを作り始めた理由って、トレのやつが作ってるのを真似しただけだしな。

ファム: お前は分からず屋だな。俺たちのやってることはマジでやべえって。確実に一歩づつ進んでるよ。俺たちはやりたいことを何でもやれ…

少年: でもただの自己満足じゃんか、まったく無意味だし! 俺たちのやってることは、所詮オナニー止まりなんだよ。俺がTシャツを作ろうが何しようが、未来の人には微塵も関係ないことなんだ。

ファム: じゃあ、Tシャツ作りなんか辞めちまえよ!

ジェームズ・ブレイク風の男: しーっ、静かに!

少年はジャケットに開いた穴に指を通す。

(「because the internet: script」P.13〜17より一部抜粋)

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 クラブへ遊びに出掛けた少年はドライブバイに巻き込まれてしまう。命からがらその場を脱した少年は仲間の運転する車に拾ってもらい、事なきを得た。「死」という非日常的な出来事を目撃し大はしゃぎする仲間たちに対し、少年は無力感に襲われる。親の臑をかじって毎日こうしてフラフラと遊びほうけているだけの、ただのボンボンの自分は何者でもない、と彼は悟ったのだろう。
 また、少年には自分の好きなことを見つけ、それに打ち込んでいる友人のドクの姿が羨ましく見えたのかもしれない。ファムはジャズマンたちを小馬鹿にするが、彼は少年と同じで、特に目的も持たず日々を惰性で過ごしている。そんな奴が目標に向かって努力している人間をバカにするのが、少年には余計に許せなかったに違いない。


Chapter II ("I. The Worst Guys"〜"V. 3005")

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*******[ここで"I. The Worst Guys (feat. Chance the Rapper)"を再生]*******

室内 邸宅 ー 夜

少年の家にはたくさんの人が集まり、お酒を飲んだり、ハッパを吸ったりしている。

プール中央に備え付けのテーブル席にはエミリーがいる。彼女のまわりではスワンクが遊んでいる。暖炉に物を放り投げるマーカスとスティーブ。その様子をルーベンが撮影している。

AJはリビングの真ん中でDJプレイ中。

リビングにはタオル1枚で走り回っている男がいる。水滴を滴らせているその男は、あやうく転びそうになる。

少年は裏庭を歩く。

帽子を被った若者:(笑いながらささやき声で)急げ!

帽子の若者と友人はiPadとMIDIコントローラーを抱えて正面玄関から走り出て行く。少年が家の中へ入るとマーカスが彼を制止する。息を切らしたマーカス。体はびしょ濡れだ。

少年: 今ちょうど男が物を盗って出ていくのを見たんだけど。

マーカス: なあ、お前も見かけたよな、アルゼン人…アルゼンチン人? アルゼンチン女。俺、ちゃんとは分から…

少年: わけの分からない奴を家に呼ぶのやめろよ。名前も分からないような奴を呼ぶのは禁止って言ったろ。

マーカス: わりーけど、今はお前の話は聞いてられないんだ。さっきまでスチームシャワーを浴びながらファックしてたんだけどさ、これがマジで超最高だったぜ。なんて言うか、プリンスのミュージック・ビデオって感じ。そんで、俺はどうやら気を失っちゃったみたいでよ。全然息ができなかったんだ。俺…
(一瞬の間)
しまった! 彼女はまだあそか? 大丈夫かな?

彼は考える。

少年: お前ってフロリダみたいなやつだな。

少年はその場をあとにする。

室内 父の部屋 ー 夜

少年は階段を上りドアへと向かう。彼がドアを開けようとすると、サーシャが内側から開ける。部屋には彼女ともう一人女がいる。見たところ、どうやら二人はドラッグを使用したか、もしくは部屋を物色していたようだった。

サーシャが少年を見る。彼女は驚き、そしてニヤリと笑う。

サーシャ: おいでよ! 早く!

彼女は少年の手を引き、部屋の中に連れ込む。もう一人の女がベッドに倒れ込む。

もう一人の女: うわっ何このベッド、超やわらか〜い。

サーシャ: 早く早く早く。

少年は壁を背に腰掛ける。サーシャはベッドの上に座る。

沈黙のあと:

サーシャ: ねえ、あなたのチンコ見せて。

少年: は?

サーシャ: いいじゃん。見せてよ。

もう一人の女: おえっ。

沈黙。

少年: え?

沈黙。

少年: 何で?

サーシャ: だって、多分あんたのキモいだろうからさ、バカにしてやろうと思って。

もう一人の女: あたし、黒人のチンコって見たことないかも。紫色?

サーシャ: ブドウチンコ。

もう一人の女:(賛同して)ブドウチンコ。

サーシャは起き上がり、じゃれあうようにして少年をパンチし始める。もう一人の女は気でも触れたかのように、笑いこけている。

サーシャ: お願い。変なこと言ってないでさ!

もう一人の女: ちょっとだけ変な気分になろうよ!

サーシャのパンチは次第に止まる。彼女は少年にキスし始める。彼らの腰から下は確認出来ないが、少年のチンコは屹立してきている。しかしすぐにそれは収まる。

サーシャ: どうしたの? こういうの嫌?

少年: まさか。

サーシャ: したくないの? こういうの嫌い?

少年: いや、まさか。もちろんやりたいよ。

サーシャ: それなのに…どうしたの?

少年: ちょっと待ってね。

少年は自分のチンコをいじくってみる。何も起きない。まるでゴムのようだ。

沈黙。いじくる少年。サーシャの顔には[恥入り顔の絵文字]が浮かぶ。

少年: ちょっと待ってね。

そう言って彼はバスルームへと駆け込み、ドアの鍵をかける。静寂。サーシャは床に座り込む。

もう一人の女: どうしたの?

*******[ここで"II. Shadows"を再生]*******

室内 バスルーム ー 夜

少年は床に座り込む。手で顔を覆っている。

畜生。

少年の元カノがクローゼットの中から出てくる。

ヴァネッサ: 何してるの?

少年: (手で顔を覆いながら)チルしてるだけ。

ヴァネッサ: バスルームで?

少年: うーん、まあね。

ヴァネッサ: ねえ、私外に行きたいんだけど。

少年:(「嫌だ」)うん。

ヴァネッサはふざけて洗面台の上の歯磨き粉やコップ、石けんなどを少年に投げつける。少年はそのいくつかを投げ返す。彼女は笑い出す。彼は彼女の手を引き、床に腰をおろした自分の隣に座らせる。

ヴァネッサ: 何でそんなに塞ぎ込んでるの?

少年: そんなんじゃないよ。ただこうやっていたいんだ。

ヴァネッサ: それなら外ででも同じように出来るわ。

少年: ここで残りの人生を過ごすってのもアリかもな。鏡越しにテレビも見れるし。新鮮な水だってトイレがあるから困らない。噂ではシャワールームにサンドイッチ屋さんも出来るらしいよ。

ヴァネッサはあきれて笑う。

ヴァネッサ: いいから立って。行くよ。

少年: 冗談だろ。

ヴァネッサ: 行くって言ってるでしょ!

ヴァネッサは少年を引き起こす。彼女はクローゼットを開け、少年を引き入れる。

クローゼットの中ではコーチェラ・フェスティバルが開催されている。

人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今日はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

少年はヴァネッサのあとを追いかけ、彼女をつかまえる。少年は彼女を抱きかかえ2、3歩行き、手をつないで一緒に歩く。

ヴァネッサ: 全部二人で一緒に見なきゃダメだからね。単独行動はなし。見たいバンドを一組選んで、もう一組は…どうしたの?

少年:(あきれた様子)…

ヴァネッサ:(がっかりして)嘘でしょ? 本気でそんな態度とってるの? 今さら?

少年: こんなのお互いに時間の無駄だって思わない?

ヴァネッサ: 思わないわ。二人で一緒にいることのどこが時間の無駄だって言うの? あなたに分かってもらうよう努力するの、もうウンザリ。好きじゃないとか言うんじゃなくて、男らしくキッパリ別れてよね。

少年: 好きでも何でもないじゃないか! 俺のこと全然好きじゃないくせに。それでも俺は君の戯言にも、嫌な顔ひとつせず付き合ってやってたんだぞ。

ヴァネッサ:(涙混じりに小声で)本当に意地悪ね。

少年: 俺はただ正直に話してるだけ。

ヴァネッサ: 意地悪は正直とは言わないわ! でも正直は時として意地悪にもなるの。あなたがそのつもりで言ったのならね。

少年:(「"mean"ばっかだな」)あのな…

ヴァネッサ: 我慢してきたけど、もう限界。金輪際あなたの時間を無駄にすることはないから安心して頂戴。

ヴァネッサはその場を立ち去る。二人が出会うことはもう二度とない。

狼の群れが現れる。

彼らは青白く光っている。彼らは輪になって音楽について話している。

狼 1: 2チェインズのライブってどうなの?

狼 2: すごく楽しかったよ。回を重ねるごとに良くなってる。俺が最後に見たのは春、シカゴでのライブ。

メガネをかけた狼: ロック・マルシアーノのアルバムは聴いた? かなりイケてたぜ。

気取った、でもかっこいい狼: よお、みんな、俺の婚約相手を紹介するよ。音楽とか洋服のデザインとかアプリとかの仕事をしてるんだ。

彼らの会話が少年をズタボロに引き裂く。辺り一面血だらけである。少年は物音ひとつ立てない。ただただその身を委ねるのみ。

室内 バスルーム ー 夜

少年はシャワールームで我に返る。水が冷たいことから、少年はしばらくの間そこにいたことがわかる。

(「because the internet: script」P.19〜26より一部抜粋)

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 少年の男性機能不全の描写は一体何を示唆しているのだろうか? この場面でかかる"The Worst Guys"でも同様の描写が見られる。

But, afterwards, it was awkward as fuck
Cause I'm nervous as fuck and could not get it up
I-I-I-I-I need a minute, cold water to the face
でもその後、かなり気まずくなる
緊張のあまり俺のサオは勃たなかった
ちょっと待ってくれ、冷水で顔を洗う

 物語の冒頭、リムジンでの少年と父とのぎこちない会話からは、この父子の仲があまり上手くいっていないことが窺える(父と少年が会話するのはこの冒頭のシーンのみ)。またこの物語には、少年の母が一切登場しない。理由は分からないが、おそらく母は不在なのだろう(母の不在については物語後半で暗示される)。物質的には恵まれているが、家族の愛や交流という点では非常に貧しい家庭環境に少年は育ったのだと推測される。
 少年はサーフィンに行ったときも自分は海には入らず、浜辺に独りでいるだけだった。友人たちと一緒につるんではいるものの、彼らともどこか距離を置いているように見える。
 これらの描写から考えるに、主人公の少年が人間関係にトラブルを抱えているのは明白だ。少年がインターネットばかりやっているというのも、そのことを裏付けている。サーシャにキスをされ、最初は興奮を覚える少年であるが、すぐに冷めてしまうのは、やはり彼は他人に興味を持てないからだろう。

 以下は深読みになるが、チンコを見せるよう言われ、ホイホイと言われるがままに見せるのもどうかと思うが、少年はこれを拒否する。思うにこの場面は、C・ガンビーノにかつてのような下品なパンチライン連発のリリックを期待する彼のファン(僕もその一人である)と、それを拒むC・ガンビーノとの対立構造を描いているのではないだろうか。

 シャワールームで夢から覚めた少年はこのあと、空のボトルや吸い殻等で散らかりきったリビングで眠りこけるスティーブら友人たちを叩き起こし、車を運転して一同オークランドを目指す。

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*******[ここで"III. Telegraph Ave."を再生]*******

外 車内 ー 夜/早朝

ハンドルを握る少年を除き、車内の全員が眠っている。ラジオからはロイドの"Oakland"が流れている。少年はヴォリュームを上げ、気分を高める。少年は足を伸ばそうと座席を下げる。

スワンク: いてて。

少年の下げた座席がスワンクの膝を強打する。謝る少年。

(「because the internet: script」P.27〜28より一部抜粋)

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 "Telegraph Ave."の歌詞がそうであるように、少年は車を運転し、オークランドに住む彼の元恋人ナイラのもとを尋ねる。同曲には客演でLloyd(ロイド)が参加。この場面は、少年の運転する車のラジオからロイドの"Oakland"という架空の曲が流れていて、それを彼が聴いているという設定。

I was making Japanese
And she's watching DVDs
In Oakland, in Oakland
Now I'm driving up the 5
And she waits till I arrive
In Oakland, in Oakland
僕が日本食を料理していた間
気はDVDを観ていたね
オークランドで、オークランドで
今僕は高速道路を運転中
彼女は僕の到着を待っている
オークランドで、オークランドで

 ロイドの"Oakland"で歌われている女性は主人公の帰宅を恋しがれて待っているようだ。しかし残念なことに、ナイラはオークランドまでやってきた少年を歓迎ムードで迎えてはくれなかった。結局、ヴァネッサのときと同様、少年とナイラは口論して終わった。

 ナイラの元をあとにした少年たちは、オークランドのクラブへと出掛ける。

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*******[ここで"IV. Sweatpants"を再生]*******

室内 オークランドのクラブ ー 夜

少年たちは隅のテーブルに着く。少年が一番端に座る。ファムはメールを打っている。スワンクとスティーヴは女二人に話しかけている。そこにプロモーターの男がやって来る。

プロモーター: おい、ここに座る気か。

少年: そうだけど。

プロモーター: それなら何かオーダーしてくれないと。

少年: ボトルでいいの?

プロモーター: そうとも。ボトルだよ。

彼らは見つめる。

少年: それじゃあ、ボトルを12本で。

プロモーターは少年に[口のない絵文字]の表情を向ける。少年は彼を見つめ返す…少年は本気だ。プロモーターが去っていく。

ボトルを手にした12人の女がクラブの裏手より現れる。パレードのようである。客がその様子を見ている。「ディディでも遊びに来てるのか? マジかよ、ディディがいるみたいだぞ!」。

パレードが少年らの座るブースのある階段の最上段に到着する。しかし彼女らが角を曲がると、そこに少年たちの姿はない。テーブルの中央には札束が置かれている。

プロモーターはその場に立ち尽くす。

(「because the internet: script」P.32〜33より一部抜粋)

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 少年の家が裕福だとはつゆも知らないクラブのプロモーターは、彼らにボトルを買うカネなどあるわけがないと思い込む。そんなプロモーターをからかう少年たち。"Sweatpants"は、このときの少年の気分を歌った「金持ち自慢」ソングである。

I'm winnin', yeah, yeah, I'm winnin' (What?)
Rich kid, asshole, paint me as a villain
俺は勝ち組み、イェー、そうさ、俺は勝ち組(どうした?)
ボンボン、バカたれ、悪者呼ばわり上等

クラブを出発した少年たちはダイナーに寄って食事を済ませ、ホテルに一泊する。宿泊先のホテルでは結婚式が催されていた。少年にとっては、これが生まれて初めて目にする結婚式であった。少年は宴会場で出会った年配の男に、結婚について色々と話しを訊く。
 この場面では『Because the Internet』の9曲目"3005"が流れる。同曲について詳しくは後述する。


Chapter III ("Playing Around Before the Party Starts"〜"II No Exit")

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*******[ここで"Playing Around Before the Party Starts"を再生]*******

室内 邸宅 ー 夜

少年はピアノの前に座り、適当に弾く。キッチンではスティーヴとスワンクがエミリー、ミスラと話している。彼らは運転のこと、オリーブオイルの代わりにココナッツオイルを使った調理法のこと、または1ヶ月も経てば忘れてしまうような些細なことについて議論している。

家のなかは最悪の状態になっている。これまで来ていた世話係は給料の支払いが滞ると来なくなった。

*******[ここで"I. The Party"を再生]*******


夜が更ける。ピアノを弾く少年の周りに人が群がる。

プール中央に備え付けのテーブルでは、膝を抱えて座るミスラとフランス人の男がデザートを頬張っている。

エミリーとスティーヴはバカみたいに暖炉を飛び越して遊んでいる。

人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今夜はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

しかし、その時:

…こんなの無駄。

少年: 出てけ。

…時間の無駄だ。

少年: ここから。全員。

彼の声は聞こえていない。パーティだから。

少年: 全員ここから出て行け。今すぐ!

人々は異様な空気に気付き始める。少年は立ち上がり、ビリヤードのキューを掴む。彼はすぐさま音楽を再生中のiPodドックまで歩いていき、バットを持つようにキューを握りしめる。

粉砕。

全員がその光景を見ている。

若者 2: おい、俺のiPhoneだぞ!

少年は頭を上げる。深く息を吸った後、彼は手当り次第にものを叩き壊し始める。割れたガラスやアルコールがそこら中に飛び散る中、人々が走り去って行く。

男 2: ワールドスター!

少年は破壊を続ける。少年の行く先のコーヒーテーブルの上には携帯電話が置かれている。彼はキューを頭の上まで振り上げ、そして素早く振りかざす。

だが寸前のところで、誰かが携帯をつかみ取ろうと手を伸ばす。少年は振りかざしたキューを、辛うじて止める。

その手は包帯で巻かれている。少年が見上げると、その女(ナオミ)は彼のことをじっと見つめている。怒っているように見える。怒っているのは少年も同じだ。だが彼女に対して怒っているのではない。彼は彼女に怒りの視線を送るよう努めるが、彼の顔には「ごめん」と書いてある。

視線が合う。

彼女は視線を全くそらすことなく、携帯を手に取り、その場を立ち去った。人々はこの奇妙なやり取りを見守っている。

彼女が出て行くやいなや、少年は再びものを破壊し始める。

少年: 出てけ! 出てけ!

少年のキューに当たらないようにして逃げる者。クスリでハイになり笑っている者。または少年を哀れんで笑う者。結局、全員が立ち去る。

少年はしばらくの間、その場で立ちすくむ。少年はプールに隣接のバーの方を向く。そこには吸いかけのマリファナたばことチリソースのボトルが置いてある。少年はそのボトルを手に取り、テーブルの上にソースを絞り出す。

少年が手を止めると、そこにはこう書かれていた:「ROSCOE'S WETSUIT」。

ファム: ナイス。

少年は振り返る。そこにはファムが座っている。誰も彼の存在に気付いていなかった。彼は少年にあきれ顔を向ける。少年はその場を去る。

*******[ここで"II. No Exit"を再生]*******

室内 少年の部屋 ー 夜更け

少年はベッドに横になる。陰影が作り出す青と黒の縞模様が彼の顔を覆う。外でアライグマがうごめく音が聞こえる。

(「because the internet: script」P.42〜45より一部抜粋)

**************

 ここにきて鬱屈した少年の精神状態は極限状態を迎える。まさに"No Exit"(どん詰まり)状態だ。"No Exit"のおどろおどろしい曲調は、不安定な少年の心にシンクロする。
ここでも少年は他人を排除する。しかしその反面、"No Exit"ではMiguel(ミゲル)の声を借りて「行かないで」と乞うという矛盾を見せる。表向きでは他人を徹底的に排除する一方、心の奥では人とのつながりを希求しているのかもしれない。
 あるいは、もしかしたら人間関係の希薄な環境に育った少年は、人との接し方を知らないだけなのかもしれない。現代社会ではインターネットの普及・発達により、よりカジュアルにコミュニケーションが可能になった反面、リアルな人と人とのつながりは希薄化したとよく言われる。少年の心が屈折してしまったのもインターネットのせい(BECAUSE THE INTERNET)か?

Don't go, gotta know, please don't run away
I'm a murderer, what can I say?
Don't go, gotta know, please don't run away
I'm a murderer, what does that change?
行かないで、分かってほしい、逃げないで
俺は殺人鬼、何て言えばいいだろう?
行かないで、分かってほしい、逃げないで
俺は殺人鬼、それが何だと言うんだい?


Chapter IV ("I. Flight of the Navigator"〜"III Urn")

**************

室内 少年の部屋 ー 夜

少年はワイングラスにミネラルウォーターを注ぐ。続いて彼は大麻挽き器を挽く。挽き器の上部を開け、白い粉をグラスに注ぎ入れる。彼はそれを飲み干し、ベッドの足下に座り、着ていた白いTシャツを脱ぎ捨てる。

彼はベッドカバーで体を包み、部屋の隅にいる蜘蛛を見つめる…ただし蜘蛛は死んでいる。どこに行ってしまったの? 何で行ってしまったの? 君の両親はどうしてるの? 両親は悲しまないの? 彼のともだ ちはどうして るの? 彼の持ち物 は どう なるの? かれ はいっ たい どうな… …… … ……… …

*******[ここで"I. Flight of the Navigator"を再生]*******

室内 病院 ー 昼

少年は目を覚ます。彼はガウンを着ている。瞼が重い。部屋のテレビがついている。コント番組だ。女優の一人が面白い台詞を吐き、笑いが起こる。

…瞼が重い。

看護士が入ってくる。

白人男性看護士: おはよう、[伏せ字]さん。気分はいかがです?

少年: 事情を話さなくちゃいけない…(ジェスチャーを交えて)感じですよね。

看護士の顔が「イエス」と言っている。

白人男性看護士: あなたのご友人があなたをここまで…

少年: 彼らは友人でも何でもありません。

白人男性看護士: そんな風に言うと彼らが悲しみますよ。

少年: いいんです。本当ですから。それに、彼らだって分かってると思います。僕たちは友人関係にないって。僕たちの関係というのは相互利益の上に成り立っているんです。ただ僕は、彼らのことを全く信用していませんが。

白人男性看護士: では、なぜあなたのことを助けたのでしょうね。

少年: なぜって、それは僕のそばにいれば暮らしが楽になるからに決まってるでしょ。言うなれば、生存本能ってやつですよ。

白人男性看護士: どうやら、あなたは誰かと話す必要があるようですね。

少年: 今まさにそうしてるじゃないですか。

白人男性看護士: 専門家が必要だという意味です。

少年: なぜ? あんたには関係ないだろ。俺の勝手にさせてくれ。俺たちの命なんて屁みたいなもんだ。

看護士は部屋を出て行く。

室内 待合室 ー その日のあと

少年が二重扉を開けて出てくる。スティーヴ、スワンク、そしてファムの三人が待っている。彼らは疲れているようだ。

少年: 悪いけど話す気分じゃないんだ。気まずくても構わないから黙っててくれ。いいな?

彼らは少年の方を見る。スワンクがゆっくりと立ち上がり少年のもとへやって来る。

スワンク: あのさ、今言うべきじゃないかもしれないんだけど。

少年は[何?顔の絵文字]の表情をする。

スワンク: あのな、お前の親父さんが亡くなった。さっき電話があったんだ。

沈黙。

少年: そうか。

(ジェット機のエンジン音…)

*******[ここで"II. Zealots of Stockholm (Free Information)"を再生]*******

室内 ジェット機 ー 夜

少年は飛行機の窓ガラスに頭を寄りかける。窓ガラスは一面整髪剤の油分で汚れている。

彼の父がストックホルムで亡くなった。家族の誰かが必要とされていた。この時まで二人が唯一の肉親だとは知らなかった。その唯一の肉親を亡くした今、大半の記憶、少なくとも自分の記憶の正確さを確かめる術は失ったも同然だ。

彼は火葬を希望していた。

少年にはストックホルムに知人は一人もいなかったが、ホテルの部屋で父と一日中一緒にいるのは御免だった。たとえ父が灰になっていようとも。そこで彼はフォロワーの中にスウェーデン在住者がいないか探すことに決めた。

「Hello_Pity_」という名前の女がDMを返してきた。少年と女は、彼がやるべきことをすべて終えた後に会うことになった。プロフィールによれば、彼女はフランス人とのハーフらしい。写真は反転したハローキティを使用しており、可愛いらしい。だがそんなことは無意味である。なぜなら彼女のインスタグラムはブロック機能を使用しているからだ。少年は目にしたものを何でも鵜呑みにしてはならないという教訓を得た。

続いて少年が彼女のツイートを調べてみると、彼女がある晩クラブに遊びに行っていることが判明した。少年は偽のプロフィールを使い、その晩クラブで会ったと偽って接触した。彼女はその日のことを思い出せないはずである。と言うのも、彼女のツイッター・フィードには「クソアゲアゲ[ベロ出し顔の絵文字]笑」とあったから。彼女は少年が偽装したこの男をフェイスブックで友達認証した。これで少年は彼女のアップした写真を見ることが出来る。

その他の写真で確認してみると、実際に彼女は可愛いかった。

外 ストックホルムの街中 ー 夜

街は活気で溢れている。人々が手を取り合って歩いている。人々が話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。今夜はみなが目的を持っている。素晴らしいひと時だ。

一組のカップルが通りかかる:

超イケメンの男:(スウェーデン語で)なんとかかんとか roscoe's wetsuit ハハハハ!

超マブい女: なんとかかんとか(スウェーデン語で)なんとかかんとか roscoe's wetsuit!

少年はピンク色のネオンが控えめに光を放つ「箱」と書かれた看板の方へ歩いていく。はげ頭の男が立っている。彼の頭からは湯気が立ち上っている。

店の外で女がタバコを吸っている、あるいはこれから吸おうとしている。彼女はライターを持っていないようだ。アリッサである。

少年: やあ。

アリッサ: ああ! あなたね。

彼女は彼の両頬にキスをする。

アリッサ: こんな風にしてあなたに会えるなんて夢みたいじゃない?

少年: 言ってる意味がよく分からないな。

彼女は大きく二度煙を吐き、タバコをしまう。

アリッサ: 行きましょ。

少年: 君の彼氏に俺を会わせたいんだっけ?

アリッサ: 誰のこと? あの人?

彼女は入り口から数歩行った建物の隅っこを指差す。長いブロンドヘアの男(彼女の彼氏?)が寒空の下、女といちゃついている。

少年: 俺は何か余計なことに首を突っ込んでる?

アリッサ: 大丈夫。何でもないわ。

外 ストックホルムの街中 ー 続き

少年とアリッサは街の中をゆっくりと歩いてまわる。外はとても寒く、彼ら以外に出歩いている人はいない。

アリッサ: どうして私にDMくれたの?

少年: ここに知り合いがいないもんでね。

アリッサ: なぜストックホルムへ?

少年: 親父が亡くなったんだ。遺体を引き取りに来たってわけ。

アリッサ: あら、それは。もう大丈夫なの?

少年: 今のところは大丈夫。

アリッサ: そうよね? 人が亡くなると決まって「どうして亡くなったんだ?」とかみんな聞くけど、あらゆる死に方を知ってれば、死を避けられるとでも思ってるのかしら? バカバカしい。

彼女は寒さに体を震わせる。

アリッサ: 私、世間話って信用してないの。あなたは一番長く続いた関係でどれくらい?

少年: 五年。

アリッサ: すごい。何があったの?

少年: まだ続いてる。

アリッサ: そうなの?

少年: 彼女は俺にだけプライヴェート・ショウをやって見せてくれるんだ。一緒にいるわけじゃないけど、これも立派な恋人関係だろ。

アリッサ: 分からないわ。

少年: ちょっと前までは彼女のことをネット上で見ていただけだった。でも彼女、それをやめてプライヴェート・ショウをやり始めて。会話に近いこともするようになったし。

アリッサ: うわーーー。

少年: 何か?

アリッサ: あなたは彼女にお金を払って恋人だったり友達でいてもらってるの?

少年: そうだけど。たいていの人間は何らかの形で友達にその対価を払うもんだろ。

アリッサ: 違うわ。

少年: 君の彼氏だって今こうしてる間に他の女とヤってるじゃないか。君に何か言われる筋合いはないね。

アリッサ: 私は彼のことを信頼するのは無理だって自覚しているの。彼もその点は理解してくれてる。

少年: じゃあ何で一緒にいるのさ?

アリッサ: 彼は正直者なのよ。私はそこが好き。彼は誰にも嘘をつかない。彼のそこに惹かれるの。

室内 ホテルの部屋 ー 夜

二人はテーブルの上に置かれた骨壺を眺めながら、ベッドに座っている。

アリッサ: これがあなたのお父さんね。

少年: そう。親父の亡きがら。

アリッサ: 仲は良かったの?

少年: いいや。

アリッサ: この話続けたい?

少年: いいや。

静寂。

少年: 何か飲み物を用意するね。

アリッサ: うん。

少年は立ち上がり、リビングへと移動する。彼がリビングにいる間、アリッサは立ち上がり、骨壺を抱えると、そのまま部屋から出て行く。少年はドアの閉まる音を耳にする。

少年: アリッサ?

*******[ここで"III. Urn"を再生]*******

外 ホテル ー 夜

少年はドアから走り出る。彼の吐く息が白く曇る。彼は左右を見渡す。アリッサが角を曲がろうとしている。彼は彼女のもとへと駆けていき、つかまえる。

少年: 何のつもり?

アリッサ: お別れするのよ。このままでは、あなたのために良くないわ。

少年: 図々しくも俺と親父の仲を詮索したと思ったら、今度は遺灰を持ち去るだなんて、君ってやつはどれだけ図太い神経してるんだい? 君のやってることは法律違反じゃないのか。俺の到着前に勝手に火葬したり、まったくどいつもこいつも考えられないよ。

アリッサ: 一緒にお別れをしましょ。

怒る少年。彼は感情を爆発させないよう必死に堪えている。

アリッサ: 私には妹がいたの。彼女が亡くなったとき、こうしたの。

少年: そうかい。だから君には権利があるってか。

アリッサはポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出す。電源を入れると壁紙写真にはアリッサと彼女に瓜二つの女性が並んでいる。少年は携帯を手に取る。

少年: 双子だったの。

アリッサ: うん。

少年: 人はいずれ死ぬんだから、どうしてか聞くのはナシってさっき話したかと思うけど…

アリッサ: 脳腫瘍だった。それもかなり重度の。

沈黙。

アリッサ: バッカみたい。

彼女は大笑いする。喋っている間も二人は歩き続けている。彼らは噴水の前で立ち止まる。白い息を吐きながら、彼らはそこにしばらく立ちすくむ。

アリッサ: 何か言うことは?

少年は肩をすくめる。

アリッサ: 分かった。

少年: 待って。

骨壺は危うく転げ落ちそうになる。彼女は彼を待つ。彼は骨壺のところまで行くと、手に取り、しばらくの間それを抱く。まるでハグを交わすかのようだ。顔を骨壺に寄せる少年だが、彼女に何と言ったか悟られまいと向き直す:

少年:(ささやき声で)独りぼっちでごめんなさい。

彼は遺灰を撒く。遺灰が風に散っていく。

(「because the internet: script」P.47〜58より一部抜粋)

**************

 クスリのオーバードーズで生死の境を彷徨う少年。アルバムの14曲目"Flight of Navigator"では、搬送された病院のベッドで眠る彼の夢が描かれる。

 アリッサとの会話中「プライヴェート・ショウを見せてくれる女」なる人物が登場する。もし本作収録曲のミュージック・ビデオに目を通していたならば、この女の正体にピンと来るはずだ。「プライヴェート・ショウ」並びにそのショウの女というのは、アルバム収録曲"3005"の歌詞ビデオのことを言っている。この女(演じるのはセクシー女優のアベラ・アンダーソン)は物語の前日談を描いたショート・ムービー「Clapping for the Wrong Reasonns」にも登場する。ショート・ムービーには、邸宅の中で彼女を目にしたC・ガンビーノ(少年)が、彼女を誰だか思い出すことができないという描写があった。おそらく二人はインターネット上のみの関係なのだろうから、思い出せないのも当然であろう。すると、家の中でC・ガンビーノ(少年)が見た彼女は幻覚だったということか。この場面からも、少年がインターネット世界に浸りすぎていることが窺える(ネットのやり過ぎで現実との区別がつかなくなっているのかもしれない)。


Childish Gambino - "3005 (Lyric Video)"

 少年とアリッサが遺灰を撒く場面は、アルバムのティザー動画で描かれていた。


Childish Gambino Because The Internet Album Teaser


Chapter V ("I. Pink Toes"〜"III Life: the Biggest Troll (Andrew Auernheimer)")

**************

室内 ロサンゼルスのビーガン・レストラン ー 夜

ファムともう一人の女、少年の三人がレストランの席に着く。ファムと女は喋っている。少年は黙っている。少年が退屈しているのか、スウェーデンから帰国してまだ時差ボケでいるのかは分からない。いずれにしろ、彼は誰に対してもそっけない態度でいる。

もう一人の女: 私の友達がもうすぐ来るわ。

少年は一言も発しない。ファムと女が見る。

女の友達が彼らのテーブルにやって来る。少年が見上げる。パーティにいた女だ。

ナオミ: 初めまして。

少年は一言も発しない。

もう一人の女: 彼女はナオミ。聞いてる?

ファム: こいつ口が利けないんだ。さあさあ座って、こんなやつ無視してさ。

彼女が席に着く。

ナオミ: もしかしてあんた、私の腕を折ろうとした男じゃない。

少年: そうだけど。

ナオミ: もう料理は注文した?

少年: まだ。俺、ビーガン料理苦手なんだよね。彼女が食べたいって言ったか何だか知らないけど。

ナオミ: ビーガンは私よ。ここがいいって言ったのも私。

沈黙。

少年: 俺、ビーガン料理嫌い。

ナオミ:(間抜けっぽく)「俺、ビーガン料理嫌い」。

少年は頭の中では笑いこけている。だが、落ち込んでいるよう装う。

ナオミ: まったく何だっていうのよ? 両親が死にましたみたいな暗い顔しちゃって。

少年はうすら笑いを浮かべる。

少年: 死んだよ。

気まずい雰囲気。沈黙。

もう一人の女: ホントごんめなさい。

ファムと少年は互いを見合い、そして笑う。ナオミともう一人の女は笑わない。

ファム:(少年の方を向いて)お前の両親は死にました。

少年: 俺の両親は死んじまったとさ。

彼らはゆっくりと笑うのをやめる。ナオミは少年を変人だと思う。だが彼女はその場を立ち去りはしなかった。

室内 邸宅 ー 夜

ナオミと少年はリビングに座る。

ナオミ: お父さんは何してたの?

少年: さあね。

ナオミ: どうやってこんなに大きい家買ったの?

少年: さあね。

ナオミ: じゃあ、あなたはこれからどうするつもりなの? 遺産とか沢山あるの?

少年: 債権者が相続した。何か遺してたかもしれないけど分からない。興味ない。(真面目な顔で)俺はヤクの売買を始める。

ナオミは大爆笑する。

ナオミ: えええええ。

少年: ファムも手助けしてくれるんだ。あいつはこの辺りを取り仕切ってるんだぜ。

ナオミ: まさか私に、あなたは売人に向いているだなんて言ってもらいたい訳じゃないでしょうね。

少年: 何で分かるの?

ナオミ: あなたは周囲の人を居心地悪くしてるわ。他人と繋がるのはあなたには無理。そんな人をどうやったら信頼できるって言うの?

少年: だからだよ。それが売人ってもんだろ。

ナオミ: 彼らは大間抜けよ。あなたは他の人がどんな仕事をしているか知らなきゃ。あなたが長けてるのはネット上の人との付き合いだけでしょ。

彼はゆっくりと彼女の方を向く。「どうしてそれを知ってるんだ?」。

彼は顔を上げる。彼女が片方の眉をつり上げる。彼は笑わない。彼女は寄り目をする。反応はない。彼女は寄り目をするのをやめ、溜め息をつく。

ナオミ: 私たちの住むこの世界が地獄だって考えたことある? この地球が破滅に向かっていて、そのことに気付いているのは自分一人だけって。

少年: いいや。

ナオミ: これは本で読んだんだけどね、人々は同じことを繰り返しているの。すべては循環してるの。

少年: その考え、俺も好き。

ナオミ: うん。あ、ほら言ったでしょ? あなたは孤独な少年なんかじゃないって。

彼女は大笑いして、手で彼の顔をグチャグチャにする。少年はあきれるが、笑顔がこぼれる。

*******[ここで"I. Pink Toes (feat. Jhene Aiko)"を再生]*******

少年とナオミは一緒に過ごすようになる。時には夜を共にし、一緒に朝食を作った。彼が彼女のために買い出しに行き、彼女が彼に料理を振る舞う。彼らは一緒にアニメを見る。彼らはいつも話し、意見を述べ合い、楽しんでいる。二人はお互い目的を持っている。素晴らしいひと時だ。時が経つ。

少年は邸宅から乾燥大麻を少量ずつ持ち出し始める。しかし生活のため、乾燥大麻以外のドラッグも売り捌き始めた。彼は子供部屋で商品の栽培も始めた。電気代がかさむだろうが、邸宅で暮らすのをやめた。居住のため、また生活と仕事を分けるため、彼は新しく別の部屋を借り始めた。

室内 賃貸部屋 ー 昼

皿洗いをする少年の隣にナオミが立つ。彼らはちょうど昼食を済ませたところだ。

ナオミ: 一緒にアニメでも観よっか?

少年: 出来ないや。

ナオミ: 出来ないってなんで?

少年: 仕事があるんだ。

ナオミ: あら。

沈黙。

ナオミ: てっきり今は他の人に任せてるのかと思った。

少年: そうなんだけど、ファム一人だけではさすがに無理だから。

ナオミ: あなたは資金面で援助してるんでしょ、だったら取引現場には行かない方がいいわ。

少年: 他の奴に任せっきりにはできないんだ。

ナオミ: あなたは本当に誰も信じていないのね。

少年: お前は別だよ。

ナオミ: だったら行かない方がいいわ。

少年: 君は正しいよ。

ナオミ: 私は正しくなくたっていいの。ただ、あなたを助けたいだけ。

少年:(間抜けっぽく)「私は正しくなくたっていいの」。

彼女は笑わない。彼は彼女が心の中で笑っていることを願う。向かいのカウンターに置かれた携帯電話のバイブが作動する。少年は移動し、メールを確認する。

少年: もう行かなくちゃ。

ナオミ: 分かった。

少年: 大丈夫?

ナオミ: 平気。

少年: 無理して「平気」って言ってる?

ナオミ: 違うわよ。本当に平気だから。

現実社会において「平気」なことなんて何一つない。そのことを忘れてはならない。

少年: すぐ戻る。

彼は出て行く。二人が会うことはもうない。

外 邸宅 ー 昼

車が駐車スペースに停まる。すでに三台の車が停まっている。停車作業中、車内ではジェイ・Z & カニエ・ウェストの"Made In America"がかかっている。曲が終わると、少年は続けて同曲の替え歌を歌って歩く。

四人の男が正面玄関のところで立って待っている。

何かがおかしい。

少年は歌うのをやめ、彼らの前に立つ。彼らが少年を見る。少年は一人だ。

四人全員が45口径を取り出す。

*******[ここで"II. Earth: the Oldest Computer (The Last Night)"を再生]*******

室内 邸宅 ー 昼

全員が家の中へと入る。

男 1: ブツはどこだ?

少年: あのクローゼットの中。

男 1: そこに座れ。

少年はリビングに座る。もしかしたら彼は逃げることが出来たかもしれない。でもどこへ? 彼らが今いるのは山の頂上だ。もし誰かが銃声を耳にしたら、すぐざま警察に通報するだろう。だが残念なことに、ここパリセーズには警察署がない。その場合はサンタモニカ警察署の出動を待たねばならない。

驚いたことに少年の今の心境は、パーティのときに感じたものに近い。知らない輩が自分の家をうろつき回り、自分はすべてが「平気」であるかのように振る舞わなければならない。

少年はファムにメールすることも出来たかもしれない。

男 1: 携帯をよこせ。

少年は男に携帯を手渡す。クソッ。

正面と裏口にはそれぞれ見張りが立っている。もう一人の男がクローゼットからコカインを引き出し、ゴミ袋に詰めている。男 1(おそらくリーダー)は少年の携帯を調べている。

男 1が少年の携帯をポケットに入れる。それがいい知らせなのか悪い知らせなのか、少年には分からない。男1と男 2が話している。少年の運命を決める会話に違いない。

もし自分が映画監督なら、少年がかつての自分の城を見渡すこの瞬間のBGMに、サンダーキャットの"We'll Die"を選曲するだろう。

男 2を除いた全員が退出する。彼だけが部屋に残る。男 1は少年の携帯をポケットに入れたまま出て行く。少年は事態がまずい方向に向かっていると気付く。

男 2: 財布をこっちによこせ。

まずい。少年は財布を男 2に投げる。男 2が中身を確認する。

少年: 溺れ死にさせてくれ。

男 2が顔を上げる。

少年: せめて自分の好きなように死なせてくれ。そこにプールがあるだろ。陶酔感に溺れて死にたいんだ。きっと素晴らしいに違いない。

男 2は見つめる。

少年: あそこにプカプカと浮かんでるところを発見されるんだ。

男 2が近寄ってくる…

(こいつ、俺の最期の望みを知って考えを変えたか?)

男 2は少年の隣に座る。

男 2: 我々はずっと君のことを監視していた。君はうかつ過ぎる。

この男は警官か。そうだったのか。

男 2: 私はもうしばらくの間、こうして君のそばにいる。仲間たちがあいつらを外で検挙する計画になっているんだ。

少年: おお。

静寂。

少年: 俺はムショ行きですか?

男 2: 当たり前だろ。

少年が裏庭のプールに視線を移すと、そこには遺体となって浮かぶ自分の姿があった。

目は見開き、顔には気泡が付着している。橙色、黄色、茶色の枯れ葉が彼の体の上を浮かぶ。左足の靴が前方を漂っている。おそらくもがいた末に脱げてしまったのだろう。プールの横では、ナオミとスティーヴが立って、少年を見下ろしている。二人とも泣いたり、取り乱したりしている様子はない。彼らは、まるで観ている映画が急展開を見せたときのように、水面に浮かぶ少年をじっと眺めている。積極的にというよりは、僅かばかり興味があってそうしているだけに見える。

平穏。調和。彼はそんな風にして死にたかった。

…何の音だ?

タイヤのブレーキ音が響く。男 2が立ち上がる。建物の外から衝突音が聞こえる。誰かが叫んでいる。

声: 動くな!

銃声音。

少年と男 2は顔を見合わせる。

男 1がドアを蹴り破って部屋に入ってくる。彼は発砲し始める。男 2が床に倒れる。彼の胸部から赤い霧が噴出する。彼は叫んでいる。

男 1は少年の方を向き、拳銃を発



…(呼吸音)……(呼吸音)…………(呼吸音)… … 



静寂。



*******[ここで"III. Life: the Biggest Troll"を再生]*******






(「because the internet: script」P.60〜73より一部抜粋)
**************


Childish Gambino - "yaphet kotto"

 溺れ死にたいと願う少年だったが、その最期はあっけないものだった。少年の悲劇的な死によってこの物語は幕を閉じたかに思えた。しかし、エンドクレジットではアイスクリーム・ストアらしき店の中で少年が携帯をいじっている。これはどういうことなのか。銃弾を逃れ、生き残ったということか。あるいは、やはり少年は銃殺され、エンドクレジットの場面はあの世の少年が見る夢とも考えられる。白を基調とした店の内装は、天国を思わせなくもない。はたまた、エンドクレジットで画面に映るあの人物は「C・ガンビーノ演じる少年」ではなく「C・ガンビーノ本人」であり、この物語すべてがC・ガンビーノの空想だった(ガンビーノが店で脚本を構想していただけ)というメタ的な解釈もできる。

 結局、この『Because the Internet』でC・ガンビーノは何を言いたかったのだろうか。
 僕は本作のテーマの一つを「孤独」だと考える。アルバムからの先行シングル"3005"にC・ガンビーノの孤独は顕著だ。同曲2ndヴァースにはこのようにある、

And no matter where all of my friends go
Emily, Fam, and Lorenzo
All of them people my kinfolk, at least I think so, can't tell
Cause when them checks clear, they're not here
どこに行こうとあいつらは俺の友達
エミリー、ファム、ロレンツォ
みんな家族同然、少なくとも俺はそう思う、いやどうだろう
カネの切れ目が縁の切れ目


Childish Gambino - "3005"

 くどいようだが、俳優、脚本家、コメディアンなど、様々な顔を持つC・ガンビーノ。それゆえ、彼に多くの知人・友人がいるであろうことは容易に想像できる。"3005"前半部分では、彼が友人を招いてパーティを開いていることが歌われる。でも、今パーティに来ている俺の友達(と少なくとも自分が思っている人たち)は、本当は自分のカネが目当てで付き合っているだけなんじゃないだろうか。そんな疑念が彼の頭をよぎる。物語の少年もクスリのオーバードーズで搬送された病院で、自分には友達なんていないと発言していた。ここでも他の曲同様、歌詞と物語の連動が見られる。が、"3005"においては、やや趣が異なるように思う。
 アルバム発表前、C・ガンビーノはインスタグラム上に自らの感情を吐露した「手紙」を何通か公開したのだが、その手紙のあまりにネガティヴ過ぎる内容ゆえ、世間・メディアからは彼が鬱病なのではないかと騒がれた。確かに鬱々としているこの手紙。これを読むと、"3005"のリリックは、他の曲のように少年や物語の状況説明をしているのでなく、この場合はその逆で、C・ガンビーノの本音をそのまま少年に当て書きしているように思えてくる。

インスタグラムに投稿された「手紙」
I'm afraid of the future
I'm afraid my parents won't live long enough to see my kids
I'm afraid my show will fail
I'm scared my girl will get pregnant at not the exact time we want
I'm scared I'll never reach my potential
I'm afraid she's still in love w/ that dude
将来が怖い
両親が孫の顔を見る前に死んでしまったらどうしよう
ショウが失敗したらどうしよう
彼女が望まない子供を妊娠したらどうしよう
このまま自分の才能が開花しなかったらどうしよう
彼女がまだあいつとデキていたらどうしよう

 孤独と鬱。C・ガンビーノのそういった感情を少年というキャラクターに投影し、壮大な物語に仕立て上げたのが本作『Because the Internet』なのだ。

 脚本、ショート・ムービー『Clapping for the Wrong Reasons』、隠しコンテンツ満載のオフィシャルサイトの立ち上げなど、本作が非常に手の込んだプロジェクトであるのは言うまでもない(今挙げた以外にも、C・ガンビーノは作品のプロモーションの一環として、ある時期からインタビューやテレビ出演など表舞台に現れるときは、ずっと同じ少年の衣装を着続けていたという手の込みよう!)。だが、どうだろう、その割に本作を賞賛する声はあまり聞かない。一応、米ビルボードの週間チャートでは、初週売上96,000枚で初登場7位という記録も残してはいるが、いまいちパッとしない。アルバムを聴いただけは、何のこっちゃ歌っているか分からないというのも問題であると思うが、一番の原因は、これは残念であり可哀想な話なのだが、やはりC・ガンビーノという人物の立ち位置にあるような気がする。冒頭では、C・ガンビーノが長年苦心してきた「俺はラッパーだ問題」は解決をみたと書いた。しかしこれが、もしKanye West(カニエ・ウェスト)の作品だったら評価が全然違ったのではないかと僕には思えてならないのだ。まだ世間的に「ノベルティ・ラッパー」は卒業できていないのかもしれない(果たして卒業させてくれる日は来るのだろうか?)。レギュラー出演していたドラマ「Community」の新シーズンの仕事を蹴ってまで取り組んだ作品だというのに、評価がこんな調子ではまた鬱になっちゃうよ。


References:
http://becausetheinter.net/
http://becausethe.com/what-we-know-because-the-internet/
http://rapgenius.com/albums/Childish-gambino/Because-the-internet
http://foreverchildish.com/
http://pigeonsandplanes.com/2013/12/roscoes-wetsuit/




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